第200話 神様は大体いい加減
街の外まで移動した僕達は、
少し開けた場所で向かい合っていた。
「あの、カレン様、本気ですか?」
「私も、いくら回復魔法使ったとしても、即死したら助けられないわ」
レベッカと姉さんが僕達を見て心配そうに声を掛ける。
二人の心配ももっともだ。
何せ、今回は模擬刀でも何でもない、魔物退治に使用してる武器防具だ。
今回は<龍殺しの剣>を僕は持っている。
対する、サレンさんも普段の戦闘で使用してる長剣のようだ。
抜き放つと不思議な光を発する剣で、<聖剣>と言われる特殊な武器のようだ。
要するに、試合形式じゃなくて完全な実戦形式。
剣だけの勝負じゃなくて、魔法も使用可能のルール。
そして支援もアリということらしい。
「大丈夫よ、私も本気で攻撃するわけじゃない。
ただ、ちょっとレイ君がどの程度の強さなのかちょっと見ておきたくてね」
「そ、そういうことみたい。
二人とも、僕が死に掛けたらすぐに回復よろしくね……」
「は、はい!」
「ええ、わかったわ」
レベッカと姉さんは、いつでも回復できるように準備を始めた。
「いや、だから手加減ちゃんとしますから……。
確かに私は加減が下手だし、たまに魔力の制御が利かないけど大丈夫よ」
「大丈夫な要素が欠片も無いですね……」
今日、僕は死ぬかもしれない。
◆
「それじゃあ、何処からでもどうぞ。
さっきも言ったけど、補助魔法や攻撃魔法の使用もアリよ」
「は、はい……分かりました」
僕は目を閉じ集中させ、体内のマナから魔力を生成する。
そして、それを手のひらに集め、更に剣に流し込んで<魔法剣>を使用する。
今回顕現するのは風の魔法だ。
以前に習得した
同時に、僕の周囲に激しい風が巻き起こる。
<上級攻撃魔法>を<魔法剣>に付与させるのはまだ扱いきれてないけど、並の<魔法剣>だとカレンさんに全くダメージを与えられそうにない。
「行きます!!」
僕は短く息を吐きながら駆け出した。
「ふむ……」
カレンさんは、僕の動きに逆らうように後方に軽く跳ぶ。
どうやら今回は正面から受け止める気はないようだ。
だけど、それは僥倖。
魔法剣を使用する際、僕は風魔法を多用することが多い。威力を重視するなら別属性の魔法を使った方が良いけど、風魔法は利点がある。
その一つが、僕自身の大幅な速度上昇だ。この状態であれば風の力が僕に味方して爆発的な加速力と推進力を得ることが出来る。今回は更に上級の風魔法なので、その跳ね上がり方も大きい。
僕は突風を起こしながらカレンさんをけん制し、
目の前まで一瞬で到達すると、そのまま<魔法剣>を振り下ろす。
しかし……。
「うっ!?」
カレンさんは、一瞬焦ったような声を出したが、
僕の攻撃に合わせ聖剣を振り抜き、僅かに軌道を変化させた。僕の放った剣圧を伴った真空破はカレンさんから逸れて、大地を抉り続け、数十メートル後方まで一直線に削り取った。
「何とか避けたけど凄い威力……。正面から受け止めなくて良かったわ」
カレンさんは若干冷や汗を流している。
僕から少し距離を取って、ハンカチをポケットから取り出して顔を拭った。
戦闘中に余裕だなぁと言いたいところだけど、
僕の心境はそれどころじゃない。今の攻防ではっきり力差が見えてしまった。
「……やっぱり無謀だったかな」
一撃でカレンさんを倒せない時点で僕の敗北は決まった。
今の風の魔法は普段使用する<中級爆風魔法>と比較して、威力も、攻撃速度も遥かに上がっている。それでも、カレンさんに初見で受け流されてしまった。
多少大降りになって威力も制御しきれてないけど、それでも僕の最大限の全力攻撃だ。今のを回避されると攻撃を当てる手段が見つからない。
「先行は譲ったけど、次は私の番ね。
レイ君みたいに<魔法剣>は使えないけど、<聖剣技>なら使えるのよね」
カレンさんは後方に跳躍して僕と三十メートルの距離を取る。
そして、カレンさんは剣を構えて、僕を鋭く見つめた。
「レイ君、ちょっとだけ本気で攻撃するわ。――上手く避けてね」
「―――!!!」
カレンさんの周囲に膨大過ぎるマナが集まっていく。カレンさんの周囲がまるでガラスにひびが入ったかのように亀裂が入り、それが砕け散った瞬間、周囲の空間が歪むような現象が起こった。
そして、腰を落とし構えると……。
「―――<聖剣解放・40%>―――聖剣技、
カレンさんが叫ぶと、彼女の持つ長剣の刀身から眩い光が放たれた。
それと同時に、カレンさんの姿も消え、光を纏う巨大な衝撃波のような物が僕に向かって来た。
その衝撃波は、周囲の木や草花を一掃しながら、僕を討伐せんと迫ってくる。
僕に死の恐怖が迫ってくる。
目の前の攻撃は直撃すれば間違いなく僕は死んでしまう。
カレンさんは上手く避けろと言った。
でも、僕はその光景に見惚れて避けるのを忘れてしまった。
「レイくん!!」「レイ様!!!」
離れた場所から僕を呼ぶ声が聞こえる。
姉さんとレベッカだろう。
大丈夫!!
僕自身の今の全力でこの場に立ち向かう!!
「<
剣に付与されてた風の魔力を一気に解放する。
生み出された暴風が<聖爆裂破>との衝撃波を抑え込み解き放たれる。
今まで一度も制御しきれなかった僕の技だけど、この瞬間だけは僕は思った通りに風を制御することが出来た。そして、僕の魔法剣とカレンさんの聖剣技が真っ向からぶつかり合い―――
一気に弾けて視界が白に染まった。
次の瞬間、爆発的な風が吹き荒れて、吹き飛ばされる。
「くうっ!!」
「うわっ!!」
僕達は地面を転がって衝撃を和らげつつ体勢を立て直す。
「い、いったぁ……」
と、僕は起き上がって、周囲を確認すると軽く地面の表面が削り取られていた。
……直撃したら確実に即死だな……。
「ふう……。ちょっと危なかったわ……。
まさか、あそこまで威力があるなんて思わなかった」
そう言いながら、サレンさんは剣を持たないもう片方の手で魔法を使用していた。
確か、<光の盾>って光の障壁を作る魔法だ。
「それにしても私がここまで一方的に押されるとは……」
「えっ?」
カレンさんの言葉を聞いてから周囲をよく観察する。僕達が抉り飛ばした地面はよく見ると、僕の方は後方10mくらいまでだったけど、カレンさんの方はカレンさんの周囲は無傷だったけど、そこからカレンさんのバリアが届かなかった場所は更に大きく抉れていた。
「あ、あれ? カレンさんの方が被害が大きいような気がしますけど……」
「いや、私も驚いたわよ。
<聖剣技>の威力を超えてて咄嗟に魔法でバリアを張らないと危なかったわ。
加減したとはいえ、凄いわレイ君」
「…………」
僕はカレンさんの言葉を聞いて言葉を失った。
あれで、本気じゃなかったってこと?
「レイくん、カレンさん無事!?」
「レイさまー!!ご無事ですかー?」
姉さんとレベッカが駆け寄ってきた。
二人とも、離れて見ていたおかげで被害は無かったようだ。
「大丈夫……危うく死ぬところだったけど」
「どっちかというと私の方が危ない感じだったけど、平気よ」
二人は安堵した表情を浮かべる。
「それにしてもレイ君やるわね。
前の依頼で魔物と戦ってた時は全然本気じゃなかった感じ?」
「想像より全然威力が出て驚きました……」
前回が本気で戦ってなかったというより、乱戦で扱いきれない技を使用するのを避けていた。もし扱いきれなかったら、今みたいに四方を一気にふっ飛ばして味方に迷惑をかけてしまう。
今回は外で周囲に人が居ないから出来たけど。
「カレンさんこそ、あんな大技使うなら先に言ってください。
僕が自爆覚悟で魔力を解放しないと大変なことになってたと思いますよ」
「あー、ごめんね。威力自体はかなり抑えてたんだけど……。
よくよく考えたら、広範囲殲滅技の<聖爆裂破>は対軍用技だったわ。
技の選択を間違えたみたい」
「はぁ……」
僕は思わずため息をつく。僕も威力相殺しようとして、強引に暴発させて防いだから人の事は言えないけどね……。
「お二人ともお見事です。
レイ様も強化無しであそこまでの一撃を編み出すとは……感服致しました」
レベッカの純粋な称賛だ。
「うん、レイくん凄かったよ。まるで勇者みたいだね!!」
姉さんは興奮しっぱなしだ。そんなに褒められて悪い気分じゃないけど……。
でも、実際今の技は凄いな……。
あの威力が当時出せたなら女神ミリク様ともいい勝負が出来たかもしれない。
「それにしても、どうしようかしら……。
続けるにしろ、これだけ強いと普通に近くの街を巻き込んじゃうかも……」
「いや、僕もあんなの何度も使えませんし……」
さっきの<魔法剣>が制御できたのは偶然だ。
それに、普通の上級魔法の二倍以上のMPを消費してしまってる。
<魔力解放>しないと短時間は持続するけど、
今の僕の魔力だと残り1,2回使えば魔力切れを起こしてしまうだろう。
その分威力はあるけど、とても連戦は出来ない。
「そう? お互いに切り札を封印すればいいかしら?
いや、でも全力全開でやらないと本当の意味で勝負にならないし……」
カレンさんがまた悩み始めた。
あんな技を使ったのに、カレンさんはピンピンしている。
この辺り、実力差を如実に感じてしまう。
「流石にこれ以上は無理……。
今回は僕の完敗ってことで、また今度お願いします」
<極大魔法>を使用した時のエミリアの気持ちが少し分かった。強力な魔法を使用すると、体の負担が半端ない。一気にマナが失われたせいで反動が来ている。
このまま戦うと慣れないうちはすぐに倒れてしまうだろう。
「そう? 残念……」
カレンさんが本当に残念そうな顔で呟く。
「レイくん、本当に大丈夫? 辛そうだよ?」
姉さんが心配してくれた。やっぱり姉さんにはバレるか……。
「なんとか……」
とは言うものの正直しんどい。
こんなに消耗するなんて思ってなかった。
「レイ様、わたくしの魔法をお使いしますね。
――地の女神ミリクの加護を、汝と私に――
レベッカの魔法が僕とレベッカに付与される。この魔法は二人を対象にしてMPを共有する。レベッカは消耗が少なかったので、僕には十分なMPが供給されていく。おかげで少し体が軽くなった。
「ありがとう、レベッカ」
「いえ、お元気になられて良かった」
僕とレベッカはお互いに笑う。
しかし、カレンさんはその様子を目を点にして見ていた。
「……え? 今、シェアリングって言った?」
「はい、言いましたけど……」
カレンさんは僕とレベッカを見比べながら困惑した表情を浮かべる。
「れ、レベッカちゃん、その魔法何処で覚えたの?
かなり高難易度……っていうか、まず使い手が居ない秘呪文の筈なんだけど?」
……何故かカレンさんは凄く驚いている。
「レベッカ、確か女神ミリク様から教えてもらったんだっけ?」
「はい、ほぼ同じような形です」
ダンジョン攻略中の話だったかな。レッサーデーモンの襲撃の最中でミリク様その魔法を唱えたお陰で撃退したんだっけ。その後に、レベッカが覚えたはずだ。
「え……女神、ミリク、ですって?」
カレンさんが更に混乱しているようだ。
レベッカも首を傾げている。何か変なこと言ったのだろうか?という顔だ。
冷静に考えると、
女神様から教えてもらったと言って信じる人間はどれだけいるだろうか。
普通に考えると信じてもらえるわけないよね。
「ちょっと、レイ君……こっち来て」
と、僕はカレンさんに腕を掴まれてそのまま引っ張られていく。
「え!? 何ですか?」
「いいから!」
カレンさんの勢いに押され、されるがままに連れていかれる。
「カレン様!?」
「二人とも、何処行くのー?」
そして、人気のない場所まで来ると、
カレンさんは僕の両肩を掴み真剣な目で僕を見た。
「あ、あのね、訊きたいんだけど……。
もしかして、
「……はい? なんでそう思ったんですか?」
「だって、さっきの魔法とか……。
あれ、神の秘術とか言われる<禁呪>の一種じゃない。
普通の人間が使えるわけないわ」
んん?そんな凄い魔法だったっけ?
確かに、魔力を供給出来て便利だなーとは思ってたけど……。
「他者とマナを供給し合えるなんて、かなり常識はずれな魔法よ。
<精霊魔法>っていう魔法技術を習得することで、ようやく周りからマナを取り込むことが出来るけど、それもかなり高難易度の魔法よ。それこそ勇者なら出来るでしょうけど」
カレンさんの強さの方がかなり常識はずれな気がするんですけど……。
「というか、レベッカは<精霊魔法>も使えますよ」
「……えっ?」
そんなに驚くことなのだろうか。
レベッカの話では、カレンさんも<精霊魔法>の使い手の筈だし……。
「ちょっと色々驚いてるわ。えっと、結局
「いや、勇者では無いです……。
彼女が身に纏う装束、あれに地の女神と同質の力が宿っていて、
それで特殊な魔法が使用可能になったらしいですよ」
レベッカの纏う白くて美しい装束は、女神の名前を冠するアーティファクトだ。僕が転生時から身に付けているペンダントと同様の物で、神の力の一端を扱えるようになるらしい。
「そ、そうなのね……。
という事は、さっき女神様から教わったって言うのは、比喩か何かなのね」
「あ、いえ、実際に僕達は女神様と会ってきてます」
「……はい?」
またカレンさんの目が点になっている。
今日はよくこの顔をする日だ。
しかし、カレンさんはすぐに表情を変えて、真面目な表情をした。
と思ったら今度は少し表情を緩めた。
意外と表情豊かな人なんだな……。
「ふふふ……やっぱりね」
「え、やっぱりって……」
ガシッ!
僕はカレンさんに思いっきり肩を掴まれて引き寄せられる。
そして、綺麗なカレンの銀眼を覗きこむような形となる。
ていうか、近い!!
「レイ君……。
もうちょっとカレンお姉さんとゆっくり話しましょう……」
「は、はい……」
この後、僕はカレンさんに色々なことを、
根掘り葉掘り聞かれる羽目になるのであった。
その後―――
「………とまぁ、そんな感じで僕達は女神ミリクさんと色々お話しました」
「……待って、色々と」
カレンさんが頭を抱えている。大丈夫かな?
「レイ君、カレンさんどうしたのー?」
僕達を遠くから見守ってた姉さんとレベッカも心配になったのかこっちに来た。
「姉さん、えっとね……。
カレンさんが女神様の事で色々と訊きたいことがあるみたいで」
何でカレンさんがここまで動揺してるのかよく分からなかったけど、
多分そういう事なんだと思う。
「そうなの?私に何か用事があるの?」
ちょ……!?
「え、姉さん!ミリク様の話だよ!」
「……えっ!? あ、そっちの話?ごめん、私ったら……」
危うく姉さん大ポカで自分の正体バラすところだった。
いや、僕の言い方も少し悪かったけども。
「……? まぁ、レイ君から大体の話を聞いたから分かったわ。
……何だか既視感の感じる話ではあったけどね」
「というと?」
「同じような話が最近あったのよ。まぁ、それは置いといて……」
そこで、カレンさんは一呼吸置いて言った。
「レイ君!!!!」
「は、はい!」
「一瞬、レベッカちゃんが勇者と誤解しちゃったわ」
「あ、はい、そうですね。
レベッカは巫女であって勇者では―――」
「――勇者は、貴方よ、レイ君」
僕の言葉が、カレンさんの言葉で遮られる。
……今なんて?
「え、勇者?」
「はて?」
姉さんとレベッカは何が何だか分からないという反応だ。
それはそうだろう。僕達はその件はちゃんと断っている筈なんだから。
「あの、その件はさっき言ったように……」
「それはアナタたちの思い込みよ。
勇者を選定した女神にとっては本人が拒否したかどうかなんて関係ない。
一度決めた選定は勇者自身が背いたりしない限りは絶対よ」
「う、うそ……」
あの時は色々有耶無耶になった感じはあったけど、既に勇者認定されてた?
「それに、レイ君は<異世界人>なんでしょう?」
……………………。
「……へ? い、異世界人!?
いや、確かに僕は<異世界>から来た人間ですけど、
どうしてそれを…………」
「その辺も含めて、色々話したいけど……。
ここじゃあ落ち着かないし、街に戻りましょう。
明日、私の屋敷で続きを話すことにするわ」
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