第205話 姉属性の人が増えた気がする

 次の日の朝――


「き、昨日はごめんね、レイ君!

 いつの間にか鎧脱いでるとは知らなくて、思わず安心しちゃってたわ……」

 朝食を食べ終えて、出発の準備をしている最中にカレンさんが謝ってきた。


「あはは……大丈夫ですよ」

 背中がかなり痛かったし命の危機を感じたけど、カレンさんと一緒に居た時は姉さんの傍にいる時と同じくらい安心感もあった。まだ知り合って間もないのにこういう気持ちになるのは不思議だ。


 カレンさんの寝顔を間近で見たり、胸元をチラッと見たりしたことは黙っておくことにした。下手に言うとエミリア辺りがずっと煽ってくる。


「え、カレンとレイの間で何かあったんですか?」


 エミリアは僕に若干ジト目を向けながら質問してきた。

 それに僕が慌てて答える。


「ち、違うよ? というか、エミリアが想像するほど甘い話でもないし……」


 思いっきりハグされてたのは嬉しいけど、万力みたいに締め上げられたのはもはや拷問だった。魔力の制御が下手とは聞いてたけど、まさか寝ぼけて身体能力を強化するとは……。


「ふむ……カレン様、レイ様と同衾したのでございますか?」

 レベッカが、首を可愛らしく傾けながらカレンさんに言った。

 しかし、その言葉の意味を理解して、カレンさんは思わず噴き出した。


「な、何言ってるのレベッカちゃん!

 というか、同衾の意味知ってて言ってるの!?

 レイ君、妹さんの教育どうなってるの!」


 カレンさんが慌てふためく。

 いやいや、そんなこと言われても……。


「レベッカ、あまりそういうことを言うんじゃありません」

 僕はちょっとお兄ちゃんっぽくレベッカを窘めた。

 すると、レベッカも乗っかってくれた。


「はーい。申し訳ありません、お兄様」

 レベッカは素直に謝罪すると、そのまま僕の腕に体を預けてきた。


 可愛すぎる……。

 けど、最近レベッカのスキンシップが多くなった気がするなぁ。


「……ねぇ、レイ君とレベッカちゃんって本当に兄妹なの?

 レイ君が異世界転生者だっていうなら、レベッカちゃんもそういう事になるはずだけど、実際は違うのよね?」


「あ、あれはまぁ、姉さんが勝手に言っただけなので」

 少なくとも、僕は実の妹だとカレンさんに紹介したわけでは無い。


「レイ様とわたくしは血は繋がらなくとも家族です」


「そ、そうなんだ。

 まぁ、仲良く過ごせばそうなったりもするか……」


 カレンさんは納得したようだ。

 そこに、隣で見守っていたリーサさんが言った。


「カレンお嬢様も、リゼット様と姉妹のような仲ではございませんか」


「まぁ、そうなんだけどね……。

 あの子は特別というか、その……」


 カレンさんは何故かモジモジしている。

 よっぽどリゼットちゃんのことが気に入っているのだろう。


「百合ですか」

「百合でございますね」

 エミリアとレベッカが同時に言った。

 二人が直球過ぎて思わず吹き出しそうになった。

 


「その言い方やめてよ! そういうのじゃないから!」

 カレンさんは恥ずかしさのあまりか、声を荒げた。


「カレンさんの百合姫って二つ名の理由がちょっと気になってたけど、そのままの意味だったのね」


 姉さんは納得した表情だった。

 特に百合がどうとかは思っていないらしい。


「……カレンお嬢様に恋人が出来ないのは、これが原因かもしれませんね」

 リーサさんは深くため息を付いた。


「リーサまで言わないでよぉ~!」

 カレンさんは耳まで真っ赤にして、両手で顔を覆った。



 ◆



「え、新しい馬車が欲しい?」

「うん」


 この街に着くまで、僕達は六人で馬車に乗ってきたわけだけど、元々中古品で手狭だった今の馬車だと、どうしても移動中に窮屈さを感じてしまう。

 二人、特にリーサさんが用意してきた大きなバッグは荷台を圧迫しており、もう少し広いものが欲しくなった。


 何より、僕の周りは女の子しかいない。

 椅子に座ると、女性と密着することになって理性が持ちそうにない。


「レイくんの頼みなら叶えてあげたいけど、お金がねぇ……」

 僕のお願いに姉さんは頭を悩ませる。


「そこを何とか、依頼でも何でもして稼ぐから……」

 一応、この街にも冒険者ギルドはある。

 多くはないけど、多少のお金稼ぎは出来るだろう。


「え、なになに、新しい馬車が欲しいの?」

「馬車ですか、確かにレイご一行様達がお使いの馬車は少し手狭ですね」

 そこに、話を聞いていたカレンさんとリーサさんが割り込んできた。


「リーサ、うちに使ってない馬車があったわよね」


「ええ、旦那様が金貨1,000枚程費やして、税金の無駄遣いをしてしまったと嘆いていたあの……」


「それじゃ、それを譲ってあげてくれない?」


「流石にそれは……。

 市民の血税で出来たあの馬車をポンと渡すわけには……」


 ……何か、凄い話してる。あと、地味に闇が深いよ。


「あ、あの、カレンさん。

 流石に、そんな高い物を貰うわけにはいきませんから……」

 

 姉さんはちょっと恐縮して、やんわり断った。もし、この場で貰ったとしても、後でカレンさんの両親から何を言われるか怖い。


「そう? 残念ね……」

 カレンさんは本当に残念そうだ。


「でも、お金に困ってるのよね? それなら私が全額出しましょうか?

 この街でも一番良い馬車を作ってもらえば、そこそこいいのが出来るでしょ」


「嬉しいけど、でも馬車って結構高いんじゃ……」

 以前、中古で買った古い馬車でもそこそこの金額は掛かった記憶がある。


「大丈夫よ、知っての通り私は強いのよ。

 ドラゴン狩りとか悪魔狩りとか、魔王軍(仮名)の群れを無双したときの報酬はそのまま残ってるわ」

 カレンさんは胸を張って自慢げに言った。


「いや、さすがにそれは……」

 姉さんは苦笑いだ。


 カレンさんは僕の方を向いて言った。


「レイ君はどう? 私からのプレゼントだと思ってくれれば」


「えっと……」

 そう言われると、何か嬉しい……。

 カレンさん面倒見良いし、お姉さん感あるから悪い気はしない。


「う、嬉しい、かな」

 僕がそう言うと、カレンさんは満面の笑みになった。


「よし、決まりね! リーサ、早速取り掛かりなさい!」

「かしこまりました」


 リーサさんはカレンさんの命令に従い、街の雑踏に消えていった。

 きっとリーサさんは今から職人を見つけて、オーダーメイドで馬車を作るのだろう。


「リーサに任せておけば大丈夫ね。

 さて、じゃあ私達はどうしましょうか」


 ちなみに、レベッカとエミリアは旅支度の買い物に出かけている。

 今この場にいるのは、僕と姉さんとカレンさんだけだ。


「僕は特に用事は無いけど」

「お姉ちゃんは部屋でごろごろしたいかな」

 姉さんはソファでだらけている。

 ここの所、ちょっと忙しかったから疲れがたまっていたんだろう。


「それなら、そうね……レイ君」

 カレンさんは何かを決意したのか、キリッと表情を変えた。

 まるで今から戦いに行くかのような雰囲気だ。


「な、なんですか?」

 僕は恐る恐る訊く。


「カレンお姉さんとちょっとお出かけしましょうか」

 カレンさんは立ち上がり、僕に手を差し伸べてきた。


「えっ……」

 カレンさんの手を握ると、彼女は僕を軽く引っ張るように歩き出した。


「ちょ、カレンさん?」

「ほら、早く行くわよ」

 カレンさんは僕の手を引いて、そのまま街へ向かって行った。


――お姉ちゃんサイド


「か、カレンお姉さんですって……!?」

 姉さんは、衝撃を受けていた。


「ま、まさか、カレンさん、私の立ち位置を奪う気じゃ……?」

 僕の知らないところで、危機感を感じていたベルフラウ女神様でした。


「こ、こうしてられないわ! 行かなきゃ!!」

 姉さんは僕らに気付かれないように、僕らの後を追った。

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