第188話 書いてあることだけは凄そう

「そうだ、カレンさん。

 この街の冒険者ギルドの場所を教えてほしいんですけど」


「ギルド?

 それは構わないわよ、私も今日は非番だから時間はあるし。

 ……昨日、深夜に着いたばかりなのに随分忙しいみたいね、どうしたの?」


 ……言ってもいいんだろうか。

 カレンさんは相当な実力者みたいだし、魔王関連の話も通じそうではある。


「……レイくん、言ってもいいんじゃないかな?」


「姉さん?」


「そうですね。私もカレンになら言っても良いと思います。

 何かあった時に助けになって貰えたら頼もしい人でしょうし」

 二人がそう言うのなら大丈夫だろう。


「実は……」


 ◆


 僕達は、ここまで怪しい人物を追って旅をしてきた事。

 そして昨日、目的の人物と出会い、その人物が魔王に組する存在であることをカレンさんに話した。

 カレンさんは僕達の話を真剣に聞いてくれた。



「なるほど……。そういうことだったの……。

 人間を化け物に変えて、魔物を進化させる謎の黒の剣、

 そして、それを売り捌く『魔王の誕生の望む者<デウス>』……。

 にわかには信じがたい話ではあるけど」


「……そう、ですよね」

 流石に、これですぐさま信じてくれはいないだろう。


「いえ、信じるわよ。実は王宮にも、似たような情報が来ているのよ。

 凶暴化して暴れ始めたドラゴンや、今まで影も形も無かった場所に現れ始めた魔物の上位種。今の話を聞いて納得できたくらいよ」


 カレンさんは僕達に気を使ってくれてるのか、

 事実なのか分からないけれど、 少なくとも嘘だと思わないでいてくれた。


「それにしても……。

 その商人は何者なのかしら?見た目は人間なのよね?」


「分かりません。

 分厚いローブを着て気味の悪い仮面を被ってたので。

 中身は老人って話もありますが、未確認です」


「つまり正体は不明ってわけね……。人間の形してるからって人間とは限らないわよ。<リッチ>っていう形だけは人の姿をしてる魔物だっている。

 何よりも<悪魔系>の魔物を従えてたってのが怪しすぎる。もしかしたら、そいつは更に上位の悪魔族の魔物かもしれないわ。悪魔は上位の存在には忠実に動くところがあるからね」


「え、そんなに不味い相手かもしれないんですか?」


「高位の悪魔の魔力を持つ者は人の形をしている事が多いの。

 まぁ、例外もあるけど。例えば<封印の悪魔>って呼ばれる悪魔達ね」


「封印の悪魔?」


「えぇ、聞いたことないかしら?

 例えば<呪いの書><パンドラの箱>のような装飾品などに悪魔の魂が宿った物。それ以外にも、特定の場所に封印されていたり、に閉じ込められている場合もある悪魔達の総称よ。

 下位のものもいるけど、大体の場合は強すぎて<封印>という手段でしか対抗できなかった悪魔達よ」


 なるほど、<呪いの書>か。

 あれは最後まで読んでしまった人間を死に至らしめる呪いが掛かっている。

 だけど、悪魔が封じられた書物でもあるらしい。


 合点がいったけど、逆にエミリアは何故か青い顔をしていた。


「エミリア、どうかした?」

「レイ……実は、私ちょっと気になるものがあって」

 エミリアはとある魔導書を取り出した。


「エミリア、確かそれって……」

 出会った時にエミリアが自慢してた魔道具だ。確か『鼓動する魔導書』……名前の通り、時折鼓動していて魔導書ながら生きた存在らしい。


「この本なんですが……。

 私は、高名な魔道士が封印されていた魔導書と思っていました。

 ですが、今のカレンの話を聞いて不安になって……」


「エミリア、その本、ちょっと渡してもらえるかしら」

「はい……」

 カレンさんはその本を見て、エミリアから受け取った。


「何かしら……。

 この本、少し調べさせてもらうわね……。<鑑定Lv30>チェック


 カレンさんはアイテムの詳細を知る魔法を使用した。その錬度は途轍もなく高く、エミリアでも調べることが出来なかった暗部も解明していく。


「……珍しい物を持ってるわね。

 これは……うん、中身に何か正体不明の存在が封印されているわ」

「えっ!?」

 正体不明!?もしかして、悪魔?


「でも大丈夫よ。存在の意識が完全に消えてしまってるみたい。

 この本は生きているけど、少なくとも中身が出てくるような事は無いわ。

 今はもう普通の魔道具と変わらないと思う。

 ただ、それとは別に、この魔導書、リミッターが掛かってるみたいね」


「そうなんですか?

 ……確かに、全然開かないページばかりですけど」


「えぇ。これ、相当レベルの高い魔術師が作ったものだと思う。中に封印されていたのは、人間かそれとも<封印された悪魔>だったのかはもはや判別は不可能だけど……。

 少し、私の魔力を流して強引に開いてみるわね」


 カレンさんはそう言って、

 魔導書をテーブルに置いて、魔力を込め始めた。


 その瞬間、周囲からまるでガラスが割れたような音がした気がする。


「――――!!!」


 魔力に疎い僕でも分かる。

 今、カレンさんが注いだ魔力量は尋常では無い。


 それこそ、<極大魔法>発動と同程度の出力を感じるくらいだ。

 そして、同じ感想を抱いたのはエミリア、姉さん、レベッカもだった。


「―――少し注いだだけでこの魔力ですか、本当に規格外ですね」


「彼女……本当に人間なの?」


「カレン様に感じた魔力に精霊のマナの力も感じ取れました。おそらくわたくしと同じく<精霊魔法>を使えるのだと思いますが、この魔力は……」


 それから三十秒ほど、

 カレンさんは魔力を流し続けると、深呼吸して手を離した。


「あ、カレンさん。

 あの、大丈夫なんですか?凄く疲れてるように見えますけど」


 エミリアはカレンさんを心配してる。

 カレンさんの額には汗が流れていて、呼吸も荒くなっている。


「ちょっと、張り切り過ぎちゃったかも……。

 私服でやったのが不味かったかもね、ちゃんとした装備じゃないと魔力を制御しきれないことがあるのよ。でも、大丈夫よ。

 これで大半のリミッターが解けたはずだから……」


 カレンさんは魔導書を手に取り、表紙を開く。

 そこには先程までは見られなかった文字が書かれている。


「これでもやっぱり完全には解放できないみたいね」


「カレン様、その文字は一体?」


「この魔導書の名前よ。……古代文字も記されているわね。どうやら想像よりもかなり昔に作られた物の可能性があるわ。本当に<封印の悪魔>が封印されてた可能性も否定できないわね」


 そうしてカレンさんとエミリアは、

 リミッターが解けたページをめくり続ける。


「……凄いです。

 禁呪とされた魔法や失伝された魔法、それに極大魔法まで記されています」

 エミリアはその魔導書を読み解くのに夢中のようだ。


「エミリアには読める?」

「古代文字は魔法学校で習った触りくらいしか分かりませんが、

 魔法に関連する部分なら何とか……」


 そして、エミリアは少し離れて杖を取り出し、詠唱を始めた。


「―――告げる。封印されし魔導書よ、その力の一端を呼び起こせ。

 我が名はエミリア・カトレット、消失された記憶の存在に代わり、汝の知識を欲するもの。その英知を今ここに――」


 エミリアが詠唱を終えると、魔導書に変化が起こった。

 魔導書は一人でに動いたと思ったら、その表紙の色が紅に染まっていく。

 そして、パタリと地面に落ちて動かなくなった。


『鼓動する魔導書』は鼓動すらしなくなったのだ。


「―――どうなったの?これ?」


「……分かりません。

 今一度、私自身で調べてみます。―――<鑑定Lv20>チェック


 エミリアは再度、魔法を発動させた。

「……えっ!?」

 エミリアは驚きの声を上げる。


「ど、どうかしたの、エミリア……?」

「……能力の上昇値が跳ね上がっています。

 それに、読めなかった部分が私の頭の中に直接刻まれて……!!」

 あれかな、脳に直接……ってやつ。

 僕の世界だと、ファミチキ下さいって言うのが定番だけど……。


 □アイテム変化

『鼓動する魔導書(SSR)』→『禁じられた魔導書(EX+)』


 ◆元の能力

 MP+40 魔法命中+10 魔法攻撃力+15 存在秘匿Lv??

 中級以下の攻撃魔法使用時、消費MPが3/4になる

 1回のみ自身の限界を超える『魔力暴走マジックバースト』を使用できる。

 使用した際、全魔力を消費し、暫くの間『鼓動する魔導書』は使用不可能になる。

 MPを倍消費することで魔法攻撃力1.5倍でダメージ計算される。

 他、詳細不明


 ◆変化した能力


 MP+200 魔法命中+50 魔法攻撃力+200

 魔法ダメージ20%アップ、自身の物理・魔法ダメージを20%軽減

 中級以下の攻撃魔法使用時、消費MPが1/2になる

 詠唱魔法使用時、効果量が通常より1.3倍アップする


『禁じられた魔導書』の契約者が『エミリア・カトレット』に再登録。

『禁じられた魔導書』の『魔力暴走』が常時使用可能になります。


『魔力暴走<マジックバースト>』、

 魔法使用時、MPを多く払うことで魔法攻撃ダメージを底上げ可能。


『禁じられた魔導書』の奥の手が解放されました。


 <究極魔法>『無制限アンリミテッド破壊ディストラクション

 消費MP1300以上、無属性の攻撃魔法。

 使用する場合、『禁じられた魔導書(EX+)』の全ての性能・技能が使用不可能になります。また、代償として、この魔法を使用した瞬間に、使用者は必ず行動不能になります。



「――な、何これ!! どういうことなの、エミリアちゃん!」

「ベルフラウ様、落ち着いてください。

 これはエミリア様が<鑑定>を行った結果です。その内容は驚愕すべきものですが……」


 レベッカの言う通り、この内容はとんでもない。

 以前の状態の『鼓動する魔導書』の強化幅と比べて尋常では無く上がっている。

 何より、最後に記されている一文……。


 こんな魔法は聞いたことも見たこともない。

 少なくとも、ファミチキを召喚する魔法ではなさそうだ。


「……この魔法の代償って、一体なんなの?

  エミリアちゃんが動けなくなるだけじゃ済まないんじゃ……」


 <究極魔法>……一体それは何なのか……。

 名前だけ凄い究極魔法ってのも無いわけでもないけど……。

 リスクが書かれている辺り、効果は絶大なのだろう、多分。


「きゅ、究極魔法……す、すごい………」

 ただ、エミリアは名前の響きのせいかテンションが上がっていた。


「………エミリア、使っちゃダメだよ?」

 流石のエミリアも一時のテンションで使ったりはしないだろう。

 それでも念の為に釘を差しておく。


「え!?」

 僕の言葉に物凄い動揺するエミリア。前言撤回。

 言っとかないと、どっかで使ってしまいそうだ。


「えっ!? じゃないよ!! 使ったらどうなるとか全然分からないし!!」

「で、でもぉ……如何にも凄そうじゃないですか……」

 エミリアはちょっと残念そうだ。


「凄いかもしれないけど、どうみても危ないって……。

 丁寧にデメリットまで記載されてたみたいだし、多分エミリアもただじゃ済まないよ……だから使用は禁止!!!」

 仮にピンチ状態だったとしても命には代えられない。

 僕にとって世界の平和より家族や仲間の命のがずっと大事なんだ。


「そんな、横暴な……!!」

「絶対だめ!! このパーティのリーダーは僕なの!!」

「鬼! 悪魔! 女神! ロリコン! ハーレム男! 死ね!!」

「いくら言われようとも……。

 って、シンプルな罵倒はやめろぉぉぉ! 僕の心が傷付く!!」

 あと女神って悪口じゃないよ。姉さんが泣くって。


 そんな僕達のじゃれ合いにカレンさんが呆れて言った。

「いや、そもそもその消費量だと、

 まず使うことすら無理なんじゃないかしら……?」


「「あっ……」」

 カレンさんの言葉にエミリアは肩を落とす。

 ……まあ、確かにそうなんだけどね。


「一応聞くけど、エミリアってどれくらいの魔力量あるの?」


「ここ最近調べてないから分かりません……。

 カレン、能力透視をお願いしていいですか?」


「良いわよ。……<能力透視Lv30>アナライズ……うわっ」


 うわっ!って……。

 今カレンさん、結構驚いた顔してたよ。


「ど、どうしましたか、カレン。何かあったんですか?」

 エミリアは不安げだ。


「……装備込みだけど、最大MPが1000超えてる」

「……何だ、それじゃあ使えないじゃないですかぁ……」

 エミリアは凄くガッカリしている。


「いえ、でもこれ相当凄いわよ。

 ……というかLvも60超えてるし、魔法攻撃力だって……。

 貴女、前全然戦わなかったのに、とんでもなく強いじゃない」


 大陸最強のカレンさんが驚くくらいなんだから、エミリア強いんじゃ?

 前回も魔法の耐性が強い悪魔系に有効打を与えてたし。


「そ、そんなに私強くなってたんですね……。

 そういえば、ここ最近MP切れ起こしたこと全然ありませんでした」

 当たり前のように<上級魔法>を連発してたのに、これである。


「エミリア様、お忘れですか。

 <極大魔法>を使用した後は大体MP切れ起こしてましたよ」


「ぐっ……思い出させないでくださいよ。

 今だに一発撃つだけでダウンしちゃうんですから……」


「……極大魔法?

 エミリア、貴女、極大魔法なんて使えるの?」

 カレンさんが唖然とした顔をしている。


「はい、といっても、

 さっき言った通り一発撃つだけでダウンしちゃうんですけど……」


「それはおかしいわよ。極大魔法も最低限抑えて放てば、『禁じられた魔導書』抜きでも貴女なら二発は放てるはずよ。

 例え、ちょっと効率が悪かったとしても一発撃っても<極大魔法>無しなら普通に戦えるだけのMPは残るはず」


「……言われてみると、そうかも知れません。

 あれ?じゃあ何で私はいつも一発で消耗していたんだろう?」


 というか、カレンさん当たり前のように<極大魔法>の話してるよね。

 確か<極大魔法>って物凄く強い魔法使いの切り札って感じの魔法なのに、え?カレンさんも当たり前のように使えるの?


「うーん、もしかしたら私と同じなのかしら。

 強力な魔法を覚えた影響で魔力が急激に上がり過ぎたせいで、

 制御が利いてないのかも……」


「あ! なるほど……。

 確かに、そういう可能性はあるかもしれませんね」


「まぁ、その件はちょっと後で考えましょうか。

 それよりも、ギルドの方に用事があるんじゃないの?」


「あ、そうだった。お願いします、カレンさん」


「じゃあ今から行きましょうか。リーサ、少し出かけてくるわね」


「はい、カレンお嬢様。お召し物はどうなさいますか?」


「ギルドに行くからいつもの装備で行くわ。

 ちょっとこの子たちの力を見てあげたいし、少し帰りは遅くなると思う」


「かしこまりました。お気をつけて」

「ありがとう。行ってくるわね」

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