第190話 強くなりたい(魔法編)

 ――三十二日目


「ちょっとサレンとバトってみたいんですが」

 エミリアが突然そんなこと言い出した。


「……どういうこと?」

 サレンさんは突然そんなこと言われて困惑している。


「私が魔法を制御しきれていないって話をしたじゃないですか」


「確かに言ったわね」


「細かい部分を探るために練習に付き合ってほしいんです。モンスターは大体雑に倒せてしまって上手く制御できてるかよく分からないので」

 サレンさんなら雑に倒れないので、調整できるという事なんだろうか。


「成程ねぇ……。まぁ、別に構わないけど……。

 何だか、良いように使われてる気がして私としては不本意だわ」


 エミリアが魔法の練習をするなら僕も付いて行きたい。


「その練習、僕も参加したいかも」


「レイもですか?またどうして?」


「僕も、そろそろ中級魔法から脱却したくて……」


 周りは強力な魔法覚えていくのに僕はずっと中級止まりだ。

 <魔法剣>で誤魔化してるけど、そろそろ上級魔法を覚えたい。


「まぁ、レイ君も成長期みたいだし、そういう時期なのかしらね」


 出会う人全員に子供扱いされてるのは気のせい?

 いい加減僕も怒っちゃうぞ。


「でも別に、レイは魔法が無くても問題ないような?前衛ですし」


 後衛から見ると魔法無しでも戦えるように見えるけど違う。

 単純な剣技だとか力だとかだけだと、僕はとっくに皆に置いていかれてる。何とか剣技と魔法を組み合わせて戦ってるから付いていけてるけど、先日の戦いで思い知った。


 このままだと、いつか僕が力負けしてしまう。

 今は何とかなってるけど、このパーティの前衛は僕だ。もし僕が真っ先に倒されると非常に危うい。レベッカが前衛が出来ると言っても、僕より強いってわけでもない。


 だからこそ機会があるなら学んでおきたい。

 <魔法剣>と<上級攻撃魔法>を使えれば戦力アップに繋がるはず。


 という事を、僕はこの数秒で頭の中で考えていた。


「なるほど、レイも色々考えているんですね……」

「<魔法剣>ってのは<魔法付与>のような感じかしら?」


 最近突っ込むのを止めてたけど、

 何でこの人達、僕の考えてること分かるの?


「読唇術ってやつです」

「いや、それ口の動きを読む技術だよね!?」


「あれよ、雰囲気とか顔に出てるのよ。多分」

 そんな馬鹿な……。


「ま、とにかく分かったわ。

 二人の魔法の練習に付き合えばいいのよね。

 外に行きましょうか」


「「お願いします」」


 ◆


 僕とエミリア、そしてサレンさんは近くの山の麓まで来ていた。


「この辺なら何かあっても誤魔化せるし、

 強い魔物も腐るほどいるから大丈夫でしょ」

 言いたいこと分かるけど、全く大丈夫な要素が欠片も無い。


「あの、やっぱり止めませんか?ここ、危険地帯ですよね」


「そうね、超危険な場所ね」


「じゃあ、何でここに来たんですか!」


「安全な環境より、危険な場所の方が潜在能力が解放されてどうのこうのって話よ。一応実体験だから信用していいわ。確証はないけど」

「えぇ……」


「エミリアも、それでいい?」

「構いませんよ。的は多い方が良いです」


「貴女ならきっとそう言うと思ったわ。気が合うわね」

「そうですね、気が合う仲間が増えて嬉しいです」


「うふふ」「ふふふ」


「……はぁ」

 エミリアとサレンさんが仲良さげに笑っているのを見て、思わずため息が出てしまった。


「まずは二人の魔法の実力を見たいわね……そうね」

 と、そんなことを言ってると近くに大型の魔物が出現した。


「あ、良いのが出てきたわね。

 あれは大型のゴーレムね。B・S・Gと私の知り合いは略してたわ」

 B・S・Gって何の略なんだろう……。


「それ、どういう略称なんです?」

「確か、ビッグ・ストーン・ゴーレムだったかしら?」

 まんまだった。


「そうなんです?ブレイク・スルー・ガトリングかと思いました」

 エミリアの発言に僕の目が点になる。

 

 ちなみに、ブレイクスルーは大発見、大躍進という意味だ。

 直訳すると「大発見、ガトリング」だ。意味不明すぎる。


「で、そのBBGの能力を見ましょうか」

「いえ、GFKですよ、カレン」

「BSGだよ」

 修行編なんだから二人とも真面目にやってほしい。


「「……えっ?」」

 二人ともキョトンとした表情をしている。

 こっちが滑ったみたいな対応止めてくれないだろうか。


「……それは置いといて、あいつのHPは1000よ。

 防御力はそれなりだけど魔法耐性は無いから丁度いいカカシね」


「そうですね、サンドバッグには丁度いいですね」

 もうちょっとBSGさんに優しくしてあげても良いと思うの。


「で、レイ君の魔法の威力はどんなものなのかしら?

  中級魔法では高威力の<中級雷撃魔法>サンダーボルト辺りで試してみましょうか」


「はい、分かりました」

 僕は<魔法の剣>を取り出して構える。


「……いや、何で魔法撃つのに剣を構えるのかしら?」

「こうしないと無詠唱で魔法が使えなくて……」


「無詠唱ってよっぽどじゃないと使えない技能なんだけど……」

「そうですね、レイは大概魔法使いを舐めたことしてますね」

 どうしろと。


「まぁ、良いわ。とりあえずやってみなさい」


「はい……<中級雷撃魔法>サンダーボルト!」


 僕は魔法の剣を杖のように使って、魔法を通して発動させる。

 すると。BSGの頭上で雨雲が出現し、そこから雷撃が迸った。


 激しい落雷の音を響かせながら攻撃を浴びたBSGだが、健在だった……。


<能力透視>アナライズ……HP250ダメージ、普通ね」

 普通って何だろう。


「じゃあ次は私がやってみますね。<中級雷撃魔法>サンダーボルト!!」

 エミリアは同じように雷撃を落とし、

 より激しい落雷を落としてゴーレムに攻撃した。


「……HP600ダメージってところね、

 普通の魔法使いの上級魔法以上の威力はあるわ」


「なるほど……まぁ、こんな感じで良いでしょうか?」


「そうね。流石にエミリアは地力があるわね。レイ君は普通ね」

 普通とは何なのか。


「次は私の魔法を見せたいんだけど……。

 ああ、他にも居たわね。GGGが」

「BSGです」

「じゃあ新品だし、私が同じ魔法で攻撃してみるわね」

 無傷のBSGを新品呼ばわりは止めてあげてください。


<中級雷撃魔法>サンダーボルト

 サレンさんはそう言って、魔法を放ったのだが……。一瞬何が起こったのか分からないレベルの振動が起きて、次の瞬間耳を劈くような音と共に新品のBSGが粉砕された。


<能力透視>アナライズ……

 最低でも1000ダメージ、実際はそれ以上は与えてそうですね」

 エミリアは呆れて言った。

 要するにオーバーキルだ。本人の耐久力を軽く凌ぐ電撃だった。


 次に、また新品のBSGを見つけたので、

 今度はエミリアが<上級電撃魔法>ギガスパークを使ってみる。


「………一撃だけど、多分1300ダメージくらいでしょうね」


 大体、サレンさんの中級魔法<エミリアの上級魔法くらいの威力らしい。

 しかし、その結果が不満だったエミリアはこう切り出した。


「本気で攻撃するので、ちょっともう一回お願いします」

 それだけ言って、エミリアは新品のBSGを見つけて、魔法を使用する。


「――<禁じられた魔導書><機能開放・魔力暴走>――

――雷鳴よ、眼前の敵を滅ぼせ――――!!<暴走マジックバースト中級雷撃魔法サンダーボルト>!!!」



 エミリアは、先程の魔法とは比べ物にならないレベルで、強力な雷撃を放ち、BSGを攻撃した。そして、その威力に耐えきれなかったかのように、BSGは木っ端微塵に砕け散って、熱量で周囲の瓦礫や岩が溶けていた。


「……うーん、もうちょっと期待したんですけど……」


「でも、今の多分私の魔法の威力を超えてるわよ。

 ダメージ的に言えば2000近くは出てたかも……やるわね」


 中級魔法にこれだけ全力を注ぐ意味……。


「あれ?レイが呆けてますよ?どうしたんでしょう?」

「そうね、ちょっと待ってあげましょうか」


 ……ダメだ、このままだと二人の独壇場にしかならない。

 何とか僕なりに見せ場を作らないと……!!


「……<中級雷撃魔法>サンダーボルト

 僕はとりあえず<龍殺しの剣>を取り出し、剣に雷撃魔法を付与する。


 そして新品のBSGを探して、そのままジャンプしてBSGに剣を振りかぶる。


「<流星雷光斬>!!!」

 僕は剣に付与した雷撃魔法を剣に乗せて、振り抜いた。

 凄まじいスパークが発生し、辺りを照らし、BSGに直撃させた。


 ――そして、目の前のBSGは動きを止めた。


「うーん……1000ダメージってところですかね。一応ワンパンです」

「微妙!!」


「一撃だけど、瓦礫の残った量が多すぎるわね。

 あと、物理耐性持ってるからダメージも減らされちゃったかも……」


 <魔法剣>は物理耐性と魔法耐性の両方の影響を受けるらしい。

 僕の攻撃で破壊したのは2/3程度であり、あとの1/3はそのまま残っていた。


「ぐぬぬ……ダメコンで僕が一番ダメージが小さい……」

「ふふっ、こんなので競い合おうなんて、レイ君は子供ねぇ」

「癒されますねぇ」


 おかしい、何かがおかしい……。

 周囲には瓦礫が焦げて溶けたような匂いが散乱してるのに、

 目の前の女の子二人はまるで子犬を見る目で僕を見つめている。


 これが格差社会という奴なのか。

 僕はがっくり項垂れた。


「落ち込んでるわ。ちょっと可愛いわね」

「ああ、分かる気がします。

 レイって拗ねた時とか悩んでる時って可愛く見える時あります」

「そうね、私も今思ったわ」

 ……僕ってそんな風に思われてるんだ。


「お遊びはこのくらいにしましょう」

「そうね、本格的に修行しましょうか」

「……はい」

 2人はそう言うと、急に真剣な表情になった。


「さっきので分かったけど、エミリアは感情でムラがあるわね。

 多分、上級以上の魔法を使用する時に感情込め過ぎて、過剰威力と過剰なMPを消費してしまってるんだと思うわ」


「あー、なるほど……。<極大魔法>撃ってる時は私の頭の中で走馬灯回しながら撃ってるからそれが理由だったんですね」


 何で魔法撃つたびに人生振り返ってるんだろ、この子……。


 ちょっと疑問に思ったことをエミリアに聞いてみる。

「エミリアって<極大魔法>使う時だけ、異様に詠唱遅いんだけど何でなの?」


「いえ、私、魔法詠唱文が苦手なので……

 詠唱無しで<極大魔法>使うとイメージが全然固まらなくて」


「それなら仕方ないわね……。

 とりあえず、エミリアは自身を高揚させられる詠唱を考えて、後は必須キーワードだけ盛り込むのが良いと思うわ。自分で決めたワードなら覚えやすいでしょ?」


「えぇ、それは確かに。今度色々試してみますね」

 ……あれ、これエミリアの問題点解決しちゃったような。


「それじゃあ、そうですね……」

「そうね、問題は……」


 二人はこっちを見た。


「「レイ(君)の修行」」

 やっぱり……。


「……分かりました」

 こうして、僕は二人に付き合わされる羽目になってしまった。


 ――そして、2時間後。


「もう嫌だぁ~」

「ほらほら、泣き言言ってる場合じゃないですよ!

 レイが<上級氷魔法>コールドエンドで相殺出来ないと私の<上級獄炎魔法>インフェルノで死んじゃいますよ」

「無理無理!!」

「無理じゃないわよ、やるのよ」

「ひぃぃぃぃ!!!」


 ――更に、2時間後。


 ……僕は今、地獄にいる。

 そう思える程に過酷な状況に立たされていた。


 目の前には15m程の巨大なドラゴンがいる。

 どうも、僕達が修行してる山の頂上にはドラゴンが住んでいたらしい。

 成体ではないものの、成体手前の十分強力なドラゴンである。


 そして、襲い掛かってきて、僕達は臨戦状態になったんだけど……。



 今から五分前の話、


「あ、良いこと思い付きました。レイから剣を取り上げて、魔法だけでこのドラゴンを倒すのが卒業試験とかどうですか?」


「それいいわね。それじゃあ……。

 はい、レイ君の剣取り上げておいたから、後は一人で頑張ってね」

 そう言って、一瞬でカレンさんに剣を奪われた。


 ◆


 そして今に至る。

「ぐぅ……!! こんなの無茶苦茶じゃないか……」

 剣無しの僕では普通にどうしようもないレベルの相手である。


「くそっ!!<中級氷魔法>ダイアモンドダスト!!」

 何とかブレスを魔法で相殺しつつ戦うけど、このままじゃじり貧だ。


 というか、詠唱スキル持ってないから、剣無いとまともに戦えない。


「エミリア!せめて<魔法の剣>だけでも返してよ!!」

 僕は背後で暇そうに見ているエミリアとカレンに向かって叫ぶ。


「あー、そうでしたね。

 じゃあ、ほらっ……今投げましたよー」

 エミリアの声で、鞘が取れて剥き出しになった剣がこちらに飛んでくる。


 それをなんとかキャッチすると、剣を構えて詠唱を始める。


<凍り付く風>フリーズウィンド

 僕の前方に氷柱がドラゴンに向かって直線上に発生する。

 ドラゴンの体の一部を凍らせて動きを止める。


<氷の大槍>コールド・グングニル

 僕の頭上に魔法で作った、氷の大槍を出現させる。

 更に、それを風魔法で一気に加速させ、ドラゴンの体に直撃させる。


「グギャァア!?」

 氷漬けになっていたドラゴンは、

 避けられずにその身体に氷の槍を深く食い込ませる。


「ふぅ……これで少しは戦えるね」

 上手くやれば、手持ちの<複合魔法>だけで倒しきれるだろう。


 だけど……。


「レイー、<上級攻撃魔法>無しで倒してもダメですからねー」

「レイ君!勇気を持って唱えるのよ!!」


 だよねぇ……。

「ああ、もう……!!こうなったらヤケだ!!」

 エミリアから学んだ上級魔法を思い出しながら詠唱を開始する。


「―――ええと、なんだっけ?

 確か、―――地獄の業火よ、我が呼びかけに応え、現世へと来たれ、

 目の前の龍を生贄に捧ぐ、終焉の贄と捧げよ――!!」

 そう、確かエミリアの得意の攻撃魔法はこんな詠唱だったはず。


<上級獄炎魔法>インフェルノ!!!」

 僕がそう詠唱して魔法を発動すると、ドラゴンの周囲が赤い霧に染まり出し、そして数秒後、轟音と共に、ドラゴンの周囲が大爆発を引き起こし、周囲は大炎上を起こした。爆発の中心にいたドラゴンは悲鳴をあげて、そのまま炎に焼かれて動かなくなった。


「せ、成功した?」

「はい、成功です。おめでとうございます。

 これでレイも<上級攻撃魔法>を使えるようになりましたね」


「凄いわね!やっぱり追い込むと人間は成長するのね!!」

 エミリアがそう言い、カレンさんは嬉しそうな声をあげる。

 でもその方法はスパルタ過ぎてもうやってほしくない。


「うん、ありがとう」

 本当に成功するとは思ってなかったけど、嬉しいものは嬉しい。


「じゃあ、次は<上級攻撃魔法>四属性全て使えるまで特訓ですね」

「え゛」


 ―――数時間後、結局二人に後ろから魔法で追いかけ回されて、泣く泣く四属性の<上級攻撃魔法>を習得できましたとさ……。

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