第192話 謎解きガン無視
――三十六日目
しばらく要請が無かったため、僕達は<サイド>で思い思いに過ごしていた。
数日おいて、僕達にエドワードさんから収集が掛かった。
「待たせたな、<調査隊>からの情報がいくらか纏まった。
まず、例の<黒の剣>の事だが、キミ達が調査した<廃坑>以外の場所にも保管されていた。
誰がやったのかは分からないが十中八九、あの<デウス>とかいう奴の仕業だろう」
やっぱり、そうか……。
「次に、<デウス>の情報だが……残念ながらあまり益になる情報は無かった。
奴が宿泊したという宿の主人から話を聞いたのだが、いつの間にか居なくなっていたそうだ。深夜の内に街を抜け出したのか、他に姿を見たものも居なかった」
もしかして、自分がまだ追われていると気付いたのだろうか。
「その街は何処に?」
「<サイド>とは反対の方向にある街だ。ただ、今から向かってもこれ以上の情報は得られないと私は判断する。既に行方が分からず無駄になる可能性が高い」
「分かりました。ありがとうございます」
「礼を言うのはまだ早い。以前にキミ達が調査を行った際に見付けた隠し通路の広間に地下通路があることを発見した。しかし、中に入ることが出来なかった」
「それはどうしてですか?」
「先行して中に入った複数の人間が突然苦しみだして倒れた。すぐに彼らを引きずって退却したのだが、原因は不明のままだ。何らかの毒物が使われていると考えられるが、それを持ち込んだ者の姿は無く、犯人は特定できなかった」
苦しみだした?
姉さんが前に言っていた<邪気>ってこれの事なのか?
「姉さん!」
「うん……多分、体のマナが全て抜き取られちゃったんだと思う。あそこで私が感じた悪寒は、あそこに置いてある<黒の剣>だけじゃなかったんだね……」
そうと決まれば、あの場所に入るのは危険過ぎる。
「……どうやら、キミ達は何故そうなったか知識があるようだ。
あの場所に何かが隠されているのは明白だが、以前ならキミ達に引き続き廃坑の調査をしてもらうと思っていたのだが、やはり危険すぎるか」
と、そこにレベッカの手が上がる。
「エドワード様、少し宜しいでしょうか?」
「どうした、レベッカ殿」
「その任務、最初の予定通り、わたくし達が行えるかと」
「……正気か?私も流石に部下を無駄死にさせたくはないぞ」
「正気です。人が苦しみだした理由が<邪気>だというなら、ベルフラウ様なら中和出来るのではないでしょうか。彼女なら対策しながら進むことが出来ると思います」
「……あ、確かに」
姉さんは<浄化>という魔法が使用できる。
この魔法があれば穢れた空気を正常な状態に戻せるはずだ。
「……分かった。では、廃坑についてはキミ達に一任する。
但し、危険な場合は即座に撤退する事。いいな」
「はい、お心遣い感謝致します」
「それと、もう一つ。廃坑の隠し通路だが、途中で誰かが壁を作って入り口を塞いだ形跡がある。誰かが隠ぺいするために壁で塞いだと考えられるが、気を引き締めて行きなさい」
「はい」
「それでは、我ら<特務隊>出陣します」
こうして、僕達の次の目的地が決まった。
最初の予定通り、廃坑の調査だ。
――そして、更に次の日。
「……なるほど、ここか」
僕達とリカルドさんは、以前発見した隠し通路の先の広間に到着した。
<調査隊>の方たちの話では、この部屋の中に地下通路へ進む道が隠されていたらしいけど……。
「それらしいものは見当たりませんね」
「うん、以前この部屋で破壊した床とか壁もそのままの状態だし……」
「<調査隊>の話では、残っていた空のガラスケースの近くにスイッチがあり、それを押すと隠された階段が出現するらしい」
「妙に凝ったギミックですね……」
「そのスイッチも、別の装置で阻まれて簡単には起動できないようになっていたそうだ。
隠し通路といい、こうまで念入りに隠蔽するとはな」
この仕掛けを作った人は、何を考えていたのだろう。
「とにかく、試してみましょう」
姉さんは部屋の奥にあるケースの近づく。僕も一緒に付いていき、姉さんと一緒に周囲を散策する。
情報通り、赤いスイッチと思わるのような物が設置されていた。
「あれ?壊れてる……」
「反応が無いね」
押しても反応が無い。
「ベルフラウ殿、少年、ちょっと見せてくれないか」
「はい」
「お願いするわ」
リカルドさんはスイッチを押してみるがやはり反応が無い。
「おかしいな……。
この仕掛けは既に<調査隊>が解除済みの筈なのだが、
どうやらセキュリティがまた作動しているらしい」
「どうします?」
「仕方ない、もう一度解くしかあるまい。確か、情報では――」
と、そこに今回の任務に参加していたカレンさんの声が掛かる。
「必要ないわよ。
リカルドさん、大体どの辺りに隠し通路があるか聞いてる?」
「ルミナリア殿? 話ではスイッチから前方二十メートル辺りの床が開いて、そこに階段があったそうだが……」
「そ。なら話が早いわね」
カレンさんは鞘から自身の剣を取り出して構える。
「カレンさん……もしかして?」
「そうよ。強引に突破させてもらうわ」
カレンさんはそう言いながら、剣を振り上げて、放った。
凄まじい速さの斬撃が空間を切り裂き、前方の床に亀裂が走っていく。そして亀裂の走った場所を叩き壊して覗きこむと、そこには確かに地下へ向かう階段があった。
「よし、開いた!皆、行くわよ」
「相変わらず無茶苦茶だな君は……」
呆れ顔のリカルドさんだが、別に怒った様子は無さそうだ。
「まぁ……ルミナリア殿が常軌を逸しているのは、今に始まったことじゃないからな……」
「人を化け物のように言わないで」
「……君は十分人間離れした存在だと思うが?」
「私は普通の女の子よ!」
普通の定義って何だろう。
少し前から『普通』という言葉に違和感を持ち始めてきた。
「……ところで、姉さん。感じる?」
「そうね……この先からも、あの<黒の剣>に似た悪寒を感じるわ」
姉さんは前に出て<大浄化>の準備を始める。
「少し待っててね。邪気を払うから」
姉さんの周囲に光が溢れ始めて、そこから空気が変わっていく。
<大浄化>の魔法を発動させたようだ。そして、部屋全体を覆うように広がっていき、更に地下の階段まで流れていく。
「どうだ?」
「少しは緩和されたと思うけど、定期的にやった方が良さそうね」
「ベルフラウ様、ありがとうございます」
姉さんに浄化をしてもらいながら、僕達は地下階段を降りていった。
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