第176話 小五ロリ
以降、頭目はリカルドさんとウオッカさんが分担しながら進んでいた。
ウオッカさんの説得で、連携することを意識するようになってからリカルドさんも前に出過ぎないように、僕達に助力を求めながら魔物と戦うようになった。しかし、奥に進むたびに魔物が強力になっていく。そこは少し心配だ。
……でも良かった。
これで危なっかしいリカルドさんも大丈夫だろう。
「……ふふ」
「どうしたの、姉さん」
僕の隣で微笑んでる姉さんを見て首を傾げる。
「いえ、レイ君は優しいなって思って」
「え?」
「だって、リカルドさんのこと心配してたでしょ。それに……」
「それに?」
「何て言うか、この世界に転生してきたばかりのレイくんとリカルドさん。ちょっと立ち位置が似てるなって」
「え、そうかな?」
そんなに似てただろうか……。
少なくとも、転生当時の僕は普通のひ弱な一般人で、
剣の達人のようなリカルドさんと全然違うと思う。
「強さじゃなくて、思い出さない?
レイくんに今の剣を教えてくれた人、そしてその人から学んだ事。
何となく、リカルドさんとウオッカさんに似てるかなって」
……当時の事を思い出す。
僕に剣を教えてくれた人は、アドレ―という元冒険者のとても強い人。
非力な僕に戦い方と信念を教えてくれた。
『信念を持て、そうすれば斬れるようになる』
『信念…?』
『ああ、信念だ。
俺はこの剣が届く範囲の仲間や家族は命を懸けて守る。
それを邪魔する奴は誰であろうと切り捨てる、例え人間でもな。
お前はどうだ? 自分の為ではなく、大切な人の為に戦うことが出来るか?』
僕に剣を教えてくれた師匠、アドレ―さんの言葉だ。
その言葉に、僕は当時は即答出来なかった。
だけど、今の僕なら答えられる。
「―――守るよ、全部。
大切な仲間の為に、好きな人の為に、優しい人たちの為に。
この世界を魔王なんかに好きにさせない」
あの時の答えとは違う、僕の本心をはっきりと口に出す。
リカルドたちの関係と僕達の関係は全然違うし、
心情も全く別物だろうけど、想いの根底はきっと同じだ。
「ふふ、その言葉が聞けたら安心ね」
「レイ様……カッコいいです」
僕の独り言に、女の子達が反応してしまった。
物凄く恥ずかしい。
「レイ………」
「な、何?エミリア」
「いえ、立派に成長しましたね……私は嬉しいです」
「いや、お母さんか!!」
育ての親みたいなこと言わないで!!
「ほら、先に進みますよ。
ウオッカさん達に追いつかないと」
「うん」
「はい!」
「はーい」
◆
調査は順調、そして魔物も問題なく討伐していける。
しかし、病気が蔓延した理由は今のところ分からない。
ついでに言えば、採掘跡は見られるが、ミスリル鉱石はまだ目撃できていない。
そして、かなり奥に進んだ時、後ろの姉さんからストップがかかる。
「みんな、ちょっと止まって。
この先、この先は危険だと思うから」
珍しい。姉さんがこうやって強く意見を出すことは普段あんまりない。
「ベルフラウ殿、どうされたのですか?」
リカルドさんの言葉だ。何故か、姉さんに対してだけ『殿』と付けている。
僕には少年呼びなのに。
ちなみに、エミリアは黒髪の少女、レベッカは可憐な少女だ。
レベッカに対する呼び方が分かり難くて、全員から突っ込まれていた。
というか、何で名前呼びしないんだろこの人。
「すこーし、嫌な気配がするのよね。
何というか邪気が感じるの、進む前にお祓いした方がいいかも」
「そうですね、わたくしも感じます。
恐らく、この先に何かあると思われます」
姉さんと、それにレベッカも答える。
二人とも、この先に何かがあると踏んでいるようだ。
「おいおい勘弁してくれよ。
そういった類は俺はあんまリ信じてないんだが……」
ウオッカさんは頭を掻いて言った。この世界でも霊的なモノとか風水ってあんまり信じられてなかったりするのだろうか……。
「でも事実よ、対策しないと身体に害があるかも」
「害……もしかして、昔病気が流行ったのはそれが理由なのだろうか……」
リカルドさんは思案し始めた。
確か、奴隷の人が反乱を起こした後、病気が流行ったせいでこの鉱山は閉鎖されたって話だったね。
「その件と関係はあるか分からないけど、
とりあえず<浄化>しちゃうわね、それである程度大丈夫だと思うから」
「了解した、ベルフラウ殿、お願いする」
「僕からもお願い」
僕とリカルドさんの言葉を聞いて姉さんは前に出て詠唱を始める。
「―――聖なる力で、払いたまえ、清めたまえ。この地に女神の祝福を」
詠唱すると姉さんの体が光り輝く、同時に周囲が<浄化>の光で照らされて明るくなる。
「―――女神ベルフラウの名のもとに、<大浄化>」
そして、最後の言葉で一気に輝き、数秒後には元の薄暗い空間に戻った。
だが、姉さんの浄化のお陰で、体が軽くなり胸のつかえも取れた気がする。
「これでもう安全でしょう」
「ベルフラウ殿、感謝します。
……しかし、ベルフラウ殿、先ほどの詠唱、『女神ベルフラウ』と言っていたような……」
あ、確かに言ってたね。
これ姉さんが女神だって気付かれてしまったんじゃないかな。
「え!?……えーっと、何となくそう言いたかっただけかしら?」
姉さん、その誤魔化し方は流石に気付かれるって……。
「そうでしたか、ベルフラウ殿は冗談も上手いようだ」
いや、バレてないし!!
リカルドさん、かなり鈍感なんだろうか……。
「あれですね、恋は盲目って奴でしょう」
「え、鯉?」
「その字じゃないです」
「レイ様、恋というのは異性に特別な感情を抱くことです」
レベッカが丁寧に説明してくれた。ごめん、知ってて言ってました。
「というかレイは知ってますよね、流石に」
「うん、今のは冗談」
「勿論、わたくしも気付いておりましたよ。そもそも、レイ様はエミリア様とわたくしに強い想いを抱いているようでございますし……」
………。
え、今なんて言った?
「……ねぇ、レベッカ、それどういう意味?」
「はい?そのままの意味ですけれど」
「そ、そう……」
………。
僕の気持ちがバレてるだと!?
いや、エミリアには告白を何回かした覚えがあるし、レベッカにも『好き』って伝えてるけども……!こんな常時、心が通じてる(一方的に)状態が常に展開されてるとは思ってなかった!!!
「別に今更気にすることないですよ」
エミリアにそんなことを言われてしまった。
「そうでございますよ。
以前のエミリア様との秘め事もレベッカは気にしておりませんし」
………。
「―――え、レベッカ、あの時の事気付いてたんですか!?」
今度はエミリアが驚いて言った。
あの時とは、ファストゲートで僕とデートしてたことだろう。
え、マジで気付かれてたの……?
「はい、エミリア様、帰宅なさってから上機嫌でございましたし、
次の日、それとなく質問しようとしたら激しく動揺されておりましたので、これはもしやと思いまして……」
どうやら見たわけでは無いけど、察することは出来たらしい。
「そうだったんですか……。
上手く誤魔化せたと思っていたんですけど……」
「ですが、わたくしは気にしておりませんよ。
もし旅を終えたら、わたくしの故郷に三人で参りましょう」
………。
「あの、レベッカ?それってどういう?」
「言葉通りの意味でございますよ。よくよく考えれば、無理に選ぶ必要も無かったのでした。
わたくしの故郷に来ていただければ問題なく多妻となれます。そうすればレイ様がいつも思い悩んでいる『自分は本当は誰が好きなのか』という悩みも解消されるかと……」
「ちょ、ちょ……ちょっ!!!ちょっと待って……!!!」
僕は慌ててレベッカの話を遮った。
「どうしました?」
「いや、だってさ、それは僕が二人ともお嫁さんにするって意味……?」
「はい、そのつもりで口にしました」
あっけらかんというレベッカだった。
「ま、待って、色々整理させて………!!」
「???」
まず、レベッカに僕の気持ちが全てモロバレしてるみたい!!
『好き』と伝えてた告白はまだしも『自分は本当は誰が好きなのか』は誰にも伝えたことなんて無い。
なのにレベッカはそれを察している!!
そして、レベッカの中では僕の気持ちがエミリアかレベッカの二択になってることまで気付かれてる!?
な、何でそこまで気付かれてるの!?
「何でそこまで知ってるの!?」
「あ、えーと、でございますね。わたくしの魔法の<全強化>を使うたびに、レイ様の感情がわたくしの心に入り込むようになりまして……」
レベッカは少し顔を赤らめながら言った。
<全強化>は全ての<付与強化魔法>が同時に施されるという魔法だ。
これをレベッカに掛けて貰って、僕が強敵相手に戦うのが定番になっている。レベッカによると、この魔法は僕以外の人間に掛けることが出来ないと言ってたことはあったけど……。
その魔法に、そんな効果があるなんて初耳です!!!
すっごく恥ずかしいんですけど!!うわあああああああ!!
……心の中で僕は羞恥で悶えていた。
「レベッカ、その魔法っていつから使えるようになったのですか?」
いきなり『多妻』とか言われてフリーズしていたエミリアは正気に戻った。
「ええっと……レイ様、言っても宜しいでしょうか?」
レベッカはエミリアに問われて、何故か困った顔をしながらこちらを見て言った。
「え、何で僕に聞くの?言ってもいいと思うけど……」
「そうですか、では言わせていただきます。
以前、レイ様に『私を、愛しておられるのですか?』と質問した際に『うん、好きだよ』と返事をしてくれた時、そして『もし、時が来て、わたくしを選んで頂けたのなら、その時は―――』」
「わああああああああ!!!待ってまって!!!」
僕はレベッカが言おうとしたことを遮り、慌てて手を前に出して制止した。
「レイ様、どうかなさいましたか?」
「いや……その……恥ずかしいから、もういいかな、と……」
自分でも分かるくらいに頬が熱くなってるのが分かる。よりにもよって、レベッカの告白シーンをこんな場面でエミリアに暴露されるとは思いもしなかった。
そして、それを聞いたエミリアは……。
「あー、なんというか」
エミリアは僕に視線を合わせずに目が泳いでいた。
「その、レイ、どんまい」「……」
エミリアの言葉を聞いて、僕はその場に突っ伏した。
「……あの、お三方、ここ、一応ダンジョン内で危険地帯だからよ。
そういう色恋沙汰の話はな、他所でやってくれねぇか」
黙って聞いていたウオッカさんがそう口にした。
「「「すみません……」」」
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