第187話 僕だけ地味
――三十一日目
朝起きて、僕は茫然としていた。
「し、知らない天井だ………」
「いや、それは当たり前でしょ。私の家だもの」
「あっ……」
いつの間に部屋に入って来たのか、
そこには私服姿のルミナリアさんがいた。
「お、おはようございます。ルミナリアさん」
「おはよう。昨日はよく眠れたかしら?エミリアさんや他の二人はもう起きているわよ。朝ごはん出来てるから案内するわ」
「はい」
僕はベッドから出て立ち上がる。
◆
案内された場所は一階の広い部屋だった。
そこには大きなテーブルと椅子が並べられていて、そこにエミリア、姉さん、レベッカの三人と、奥には身なりのよい男性と女性が座っている。
料理も既に並べられていた。
「お待たせしました。お父様、お母様。
一人寝坊助さんが居たのでちょっと部屋まで行って起こしてきましたわ」
どうやら身なりの良い男性と女性はルミナリアさんの両親のようだ。
それにしても寝坊助さん……ちょっと恥ずかしい。
「そうか。ゆっくり休めたようで何よりだ。
さぁ、席につきなさい。朝食にしよう。レイ君もお姉さんの隣の空いてる席へどうぞ」
「はい、ありがとうございます」
僕達は姉さんの隣。ルミナリアさんは女性の隣、それぞれ空いている場所に座り食事を始める。
出されている料理は、パンとサラダとスープ。あとデザートなのかフルーツもある。
どれも美味しい。こんな豪華な食事をしたのは初めてかもしれない。
「いや、すまないね。
今は贅沢は避けていて、最近はお肉なども少し制限をしているんだ。
キミ達はみな若いから少し物足りなかったかもしれないな」
確かに量は少し少ないけど、十分に満足できる内容だと思うんだけど……やっぱり貴族となると違うんだろうか。
「いえ、そのような事はございません」
「ええ、私は十分堪能させて頂きました。
それにとても美味しいです。このような豪華な食事に呼んでいただきありがとうございます」
レベッカと姉さんだ。
この二人は、別に貴族でもないのに普通に言葉遣いが丁寧だ。
「それは良かったですわ。
そちらのベルフラウさんの弟さん、レイさんはどうでしたか?」
ルミナリアさんのお母さんがそう僕に問いかけてきた。
「と、とても美味しかったです!!」
しまった、喰い気味に話してしまった。
「ふふ、それなら良かったわ……」
「あらあら、レイくんってば慌て過ぎよ……」
うう、寝坊したり、喰い気味で話しちゃったり色々散々だよ……。
そしてデザートも済んだところで、
ルミナリアさんのお父さんがこう質問してきた。
「それで、カレンのお友達と訊いていたが、どういう関係なんだい?」
「冒険者仲間っていうと軽く聞こえてしまうかもしれませんが……。大切な幼馴染を一緒に探してくれた人と、護ってくれた人達ですわ」
ルミナリアさんは僕達をそう言って紹介してくれた。
大事な幼馴染とはリゼットちゃんの事だろう。
それにしても、ルミナリアさんの口調に違和感がある。
『ですわ』って……。
「それにしても、やっぱり『カレン』さんだったんですね」
エミリアはルミナリアさんにそう言った。
「やっぱりって事は、大体私の事に気付いてたのね。
まぁ、青髪と『ルミナリア』ってネームで気付かれちゃうわよね……」
予想通りではあるけど、
ルミナリアさんは有名人の<カレン・ルミナリア>だったようだ。
『両親』と『僕達』でルミナリアさんは口調を変えているらしい。
両親の前だと『名家のお嬢様』、僕達とは『冒険者』として使い分けている。
「おや、カレン。名前の方は言ってなかったのかい」
「ええ、お父様。<カレン・ルミナリア>を名乗ると、色々目立ってしまうので、ここ最近は名前を隠して活動していました。最近の依頼は正体を隠して動いた方が都合が色々良いので……」
なるほど、そういう事か。
有名な人が護衛の依頼を受けたりすると、何かあった時に騒ぎになるもんね。
エミリアの話だと、ルミナリアさんは【蒼の剣姫】という二つ名持ちの冒険者らしいし、この大陸で最強の冒険者って話だ。
それに、この容姿なら納得ではあるのだけど、
ファンクラブ(非公式)まで設立されてるアイドル的存在でもあるらしい。
確かに、正体を大っぴらにすると色々不味そうというのは分かる。
「カレン……冒険者は、
その、大丈夫なのかしら?貴女にもしもの事があったら、私達は―――」
カレンさんのお母さんは不安そうにカレンさんを見つめる。
しかし、カレンのお父さんはお母さんの言葉を遮る。
「よせ、私達はそれが分かった上でカレンが冒険者になることを認めたんだ。
……済まなかったな。カレン、お母さんには後でちゃんと言っておくよ」
「お父様……。
いえ、大丈夫です。お母さま、私の事は心配しないでくださいな」
……どうやら、
カレンさんが冒険者になる時に複雑な事情があったようだ。
それを僕達がどうこう詮索するのはあまり良くないだろう。聞くとしてもカレンさん自身が言ってくれた時だけだ。
友人と言ってくれてはいるけど、そこまで踏み込める関係じゃない。
僕は少しだけ、ほんの少しだけ寂しさを感じた。
それから朝食を食べ終わった僕達は、 応接室に通された。
応接室は僕達とカレンさん、それ以外もカレンさんの侍女のリーサさんと、
他にも昨日僕の背中を流してくれたメイドさんと、他にも何人かいる。
そこで改めてルミナリアさんから自己紹介をされる。
「まず……私の自己紹介を改めてさせてもらうわ。
私は<カレン・ルミナリア>この街の、一応貴族の娘ってことになる。
といっても爵位はそこまで高いわけじゃないし、私自身が偉いわけじゃないから気にしないでね。知っての通り、冒険者をやっているわ」
それにエミリアが補足しながら少し畏まって言った。
「お噂はかねがね訊いております。
<蒼の剣姫><導く者><奇跡の体現者><蒼の英雄>……。
カレンさんの異名はゼロタウンの方にも轟いていますよ」
「あはは、そんなに言われると照れるわ。
でも、流石に大仰すぎるわね。最初の以外はあんまり好きじゃないかも」
……凄いな。どれも只者じゃない感がある二つ名ばかりだ。
「他にも<百合姫>とかありますけど、
これはどういう意味なんですか?カレンさん」
「ごめん、ちょっとノーコメントで……というか忘れなさい!」
ルミナリアさんの問いに、何故か顔を真っ赤にして答えを濁すカレンさん。
え、何その反応?否定もしないってことは……。
「ええと、それじゃあ……今度は私達の自己紹介ですね。
私はエミリア・カトレット、ゼロタウン所属の魔法使いです」
エミリアはカトレットって言う名前だったのか。
「あと
自称なんかい。
まぁ、エミリアがレアハンターって呼ばれてるの見たことないけど。
「わたくしは、レベッカと申します。
ルミナリア様やエミリア様のようなファミリーネームはございません。大したものではございませんが<大地の護り手>という二つ名を頂いております」
何その二つ名、カッコいい。
というか僕も初耳なんだけど……。
「あ、その……。
一応、故郷で巫女になった際に付けていただきました」
レベッカは顔を赤らめて言った。
「私はベルフラウです。よろしくね、カレンさん。
二つ名は……一応、あるんだけど、言ったほうがいいのかしら?
レイくん、どう思う?」
「え?……まぁ、好きにすればいいんじゃ?」
「じゃあ……。
<死者の橋渡し役>の……いや、ちょっと待って、これ役職名だわ。
えっと……その、<命を与えるもの>……そう、こっちね!!!」
大丈夫かな、この元女神様……。
「改めて、私はベルフラウ。<命を与えるもの>です。ウフフ」
この人、自分の正体隠す気があるんだろうか?
「そ、そう……。
どういう意味なのかすごく気になるけど、
宜しくね。ベルフラウさん」
そして、僕以外の全員の視線が僕に集中する。
何なら傍で見ていたメイドさんの視線まで僕に向いている気がする。
「れ、レイです……」
「「「「「「「……」」」」」」」
沈黙が痛い!誰か助けて!!
「……うん、それだけなの? もっとこう、良い名乗りは無いの?」
「レイ、もうちょっと色々あるのでは?」
カレンさんとエミリアが無茶振りをしてくる!!
「え、えっと……。
一応、本名は
ですけど、レイって呼んでくれると嬉しいかな……なんて」
「……サクラ?」
僕の名前にカレンさんが反応した。
「えっ?……ええと、『さくらい・れい』です」
「そ、そうなの……。
ごめんなさい、知り合いに名前が似てて間違えちゃったわ」
「あ、いえ。別に気にしてないので、大丈夫ですよ」
カレンさんは少し慌てた様子だったが、すぐに落ち着きを取り戻したようだ。
「ちなみに私の名前は カレンと呼んで欲しいわ。
もう本名もバレてしまってるし、親しい人はみんな私をそう呼んでいるの」
「分かりました。カレンさん」
「折角なので、私はカレンって呼んでいいですか?」
「じゃあ私は……カレンチャン……いえ、やっぱりカレンさんでいいわ」
「では、わたくしはカレン様と……ふむ、しっくりきますね」
上から、僕、エミリア、ベルフラウ姉さん、レベッカの順番だ。
「さっきはゴメンね、レイ君。改めてよろしく」
「はい。こちらこそ。
昨日は本当にありがとうございます、助かりました」
そうして、
僕達はカレンさんの人柄の良さもあってすぐに打ち解けることが出来た。
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