第181話 乱戦

 一斉に襲い掛かってくる悪魔の群れに対し、僕達はそれぞれ迎撃態勢を取った。

 悪魔の数は合計十、ウィークデーモンが一体、レッサーデーモンが七体、アークデーモンが二体だ。

 レッサーデーモンですら少し前に倒したゴブリンウォリアーよりも強い。

 その上の、アークデーモンは単純な戦闘力は下位種よりも遥かに凌ぐ強さを持っている。


 今、僕達はとてつもない危機に晒されている。


「レイ……まともに戦うとマズイですよ」

「うん、でもこの場を何とか切り抜けないと……!!」


 幸い、さっき設置した<迷宮脱出魔法>はまだ残っている。

 何とか、魔法陣を使ってこの場から離脱したいところだけど……。


「おっと、忘れていたな」

 デウスは手を翳した。魔法を撃つのかと思い、こちらは警戒するが……。


「何、私は手を出さないさ。

 ただそこの魔法陣は邪魔なのでな、封じさせてもらう」


「え……」

 デウスは手を横に振る。

 すると、設置してあった魔法陣の色が変色し、光が消え去ってしまった。


「これで脱出は不可能だ。

 レッサーデーモン、私は先に帰るが……後は分かっているな?」

「ハイ、お任せを」

 レッサーデーモンは返事を返すと、デウスは消え去った。


「空間転移―――?」

 奴が使った魔法は空間転移にそっくりだった。

 何らかの魔道具を使っている可能性は高いが、逃げられてしまった。


 だが、これなら―――


「では、死ね」

 アークデーモンは手を翳し、こちらに魔法を放ってくる。

 しかし、一手こちらが早かった。


<重圧>グラビティ

 レッサーデーモンは放つより先に、レベッカの重力魔法が発動する。


「グガァッ!?」

 魔法は直撃し、レッサーデーモンはそのまま地面にめり込んだ。


「レベッカ、ナイス!」

「はい!」

 レベッカは嬉しそうに笑うと、そのまま攻撃に移った。

 今の魔法が切っ掛けに、魔物達が一気に襲い掛かってくる。


 あのデウスという男がいなくなったのはむしろチャンスだ。

 ここにいる魔物は確かに強敵ではあるけど、勝てないレベルの相手では無い。

 不確定要素が無くなった分、こちらにもチャンスが生まれた。


 アークデーモンの一体はレベッカの魔法で動きが制限されている。

 しかし、他の魔物は特に制限はない。なので、僕の方にも襲い掛かってくる。


「レイ、弱ってる奴を仕留めてください!!」

 後ろからエミリアの声が飛ぶ、おそらく後ろも戦闘中だ。

 支援は期待できないだろう。


「分かった!!」

 僕が狙うのはレベッカの魔法を受けたアークデーモンだ。

 デウスに直接命令を下されてたし、こいつらのまとめ役なんだろう。


 僕は接近しながら剣に魔法を付与させる。


「剣よ、炎を纏え!!」

 <龍殺しの剣>に炎を纏わせ、アークデーモンに斬りかかろうとする。

 そこに、別のレッサーデーモンが割り込もうとするが、構わずそのまま突撃する。


「邪魔だ!!!」

 僕はそのまま剣で薙ぎ払い、割り込んできたレッサーデーモンを両断する。

 割り込んできたデーモンは一撃で倒せたが、時間を僅かに稼がれてしまう。


「グルォオオオッ!!!しねえええええ!!!」

 どうやら、レベッカの魔法の硬直が切れたようだ。

 アークデーモンは滑空しながら、こちらに魔法を放ってくる。

 しかし、遅い。

 詠唱時間は速いものの、既に距離は詰めている。


 アークデーモンが使用したのは<上級獄炎魔法>インフェルノ

 以前なら簡単には対処できない魔法だったけど、こいつ程度の魔法なら、おそらくあの技で十分対抗できる。


 僕は一瞬だけ目を瞑り、そして剣を振り上げる。


「<衝撃破壊>!!!」

 さっき、ウオッカさんに教えてもらった技だ。

 地面に剣を叩きつけた衝撃で、上級魔法の火炎を打ち消す。

 そして、そのまま衝撃波はアークデーモンまで伝わり一気に消し飛ばした。


 ――以前は強敵だったけど、今回は簡単に勝負が付いたな。


「………っ!!」

 一瞬気が緩んだ瞬間、負担が襲い掛かってくる。

 ダメだ、まだ戦闘中なんだから……!!


「……<中級回復>キュア

 自身に回復魔法を使用し、激痛が走った腕を少しでも癒す。


 ……腕がまだ痺れている。

 即座に戦線復帰は出来ないかもしれない……。


 だが、そうはいかない。

 他の人が必死に戦ってる以上、僕が休むわけにもいかない。

 しかし、状況が混戦している。どこに手助けにいくか考えないと……。

 その間に、少しでも回復出来ればそれが理想だ。


 周囲の状況を確認する。

 まず、レベッカとエミリアはもう一体のアークデーモンの取り巻き達と戦闘を行っている。

 相手はレッサーデーモン達六体、二人で連携を組んでいるお陰で多数の悪魔を同時に相手取ることが出来ているようだ。


 姉さんは離れた場所から二人を支援している。

 さっき<極大大砲>を2度も放ち、体調を悪くしていた姉さんは消耗しきっている。おそらくもう攻撃魔法は放てないし、動きの早い悪魔達相手に接近戦などとても無理だ。

 なので、離れた位置から魔法や能力で支援してどうにか拮抗させている。


 戦況は少し不利、囲まれてしまうと厳しい状況だ。

 どれくらい保つかは分からないけど、僕が何体か受け持てればどうにかなる。


 そしてもう一方、

 リカルドさんとウオッカさんはアークデーモンを受け持っている。

 状況的にかなり厳しいようだが、なんとか戦えている感じだ。


 相手がアークデーモン一体、しかもどうやら敵は油断している。

 リカルドさんが抑え、ウオッカさんが少し後ろで様子を伺っているようだ。

 多分、逆転の機会を狙っているのだろう。


 ……よし、決めた。


 僕は左の鞘から<魔法の剣>抜き、

 それをエミリア達が戦ってるレッサーデーモンの一匹に投げつける。


「グアアアッ!!!」

 よし、投擲した剣が何とか当たったらしい。

 今ので倒せはしなかったけど、何匹かこちらに注意が向いたようだ。


「こっちだ!!僕を自由にさせていいのか!!」

 僕は逃げるふりをするために、奥に走っていく。


「おい、あのガキ逃げていくぞ!!」

「追え!!!」


 ……やった、引っかかった!

 レッサーデーモン二匹ほどこちらに釣られたようだ。僕を追ってくる。



 少し距離を取ったところで再び剣を構えて二匹を待ち構える。

 まだ腕は痺れているが、無理に倒そうとしなければどうにかなるだろう。


 ………?

 そういえば、見掛けなかったけど、もう一匹小さめの悪魔が居たような。

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