第183話 名前負け
技の負担で体が痺れて動きづらいけど、
僕は二体ほどのレッサーデーモン達を相手にしていた。
そこに、少し離れたところから声が響いてきた。
『死ねええええええ!!!』
「………」
敵みたいな事言ってるけど、声の主はエミリアだ。
言葉は酷すぎるけど元気みたいだし、多分優勢なんだろう。
少しするとあちらの戦いが終わったようで静かになった。
負けたとは流石に思いたくない。まぁあの三人なら大丈夫だろう。
気になるのはリカルドさん達だ。
流石に苦戦するだろうし、ウオッカさんもかなり無理させちゃってる。
『レイ様ー!どこですかー!!』
『こっちは終わりましたよー!!』
レベッカとエミリアの声がまた聞こえてきた。
どうやら無事に勝てたようだ。
続いて姉さんの声も聞こえた。
『愛しのお姉ちゃんはここだよー!!』
気が抜けるから止めてください。
「あとは、こっちだけか」
目の前のレッサーデーモン二体を睨みつける。
技の負担のせいで、少し苦戦してしまってるけど、こうなると時間の問題だ。
僕が少し時間を稼ぐだけで三人が参戦してくる。
そうなれば、僕達の勝ちは揺るがない。
腕の痺れもだいぶ消えてきた。
そろそろこっちから攻めても大丈夫かな?
「さ、こっちも終わらせよう」
僕は剣を構え直して、片方のデーモンに斬りかかる。
「ちいっ!」
片方のレッサーデーモンもこちらに応戦し、爪で剣を受け止められる。
やっぱりちょっとまだ腕が痺れてるかな……。
僕は一旦距離を取って、左手で魔法を使用する。
「
「な、なにっ!?ぐあっ!!」
左手から魔法弾が放たれ、それに直撃した片方はそのまま壁まで吹き飛ばされ、地面に崩れ落ちる。どうやら、壁に当たった衝撃で首の骨が折れてしまったらしい。
「くそっ!?あっさりやられやがって……」
「もう仲間は居ないんじゃないかな、親玉には逃げられたみたいだし」
後は、攻め込まれないようにすれば僕の勝ちだ。
しかし、ここで魔物は予想外の行動に出た。
「くそっ!!こうなったら!!!」
レッサーデーモンは虚空に手を伸ばし、そこから<黒の剣>を取り出した。
「――!!それは……!!」
僕が動揺していると、レッサーデーモンは自らの腹部にその剣の刃先を向け、そのまま貫いた。
「ぐあああああああああ!!!」
レッサーデーモンは、苦痛で絶叫するが……。
しばらくすると声が止み、その身体が膨れ上がっていく。
「な、なんだこれは!?」
僕の目の前のレッサーデーモンは姿を変えていき、
その姿をアークデーモンへ姿を変えた。
目の前の光景が理解できず唖然としていると、
僕の後ろから声を掛けられる。
「そいつが、俺たちの見た剣だ。
その武器をいきなり自分に向けて貫くと、魔物が急に強くなりやがるんだ」
「ウオッカさん」
振り向くと、ウオッカさんは気絶しているリカルドさんを支えて立っていた。
「どうして、そんなことを……?」
「さあな、追い込まれた悪党の気持ちなんて分かんねぇ。
だが、無条件に強くなるってわけでもないだろ。自分の生命力とか削って無理矢理強化してるんだと思うぜ」
つまり、追い込まれたから命を犠牲にしてでも力を求めようとしたわけか。
「でも、今更アークデーモンになったところで……」
「……いや、レイ、前をよく見ろ」
「えっ?」
ウオッカさんに言われて、悪魔の姿を見ると、まだ姿を変えようとしている。
どうやらアークデーモンは進化過程の途中だったらしい。
「やべぇぞ、アークデーモンの上位といったら……!!」
「えっ、そんな奴がいるんですか!?」
「いや、知らねえのか……。
まあ、俺も詳しくは知らないんだけど、
名前が怖い。
「強いんですか?」
「成体のドラゴン並みに強いって聞いた事はあるな」
マジですか。
「……ウオッカさん、上手く逃げられませんか?」
こんなのを相手にしてられない。
自分も含めて全員かなり消耗しているはずだ。
「おう、そうしたいところだけど、こいつを置いていく訳にもいかねぇんだよ」
……確かに、この人ならそう言うとは思っていたけど。
「まぁ、何とかなるだろ」
「そうですかねぇ……」
目の前の魔物は更に姿を変えて君の悪い化け物に変化している。
「レイ、そっちは終わり……って、何ですかそいつ!?キモッ!!」
「レイ様、ウオッカ様、その魔物、強敵そうです。一旦お下がりください」
「レイくん達、今の間に回復してあげるわ、こっちに来て」
エミリアとレベッカ、それに姉さんが駆けつけてくれた。
全員無事みたいだし、どうにかなりそうだ。
「よし、みんな一気に片付けよう」
「俺はリカルドを背負っているからちょっと向こうに行ってくるぜ。
ついでに休憩してくるから後は頼むわ」
「えぇ………?」
まぁ、かなり消耗してるし仕方ないかな……。
そして、ウオッカさんは本当に端の方に避難していった。
「あ、レイくん、私は先にリカルドさんの回復してくるわね」
一緒に姉さんもウオッカさんの後に付いて行った。
これで、リカルドさんも大丈夫だろう。
「レイ、新種の魔物なので<能力透視>使いますね」
「うん、お願いするよ、エミリア」
「任せてください!
Lv65
HP1300/2000 MP1000/1200
攻撃力450 物理防御250 魔法防御300
所持技能:詠唱Lv35 高速飛行Lv10 回避Lv10
所持魔法:上級攻撃魔法Lv25 複合攻撃魔法Lv25
耐性:状態異常無効、魔法攻撃半減
補足:黒の剣で強制的に進化した姿
本来の<地獄の悪魔>に比べてHPMPが低く弱体化している。
翼で空を飛んで回避するのが得意、強力な攻撃魔法を使用する。
「魔法攻撃半減、状態異常無効、
本当に悪魔系は魔法使いの天敵ですね……イラッと来ます」
「全くだよ……」
魔法主体で戦う僕たちにとっては非常に厄介な特性を持つ相手だ。
ただ、本来よりは少し弱体化しているらしい。
「お待たせ、レイくん。リカルドさんはまだ目覚めないけど、ウオッカさんは十分回復したから連れてきたわ」
「おう、お前の姉ちゃんに連れて来られたぜ。折角なんで休憩させてほしかったんだが、もうちょっと年長者を大事にしやがれ」
「……あ、はい」
そんなに強いんだから頼るのは許してほしい。
まぁ、でも確かに働かせすぎな気がしないでもない。
それじゃ、そろそろ戦闘を再開しないと。
「ウオッカさんとリカルドさんには後で街に寄って食事でも奢りますよ」
「しゃあねえなぁ、じゃあ最後に一仕事するか」
そんな事を言ってると
「ギシャアアアアアアアアアアア!!!!」
これは<咆哮>という魔物専用のスキルだ。
範囲内に
「うるせえぁああああ!!!!」
ウオッカさんは奇声に文句を付けながら斧を振るう。
しかし、悪魔は機敏に動き攻撃を躱す。
「おおう、流石に雑魚と違うか」
そのまま悪魔は飛び上がり、空中から<火球>を放ってきた。
「させませんよ!
それにエミリアが応戦して、同種の魔法を放ち相殺した。
そこに、レベッカが弓を取り出し、<地獄の悪魔>に向けて矢を放つ。
しかしその矢も空を飛んで回避する。
「わたくしもこの手の魔物は苦手でございます」
高速で空を飛ぶ相手には矢がいつも当たりにくいからね。
そして地獄の悪魔は魔法を唱え始める。
詠唱速度はアークデーモンよりも更に早い。
「
空から僕達に電撃の魔法が飛んでくる。
流石にまともに受けると大きなダメージを受けてしまうだろう。
「
姉さんの防御魔法が展開される。
降り注いだ電撃が姉さんの防御魔法によって防がれ、威力が軽減する。
「助かったよ、姉さん」
「うん、それにしても流石に疲れたわ……」
今のところ、一進一退の攻防と言ったところだけど……。
「一気に決めたいところだけど、あんまり力が出せないかも……」
「そうですねぇ、私もちょっと上級魔法連発し過ぎました」
「エミリア様は最近上級魔法ばかりお使いになりますから……」
女の子達はこんな感じだ。
互角には戦えているけど、お互い決め手に欠ける。
「何とか地上に引きずり下ろしたいところだね」
「それならわたくしが矢で……」
レベッカは再び弓を番えて、悪魔に向かって矢を放つが上手く躱されてしまう。
「むぅぅ……!!」
何かレベッカがちょっとイライラしてる。
「
そしてまた攻撃魔法を使ってくる。
それにしても詠唱が早すぎる。こうやって大人数で無ければ苦戦していただろう。
「みんな、下がって!―――凍てつく氷よ!!」
剣に氷の魔法を付与し、目の前の地獄の炎に向かって走り、薙ぎ払う。
流石に普通に使っても防ぎきれないので、僕も相手の炎が途切れるまでは魔法力を使い続けて氷の刃を放出し続け凌ぎきる。
そして、魔法の力を帯びた刃は途切れた炎を切り裂き、
悪魔の胴体部分に当たる部分に直撃する。
「ギャァア!?」
軽くダメージを与えられたものの、致命傷には程遠い。
「よし、今ですね!!
エミリアの中級魔法四種を合成した魔法が発動する。地獄の悪魔に着弾すると、それぞれ全属性の攻撃が発動し、最後に大きく吹き飛ばされた。
「次はわたくしが行きますね。
―――世界よ、我が声に、応えよ!
エミリアの魔法を受けて動けなくなったところに、今度はレベッカの魔法で動きを止める。
その間に僕は
「これでトドメ!!!」
最後に、剣の一撃を加えると同時に雷撃を悪魔に落とした。
「ギィイイヤアアア!!」
悪魔は断末魔のような悲鳴を上げながら倒れ伏す。
流石に<地獄>の名を冠するだけあって、結構手ごわい相手だった。
◆
「終わったー」
「おう、お疲れさん」
戦闘が終わった後、リカルドさんが目を覚ました。
「くぅ……すまない、どうやら迷惑を掛けたようだな」
「いえ、そんなことはありません。お互い大変でしたね」
ただの調査依頼だったのだが、探している人物と出くわしてしまった。
「まぁ、おめえも頑張ったよ」
「面目ない、まさか不意を突かれてしまうとはな」
考えることは沢山あるけど、一応今はまだ依頼の最中だ。
悪魔を倒したが、調査自体は終わっていない。
「……一難去ったことだし、このまま帰りたいところだが、
依頼は全て終わっていない、少年たち、もう少し付き合って貰えるだろうか?」
「それは、構いませんけど……。あと、何が残ってるんですか?」
「ミスリルの鉱石を姿を確認できていない。
もう一つの任務に『この廃坑がまだ利用価値があるか』というのがある」
「しかし……」
「分かっている。
だが、受けた依頼は完遂せねばならない」
「そんなボロボロでまだ依頼優先か、本当にクソ真面目な奴だよ」
「仕方あるまい。それが性分なのだから」
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