第185話 通りすがりのお嬢様
その後、僕たちは無事地上に戻ることが出来た。
「……あー、疲れた。
しかしこれでようやく街に戻れるな」
「だらけ過ぎだ。帰るまでが任務だぞ」
ウオッカさんの言葉にリカルドさんが生真面目に答える。
だけど、その言い方は嬉しそうではあった。
「それじゃあ、報酬だな」
「そうだな、キミ達には世話になった」
と、そう言いながら二人は報酬を僕達に渡そうとするのだが、
僕はそれを止める。
「リカルドさん、それは後で。それよりも、僕達をリカルドさん達の戻る街まで連れてってもらえませんか?」
「ふむ? それは構わないが、
……随分真剣な顔をしているな、何があった?」
僕達は、相談した内容をリカルドさん達に話すことにした。
勿論、その場に居なかった姉さんにも伝える。
◆
「……なるほど、あの男は想像以上に厄介な存在のようだな」
「まさか、魔王誕生を目論んでやがるとは……。実質的な敵の総大将じゃねえか、確かにおまえらの言う通り放置はできねぇな」
「はい、ですが奴の居場所が分からない。
居場所さえ分かれば不意を突いて、今度こそ捕まえられると思うんです」
「……もしや、その男は我らの街へ向かってる可能性があると?」
「………」
僕は無言で頷く。
奴の最終的な目的が<魔王>なら人間を利用して復活を早めようとするはず。そして奴は行商人を名乗っているなら、堂々と街へ足を運び<黒の剣>を冒険者に売りつけようとするだろう。
そして、それが出来る最も近い場所はリカルドさんの本拠地の街の筈だ。
「なるほど、確かにその考えはありえるかもしれん。
分かった、ならば我らの街<サイド>へ案内しよう」
「ありがとうございます」
そうして、僕達はリカルドさん達に案内され、
<サイド>という街に向かうことになった。
◆
そして、僕達の馬車で数時間進み、ようやく街に着くことが出来た。
「ようやく着いたな。
しかし、予定外に時間が掛かってしまった。既に深夜か」
「流石に今からは遅いかもな。
報告は明日で良いんじゃねえの?ギルドも多分閉まってやがるぞ」
「む………不本意だが、そうかもしれない」
<サイド>という街に着いた僕達だったが、時刻は既に真夜中を過ぎている。
「仕方ないですね、今日はここで泊まることにしましょう」
「……そうだな、それがいいだろう。
だが、時間も遅い。今から宿が空いているだろうか」
……困ったな。街まで来て野宿はしたくない。
何より、僕達は疲れ切ってる。野宿だといざとなった時に力が出せないかもしれない。
「俺たちの住処に寝泊まりしてもらうか?」
「ウオッカ……十人近くの男が寝泊まりしてる場所だぞ?
それをこんな、少年や少女………それに」
リカルドさんは最初に僕、エミリア、レベッカと顔を見ながら口を動かし、最後に、
「……」
「???」
最後に、姉さんの顔を見て、顔を赤くした。
「……こ、このような可憐な娘が居るところで、男共と一緒に一夜を過ごすなど、そんな不潔なこと出来るわけがないだろう!」
「お、おう、そっか、悪かったな」
「う、うむ。とりあえず、宿屋を探すとするか」
リカルドさんの真面目さのおかげで、
姉さん達を危ない目に遭わせずに済んだようだ。
……しかし、
「……困ったな、このような時に限ってどこも埋まっているとは」
最初に予想した通り、やはり宿は何処も空いていなかった。
「どうするよ、この辺は治安が悪い訳でもない。
仮に、夜中に女子供が歩いていても問題は無いはずだぜ?」
「そうなのだが、だからといってこの子たちを危険な場所に連れて行くのは……」
リカルドさんは僕達の方をちらりと見て、ため息を付いた。
そこに、意外な人物が現れた。
「……そこの人達、どうしたの?」
後ろから女性の声が掛けられる。何処か、最近聞いたことのある声だった。
そこには――――
◆
「ルミナリアさん!?」
そこには、以前に出会ったことのある青髪の剣士さんが居た。
「あれ?何処かで見たことがある姿だと思ったら、エミリアさんと……あと、レイ君だったかしら?」
意外だ、まさかこんな場所でまた会うことになるとは。
しかし、エミリアはルミナリアさんに嬉々として話し掛ける。
「ご無沙汰ですねえ、急ぎの依頼を終わったんですか?」
「あ、あの子の手紙読んでくれたのね。
ええ、ちゃんと終わらせて、今は一旦この街の実家に戻ってきてたのよ」
どうやらエミリアとルミナリアさんは会ったのは二度目だと言うのに、結構仲が良いらしい。
「それで、あんたたち……えっと、そこの銀髪の二人もお仲間かしら?
こんな時間にどうしたの?もう宿も残ってないと思うんだけど……」
銀髪の二人と言うのは、ベルフラウ姉さんとレベッカの事だ。
以前会った時、ルミナリアさんは僕とエミリアとしか出会っておらず、二人とは今回が初対面だ。
「初めまして、ベルフラウよ。貴女の事は以前に聞いているわ。弟のレイくんとエミリアさんがお世話になったそうですね。ありがとうございます」
姉さんはルミナリアさんに丁寧にお礼の言葉を述べる。
「わたくしはレベッカと申します。
ルミナリア様の事はお聞きしております。お会いできて光栄でございます」
レベッカは姉さん同様、礼儀正しく挨拶をする。
「あら、貴方達姉弟は貴族か何かなのかしら?とても綺麗な言葉遣いでびっくりしたけど……」
「あ、そういうわけじゃ……。二人とも素でこんな感じなので」
僕はルミナリアさんに補足を入れる。
「そうだったのね。同じ銀髪だし、三人とも家族なの?」
「ええ、そうよ」
僕が何か言う前に、姉さんが言い切ってしまう。
いや、二人は僕にとって家族同然の存在だから別にいいんだけど……。
「へー!それは良いわねぇ。
私は一人っ子だけど、妹みたいな子がいるのよ」
それは、前に一緒に居たリゼットちゃんの事かな?
「あ、ごめんなさいね。つい一人で盛り上がっちゃって。
それで、こんなところでどうしたの?もしかして宿を探してたりする?
良かったら、私の家に泊まっていく?」
ルミナリアさんの家はここから近いみたい。それなら野宿をせずに済む。
「本当ですか!?是非お願いします!」
エミリアとルミナリアさんだけの二人でどんどん話が進んでいく。
「エミリア、流石に迷惑だって……」
こんな深夜に押し掛けたらルミナリアさんの家族の人がどう思うか。
「気にしなくていいわよ。
両親には私からちゃんと話しておくわ」
「だ、そうですよ。
ここは彼女の好意に甘えましょう。レイ」
「……ありがとうございます。ルミナリアさん」
姉さんはルミナリアさんに姿勢を正して感謝の礼を述べた。
それに続いて三人も僕に習う。
「あ、そんな大したことじゃないし、頭上げて……」
「いえ、本当に助かりました。このご恩は必ずお返しいたします」
レベッカも姉さんと同じように、丁寧なお辞儀をした。何か、さっき姉妹扱いされてたせいか、本当に姉さんとレベッカが姉妹に見えてきた。
「……えっと、お待たせしました。
リカルドさん、ウオッカさん、今日はルミナリアさんの家に一晩お世話になることにします」
僕はさっきからこちらの様子を遠くで見守っていた二人に伝えた。
「……そうか、まぁ彼女なら安心だろう。
しかし、ルミナリア殿がこの街に戻っていたとはな」
「ああ、てっきり王宮からずっと帰ってきてないと思ってたぜ」
リカルドさんとウオッカさんは少し驚いた表情を浮かべる。
「え?知り合いなんですか?」
「知り合い……というほど親しい間柄ではないが、
以前に、とある魔術師を追って一緒に仕事を請け負ったことがある。その時にな」
「その時の仕事はかなり前の話だがな」
なるほど、冒険者の仕事を一緒にしたことがあると。
「まぁ、ルミナリア殿の家なら安心だ。
それでは明日、ギルドに報告に行くつもりだ。その時にまた会おう」
「じゃあな、レイ!」
「はい、お休みなさい」
二人は自身の家の方へと歩いていった。
どうやら<特務隊>のギルドとして拠点を構えているらしい。
「それじゃあ、行きましょうか」
ルミナリアさんはそう言ってから僕達に背を向けて歩いていった。
僕達はそれを追いかけていく。
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