第186話 実家訪問

 ルミナリアさんの家は、街の中央にある大きなお屋敷だった。


「ここが私の家よ。遠慮せずに入って頂戴」

 ルミナリアさんは玄関の鍵を開けると僕達を招き入れる。


「お邪魔します」

 僕達が中に入ると、そこにはメイド服を着た女性が立っていた。


「おかえりなさいませ。カレンお嬢様」

 そう言ってリーサと呼ばれた女性は深くお辞儀をする。

 30~40歳くらいの青髪の女性で、

 美人ではあるのだけど、多少貫禄を感じる堅そうなイメージがある。

 眼鏡を掛けており、顔立ちははっきりとは分からない。


「ただいま、リーサ。

 皆、紹介するわね。彼女はリーサ。私の専属の侍女をしているの」


「よろしくお願いします」

「「「「お世話になります」」」」


 何となく、その風貌で察していたけど、ルミナリアさんはやっぱり貴族の娘さんらしい。街の中央に家を構えているのを見ると、この街の大地主的な立ち位置なのだろう。


「それにしても、こんな遅くなのによく起きていたわね。リーサ」


「何を仰いますか。私リーサはカレンお嬢様の侍女ですよ。

 カレンお嬢様の為に生まれてきた存在です。常にカレンお嬢様の事を思い続けて生きておりますよ」


「じょ、冗談よね……?」

 ルミナリアさんは苦笑いしながら問いかけた。


「はい、半分は冗談です」


「……もう半分は本気ってことね。

 ……いざという時に頼れないと困るんだから、ちゃんと寝なさいな」


「はい、カレンお嬢様」

 ……どうやらリーサさんのちょっとしたお茶目らしい。

 見た目の割に、意外と面白い人なのかも。


「ところで、お父様とお母さまは?」


「カレンお嬢様が帰宅するのを今か今かとお待ちしておりますよ。

 すぐにでも行ってあげてください」


「分かったわ。リーサ、悪いんだけど後ろの四人は私の大切な友人なの。

 宿が無くて困ってたようだから、今日は一晩泊めてあげるつもりよ。部屋に案内してあげて」


「かしこまりました」


「それじゃあ、私は着替えてくるから」

 そう言うと、ルミナリアさんは二階へ上がっていった。


「さぁ、皆さま。どうぞこちらに」


 ◆


 リーサさんに僕達はそれぞれ個室に案内された。


「さぁ、こちらの部屋をお使いください。

 部屋の中にいるものは自由に使ってもらって構いませんので」


「あ、ありがとうございます。リーサさん……」


「いえ、仕事なので気にしないで下さい。それでは私はこれで」

 リーサさんはスカートの裾を摘んで軽く頭を下げると一階へと降りていった。


「ふぅ~、やっと落ち着ける」


 僕は部屋のベッドに腰掛けて大きく息をつく。

 大きなお屋敷だけあって客室は広く綺麗で、まるで高級ホテルみたい。

 まるで、じゃない。本当に何もかも高級過ぎる。


 例えば、部屋に飾ってある絵画。

 それに、置かれているソファーに僕が今寝転がってるベッド。

 隅に置かれている壺や家具、どれも見るからに高額そうだ。


 今、僕は滅茶苦茶緊張している。


「………ど、どうしよう。下手に触れて壊したりしたら……」

 今までの人生の中でこんなに高いものを見たことがない。

 そもそも、これを買うとしたら一体どれくらいかかるんだろうか……。


「……まぁ、とりあえず今は考えないようにしよう」

 変なことを考えると気が重くなるだけだし、ここは気持ちを切り替えよう。

 よし、今日は疲れてるし、このまま横になって―――


「失礼します、レイ様。

 浴槽の準備が整いました、こちらへどうぞ」


「……あ、はい」

 

 ◆


 僕が風呂場へ向かうと、

 そこにはタオルを持ったメイドさんが居た。


「それでは、お背中お流しいたしますので、服を脱いで頂けますか?」


「えっ!?」

「どうかしましたか?」


 どうかした?じゃないよ。

 そんなこと言われたら誰だって躊躇すると思う。


「あ、その……自分で体洗うので……」

「カレンお嬢様のご友人にそのような失礼なことは出来ません!!!」

「えぇー!?」


 ……結局、服を脱がされ、そのまま背中を洗われてしまった。恥ずかしかったけど、凄く優しく丁寧に洗ってくれたので、何とか耐えることができた。


「ありがとうございます。とても心地よかったです」


「それは良かったです。

 それにしても、レイ様。まだお若いというのに体に傷痕がいくつも……」

 体をジロジロ見られるのは恥ずかしい……。


「あ、まぁ……冒険者なので……。

 ところで、カレンお嬢様というのは、ルミナリアさんの本名ですか?」


「はい。お嬢様の本名は『カレン・フレイド・ルミナリア』という名前です。

 外では『カレン・ルミナリア』と名乗っておられたようですね」


 フレイド?

 ミドルネームまであるなんて、やっぱり結構な人なのかな。


「そうなんですか」


「ちなみに、カレンお嬢様の年齢はピチピチの18歳です」

「……な、なるほど」

 何をアピールしてるんだろう、このメイドさんは。


「カレンお嬢様は美しいというのに、男っ気が全く無くて……はぁ」

 そして、こっちを伺うような顔をするのは止めてほしい。

 このメイドさんは、僕に一体何を期待しているのか。


「そろそろ上がりましょうか。

 体を拭き終わったらこちらの服を着てくださいね」


「分かりました」

 僕は渡された衣服を持って脱衣所から出る。

 良かった。これで『体をお拭きしますね』とか言われたらどうしようかと。


「あ、体お拭きしましょうか?」

「やめてください!」

 何で僕の心の声聞こえてんの!!??


 ◆


「はぁ、今日一日だけでどれだけ寿命縮んだだろう……」

 僕はメイドさん達に用意して貰った服に着替えて部屋に戻る。


「もう疲れた……寝よう」

 僕はベッドに入り目を瞑る。今日は色々あり過ぎた……。

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