第194話 疑惑の人

「うぅ……すいません、レイ」

「気にしないでよ、それより身体は平気?」


 地下での戦闘が終わった後、僕はレベッカをおんぶしていた。しかし、まさか魔法の使いすぎで中毒に陥るとは……。地下で戦う時はちょっと気を付けないと。息切れ程度で済んで良かったけど、最悪意識不明になることもあるみたい。


「問題ありません……」

「まぁ、普段エミリアには世話になってるからこれくらいはね」

 少し前にも魔法の修行付けてもらったし、スパルタだったけど。


「ふふっ、お二人共仲が良いですね」

 レベッカは僕達のやり取りを見て微笑む。


「えぇ、姉弟ですもの。ねー」

「いやぁ、違うけど」

 家族みたいに仲が良いと言われたら否定するつもりは無い。

 ただ、エミリアとはもうちょっと違う関係に……。


「レイ君、何処となく卑猥なこと考えてない?」

「考えてないです!!」

 普通に異性として仲良くなりたいと思っただけです。健全です。


「それで、これからどうしますか?」

 レベッカがリカルドさんに尋ねる。


「地下の施設にあった魔道具は破壊したが……。

 あれほど魔物が住み着いてると、このままでは危険だな」

 地下通路に魔物がいる以上、また魔物が集まってくるかもしれない。


「それに、ルミナリア殿が隠し扉を強引に破壊したおかげで、再び閉じることも出来なくなったわけだ。対策を考えねば」


「仕方ないじゃない。

 また仕掛けを解き直すとなると時間が掛かりそうだったもの」


「わたくしの魔法で入り口を埋め直すことは出来ますが……」


 レベッカの考案だ。

 入り口が瓦礫で埋めておけば魔物も出てこれないだろう。

 レベッカの<礫岩の雨>ストーンレインなら瓦礫を集めるのは容易だろう。


「他に、水の魔法で全てを海に還すという方法も……」

「却下だ」

「はい……」

 エミリアの提案は一瞬で却下された。


「よし、とりあえず地上に戻るぞ」

「でもリカルドさん、地下から魔物が溢れる可能性があります。

 レベッカの案で階段を埋め立てた方が良くありませんか?」


 階段の周囲を瓦礫で埋めて出てこれないようにして、更に隠し通路も瓦礫で埋め立てるのだ。そうすれば、魔物はしばらく出てこれないし、その間にもう一度壁を作り直せば完全に封鎖できるはず。


「それは駄目だ」

「どうしてですか?」


「もし仮に、この場を塞いだとしても、別の場所に出口を作ってそこから出ようとする奴が出てくる可能性もある。あの地下を全て把握したわけでは無いからな。別の出口があっても不思議では無い」


 となると……。


「魔物が発生しないように結界でも張っておく?」

 これはカレンさんの案だ。

 ただ、それは最初に魔物を全滅させることが前提である。


「それが出来れば苦労しないんじゃない?」


「ベルフラウさんは<浄化>や<結界魔法>が得意でしょ?私が魔物を殲滅するから、その後でベルフラウさんが念入りに浄化して、大規模な結界を作れば魔物もほぼ居なくなるはずよ」


 でも、それはカレンさんの労力が半端ないと思う。

 いくら大陸最強の冒険者のカレンさんでもソロであの数の討伐は危ない。


「僕もカレンさんと一緒に行くよ」

「レイ君も?そうね、少しは私も楽できるかもしれないわ」


「はい!私も行きます!」

 エミリアが手を挙げる。


「待て、黒髪の少女はさっき酸欠で倒れ掛かっていただろう」


「いえ、大丈夫です。

 というかリカルドさん、私はエミリアという名前があるのですが……。

 いつまでその呼び方なのですか」


「すまん、癖でな……。

 しかしいくら大丈夫そうでも無理をされては困る。

 それに、全員行くよりもキミには別の仕事をしてもらいたい。今回は少年とルミナリア殿、そしてベルフラウ殿の三人の方が都合が良いだろう」


「リカルドさんはどうするんですか?」


「一度報告に戻りたいと考えたが、万一ここに魔物が押し寄せてくる可能性も考えられる。

 黒髪の少女は<索敵>による地形把握も得意だったな。私と一緒にこの場に残って、廃坑内を見回って魔物の残党を駆逐しておきたい。可憐な少女も念のため私達と一緒に待機しててくれ」


「分かりました……。

 それでは、レイ様、カレン様、ベルフラウ様、ご武運を。

 もし何かありましたらすぐに戻ってきてくださいまし」


 レベッカも僕達の会話を聞いて納得してくれたみたいだ。


「分かった、じゃあ三人でもう一回地下に行ってくるよ」

「私が先頭で進むわ、疲れたらレイ君に先頭を交代してもいいかしら?

 ベルフラウさんは私達の後ろに付いて来て」


 こうして、僕らは再度地下通路へと潜っていった。


 ◆


 ――地下通路内


 地下通路に入ってから一時間以上は経っただろうか。

 相変わらず魔物との遭遇は多いが、順調に進んでいた。


「魔物、どれくらい倒したかな……」


「100から先は覚えてないわね。

 <スライム系>の魔物が多いけど、流石に面倒に感じるわ」


 基本的にカレンさんが居れば無双状態になるが、

 今回は長期戦だ、僕と二人で魔物を倒しながら進んでいく。


 姉さんはある程度進むたびに<浄化>を使う。

 更に簡易的な<結界>を張って魔物の再出現を極力抑えていく。


「それにしても、レイ君結構やるわね。

 リゼットと同じくらいか、接近戦ならもっと強いかもしれないわ」


「あ、ありがとうございます」

 と、僕は素直に受け取るが、今話題に出た女の子の事が気になった。


「リゼットちゃんはどうしたんですか?

 てっきりいつも二人で行動してると思っていたんですが」

 この街でリゼットちゃんのことは一度も目撃していない。


「あー、そういえば言ってなかったっけ。

 あの子は今は<王宮>で直属の依頼を受けているの、特別な立ち位置に居る子だから……」


「そうなんですか?」


「えぇ、まぁ……。

 今は残念ながら今回は別の依頼をそれぞれ受けている状態よ」


 ちなみに、カレンさんの今の依頼は<特務隊>だ。

 ウオッカさんが休養で戦力が落ちているところを穴埋めという形で、エドワードさんに仕事を依頼されたらしい。

 他にも別件があるらしいけど、秘密とのことらしい。



「ねぇカレンさん。<王宮>ってどんなところ?

 やっぱり王様とか女王様が統治してる国だったりするのかしら?」

 姉さんの質問だ。

「う~ん、そういう訳でも無いんだけど……。

 まぁ、簡単に言うと、王都で働いている人が住んでいる場所よ。もちろん、お偉いさんもいっぱいいるけど、どちらかと言うと一般市民の方が多いわ」


「へぇ……ちょっと興味あるかも」

 僕の何気ない言葉を聞いて、カレンさんは面白そうに言った。


「レイ君ももっと有名になれば<王宮>に呼ばれる可能性はあるわよ。

 私も冒険者になった時にしばらく滞在してた経験があるから」



 そんな話をしながら歩いていると、また魔物が現れた。


 <グレードゴブリン>という魔物が三体。

 名前が変わってるけど、<ブラックゴブリン>の上位種らしい。

 色も黒肌から金肌に変わってて無駄にピカピカしている。

 下位種に比べると防御性能が大幅に上がっているとリカルドさんが言ってた。


「数やっぱり多いですねー」

 僕はげんなりしながら剣を構えて、魔法を発動する。


「―――風よ、剣に宿れ」

 僕の詠唱が終わると同時に、刃には風の魔力が纏わりつく。

 そしてそのまま目の前の敵に斬りかかり、ゴブリンの得物ごと両断する。


「はあっ!」

 同時に放たれた真空の刃は、

 威力を増して前方に飛んでいき、後ろのゴブリン二体も一気に両断した。


「ふぅ、こんな感じかな」

 上級魔法を習得したことで、魔法力が以前よりも底上げされていた。

 おかげで魔法剣の威力も上がっていて、以前よりもスムーズに戦える。上位種らしいので一応<グレートゴブリン>は強いらしいけど、こうなるとあんまり変わらない。


「おおー、ゴブリン三体を一太刀で倒したわね」


「カレンさんなんて、スライム十体を一撃で倒してたじゃないですか」


 どういう原理か分からないけど、カレンさんが剣を振るうと魔力が溢れだして剣に付与されるのだ。

 そしてそのまま打つことで、強力な魔力の波動で魔物達が粉砕されていく。本人の言葉を言い換えるなら、常に魔力が全身に帯びていて、勝手に色々な効果が付与されてしまっているらしい。


 もしかして、この人が勇者だったりするのだろうか?

 どうみても並の人間じゃないよ。


「もしかして<勇者>ってカレンさんの事だったりします?」

「ぎくっ」

「え? 何その反応……。もしかして本当にそうなんですか?」

「……違うわよ。私じゃないわ」


 あれ? なんか怪しいぞ?

 勇者の名前は伏せられてるみたいだし、やっぱり……。


「レイくん、それ以上の追及は良くないわよ」

「そうよ、しつこいと女の子に嫌われちゃうわよ」

 姉さんとカレンさんに言われて追及を止める。


「分かったよ、もう」

 二人にそう言われたんじゃ仕方ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る