第195話 インフレを感じ始めたこの頃
――地下通路・最深部
僕らは遂に、地下の最奥と思われる場所に辿り着いた。
「ここが、一番奥なのかな?」
「多分ね……また、魔物を製造している魔道具が設置されてそうね」
おそらくここは、何かの実験室か生産工場のような施設だろう。
扉を開くと、そこには大きな機械が設置されていた。
「これは……凄いわね」
「うん……」
僕も思わず息を呑む。
「どうやら、ここで間違いなさそうね」
「はい……」
置かれていたのは、
前に見掛けた魔物を製造する装置、それを更に巨大にしたものだ。
おそらく、中に保管されている魔物の数も相応だろう。
しかも無人では無かった。
大きな装置の傍で、何者かが魔道具を調整しているように見えた。
多分人間じゃない。
ローブみたいなものを着てるけど、背中が不自然に盛り上がってる。
「―――!!貴様ら、何者だ!!」
こちらの存在に気付いたのか、男が声を上げて振り返った。
「声から察するに、貴方は人間じゃない……。
例の<デウス>とかいう男の配下の悪魔かしら、貴方はここの管理を任されているの?」
姉さんは男の質問に答えず質問を返した。
「質問を質問で返すなぁ!!
さっきの爆発音はお前たちの仕業か!!」
男はいきり立って、顔のフードを脱ぎ捨てた。
そいつは予想通り、悪魔のような姿をした魔物だった。
「ここを見られたからには生きて返すわけにはいかん、貴様らには死んでもらう!!」
魔物は腰から短剣を抜き放つと、勢いよく飛びかかってきた!
「姉さん、下がって!」
僕は姉さんを下がらせると、手に持っていた剣で悪魔の男の短剣を弾く。
そこに、カレンさんが横から割り込み―――
「死になさい――」
カレンさんは長剣で悪魔の胴体を切り裂き、二つに分断した。
「ぐあぁっ!?」
一瞬だった。
「……何というか、弱過ぎね」
カレンさんが強いのは事実だが、あまりにも弱過ぎだ。
「こいつ、<ウィークデーモン>ですね。確か悪魔系の最下級の魔物です。もしかして、戦闘要員じゃなかったのかも」
僕がそういうと、カレンさんは剣を仕舞って言った。
「魔道具を管理してる奴にしては弱過ぎるわね。
侵入者が入ることを予想していなかったのかしら」
しかし、これで確信出来た。
「この魔道具、やっぱり魔王に関わりがありそう。
<魔王軍>か何か結成でもして、悪だくみしてるんでしょうか」
「安直な名前ね。<魔王軍>……まぁ、多分そうなんでしょう」
「魔物を作り出す装置なんて……。
こんなものを作って<魔王軍>は何を考えてるの……」
適当に<魔王軍>って付けたんだけど、
味を占めたのか二人とも使い始めてしまった。
まぁ、いいけど。
「名前は良いとして、魔物が起きないうちに魔道具を壊そうよ」
「そうね……カレンさん、やれそう?」
姉さんはカレンさんに尋ねる。
これだけの大破壊となると、カレンさんに頼った方が早いだろう。
「そーね、ちょっと疲れるけどやってみるわ。二人とも下がってて」
カレンさんの言葉で僕たち二人は端の方まで退避する。
「―――聖剣よ、力を解放しなさい。
<聖剣解放・40%>……まぁ、こんなところかしらね」
カレンさんがそう呟いた途端、彼女の身体が淡い光に包まれる。
そして、その光が収まると同時に、先ほどよりも更に強い魔力が溢れだしてきた。
カレンさんは剣を構えて、そのまま前方に振りかぶりながら叫ぶ。
「ふぅ……
カレンさんの周囲から光の粒が降り注ぎ、巨大な魔道具に放たれる。すると、まるで絨毯爆撃でも行ったかのような無差別な爆発が起こり始めた。
「うわぁ……」
「なにこれ」
本当に、なにこれだよ。
この世界に来て散々チート紛いの魔法見てきたけど、こんな爆発テロみたいな光景見たの初めてだ。エミリアの<極大魔法>並みの一方的な攻撃に、目覚めて飛び出そうとした化け物も次の瞬間には爆発で吹っ飛んでいた。
……とりあえず、カレンさんに任せておこう。
そう思い、後ろを振り向くと、
扉の方にこちらの様子を伺う黒い影が―――
「あ」「あん?」
僕はその影を見た瞬間、
<龍殺しの剣>を鞘から抜き放ち、影に向かって放った。
投擲した剣は見事、影に直撃し倒れた。
「ひぇっ!?れ、レイくんどうしたの?」
突然の僕の凶行に、姉さんは後ろにひっくり返って尻餅を付いた。
「あ、うん、何か魔物が居たみたいで……」
念のため確認すると、さっきの悪魔とは別種の魔物だった。
姉さんに手を貸して起き上がらせていると、カレンさんの声が届いた。
「終わったわよ~」
「早かったね」
「あの程度ならこんなものよ。流石に疲れたけどね。
……ってあら?何そいつ、何時の間に」
カレンさんは剣がブッ刺さって倒れてる魔物を見て言った。
「後ろから襲い掛かろうとしてたからつい」
実際は目が合った瞬間に投擲したから分かんないけど。
「<アークデーモン>じゃない。レイ君がやったの?」
「一応は」
僕の言葉を聞いて、カレンさんは何故か嬉しそうだった。
「一撃ね。やるじゃない。
さて、この魔道具の装置は完膚なきまでに叩き壊したし、
中の魔物も多分生きてないと思うわ」
「そうですか、それじゃあ……」
帰りましょう、と言いたかったんだけど。
例の如く、他の悪魔も駆けつけてきたようだ。
「な、何だ!何があった!!」
「た、隊長!!貴様らがやったのか!!!」
駆けつけてきたデーモンたちが口々に叫んでいる。
隊長ってのは、さっき倒したデーモンだろうか。
「<レッサーデーモン>四体ってところね。これで打ち止め?」
「重要そうな設備の割には随分手数が少ないですね。
通路の他の魔物は雑魚しかいないし」
この程度の相手で、施設を守れると思ったんだろうか。
「お二人さん?この状況結構ピンチだったりしない?」
姉さんはちょっと怖がってるけど、まぁ何とかなる相手だ。
安心させるように、僕は手を握って言った。
「大丈夫、姉さん。僕が居る限り、姉さんは絶対に守るよ」
「れ、レイくん……(きゅん)」
今、姉さんが変な反応をした気が。
顔を赤らめてるし、そういう反応されると照れる。
「……なんか、私だけ仲間外れにされてる気分ね。
ちょっとムカつくわ、私には何か言うことないの?」
「だって、カレンさん守る必要性感じないもん」
「あっ酷い、サボタージュしちゃおうかしら」
そんなことを冗談交じりで言ってると魔物が飛びかかってきた。
「疲れてるから私は二体だけ受け持つわ、後はよろしく!」
僕より先にカレンさんが魔物達に飛び込む。
続いて僕も飛び込み二体のレッサーデーモンを引き付ける。
「
僕はけん制に左手から攻撃魔法を放つ。二体のレッサーデーモンは機敏な動きでそれを回避するが、回避されるのは織り込み済み。そのまま、走りながら剣を振るう。
横薙ぎに振るわれた剣をデーモンはギリギリで躱そうとするが。
「
僕の背後から放たれたベルフラウ姉さんの束縛の魔法で体を拘束され、僕の剣を躱せずにその首が斬り落とされた。
「ちっ!
もう一体のレッサーデーモンがその隙を突いてこちらに氷魔法を放つが、剣に炎魔法を付与して振りかぶる。そのまま斬撃と共に魔法を解き放つと 僕に放たれていた氷の魔法は一瞬にして蒸発する。
「なっ!?」
攻撃が無効化されているデーモンが動揺しているうちに、
更に一歩踏み込み剣を突き出すと、その胸に風穴が開いた。
「よし、終わりっと」
カレンさんの方を見ると既に戦闘が終わっていたようで、
こっちを見て姉さんと一緒に笑顔で拍手していた。
「おおー、凄い凄い」
「レイくんかっこいー」
拍手してる暇があるなら手伝ってほしかった。
「サボってないで手伝ってよ……」
「えー?でも、私レイくんをサポートしてたよ」
「私も同じ数の魔物倒してたし、仕事はちゃんとしてたわ」
ちくしょう、言い返せない。
「増援はもう無さそう?」
「今ので終わりって事は……」
ありそうな気がする。ここ以外にも<黒の剣>を製造してる場所もあるみたいだし、あくまで施設の一つ程度の扱いなんだろう。そうでないと、ここまで警備がガバガバでは無いだろう。
「後は他に出口が無いかだけ探して帰ろう」
「うん」「了解」
結局その後は特に問題も無く、この地下施設の出入り口と思われる場所を見つけた。
その場所は、特に扉などではなく強引に破壊して侵入したといった様相だ。
「外は海の近くなんだね」
「ここから地下の魔物達は侵入したと考えるべきでしょうか」
「多分そうでしょうね。この辺りの海は魔物が多いし」
確かに、見渡す限りの海岸線が広がっている。
後ろは完全に崖になっており、登ることは不可能だろう。
僕達は更に周囲を探るが、ここからは出れそうにない。
仕方ないので、僕達は時間をかけて元来た道を戻ることにした。
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