第215話 偶然です

 僕たちは馬車に乗り、三時間ほどの掛けて、

 次の目的地の、草原一帯の場所までやってきた。


「それで、今度の依頼は何?」


 最初に馬車を降りたカレンさんに問われ、

 僕は馬車の階段を降りながら、依頼書を確認した。


「ここの草原の依頼は……いくつかあるね。

 ①早朝と深夜に現れるゾンビの群れの討伐。

 ②草原に隠れ住む、人の荷物を強奪するコボルトの討伐。

 ③グリフォンの上位種、ガルーダの討伐。

 ④ドラゴンの鱗の入手。

 ⑤ヴァンパイアの討伐……。

 ⑥アークデーモンの討伐……。

 ⑦……マンドラゴラの採取……」


「……」「……」「……」「……」


「いや、多すぎでしょ!?

 こんな草原にどれだけイベント詰まってるのさ!?」

 僕は思わず突っ込んでしまった。


 マンドラゴラというのは、根っこの部分に猛毒を持つ植物だ。

 その効果は、食べたり、傷口に入れたりすることで、全身の神経を麻痺させ、更には呼吸困難に陥らせる。ただし、これはあくまで普通の状態の時に食べるとの話で、通常は魔法の儀式などで使うものらしい。


 これの採取はかなり高難易度であり、

 こいつを土から抜くと悲鳴のような声を発して、

 抜いたものを死に至らしめるとか。


「しかも、最後のマンドラゴラの採取って、

 それ、確実に僕たちがやるようなものじゃないでしょ!?」


「う~ん、そうよね……というか、この……ヴァンパイアって」

 アンデッドの王的なポジションと戦ったことがある。なので、この世界にも存在しても不思議じゃないけど、流石に、何の変哲もない草原に居るだろうか。


「こんな草原に住んでいるとは思えませんね。

 何処か地下とか廃墟となった城とかならありえそうですけど」

 エミリアも半信半疑のようだ。


「ゾンビの群れに関しても、指定時間は早朝、深夜。

 ……今、もうとっくに日が出てしまっているのですが……」

 リーサさんの疑問はもっともだ。

 もしかしたら今日はもう間に合わないかもしれない。


「一応、ゾンビの群れを探そうか、間に合うと良いんだけど……」


「そうね……他のは後で考えましょう」


 僕達は周囲を散策することにした。



 そして、一時間後―――


 沼地の付近で、緑色の体をしたアンデッドの集団を見つけた。

 数は大体二十くらいだろうか。


「い、居ましたね……」

「あれは、ゾンビの上位種ね。<ウォーキングデッド>だったかしら?

 名前の通り歩く死体よ。はっきり言って弱いけど、無駄に数が多くて普通の攻撃じゃ中々倒せないのよね」

 ということは、やっぱり魔法で殲滅するのが早そうだ。


「エミリア、さっさと魔法でやっつけよう」

「任せてください。ゾンビは炎魔法の通りが良いので倒すのが楽しいです」


 不謹慎な事言わないでほしい。

 誰かに苦情を言われたらどうしてくれるんだ。


「それじゃあ、エミリアに任せて――」

「待てぃ! 人間どもぉ!!!」

 突然、僕達の会話を遮るように、誰かの声が響いた。


「誰ですか!」

 エミリアは杖を構えながら叫ぶ。


 すると、沼の中から……え、沼の中?

 沼の中からスーツを着用し、蝙蝠のような羽を生やした人が現れた。


「だ、誰?」

 あまりにも怪しい人間だったので、僕はつい声を上げてしまった。


「わははははははは!

 私はヴァンパイア!! この草原の主である!!!」

 ヴァンパイアと名乗った人物は、両腕を広げながら叫んだ。


「えっと……ヴァンパイア……さん? どうしてここに?」


「ふはははははは!! 愚問である!!!!!!

 ここが我の寝床だからに決まっているであろう!!!!!!!!」

 僕の質問に対し、彼はそう答えた。


 ……どうしようか、これ。


「えっと……本当に、ヴァンパイア……なんだよね?」

「はははははは!!!」

 僕の疑問にヴァンパイアさんは、

 何の答えにもなっていない笑い声で返事をする。


「……一応、本物みたいですよ。よく見たら、蝙蝠の羽が動いてますし」


 エミリアの言葉に僕はもう一度、彼を見る。

 確かに、彼の背中にはコウモリのような羽が付いている。


「それに、レイ様。

 よく観察すると本物だと判断出来ますよ。ご覧ください」

 レベッカに言われて、僕達はヴァンパイアを観察する……すると。


「……あっ」

「そうです、日の光に身を焦がされ、髪が少し燃えかかっております。ヴァンパイアは日に弱いと言われておりますし、間違いないかと」


「そ、そうなんだ……」


 そういえば、創作でもヴァンパイアはそんな弱点があった気がする。

 他にも流水に弱いとか、人に招待されないと家に上がれないとか変な弱点も多い。

 いや、逆に言えば弱点が多いからこそ強いのかも。


「で、ヴァンパイアさん。貴方、何でこんなところに住んでいるんですか!」

 相手のテンションに乗せられたのか、エミリアは叫び気味で話す。


「愚問だな! 少女よ!! この近くに廃屋も地下も無い!!

 そして、近隣の街は魔物避けの退魔石があって我は近づけないのだ!!

 だから日の光を凌げる沼の中で生活していたのだ!! ふははははは!!!!」


「…………」

 ……なんか可哀想になってきた。


「だがしかし!! 貴様らに見つかった以上! 戦わねばなるまい!! さぁゾンビ共!! 往くが良い!!」


 ヴァンパイアさんの一声で、

 ウォーキング・デッド達はこちらに振り向き襲い掛かってきた。


 ……。

 ………。

 …………。


「おっそ」

 つい、イライラして言葉が出てしまった。

 

 ウォーキングデッド達は、

 沼地で生活していたのか全員沼に浸かっている。

 そのせいか沼に足を取られ、中々上がってこない。


「ふはは! 我が寝床として作り上げた沼はしっかり、侵入者を足止め出来ているようだ!!!!!」


「いや、貴方の配下が足止め喰らってるんですけど……」


 エミリアが呟きながら、火球を放つ。

 すると、ゾンビ達が悲鳴を上げながら、沼の中で火に焼かれていった。

 というか何故か、沼の中でどんどんと炎が燃え上がっていた。


「し、しまった!! この沼は我の自作故、火に弱い粘液を多分に含んでいるのであった!!このままでは!!! 我の配下が全滅してしまう!!!! どうすればいいのだあああああああ!!!!!!」

 ヴァンパイアさんは、頭を抱えて叫んだ。


「……何か、ごめんなさい」

 可哀想だけど、これ仕事なんだよね。容赦なく燃やすしかないんだよ。


「く、こうなれば……来るがよい、我がペットよ!!!!!」

 ヴァンパイアさんは、口に指を入れて、口笛を吹いた。

 すると、大空から何者かが飛んできた。


「あ、あれって……」

「ガルーダ、ですね。討伐対象です。

 まさか、ヴァンパイアのペットだとは思いませんでしたけど」


 エミリアの言う通り、紛れもなく鳥型の魔物であるガルーダだった。

 グリフォンよりも大きく、鋭い爪を持ち、賢い魔獣だと聞いている。

 なるほど、賢い魔獣だからヴァンパイアが従えていたのか。


「おお、よく来た!!!

 ガルーダよ!!!! 我が配下を助けるのだ!!!!!」


 ヴァンパイアさんが叫ぶと、ガルーダは沼に飛び込もうとして飛んでいく。しかし、既に沼の中は激しく燃え上がっており、ガルーダは引き返してヴァンパイアの元へ飛んでいく。


「む、どうした!? ……何? もう手遅れだと!?

 くっ!? 我の完璧な住まいが、まさか仇になろうとは!! 人間めぇ!!」

 ヴァンパイアさんは悔しそうに拳を握りしめながら僕達を睨みつけてきた。


「さぁ、どうしてくれる!! 我の大切な部下を皆殺しにしておいて、ただで済むと思うなよぉ!!」

 ヴァンパイアさんは、涙目になりながら、こちらへ向かってくる。


「お、ついにヴァンパイアと戦闘ですか」

「私も、あの魔物と戦ったことないわね。ちょっと楽しみかも」


 エミリアとカレンさんは何故か魔物と戦うのが楽しみみたいだ。

 この二人、気が合うのは良いんだけど、何故か喧嘩っ早いんだよね。


「待て!相棒!! ここは俺にも行かせてもらうぜ!!!」


 僕達の背後から唐突に声が聞こえた。

 振り向くと、そこには、今まで数度戦った覚えがある悪魔だった。

 あれだ、強いはずなのに、最近よく瞬殺してるアークデーモン。


「おお!! アーくんではないか!!!!

 久しぶりだなぁ!! 一緒に沼を作ってくれてありがとうなぁぁぁ!!」


 ヴァンパイアさんは嬉しそうに羽を羽ばたいて、

 アークデーモンの傍に降り立った。


「あ、アーくんって……」

「アークデーモンだから、あーくん、なのだと思います」


 冷静に完璧な分析するレベッカ。

 ……まぁ、確かに安直なネーミングだけれども。


「さぁ、行くぞ!! ヴァンパイア!!」

「うむ! アークデーモンよ!! 互いにこの窮地を乗り切ろうぞ!!」

 二人は、ファイティングポーズを取り、こちらに構える。


 あ、戦闘は真面目にやるんだね……。


 しかし、まだ茶番は終わっていなかった。


 ……ごめん、茶番って言ってしまった。


「待ってほしいでやんす!! ダンナァ!!!!」

 今度は、上空から人影が降りてくる。

 と、同時に、奇妙なまるで片言の外国人みたいな声が聞こえた。


「お、お前は……」

「お前は、この草原の縄張りとする、コボルト盗賊団ではないかぁ!!!!」


 降り立った人影を見ると、確かにそいつは犬のような外見をして二足歩行で歩く魔物、コボルトだった。そして、団と言いつつ1匹しかいない。


「……何で、コボルトが人語を話しているのかしら?」

「……さぁ?」

「というか、何で空からコボルトが降ってきたんです?」

 色々謎すぎる。

 

「ふはは! そんなことは決まっているだろう!!

 コボルトさんは、大の親友、キッズさんとお知り合いなのだぁあああああ!!」


「キッズさん?」

「れ、レイ様!! あれをご覧ください!!!」

 レベッカの言葉で、僕達は空を見上げる。すると………。


「グルルルルルルルル!!!!」

 そこには、黄色い立派な翼を持った小型のドラゴンが空を舞っていた。


「えぇ?まさかのドラゴン?」

「ど、ドラゴンキッズね……。確かに、採取依頼にドラゴン素材があったけど、まさかこいつが標的だったのかしら」

 まさか、コボルトの親友にドラゴンがいるとは想像出来なかったよ。


 僕達がちょっと呆けていると、

 コボルトさんは嬉しそうにヴァンパイアの元へ走っていく。


「見てくだせぇ!ダンナァ!! こいつはマンドラゴラですぜ!!!

 さっき、オラの仲間が引っこ抜いて死んじまいましたが、こいつは貴重なレアものですぜ!! これをこっそりどこぞの魔法使いに売りつければ、しばらく食い繋げますぜ!!!!」


「おおおおおおおおお!!! 見事だ!!!!!!」

「コボルト盗賊団、やるじゃねえか! 見直したぜ!!!

 悪魔の俺でもこいつは滅多に手に入らないレア品だぜぇ!!!」


 悪魔の世界でもマンドラゴラは希少らしい。

 死ぬほど無駄な知識を覚えてしまった。


「……マンドラゴラ」


 カレンさんの呟きに僕が反応する。


「……確か、これも採取依頼品だったよね?」


「えぇ……そうね、まさか、これほど都合よく集まるとは……」


「……ちょっと待ってください。

 これで、私達のここで行う依頼内容すべて集まっていませんか!?」

 エミリアの言葉で全員、依頼内容を思い浮かべる。


「えぇと……わたくしの記憶では……。

 ①ゾンビの群れの討伐。

 ②コボルトの討伐。

 ③ガルーダの討伐。

 ④ドラゴンの鱗の入手。

 ⑤ヴァンパイアの討伐。

 ⑥アークデーモンの討伐。

 ⑦マンドラゴラの採取………」


 レベッカが丁寧に一つずつ、思い出していく。


「全部、達成しているわね」


「つまり、これって……」


「そうね! クエストクリアよ!!」

 カレンさんが喜びの声を上げると同時に、ヴァンパイアさんが声を張り上げた。


「な、何を言っているのだ!? 貴様ら!!」

 ヴァンパイアとアークデーモンとガルーダとコボルトとドラゴンキッズと、あと沼で燃え上がってるウォーキングデッド、ついでにコボルトに手で掴まれているマンドラゴラは困惑している。


「あ、ごめんなさい。ついこっちで盛り上がっちゃった」

 そうだよね、まだ依頼は終わってないよね。


 僕達は頷き、武器を構える。


「よし、みんな!!!

 あいつら全員倒したらここの依頼全部達成だよ!!!!」


「そうですね!! やりましょう!!!」


「コボルトはマンドラゴラ持ってるからまず奪わないとね!!!」


「頑張りましょう!! 皆さま!! レベッカも気合十分でございます!!!」


「お嬢様、皆さま!! 私は離れて見守っておりますね!!!」


 自分を含めて、何故か無駄にテンションが上がっていた。

 こうして僕達(リーサさんを除く)はそれぞれ、魔物達に突撃した。


「なにおう!!!!! 我らもつづけぇ!!!!!!」

「「おおーー!!!!」」


 ―――こうして、僕達は無事にヴァンパイア、アークデーモン、ガルーダ、コボルト、ドラゴンキッズ、それと沼で一生を迎えたウォーキングデッドを全て撃破し、コボルトからマンドラゴラを奪い取り、あとレベッカが嬉々としてドラゴンキッズを剥ぎ取って依頼の品も入手することが出来た。

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