第213話 指輪
僕達が次の依頼の場所に向かう頃には日も差しており、辺りの様子もはっきりと見えるようになっていた。街から馬車で二時間ほどの場所に目的の場所があるらしい。
目的地に着くと、馬車を降りて、僕達は黙々と森の中を進む。
道中、特にモンスターに襲われることもなく、順調に進んでいた。
ちなみに、リーサさんは外の馬車で待機している。
森の中を歩き回ってどれほど時間が経っただろうか。
僕達は不意にに立ち止まり、周囲の様子を探る。
「……いるね」
気配を隠してるようだけど、
心眼持ちが何人かいる内のメンバーには誤魔化せない。
そして、気配を隠すという事は、敵は
「ええ……でも、意外ね」
「そうですね……まさか―――」
カレンさんとエミリアの会話が終わる前に、その敵は現れた。
そこには、何人もの人影と、
大きな魔物がまるで仲間であるかのように、僕達の前に現れた。
「―――まさか、人間と魔物が手を組んでいるとは」
エミリアの言葉にレベッカは小さくうなずく。
「はい、私も驚きました……」
目の前に現れたのは、六人組の冒険者のような出で立ちの盗賊と、四メートルはある巨大なオークだった。盗賊の方は全員が男で槍や弓などの武器を持ち、鎧を身につけている。
オークも見たことも無いような大きな鉄の槍を持っており、刃先は赤く血に染まって錆びていた。おそらく、何人もの犠牲者を屠ってきたのだろう。
今回の場所は盗賊の討伐という依頼と、大型モンスターの討伐の両方だった。
しかし、両者が結託しているとは想定外だった。
僕達が盗賊たちを警戒して、武器を構えると、
リーダーと思われるバンダナを付けた優男がヘラヘラしながら前に出た。
「どうやらお前ら、俺たちに分かってて来たようだな。
ってことは、近隣の街の冒険者が俺らの討伐に来たってわけか。流石に同じ場所でやり過ぎちまったみてえだな。そろそろ襲撃場所を変えねぇとな」
リーダーと思わしき男は、周りの仲間と不快に笑い合う。
疑問を感じつつも、僕は口を開いた。
「どうやって魔物を従えてるかは知らないけど、
今まで、そうやって魔物を引き連れて旅の人を襲ってたのか?」
僕は大型の魔物を睨みつけながら言った。すると、男はニヤリと笑いながら、左に付けている指輪を見せびらかしながら言った。
「そうさ、この<隷属の指輪>を使ってな」
「……その指輪は?」
「こいつはな、あるダンジョンから手に入れたマジックアイテムだ。これを嵌めてる奴が命令すれば、どんな強そうな相手だろうと逆らえなくなるのよ」
「へぇ……」
……あれ?
僕も同じような指輪持ってるんだけど、気のせい?
確か結構前に、遺跡で見つけた指輪と酷似してる。今僕が左手に装備している指輪だ。外したくても外れないから、呪いの装備だと思ってたけど。
「それで、どうしてこんなをするんだ?」
「そりゃあ決まってんじゃねえか。こんな便利なもん、使わないわけにはいかねえだろ。特に、人間を襲うには便利なことこの上ねえからな!!」
そう言うと、今度は右手の人差し指をこちらに向けてきた。
「そいつは、俺の命令に逆らえないようになってる。
さぁ、この何も知らねえガキ共を皆殺しにしろ!」
男の叫びと同時に、魔物が大きく吠えて襲いかかってきた。
「レイ様、私が対処します!!」
レベッカが僕達よりも数歩前に出る。
同時にレベッカは虚空から槍を召喚し、魔物動きに合わせて刃先をぶつけ合う。しかし互いの槍と槍がぶつかり合うと、体重差で圧倒的に軽量なレベッカの方が後ろに後ずさる。
力では勝てないか、そう思い僕は剣を構えようとした。
だけど、レベッカに手で制される。問題ない、ということだろう。
レベッカは、構えた槍の矛先を地面に向けて、そのまま突き刺す。
そして、自身を対象に二つの魔法を詠唱する。
『――精霊よ、非力なわたくしに、力を
『そして、わたくしに、更なる真価を
レベッカは強化魔法を自身に使用する。
おそらく、<精霊魔法>を同時併用している。そのおかげか、通常よりも爆発的にレベッカの身体能力が強化されているようだ。僕にも威圧感が感じられるほどに。
そして、レベッカは突き刺した槍を再び構え―――。
―――その姿が瞬く間に掻き消える。
「はぁっ!!」
まるで一歩で一五メートルほどの距離を進んだかのような一瞬。
その一歩で、レベッカは巨大なオークと距離を詰め、まるで閃光のような槍の連撃をオークに浴びせる。
魔物はたまらず、一歩下がり、強烈な一撃を叩きこもうと、全力で槍を振るう。
合わせて、レベッカも槍を全力で振るう。一撃目の再演だ。
―――しかし、結果は真逆だ。
今度はレベッカの急激な強化にオークが力負けして吹き飛ばされる。
それだけでは終わらない。
吹き飛ばされたオークは、木々にぶつかる寸前に体勢を整え着地し、目の前のレベッカに飛びかかろうとするのだが、既にそこにはレベッカの姿はなく、ジグザグな動きで、魔物に距離を詰めて、槍による連続攻撃でオークを追い詰める。
―――勝敗はもう決した。僕はそう判断する。
「う、嘘だろっ! あの化け物に、
あんな筋力も無さそうなガキに押されるってのか!?」
盗賊たちは目の前の光景に驚きの声を上げる。
「くそっ、こうなったら全員でかかるぞ」
リーダーの指示で、他の冒険者たちが一斉に動き出す。
前衛の三人が盾を構えて、中衛の2人は弓を引き絞り、後衛の1人は詠唱を始める。
盗賊の割に結構バランスの良い編成だ。
ただ、こっちには、
そんなバランスとか一瞬でぶっ壊す。
文字通り、バランスブレイカーがいたりする。
「聖剣・
カレンさんが長剣を引き抜いて、<聖剣技>を放つ。
聖剣技は、眩い光と共に一直線に盗賊たち六人に向かって放たれ―――
「な、何だ、この光は!? うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
盗賊たちは咄嗟に目を瞑り、
目を庇って、しばらく動きを止めてしまう。
「………………?」
しかし、盗賊のリーダーの男は、
次に来ると思っていた衝撃が来ないことに疑問を感じて、目を開いた。
するとそこには―――
「あ、どうも、あとは貴方一人だけですね」
「んなっ!?」
盗賊のリーダーが目を見開くと、そこには僕達が目の前に立っており、自分以外の仲間が全て捕縛されて無力化されていることに気付いた。
ちなみに、盗賊のリーダーと会話を交わしたのは、
敵の仲間の一人を魔法で縛り付けていたエミリアだった。
さっきのカレンさんの聖剣技は今回はあくまで目晦ましだ。
一応、この依頼は『生死を問わない』ので殺傷を禁じられているわけでは無いけど、同じ人間なので出来れば殺したくない。これは事前に僕がみんなに伝えておいたお願いでもある。
「カレンさん、ありがとうございます」
「……全く、レイ君は甘いんだから」
カレンさんはフンッと、そっぽを向いて僕と話す。
「こ、このやろう! よくも仲間を!!」
盗賊のリーダーは腰に忍ばせていた、盗賊のナイフを取り出しエミリアに向けようとするのだが、そこで僕が割って入り、僕の剣で盗賊のナイフを弾き飛ばす。
僕の剣で弾かれたナイフは男の背後に飛んでいき、男は無手になった。
「残念だけど、武器を弾かれたら終わりだよ」
「ぐぅ……」
僕の剣で弾かれた時に、盗賊は腕が痺れてしまったのか腕を抑えて悔しそうに顔を歪ませる。これでもう、抵抗は出来ないだろう。
「ま、まだだ!
あの化け物を俺が操っているかぎり、俺たちに負けはねぇ!!」
盗賊のリーダーはまだ諦めていなかったようで、巨大なオークとレベッカが戦っている場所を振り向く。しかし、そこにあったのは、巨大なオークの死体であり、レベッカは無傷で立っていた。
「レイ様、終わりました」
「お疲れ様、レベッカ。一番大変な役目を背負わせてごめんね」
正直、レベッカの強さには僕も驚いた。以前のレベッカはここまでの強さでは無かったはずだけど、どうやら強くなっていたのはぼくだけじゃなかったみたいだ。
「いえ、あの程度の相手、物の数ではありません」
「あはは、頼もしいよ」
僕は苦笑しながら、レベッカの頭を撫でる。
普段の可愛らしい姿と戦場での雰囲気は全然違うけど、どちらもずっと僕達を支えてくれたかけがえのない存在。そして、僕の好きな女の子でもある。
あの時、ゼロタウンに向かう馬車の途中でレベッカと出会うことが出来て良かった。彼女がいなければ、僕達はここまで戦い抜くことは出来なかっただろう。
「き、貴様らぁぁぁ!!」
リーダーは叫んで、今度は僕に殴りかかろうとする。
僕は咄嗟に構えるが、カレンさんに剣を首に向けられて男は動きを止められる。
「そこまでよ。殺さなかっただけ有り難いと思いなさいな」
「……ちっ!」
リーダーは舌打ちして、地面に座り込む。
……こうして、盗賊達はあっさりと終わったのであった。
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