第210話 行動開始
―――緊急依頼が始まってから約1時間。
現在、僕達はギルドを出て、街中を歩いている。
「それにしても、随分と人が少ないですね……」
「例の呪いのせいなのかな。
安易に出歩いて自分に振りかかったらたまったもんじゃないだろうし」
現在、都では冒険者ギルドだけでなく、一般人の往来もかなり少なくなっていた。
恐らくだが、冒険者以外の人達は殆ど外出を控えているのだろう。そのため、普段では考えられないくらい人の数がまばらになっていた。
「ギルドマスターの話では、この街の病院は患者であふれているみたい。一応、私達も所持していた回復薬をいくつか渡しておいたけど、あれじゃ全然足りないでしょうね」
「そんなことになっていたなんて……」
カレンさんの話を聞いた僕は、改めて事態の大きさを思い知った。
そして、ふと横を見ると、隣に歩いていた姉さんの姿が無い。
後ろを振り向くと、姉さんが離れた場所で歩いており、その歩みが止まった。
「姉さん?」
僕以外も姉さんが足を止めていることに気付いて、
全員がその場で足を止める。
「……ベルフラウ、どうしました?」
エミリアが尋ねるが、姉さんは思案中なのかすぐには応えなかった。
姉さんは何か俯いて考えているように見えた。
「もしかして、何か考えてる?」
今度は僕が尋ねてみる。
少しだけど、姉さんが考えてることに思い当たる点があった。
「……ねぇ、レイくん。
お姉ちゃん相談があるんだけどいいかな?」
「……うん。言ってみて」
僕の返事を聞いた姉さんは真面目な顔をして答えた。
「私、病院に行って、回復魔法で患者さんを癒してあげたい。だから今回は別行動したいんだけど、構わない?」
……やっぱり、そうだよね。
「ベルフラウ、それは……」
それは危険だ、とエミリアは言おうとしたのだろう。
しかし、それを遮るように僕は言った。
「分かった。姉さんは行って来て。僕達はこっちの方をやるから」
「ありがとう、レイくん」
僕の返事を聞いた瞬間、姉さんは暗い表情から少し笑顔になり、
後ろを振り返って走り去っていった。
「あ……! ……行ってしまいましたか。レイ、何で遮ったんですか。患者の元へ行くという事は、ベルフラウまで病気が移る可能性だってあるんですよ」
エミリアは姉さんを心配して止めようとしたのだろう。
もちろん、付き合いが長くなった僕でもそれは気付いている。
だけど、止めても意味が無い。
「分かってる。でも、この状況で姉さんが苦しんでる人を放っておくことはできない。普段は少しいい加減なところもあるけど、女神とか関係なく姉さんは優しいんだよ」
僕も姉さんの事は心配だけど、
助けてあげたい姉さんの気持ちは分かるつもりでいる。
もし、姉さんまで倒れたら、その時は、僕が姉さんの看病をして治るまで付いていてあげるつもりだ。
「確かにそうかもしれませんが……。
ふぅ……いえ、そうですね……。なら、私達も頑張りましょう」
エミリアは軽く深呼吸して言った。
「うん、勿論だよ」
話の区切りが付いた僕達だが、
僕達の話を黙って聞いていたカレンさんが言った。
「ベルフラウさんは心配だけど、回復魔法の使い手は普通の人よりも病気の耐性は少しある方なの。だから、病状が移る前に、私達が依頼を手早くこなして街を離れれば済む話よ。だから、少し急ぎましょう」
それに僕達は頷く。そして、レベッカが言った。
「了解しました。……それで、わたくし達はどう動きましょうか、レイ様。依頼の数は三十を超えています。私達一団が固まって動いても時間が掛かり過ぎるかと」
レベッカの考えはもっともだ。
姉さんの事を考えて効率的に動かないと。
「……パーティを何組かに分けよう。
レベッカ、依頼を街から近い場所と遠い場所に区分けしてくれるかな。
近い場所の依頼を数人で一気にこなして、遠い場所は一旦後回しにしよう」
「畏まりました」
レベッカはすぐに行動に移った。
さすがレベッカだ。こういう時の判断は早い。
その後、僕達は分担を決め、各自作業を開始した。
――それから約二時間後。冒頭に至る。
「
エミリアの攻撃魔法がゴブリンの集団を纏めて焼き払い、
更に後続のオークを僕が剣で追撃して薙ぎ払う。
「はぁっ!!」
雷の魔力を纏った僕の剣が、オーク達数匹を一撃で感電死させ、そのまま消滅させた。
「……ふぅ、これで、いくつ終わった?」
「今ので七件目の依頼ですね。
ここの森の依頼はあと数件という所です。頑張りましょう」
「そうだね」
エミリアと一緒に森の中を走りながら答える。
僕達は現在、ギルドから一番近い森に来ている。ここは森と言っても比較的小さな森で、冒険者達も頻繁に利用する為、魔物も弱いものしか生息していない。
そのせいか、冒険者の良い狩場でもあるが、同時に魔物が最も多く出現する場所だ。故に、依頼数は抜きんでて多く、一週間近く放置されていたせいで、出現する数が尋常ではなくなってる。
ようするにエンカウント率が異常に高いのだ。
魔物と戦ってる最中に、別の魔物が出現し襲い掛かってくるため、僕達二人は連戦を余儀なくされている。ちなみに、カレンさんとレベッカは別の場所で僕達と同じように複数の依頼を受けているはずだ。
リーサさんは馬車の管理をしてもらっているため、外で待機中だ。姉さんは患者の治療に勤しんでいる。なので、ここにいるのは僕とエミリアのみだ。
「それにしても、これだけ数が多いと流石に疲れますね……」
エミリアが額の汗を拭いながら言う。その表情から疲労が目に見えて分かる。魔法を主体とするエミリアはMP管理を考えて戦わないと厳しい状況にある。
ここまで遭遇した魔物数は既に二百を超える。
雑魚ばかりとはいえ、エミリアが放った魔法も既に数十発だ。
疲れない方がおかしいだろう。
「……まあ、これくらいなら僕は大丈夫。
それより、次の依頼の場所までもう少しだよね?」
「はい、もうすぐ見えてくるはずですよ。
あと、残るはこの森で出現したとされる<ユニークモンスター>ですね」
「ユニークモンスター? 変わった名前だね」
「違いますよ、レイ。魔物の中では普段遭遇しないですが、たまに周囲と比較して、異様に強い魔物が生まれることがあるんです。それがユニークモンスターと呼ばれています。
基本的に、魔物討伐をしっかり行っていれば、ユニークモンスターは出てこないですが、依頼が滞っていましたからね……」
この世界の仕組みは今でも詳しくないけど、そういうことか。
「それで、今向かっている依頼はどんな感じなの? エミリア」
「えっと、依頼内容は『ユニークモンスター、ゴブリンウォリアーとグレートゴブリンの討伐』ですね。本来この森では出現しないレベルの相手らしいですよ」
「……へぇ」
正直、拍子抜けの相手だと思ったけど、黙っておく。
普段僕達が戦ってる相手と同じだからだ。
「……レイ、この森、初心者用のダンジョンみたいなものですからね。
考えてもみて下さい。レイが冒険者になった頃に、さっきの名前の魔物と遭遇したらどうなります」
冒険者になった頃………。
エミリア達と出会って間も無く、レベッカも知り合った直後くらいか。
という事は、僕達はゴブリン退治で必死になっていた頃だ。
「――うん、普通に全滅するよね」
どっちも今となってはそこまで強くない、
でも流石に新人の時に戦ったら絶対に勝ち目が無い。
「そうでしょう? だから、こういった依頼は出ないように定期的に魔物を討伐する必要がある。より凶悪な魔物が出てくる前に、早期の討伐を行う。そうして一定の平和が保たれていたのです。
……と言っている間に、ほら、出てきましたよ」
僕達は走るのを止めて、目の前の魔物達と対峙する。
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