第193話 ぶっ壊す
地下の様子はそれまでと変わって陰湿な雰囲気だった。
「ここは……下水道かな?」
何処かから水が流れており、その水が地下通路の下の窪みに流れ続けている。
臭いわけでは無いが、あまり綺麗な水では無い。
エミリアは言った。
「排水ですかね……汚水を流しているんでしょう」
「何かの施設を動かしてる可能性があるね」
僕はエミリアの言葉に頷き、自分なりの推論を述べる。
リカルドさんは言った。
「この先に何があるのか……。
ルミナリア殿、貴女には予想が付かないだろうか?」
カレンさんは分からないけど、と前置きをして言った。
「厳重に隠してる辺り、ロクなもんじゃないでしょうけど……。
仮に、あなた達が最初に見た<黒の剣>が生産されてたりだとか、実は魔王の本拠地に繋がってるとか、魔物が家族団欒してるとかそんな感じじゃないかしら」
「最後の可能性だけはあり得ないだろうな」
リカルドさんも呆れた顔をする。
「ま、とにかく行ってみましょう。
最悪、何も情報が分からなくても怪しいなら全破壊すればいいのよ」
カレンさんが先頭になって進んでいく。
「やれやれ……頼もしい」
「あはは、全くです……」
僕とリカルドさんはカレンさんのあまりに男らしい意見に苦笑した。
◆
しばらく進むと、地上には見られないような大きな魔道具らしき装置が置かれていた。
この世界にはない物だけど、僕が思い付く感じ工場のような設備だ。上の方には配管のようなものが天井まで繋がっており、魔道具に何かが供給されているようだった。
そして、その中で何かが作られているようだった。
「あの窓から中が見えそうだね」
魔道具の中身は密閉されているようだったが、
窓が付いており、そこから中が少しだけ見えるようになっていた。
そこには……。
魔道具の内部では、黒い球体のような魔物が生み出されていた。
見た目のグロさに思わず僕は目を背ける。
「こ、これって……」
「アレですよね。昔見た、スライムの核のデカい奴」
エミリアが言う通り、
それは以前に見覚えのある魔物だった。
「あの時の……?
自然発生とかじゃなく人為的に魔物が作られていったって事?」
姉さんと僕達は驚愕する。
その中身とはこの世界に転生して間もない頃に戦ったのに似ている。
僕達が最初に潜ったダンジョンの最深部に出現した魔物だ。
「……わたくしはその時はいませんでしたが、以前にこれと同じような存在は目撃しましたね。確か、ゼロタウンの近くで<黒の剣>が正体を現した時に……」
「うん、レベッカの言う通りだよ」
以前に、狂化した魔法使いの男性から<黒の剣>を引き剥がした後、
剣が姿を変えて、正体を現した時にこの魔物と同じ姿になっていた。
「その、少年達のいう魔物とは何のことだ?」
「そうね、私も詳しく聞きたいわ」
リカルドさんとカレンさんの質問だ。
僕達は、以前に遭遇した魔物の事を二人に説明した。
◆
「……ふむ、人に寄生する魔物か。
その魔物こそが<黒の剣>に擬態して売り捌かれていたと」
「レイ君の言う通り<スライムの核>っぽい形はしてるわ。
よく分からないけど、結局、この魔物と<黒の剣>は同一の存在って解釈でいいのかしら」
二人は真剣な顔つきになり、考え込んでいる様子だ。
しかし、カレンさんは考えても無駄だと思ったのか、剣を鞘から抜いた。
「とりあえず、ぶっ壊しましょうか」
「いや待て、ルミナリア殿。最終的には破壊という結果になるだろうが、まだこの魔道具がどういうものなのか分かっていないだろう」
その言葉に、リカルドさんは慌てて静止する。
しかし、ここまで怪しいと早々に壊した方がいいような気がする。
エミリアも同じ事を考えたのか、リカルドさんの言葉に反論した。
「とは言ったものの……答え出ていませんか?
この施設は<黒の剣>の元の姿の化け物を生産している場所なのはほぼ確定です。レイもそう思うでしょ?」
「うん、ここまであからさまだとね」
僕はエミリアに同意する。
「しかしだな。まだ本当に中で作られているかは確証はないだろう」
リカルドさんの言う通り、確かに中に魔物が入ってるだけでまだ作られてる現場を見たわけじゃない。ただ、仮に作っているわけでは無くても、魔物が眠っている魔道具なんてまともではない。
「姉さんはどう思う?」
「うん……あの上に伸びてる配管は多分、廃坑の中に繋がってる。
配管から外に私が感じた<邪気>が漏れ出して、外の人のマナを奪い取っていたんだと思う。
それだけじゃないわ。廃坑の中に強力な魔物が出現していたのも、ここで魔物を製造していたと考えると納得できてしまうわ」
となると、やっぱりここをどうにかしないといけないだろう。
「……エミリアとレベッカはどう思う?」
「そうでございますね。ベルフラウ様の予想が正しければ、元凶はこの魔道具という事になります」
「何故こんなものがあるのかという疑問は別ですけど、結論から言ってしまえば、カレンのいうようにぶっ壊してしまえば解決じゃないかなと」
エミリアとレベッカも同意見らしい。
「そうね、私も賛成よ。
リカルドさんも、それでいい?」
リカルドさんは少し不満そうだったが頷いた。
「ふぅ、そうだな……。現状、他に手段も無い。
もしここで我々が手を出して魔物が目覚めてしまうより、さっさと破壊してしまった方が―――」
そこまで言葉を発して、周囲の雰囲気が変わった。
「―――魔道具の様子が変わりましたね。
さっきまで蒸気のようなものが出てましたが、今は止まって中の魔物が……」
レベッカが言う。
魔道具の中を見ると、先ほどまでの黒い球体の魔物が魔道具の窓にへばり付いている。
まるで、こっちを見ているように……。
「中の魔物が動き出しただと!?」
「こうなると、これ以上相談している場合じゃなさそうですね」
僕とリカルドさんは魔物がいつ飛び出してきても迎撃できるように剣を構える。
「えぇ……。私達に任せなさい」
カレンさんは魔法を発動する準備をしている。
次の瞬間、魔道具のガラスを破って、黒い球体の魔物が飛び出してきた。
「
カレンさんは光の障壁を展開する。光属性の防御魔法だ。
展開された光の障壁は僕達を襲い掛かろうとした魔物の侵攻を妨げ、魔物ははじき返される。しかし、魔物は黒い職種のようなものを左右から伸ばし始め……。
「きゃあああ!!」
「姉さん!!」
伸ばした触手を姉さんに向けて放ち、その身体を縛り上げようとする。
しかし、間一髪間に合った。
僕の剣が奴の左の触手を切り裂き、魔物は失った職種の先端から青黒い液体を流し始めた。そこにエミリアとカレンさんの魔法の追撃が入る。
「
「
光の矢と火の球が魔物に直撃するが、それでも魔物は怯まない。今度はこちらに向かってくるかと思ったが、魔物は残った触手を器用に動かし、そのまま触手を使って天井の穴へと逃げようとする。
「想像以上にタフな魔物のようだな……!」
「逃がすもんか!」
あそこまで上に逃げられると流石に剣が届かない距離だ。
だけど、大丈夫。僕は新しく学んだ魔法がある。中級魔法と同じように、僕は剣を取り出して魔法に神経を集中させる。
「―――皆、伏せて!!
僕の剣から強力な雷撃を放つ。
狙い通り、雷は魔物の身体に命中して、その全身を焦がした。その威力は、エミリアの同種の魔法に遠く及ばないもののそれでも十分致命的なダメージを与えられたようだ。
「グギャアァッ……」
「よし! 上手くいった!」
黒い魔物は電撃で体を焦がし、そのまま下に落下していく。魔物はそのまま無抵抗に叩き落とされ、その衝撃で魔物の半分くらい潰れて、周囲には青黒い血で溢れていた。
「……これで、お終いでしょうか?」
「魔物はそうですね。
ですが、この魔道具を放置するわけにはいきませんね」
レベッカの言葉を聞いて、僕は魔道具を見る。
魔物は死んだはずだけど、その魔道具は相変わらず起動したままだ。
魔道具の魔物が飛び出してきた割れた部分を覗きこむと、
さっきの魔物よりは小さいが、他にも同じような形の魔物が何体か中にいて、それぞれぐったりとしている。よく見ると中で魔物達に、自動で注射を撃ったり何かを流し込んでいるように見えた。
「うん、多分間違いない。
この魔道具の中で魔物を作っているか、育てているんだと思う」
これで、この魔道具が危険なものだというのがはっきりとした。
「では、壊してしまいましょう」
エミリアがそういうと、杖を魔道具に向けて魔法を放つ。
しかし、威力が足りなかったようで、更に威力を上げる魔法を放つ。
「頑丈ですね……もしかしたら魔法に耐性があるのかも」
「分かった、じゃあ僕がやってみるよ」
僕は剣に魔力を込めてから、魔道具に向けて剣を放つ。
「――穿て、雷鳴……<雷光一閃>」
雷撃を伴った、一閃突きを魔道具の中心に向けて放つ。
物理的威力に魔法を更に重ねた技が直撃し、魔道具は一気に爆発した。
「ふぅ……」
「見事だ少年。今のは<一閃突き>か?」
「あ、はい。前にリカルドさんに教わった技です」
<一閃突き>は基本技としてリカルドさんに教わった技だ。
僕はそれに魔法剣を付与して威力を上げている。
「うむ、しかしもう少し踏み込むとより威力が出せると思うぞ」
「なるほど、こうですか?」
僕は突きの構えをして、踏み込む動作をする。
「それだと踏み込み過ぎだ。
態勢を崩さずに、足を滑らせるようにやるといい」
「なるほど……」
「おーい、帰りますよー」
「あ、うん」
僕達が稽古し始めたことに苦笑した女の子達が、
呆れて帰ろうとしたので急ぎ足で付いて行った。
「それじゃあ帰りましょう」
僕達は用事も終わったので、戻ろうとするのだが―――
「げ」
さっきの爆発の衝撃で気付かれたのか、
地下通路の何処かに潜んでいた魔物が通路からこちらに向かってくる。
「あっちゃあ、派手にやり過ぎたわね……」
「魔物に気付かれてしまいましたか」
エミリアが武器を構える。
「仕方ありません、私が倒してきます」
そう言うと、エミリアは詠唱を始める。
「
エミリアはドラゴンの炎のブレスのように一直線に炎を発射し続ける。魔物達はこちらに近付けず、そのまま火に焼かれてバタバタと倒れていく。
「ちょっと魔物の数が多ぎます!!」
エミリアが景気よく魔物を倒していくのはいいのだが、魔物がどんどん集まってくる。負けじとエミリアは魔法を放射し続けるのだが、何故かエミリアが息切れを起こし始めた。
「はぁはぁ……魔力切れには程遠いはずなんですが」
普段のエミリアならこの程度の魔法なら一時間近く放出し続けても魔力切れにならないんだけど、今回は何故かエミリアが息切れを起こしている。
「やっぱり<邪気>の影響かしら」
「いや、多分これって……」
エミリアだけじゃなくて僕も少し息をしづらい。
冷静に今の状況を考えてみる。
……もしかして、狭い場所で炎魔法を使ったから?
密閉された空間で火を燃やし過ぎると一酸化炭素中毒を起こすと聞いたことがある。同じ事が起こってるかどうかは分からないけど、危険かもしれない。
「エミリア、その魔法止めよう?」
「えっ?何でですか!?私が魔法を止めると魔物達が!!」
「いや、そうなんだけど……」
どのみち、この通路は狭い。
エミリアが炎魔法を止めてくれないと僕達も前に出て援護も出来ない。
「はぁ……仕方ないわね」
カレンさんはそういうと、剣を構える。
「私に任せなさい」
カレンさんの剣に雷のような電気が纏われる。
その剣をカレンさんは一振りしただけで、真空破が発生し魔物達は切り裂かれた。
と、同時にエミリアの炎も切り裂かれ、魔法がキャンセルされる。
「カレンさん、ありがとう」
「ううん、私もちょっと息苦しかったし」
「え?どういうことです?」
よく分かってなかったので、エミリアに説明した。
エミリアは自分の炎のせいで気分が悪くなったことにようやく気付いて反省した。しかし、まだ体調が悪そうだったので、これ以上の戦闘は避けた方が良さそうだ。
「姉さん、<浄化>お願いしていい?」
スライムとかの純粋な魔物は<浄化>の影響を比較的受けやすいはず。
浄化しながら進めば大丈夫だろう。
「うん、任せて―――」
その後は姉さんを守りながら僕達は進んでいき、元の場所まで戻ってきた。
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