第198話 女子会(男含む)
誘われたので、僕は三階のバルコニーまで歩いてきた。
年上のカレンさんと二人きりでお茶会だ。ちょっと緊張する。
そう思ってたのだけど……。
「こっちよ、レイ君」
「レイー、一緒に飲みましょう。このお菓子美味しいですよ」
いつの間にかエミリアもバルコニーに来ていた。
テーブルの上には沢山のお皿が並べられていて甘い匂いが漂ってくる。
それ以外にも紅茶も用意されていた。
「エミリア、何時の間にいたの?」
「さっき通りかかった時にカレンに誘われました」
ちなみにエミリアは既にテーブルの椅子に座っている。
「レイ君も席空いてるからどうぞ」
そう言いながら、カレンさんは僕が座る椅子を引いてくれた。
「じゃあ、お言葉に甘えて……」
僕は席について、用意されたクッキーを口にする。
すると、サクサクとした感触なのに、中から濃厚な甘みを感じた。
「おいしい……」
ミルクだろうか、見た目よりもずっと甘くて思わず笑みが出る。
「ふふふ、美味しい? ほら、どんどん食べて」
「は、はい!」
勧められるがままに、僕は出されたお菓子を食べていく。
そんな僕の様子を横目に、エミリアは言った。
「ところで、さっき大声が聞こえましたけど、何かあったんです?」
エミリアの質問だ。
大声とは、さっきのカレンさんの魔物を殴り飛ばした時だろう。
「ちょっと魔物が飛んできただけよ」
「魔物?」
「ええ、街の壁を超えて飛んで来たみたいね」
「こんな街中まで飛んでくるとは、こっちの大陸は物騒ですねぇ」
街中は<退魔石>が埋め込まれて並の魔物が入ってこれない。それなのに入ってくるという事は、かなり凶暴な魔物なのだろう。
「本当、嫌になるわ。
これじゃあ剣を握ってないと落ち着けないわよ」
さっき拳で倒したから剣必要なくない?
「で、その現場にレイも居たんですか?」
「うん、剣の練習をちょっとやっててたまたまね」
「なるほど……」
エミリアは何やら納得した様子だった。
そしてお菓子をポリポリ食べながら、僕に言った。
「それで剣の調子はどうですか?
前に上級魔法を教えた時に、魔法剣に生かしたいとか言ってましたけど……」
「あんまり上手くいかなくて……」
<魔法剣>は魔法を剣に付与する関係上、扱いが難しい。
威力を調整しないと剣が耐えられなかったり、自分まで被害を被る可能性もある。今までは中級魔法までしか使えなかったから、そこまで心配してなかったけど、いざ上級魔法で試してみると色々弊害があった。
まず、威力の調整が難しい。
魔法の効果を持続させるには魔力を流し続ける必要があるんだけど、初級だと効果が一瞬で消えてしまう。中級魔法だと持続時間が長くて扱いやすいんだけど、上級魔法は魔力調整の消費量が大きくて威力が出過ぎてしまう。色々試してるんだけど前回の探索で使用するのは難しそうだった。
一応、形にはなっているんだけど、
全力で使おうとすると自分も巻き込んで自爆してしまいそうだ。
「ふーん、大変なのねぇ」
カレンさんは僕の話を聞き流しながら紅茶を飲む。
「私は魔法専門なので剣のことは分かりませんけど、
カレンの方からレイに何かアドバイス出来ませんかね?
カレンの使う<聖剣技>も似たようなものでは?」
エミリアの言葉にカレンさんは首を横に振る。
「<聖剣技>は魔法じゃなくて保有するマナを物理的破壊力に転化する技なの。レイ君の使う<魔法剣>ってのは、<魔法>を剣に付与する魔法でしょ?どっちかというと<強化魔法>や<付与>に近いわ。私の専門外の魔法よ」
カレンさんはそう言いながら紅茶を飲み干す。そして言った。
「その手の魔法は、リゼットの得意分野ね。
あの子は<強化魔法>や弓矢に<付与>させる魔法を得意としてたわ」
「リゼットちゃんですか?」
「うん、あの子はその辺りの扱いが私より全然上手いのよねぇ」
リゼットちゃんか……。
あの子<強化魔法>とか使ってたし、戦い方も上手かった。
でも、あの子は結局何者なんだろう。
カレンさんとパーティ組むくらいだし、特別扱いらしいけど。
「あの、カレンさん。リゼットちゃんの事ですけど」
「……却下で」
紅茶を入れ直していたカレンさんに即答された。
まだ何も言ってないのに……。
「えっと、それなら、
リゼットちゃんについて少し教えてもらえますか?」
カレンさんは僕達の紅茶を入れ直してから椅子に座り、
少し目を閉じながら回想するように語る。
「私の幼馴染で、冒険者としての後輩よ。
見てのとおり可愛い子だから色々心配なのよね。
悪い男に騙されたりしないかしら……」
カレンさんはため息を吐きながら言った。
「随分、リゼットさんの事を気に掛けてますね……。
まぁカレンらしいというか、かなり過保護気味だとは思いますけど」
「あはは、確かに」
エミリアの言葉につい笑ってしまった。
「わ、笑わないでよ、怒るわよ!」
カレンさんは照れ隠しなのか、少し拗ねたような声で言った。
「いえ、馬鹿にしてる訳じゃなくて……。
ただカレンさんは面倒見が良いから、想像できちゃって」
「そ、そんな事ないと思うけど……何だか恥ずかしいわ」
面倒見が良いと言われて照れてる。かわいい。
「カレンとリゼットさんの関係は分かりましたが、
何でリゼットさんはそこまで王宮に特別視されてるんです?
強さとか実績を考えるならカレンの方が重要に思えるんですけど」
エミリアの質問にカレンさんは困ったような表情をする。
「ごめんなさい。今はまだ言えないの。
近いうちに彼女の正体を明かすことになるかもしれない。
あなた達がこの先も魔王討伐に関わるのであれば、だけど」
どういう意味だろう?
何処となく、カレンさんの言葉に含みがあるように聞こえる。
「え、まさかリゼットさんが魔王とか」
「そんなわけないでしょ!」
エミリアの冗談にカレンさんは全力否定する。
「あの子が魔王なんてありえないわ。
だってあんな純粋な子を魔王にするくらいなら、私がなるわ!!」
「それはそれでどうかと思いますけどね……」
エミリアが呆れたように呟く。
仮にカレンさんが魔王になったら誰も勝てなくて世界が詰みそう。
「とにかく、あの子の話題は今はここまで!!
あと教えてあげられるのはあの子の幼少期の話とか友人関係とかそのくらいよ」
「それはそれで気になりますが、
流石に本人の居ないところでプライベートを訊くのは良くないですね」
「うん、もし機会があれば本人に聞くよ」
あの子なら普通に答えてくれそうな話だし。
「ところでレイ、リゼットさんの事が気になるんですか?」
「え?」
そんな風に聞こえたのだろうか。
「さっきからリゼットさんのことばかり聞いてますから」
「いや、まあ、うん。ちょっとだけね」
言われてみると、ちょっと僕が気にし過ぎてる気がする。
僕がリゼットちゃんが気になった理由。
以前に『リゼットは特別な立ち位置』とカレンさんが言ってたことだ。
おそらく、僕達に話せない特別な理由があるに違いない。
今、これ以上は追及しないでおくけど、何となく僕は予想を立てていた。
「……ふーん」
カレンさんは意味深な目でこちらを見てくる。
これは言っておかないと誤解されるかもしれない。
「あの、カレンさん。誤解の無いように言っておきますが、僕はリゼットちゃんにそういった感情は無いですよ」
「へー……」
今度はエミリアにジト目で睨まれた。
いや、本当に違うから。
「ちなみにリゼットは今十四歳よ」
何故今その話題を出した。
「十四歳ですか? 僕と同じくらいだと思ってました」
身長とかは僕より低かったけど、随分大人っぽい印象を受けた。
「少し前はもうちょっと子供っぽかったけどね。
早熟な子なんだろうけど、冒険者になって精神的に成長したのかも」
女の子は男の子に比べると精神的な成長が早いと聞いたことがある。
実年齢の割には、僕より年上に感じたくらいだ。
ちなみに今の僕は十六歳だ。誰が何と言おうと十六歳だ。
エミリアに年下扱いされたり、レベッカに惑わされたりするのは触れない。
「カレンさんは十八歳、でしたっけ?
僕のお世話をしてくれたメイドさんに聞きました」
何故かこっちをチラチラ見ながらしながらカレンさんの話題を出すから印象に残ってた。
あの人は僕に何を期待してたんだろう。
「合ってるわよ。貴方が男の子だからアピールしたのかしら」
「ふむ、アピールですか?」
「うちのメイドったらそういう話が好きなのよ。
『カレンお嬢様は今のままだと一生嫁の貰い手が見つかりませんよー』とか時々言われたりするんだけど、私そんなこと気にしてないんだけどね。失礼しちゃうわ」
僕の目から見たらカレンさんはとても綺麗な人だ。
青い髪に綺麗な銀眼のカレンさんは黙っていればクールビューティーという感じに見えるが、実際は面倒見の良い優しい女性である。なので、性格も容姿も文句なしなのだが……。
「ああ、なるほど……」
エミリアは納得して頷いた。
「そこで納得されると私も傷つくんだけど……」
「あ、ごめんなさい。まぁでもカレンは普通に美人ですし、いずれ素敵な人が見つかりますよ。
そう、カレンより強い男性が現れたらの話ですけど!」
エミリアは意地悪な笑みを浮かべる。
あぁ、強すぎて男が寄ってこないとかそういう……。
「そ、それを言われると何も言い返せないわね……」
カレンさんは悔しげに歯噛みする。
「例えば、このレイとかどうです?
今はまだまだですけど多分この先結構強くなりますよ」
ニヤニヤしながらエミリアはそんな事を言った。
「そこで僕を出さないでよ」
自分が唯一の男だからネタにされるのは慣れてるけど。
「うーん、そうねぇ……悪くはないんじゃない?」
カレンさんは困った笑みを浮かべた。
僕から見たカレンさんの印象だけど、カレンさんは頼りになるお姉さんだ。ベルフラウ姉さんとはまた別の良いお姉さん気質の人だと思う。反対にカレンさんから見たら、僕は放っておけない弟分……という感じだろうか。
「でもぉ、エミリアのお気に入りを私が取るわけにはいかないでしょ?」
カレンさんはエミリアに向けて、さっきの意趣返しのように意地悪な笑みを浮かべた。
「んなっ!? な、何を言ってるんですか……!」
「あらあら、やっぱりねぇ……。
エミリアったら彼をよく弄ってる割に実は気に入ってるものねー」
カレンさんは悪戯っぽい表情でエミリアを揶揄う。
エミリアは顔を真っ赤にして反論する。
「べ、別に私はレイの事なんか……」
「だ、そうだけど、レイ君はエミリアの事どう思う?」
え、エミリアの事か……。
「いや、その……ええっと……」
言うまでもなく僕はエミリアの事が好きだけど、
流石にこの場で言いづらい。
「レイ、言わなくていいですから!! ねっ!!」
「わ、分かったよ……」
エミリアに止められたので素直に引き下がる。
何となく僕が言おうとしたことに気付いたのだろう。さっきより真っ赤だ。
ちなみに僕もだけど。
「ふふふ、二人とも真っ赤ね。
だから私はレイ君をどうこうしようと思わないから安心しなさいな」
「うぐ……カレン、いつか仕返ししてやります……」
「はいはい……それじゃあ、今日はお開きにしましょうか。
明日、屋敷を出るんでしょ?早く寝ないとね」
「はい」
「それでは」
こうして僕らの女子会は終わったのだった。
何故か女子トークに混ぜられた僕の心境を誰か考えてほしい。
◆
「(……そういえば、
カレンさん何か訊きたかったように思えたんだけど)」
途中で話が変な方向に飛んじゃったから言えなかったのかな。
まぁ、また会う機会もあるだろうし、いいかな。
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