第197話 お嬢様の華麗なる夜
カレンさんの屋敷に泊めてもらうのは今日が最後。
次の日からリカルドさんを通して、宿を取ってもらうつもりだ。
僕達が屋敷から出て行くという事で、普段より食事を豪華にしてくれた。
そして、夜―――
その夜、屋敷の外で僕は剣の鍛錬を行っていた。
「ふっ!」
振り下ろされた一撃は地面を割る。
更に、そのまま剣を振り上げ、再び斬り下ろす。
「やぁっ!!」
三撃目で地面に剣を突き刺す。
突き立てた剣を引き抜いて構え直し、剣技を放つ。
「―――秘技、疾風斬!!」
やや大振りに横に剣を構え、薙ぎ払い、更にもう一撃叩きこむ。
最初の一撃の構えに少し隙があるが、隙を極力減らした二段構えの技でリカルドさんに教わった。本来、これは一撃必殺のような技ではなく、相手の攻撃に合わせるカウンター技だとか。僕の場合若干大げさな構えから入ってるけど、リカルドさんはごく自然にこの技に繋げて放ってくる。
「……うーん、イマイチ」
現状の自分の技の感想だ。
技術の足りない僕は完全な再現はとても無理なため、
追撃の速度を補うために体に微弱な雷魔法を流して強引に動かしている。
通常の動作から素早く技に繋げることで、相手の攻撃を弾きカウンターを喰らわせるのだが、僕の場合は最初の構えの時点で大技を使うのがバレバレだ。雷魔法を使うことで、攻撃速度と威力が上がっているけど、ただの二段攻撃になってしまう。
「いや、いっそ強力な攻撃技として昇華させるとか……」
リカルドさんも魔法を組み合わせてみろって言ってたし……。
ちなみに、他に多段攻撃技の<三連斬>というのもある。
こちらは本当の意味での必殺技で、一瞬にして防御不能の三段攻撃を繰り出す技だ。何度か見せてもらったけど、とても再現できそうにない。
「えーっと、じゃあこうやって……」
僕は体に微弱な
「―――剣よ、風を纏え」
剣に使用するのは
攻撃に向く魔法ではないけど、周囲を吹き飛ばすには十分な威力がある。
「―――ふぅ、よし……!」
<中級風魔法>によって周囲に風の刃を生み出し、それに乗せて斬撃を飛ばしてみる。更にそれを<疾風斬>と組み合わせることで、高速の二段遠距離攻撃になる。
「でも、これだと<無限真空斬>と変わんないよね……」
元々、風魔法と併用して斬撃を飛ばすのは僕の得意技だ。だけど一撃の威力が足りないため、強敵相手だともっぱら足止めにばかり使っている。
「もっと、威力を増幅させて、やっぱり上級魔法が良いよね……」
そんな風に考えながら練習を続けていると……。
『ピキャァア!!』
突如、森の方から鳥型の魔物が現れた。それも一匹じゃない、二匹もいる!!
「魔物?こんなところに?」
僕は慌てて飛び退き、魔物の襲撃に備える。
接近してくる魔物を見定めるために、僕は集中して確認する。
「―――あれは、グリフォンか」
大型の鳥の魔獣だ。睨み付けて威圧するような鋭い眼と牙を持つ。
種類によっては魔法すら使用してくる。魔物が凶暴化してるのは知ってたけど、こんな街中にまで入ってくるなんて珍しい。
「被害が出る前に早いところ倒しちゃおうか」
そう決めるや否や、僕は飛び出して手に持つ剣で斬りかかる。しかし、魔物はこっちの敵意に勘付いたのか飛んでいた進路を変更し、更に上空に飛んだ。
「ああやって、空を飛ばれるとなぁ……」
剣を使う時に苦手なのは、極端に固い敵と空を滑空する魔物だ。前者は刃こぼれが気になってしまうし、後者だとそもそも当たらない位置に逃げられる。だから集中して飛び込んできた瞬間に叩き落とすんだけど……。
「――ん?」
そこで僕は、違和感に気付いた。
(あいつら……こっちに向かって来ない?)
どうも様子がおかしい。魔物は屋敷を狙ってるように思える。
そして、カレンさんの屋敷の三階バルコニーに人影が見えた。
人影の正体は、夜景を見ながら寛いでいたカレンさんのようだった。
見た感じ非武装で戦える状態じゃない。
「まさか、カレンさんを狙ってるんじゃ!?」
まずい!もし魔物がカレンさんを襲ったりしたら……。
「間に合え!!」
僕は屋敷の外の壁や木を伝って高所に登り、
そこから風魔法を併用して上空に飛ぶ。
「うわっ!」
想像以上に高く飛べたため、バランスを崩す。
だけど、何とか体勢を立て直すことに成功し、そのまま急降下して魔物に迫る。
「キィイイッ!!」
「邪魔ぁああっ!!!」
急降下からの斬撃で、グリフォンの首を落とす。
これで残りはあと一体だ。
しかし、もう一体を取り逃してしまい、
その魔物はカレンさんの元へ飛んでいき――――。
「紅茶の邪魔するんじゃないわよぉぉぉぉぉ!!!!」
「ちょっ!?」
カレンさんがそのままグリフォンを殴り飛ばし、
そのまま落下してグリフォンが地上に落ちてきた。
念の為に確認すると頭の骨が粉砕されていた。
「うそー……」
あの魔物、カレンさんを襲おうとしたんだろう。
なのに、まさか拳で返り討ちにするなんて……。
「もう、せっかくのティータイムが台無しね……」
カレンさんがため息交じりに呟き、そこで下に居た僕と目が合った。
「あら、レイ君。どうしたの?」
「あ、はい……どうも、カレンさん」
「もしかして私の事心配してくれたの?ありがとう」
「いえ……」
「でも、大丈夫よ。私、こう見えても結構強いのよ」
それは、さっき見ました……。
結構どころか人類最強とか言われそうなくらいでしたよ。
「剣を持ってるって事は、魔物と戦ってたの?それとも剣の修行?」
「両方ですね。剣の修行してたら魔物が襲来したので、一体倒しました」
僕は視線を動かして、僕が首を斬り落としたグリフォンを見る。
「なるほど、流石ね……。ところで剣の修行は終わったの?」
「はい、大体は」
技は未完成だけど、どのみち今日中には終わらないだろう。
魔物も現れて物騒だし、今日はこの辺りで切り上げた方がいい。
「じゃあこっちに来れる? 少しお話しましょ?」
「えっ?」
唐突なお誘いにちょっと僕はびっくりした。
「何よ? 私がレイ君を誘うのは変かしら?」
「そんなことは無いですけど」
変って事は無いけど、僕で良いんだろうか。
「ならオッケーかしら。
お菓子とお茶を用意して待ってるわね。部屋は分かる?」
「大丈夫、今からそっちに行きますね」
「うん、待ってるわ」
カレンさんは笑顔で待ってると言うと、顔を引っ込ませた。
多分、テーブルに戻ったんだろう。
「――ちょっと緊張するかも」
僕はカレンさんに聞こえないように小さな声で言った。
折角のお誘いなので、お邪魔することにしました。
それにしても、カレンさんは何か僕に訊きたい事でもあるんだろうか。
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