第218話 お寝坊女神様
――次の日の朝。
明朝、馬車に集まった僕達は最後に来るはずの姉さんを待っていた。
「……姉さん、遅いね」
昨日、あれだけ元気に一緒に行くって言ってたし、まさか寝坊なんてことは……。
「レイ様、わたくしちょっと部屋まで戻って様子を見てきます」
「お願いね、レベッカ」
「はい、それでは皆様。少しばかりお時間を頂きますが、少々お待ちください」
レベッカはそう言い残すと、駆け足で宿屋に戻っていった。
それから十分程待ってると、姉さんとレベッカが宿から出てきた。
「お待たせ~! ごめんね、お姉ちゃんすっかり寝坊しちゃって……」
「ああ、やっぱり……」
何だかんだで姉さんは疲れてるだろうし、予想出来た話ではあった。
「もう、やっぱりって何よー」
「いやまぁ」
ぷんぷんと手を振って怒る姉さんを僕はなだめる。
しかし、本当にただの寝坊ならいいんだけど……。と、思ったのは僕だけでは無かったらしい。
「ベルフラウさん、本当に大丈夫? もしかして、熱が出てたとか?」
心配そうにカレンさんは言った。
「本当に大丈夫よ、カレンさん。心配かけてごめんねー」
「ちょっと失礼するわね」
カレンさんはそう言って、姉さんの肩を正面から掴んだ。
「え、え?」
動揺する姉さんを無視して、
――コツンッ、
とカレンさんは姉さんのおでこと自分のおでこをくっつけた。
「ちょ、ちょっと!?」
「……うーん、別に熱は無いみたいだけど……。
でもベルフラウさん、ちょっと顔が赤いわよ。やっぱり風邪じゃない?」
「ち、違う、は、離れて……!」
と、姉さんはカレンさんを軽く突き飛ばして距離を離した。
ちなみに姉さんは顔を真っ赤にしていた。
「??? どうしたの、ベルフラウさん?」
「な、何でも無いの!」
「そっか、まぁ具合が悪いわけじゃないのね。良かったわ」
カレンさんはそう言って微笑んだ。
「カレンお嬢様、少し距離が近すぎるのでは……」
少し右斜め後ろから、リーサさんはそっと呟いて、カレンさんは振り向いた。
「そうかしら、リーサ」
「はい……お嬢様は女性相手だと少々遠慮が無いので、もう少し離れるべきかと……」
「えぇ? そんな事無いわよね? ベルフラウさん」
「え、あ、うん……」
「ほらね、問題無し」
こんなところで、カレンさんと姉さんのフラグが立つとは……。
姉さんはそっちの趣味は無いと思うんだけど、カレンさん顔立ち綺麗だもんなぁ……。
「……ちなみに、エミリア相手でもあんな感じなの?」
「……ノーコメントで」
僕の問いに、エミリアは目を逸らした。
<百合姫>って二つ名はカレンさんの無自覚な行動が原因のようだ。
◆
――馬車を出て三時間ほど経った頃―――
「うーん………すやすや……」
姉さんは馬車に揺られて気持ちよさそうに涎を垂らして寝ていた。僕と姉さんは馬車のソファーで隣同士のもんだから、僕の方に圧し掛かられて正直うっとおしい。
「姉さん、起きて」
「ん~……あと一時間……」
「長いよ!」
姉さんは馬車が動き始めてからすぐに寝入ってしまった。
最初の方は疲れているんだろうと寝かせておいたんだけど、もう目的地に着いてしまっている。
「やっぱり姉さん調子悪いのかなー」
姉さんのほっぺたをつまんだりムニムニしたりして遊んでみる。
それでも反応はするが中々起きそうにない。
「病院の方で頑張ってたみたいですからね。
万一があるかもしれないので、ちょっと私が調べてみましょうか」
エミリアは身を乗り出して、右手で姉さんの首を固定する。
「え、まさかエミリアもカレンさんと同じ……?」
「違いますよ!! ちょっと状態を確認するだけですから!!」
こほん、と咳ばらいをしてから、エミリアは左の中指を姉さんの鼻の上くらいにかざした。
「<能力透視>………うーん………」
エミリアはしばらく集中した後、ふうと息を吐いた。
「どうだった?」
「はい、特に異常は見当たりませんね。健康そのものですよ」
「じゃあなんで……」
「シンプルにマナが少なくなってますねぇ……最大MP残量で言えば3/10くらいまで減ってます。病院で回復魔法を使いすぎてましたね。睡眠による自然回復が間に合っていないようです。それでも、ベルフラウの最大MPは四桁超えてるので戦えないことも無いのですが……」
「なるほどね……。姉さんは無理をするからなぁ」
姉さんは頑張り屋だ。
それは長所でもあるけれど、無茶をし過ぎる部分もある。
「レベッカ、貴女の<魔力共有>をベルフラウに掛けてあげれば、多分解消されると思うのですが」
エミリアの隣に座っていたレベッカにエミリアは声を掛ける。
しかし、レベッカはふるふると首を横に振る。
「可能だとは思います。ですが、それでは根本的な解決にならないかと。今日のところはベルフラウ様にお休みして頂くのが最善かとレベッカは思います」
「そうね……レベッカちゃんの言う通りだわ」
カレンさんもレベッカの言葉に同意する。
「レイ様、皆さまが依頼に向かっている間、
このリーサがベルフラウ様のお世話を致します。どうかご安心ください」
リーサさんはそう言って頭を下げた。
僕達はリーサさんの言葉に頷き、姉さんを馬車に置いていくことにした。
「じゃあお願いします。……姉さん、行ってくるからね」
僕は寝息を立ててる姉さんの耳元でそっと声を掛けて、それから立ち上がろうとする。
しかし、寝ぼけているのか姉さんは僕にもたれ掛かってきた。
「レイくん……」
「何? 姉さん」
姉さんは手に握ってた何かを僕に見せた。
「これは?」
姉さんに渡されたのは、小さな小瓶だった。
中には、水のような透明の液体が入っている。
「……お守り」
「え?」
「……」
そこまで言って、姉さんはまた寝入ってしまう。
持っていってくれ、という事だろうか。
「……うん、分かったよ姉さん。大丈夫、僕達に任せておいて」
僕はそう言って、小瓶を預かり、姉さんの手を握りしめた。
すると姉さんは少し微笑んだ気がする。
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