第204話 だきしめる(攻撃技)
馬車を走らせること数時間――
「レイ、お願いします!!」
「いくよ!!
僕は剣を掲げて上級魔法を詠唱する。
周囲から大きな竜巻が吹き荒れて、正面にいたゴブリンウォリアー複数体を竜巻に巻き込み、上空に放り出す。
そして、それを待っていたエミリアの追撃が入る。
「
エミリアの電撃魔法で投げ出されたゴブリン達は上空で凄まじい雷撃に襲われ、
地上に叩きつけられるころには炭化しており粉々に消滅した。
「これで全部かな」
周囲に魔物がいないことを確認して、僕は大きく息をつく。
「お疲れ様です、レイ様、エミリア様」
「おつかれ~! 二人とも良い感じだったわよ」
それを見ていたレベッカとカレンさんが声を掛けてくれた。
「それにしても、もうウォリアーの魔法耐性とか関係なかったね」
「ああやって無防備に上空にふっ飛ばして、雷に直撃させれば斧がどうのとか無意味でしょう」
少し前までは一体を倒すだけでも苦戦してたのに。
随分僕達も慣れてきた物だ。
「それにしても、これで六戦目……。
上位種の魔物ばかりだし、ここに住んでいる人は大変ね」
「うん、魔物がかなり強いし、
もしかしたら<黒の剣>の影響で強化されてるのかもしれない」
あの剣は魔物を進化させるみたいだし、
ここまで上位種だらけだと関わってるよう思えてしまう。
「……確かに、ここ半年くらいの間に魔物が一段と強くなってるし、
レイ君の推測ももしかしたら合ってるのかもしれないわね」
カレンさんは腕を組んで考え込む。
今はまだ何とかなってるけど、これ以上強くなると危ない。
もしそうだとするなら、あの<デウス>とかいう奴をさっさと捕まえないと。
「でも、もしそうだとしても魔王が誕生すればもっと強くなるのかしら?」
これは姉さんの言葉だ。それにカレンさんが答える。
「多分……。魔王の存在だけで、魔物は凶暴化するらしいから……。だからこそ早い段階で勇者の覚醒を事前に済ませておきたいんだけど、上手くいかないわねぇ」
「そうですね……。
やはり、レイ様が勇者の能力を使いこなせるようになるしかないようです」
レベッカも同意するように言う。
「うーん……それが出来れば苦労はしないんだけど……」
そもそも、どうやって勇者の力を使うんだろう?
「アレじゃないですか。突然紋章が輝いて、
敵を消滅させるレーザーが頭から発射されるとか」
「いやいや、そんな都合の良い展開にならないって」
エミリアの発言に思わず突っ込んでしまう。
というか頭からレーザー出るのは怖いよ。光学兵器か。
「やっぱり、勇者としての経験を積むしか無いんじゃないかな?」
僕がそう発言すると、皆も『そうだよね』という顔になった。
「……で、勇者の経験って?」
「………」
その質問に全員黙ってしまった。
正直言って何も思いつかないのだ。
「僕が知ってる勇者は、人の家のタンスを堂々とあさったり、壺を壊したり、街の人全員に話し掛けたりするんだけど、そういうのが経験なのかな」
「ただの犯罪者ですね、わかります」
「ごめんなさい……」
エミリアに即答されてしまった。
……いやまぁ、普通に考えたらそうなんだけど。
「カレンさん、もう一人の勇者のリゼットちゃんはどうしてるんです?」
「あの子は、うーん、そうね……。………」
カレンさんはそのまま黙り込んでしまった。
「カレンさん?」
「……はっ!? ごめんなさい。
最近会えてないものだから欲求不満で……」
「欲求……? あ、なるほど、分かりました」
エミリアが納得したように手をポンッと叩く。
「ち、違うわよ!!変な事言わないの!!」
「まだ何も言ってませんよ……。
それより、リゼットさんがどうしてるんですか?」
「あ、そうね……。まぁ戦闘訓練とか魔法の勉強とかね。
後は、近くのダンジョン潜ってお宝探したり、王宮の依頼を受けたりとかかしらね。まだ未覚醒だからあの子も大っぴらには活動できないのよ」
うーん、となるとヒント無しかぁ……。
「それよりも、早いところ次の街へ向かいましょ。この調子だと今日中に着かないわ。お姉ちゃんも手綱握り続けて疲れちゃったし……」
確か姉さんの言う通りだ。もう大分日も落ちてきている。
急いで進まないと。
◆
それから数時間後―――
あれから更に数時間走り続けて、僕達は目的の町へと到着した。
「ふぅ、やっと休めるわね……」
街へ着いた僕達は、既に日が沈んでいたためすぐに宿を取りに行った。
「六名様ですか? 三人部屋を二つ用意できますが……」
受付の人が調べてそう言った。
「そうですか、その二部屋をお願いします」
本当のところ、僕は男だから一人部屋が良いんだけど仕方ない。
部屋割に悩んだけど、最終的に僕、レベッカ、姉さん。
エミリア、カレン、リーサさんと部屋分けすることにした。
僕と姉さんは割と慣れてるし、エミリアはカレンさんと色々話したいらしい。
レベッカは特に何も言わなくても僕の方に付いてきた。
―――数十分後。
「レイー」
部屋でのんびり過ごしていると、エミリアが訪ねてきた。
「何、エミリア」
「やっぱり私と部屋交換してくれません?」
「え、何で?」
少し前に納得して部屋割りしたのに……。
「理由は聞かないでください! お願いします!!」
エミリアは少し焦ってるみたいだ。
「え、うん、別に良いけど」
「ありがとうございます!」
……何故か分からないけど、僕と部屋を交換したかったらしい。
「それじゃあカレンとリーサさん宜しく言っておいてください!!!」
「あ、うん」
エミリアは特に理由も話さず、部屋の中に入っていった。
「何だったんだろ……」
僕はカレンさんとリーサの部屋に向かった。
――トントンと、カレンさんのいる部屋をノックする。
「カレンさん、部屋に入っていいですか?」
「レイ君、どうしたの?」
――ガチャッと、部屋をドアが開かれた。
迎えてくれたのは、カレンさんの方だった。
「あ、カレンさん。なんかエミリアが部屋変わってほしいって」
「えっ」
僕の言葉にカレンさんは少し驚いたが、すぐに表情が戻った。
「何かあったんですか?」
「いえ、その、ちょっとね。
……力加減間違えて、私がベッドを一つ破壊しちゃって……」
「は、はぁ……?」
どういうことだろう。
「私、ちょっと魔力の制御が苦手でね……。
たまに私が家具使ったりすると、うっかり破壊しちゃうことがあるのよ。
仕方ないから、エミリアと私で同じベッドで寝ましょうと言ったら、エミリア怖がって逃げていっちゃったのよ」
「そ、そうですか……」
そういうことだったのか……。
もしかしたら寝ている間に自分も破壊されちゃうとか思ったのかな。
「ん、ということはレイ君が私と寝るって事?」
……それは流石にマズい。
「僕は床で寝るから大丈夫です」
「そういうわけにはいかないわよ。
壊したのは私の責任だし、私が床で寝るわ」
「いえいえ、カレンさんは女の子ですし……」
「何言ってるのよ、レイ君も女装させたら大体女の子でしょ」
カレンさんが何言ってるんだ。
「というか、カレンさんとリーサさんが一緒に寝れば解決では?」
別に僕達が一緒に寝る必要は無い。
「あ、それもそうね。おーい、リーサ。今日一緒に寝ましょ?」
と、カレンさんは隣で荷物整理してたリーサさんに声を掛ける。
「お断りします」
「即答!?」
本当に間髪入れずに断られたカレンさんは軽くショックを受けた。
「カレンお嬢様の事はお慕いしておりますが、私も命が惜しいので」
「私の扱い雑過ぎない!?」
「ふふっ、冗談ですよ。カレンお嬢様」
リーサさんは上品に笑う。その様子にカレンさんは安堵する。
「もう、リーサったら……。
それじゃあ私達二人で寝ましょ」
「お断りします」
再びリーサさんに即答される。
「なんでよぉ!!」
カレンさんは泣きそうな顔になった。
「いえ、それはそれとしてカレンお嬢様と寝るのは恐れ多いので……。
どうせなので、レイ様と寝ては如何でしょう。一日で色々発展するかもしれませんよ」
「な、何を言ってるのよ!! そんなことできる訳ないじゃない!!」
「おや、カレンお嬢様はレイ様にそのような感情は無いのでは?
なら別に一緒に寝ても平気では無いでしょうか?」
「も、勿論そうよ!」
「では、私は疲れたので先に失礼します。それではお休みなさいませ」
リーサさんはそのまま片方のベッドに潜り込んだ。
「……」「……」
カレンさんと二人っきりになってしまった……。
これは、まずいかも……? それからしばらく沈黙が続いた。
「ねぇ、レイ君」
少ししてから、カレンさんがちょっと照れた様子で話し掛けてきた。
いつもより控えめな感じでかわいい。
「はい」
「あのさ、もし良かったらだけど、その……」
「?」
「私と一緒に寝ない?
……もちろん、何もしないわよ、安心して」
普通、男の僕の方が何かする方なのでは?
「あの、カレンさんにお願いがあるんですけど……」
僕は意を決して言った。
「な、何……? 言っとくけど私は、そういうのは……」
カレンさんはちょっと顔を赤らめて言った。ちょっと可愛いです。
「いや、その……。僕も怖いんで、鎧着たまま寝ていいですか?」
「………」
「駄目ですか……?」
「あ、うん……。良いと思うわ……」
カレンさんは何だか複雑そうな顔をしている。
◆
「それじゃあ、電気消すわよ?」
「はい」
僕達はお互い背を向けた状態で、布団に入った。……これ、かなり恥ずかしいな。
それから数十分……。
「(ね、眠れない……)」
カレンさんと一緒だから緊張するってのもある。
あるけど、それ以上に鎧着たまま寝ているため体が固まって動かせない。
「(や、やっぱり脱ごう……)」
このまま寝てしまうと、朝起きたら体がまともに動かせなくなる。
とりあえずベッドから離れて、上の鎧、それと下に着ている鎖帷子も脱いでしまう。そして、備え付けの洗面所のタオルで体を軽く拭き、シャツを着込んでから再びベッドに入った。
「これでよし……」
なんとか、動けるようになったぞ。
「すぅ……」
「?」
あれ、カレンさんの呼吸が聞こえてきたんだけど。
もしかしてもう寝てるのか……。
まぁ、これならもう大丈夫だろう。
「(でも、こうなるとさっきとは別の意味で眠れないかも……)」
さっきと違い、身体に柔らかいベッドの感触があるし、同じベッドで詰めて寝ているため、どうしてもカレンさんの背中と僕の背中が接触する。そのため、体の柔らかさと体温の温かさを感じてしまう。
「(ん……でも、何だか安心するかも……)」
背中越しに伝わるカレンさんの温度は心地よく、自然と睡魔が訪れてくる。
そのまま意識はゆっくりと沈んでいった―――。
◆
「ん、ん~っ」
翌朝、微睡から少しずつ覚醒し始め、瞼に日の光を感じ始めた。
もう朝か……。
昨日は結局すぐ眠れたみたいだ。
「ふあぁ……」
大きな欠伸をしながら体を起こす。
すると、横でカレンさんが寝ていた。
「えっ!?」
思わず声が出てしまった。な、なんでカレンさんが!?
――って、そうだ、昨晩はカレンさんと同じベッドで寝てたんだった。
でも背中合わせに寝てたのに、何でこっち向いて―――。
「(……って、体が動かない!?)」
僕とカレンさんは正面向いて寝てるだけではなく、いつの間にかカレンさんに抱きしめられていたようだ。そのため、カレンさんの腕が僕の背中に回っていて、完全に身動きが取れなくなっている。
「う、嘘でしょ……。こんなの全然覚えがないんだけど……」
というか、こうやって思いっきり正面から抱き付かれてると、カレンさんのシャツから覗く胸元の下着とか、カレンさんの綺麗な青髪の良い匂いとか、綺麗な顔立ちとか、あと一番ヤバいのは軽くカレンさんの胸が自分に当たっていることとか……。
とにかく色々見えて凄いドキドキする。
あと、カレンさんの顔すごく近い! それに、少しだけ開いた口から見える赤い舌と唇が妙に艶っぽくてヤバい。今まではカレンさんを意識することなんて無かったのに、今は心臓バクバクだし、 カレンさんの色っぽさに理性がぶっ飛びそうになってる。
これ、まずい。本当にまずい……。
このままだと変な気分になってしまいかねない。
とりあえずこの状態から抜け出さないと。
カレンさんに気付かれないように腕を退かそうとするのだけど……。
「(引き剥がそうとすると、さっきより強く抱きしめられたんですけど!!!)」
何だったらちょっと締まり過ぎてさっきより苦しいくらい!!こんな時にカレンさんの馬鹿力発揮されても困るって言うか、僕の命の危機なんですけど!?
こうなると、カレンさんに起きて貰わないと僕が死ぬ!
「カレンさん起きて!!」
―――ガチャッ。
突然部屋の扉が開かれて、聞き慣れた声が聞こえた。
「カレンさん、リーサさん、
おはようございます。ところで、レイくんはもう起きてま―――――す、か?」
あぁ……終わった。
部屋に入ってきたのは、姉さんでさっきの声も姉さんだった。途中、変に声が途切れたのは、姉さんがこっちを見て、驚いてフリーズしたからだ。
「レ、レイくん……これはどういうこと?」
「いや、その……」
僕は何とか言い訳をしようとして、そこで気付いた。
カレンさんが僕のことを離そうとしないから動けないってことに。
……というか、そろそろ限界なんですけど。背中がミシミシ言ってます。
「えっと、とりあえず助けて下さい……」
◆
その後、姉さんがなんとかカレンさんの腕を誘導することで僕の背中が自由になって、僕がそのまま姉さんに引っ張られることで、何とかカレンさんから脱出することが出来た。その間、カレンさんが起きることはなく気持ちよさそうに眠っていた。
後でリーサさんに訊いたことなのだが、
カレンさんは意外と寝相が悪くて抱き付き癖もあるらしい。
そして安心してる状況だと中々目覚めないとのことだ。リーサさんがカレンさんと寝るのを拒否した本当の理由は、絶対こうなると予想してたからだそうだ。
……納得です。
お嬢様なカレンさんの意外な一面が見れたのは良かったかもしれない。
でも、一緒に寝るのは今後止めておこうと思った。
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