第169話 勇者探し隊

 仮に消えたとしてもすぐに復活する魔物への対処法。

 しかし、それはあまりにも非現実的な方法だった。


「エミリアちゃん、それは現実的じゃないわ。

 そもそもマナを消費するような技術なんて無いでしょ?」


「……いえ、あります」

 エミリアはそう言って、レベッカを見つめた。



「あるの?そんな技術が」

 姉さんは目を丸くする。


「はい、レベッカの使用する<精霊魔法>は自身のマナではなく、周囲のマナを集めて魔法に転化する技術ですから」


「えっ!?そうなの?」

 僕は驚いてレベッカの方を見た。


「はい。わたくしの扱う<精霊魔法>は大気中のマナを利用しています。

 ただ、想像以上に<精霊魔法>の使い手は少ないように思います。

 とてもこの世界に満ちるマナを消費しきれるとは思えません」


「そっか……」


「それに、街の全域を覆うほどの大規模な装置を作るには膨大な量の素材が必要になります。また、それを稼働させるためには大量の人員が必要になるでしょう」


「レベッカの言った大規模な装置の開発自体は、昔から考案されてはいるんですけどね……」


 エミリアのその言葉に、今度は姉さんが驚いた。

「えっ、それ本当?」


「はい、ゼロタウンやサクラタウンなど、

 権威のある学者が集う都市で何度か研究されているようです。

 ただ、大規模な実現には至っていないみたいで……」


「ふむ……それはレイ様が望むように、

 世界から魔物を消滅させる目的の為でございますか?」


「最終目標はそうだと思いますが、

 街や王都などの拠点を守り、生活水準を引き上げるのが目的だと思います。

 ちなみに、サクラタウンはこの技術を一部導入しているそうです」


「どんな感じに使ってるの?」

「マナを取り込む装置を作って、それを転送装置として使用していたはず。

 <空間転移>に近い感じですかね、あの手の魔法はマナ消費が大きいので消費するのにピッタリなんです」


「へぇ、便利に使ってるんだね」


「ちなみにゼロタウンでも使われてますよ?

 緊急時に都市を守るための結界を維持するのに使ったり、

 中央部に配置された噴水とかもその類ですね」

 噴水……。


「その噴水って、レイくんが頭に浴びるようにしてた噴水のこと?」

「姉さん、その話は僕に効くから止めて」


 前に、色々あって噴水に顔を突っ込んだ話を思い出した。

 あの時の事は恥ずかしくて思い出したくない。


「はい、レイが私に告白まがいのことをして、

 それに気付いたレイが羞恥のあまりに喫茶店から飛び出して噴水に顔を突っ込んで、不審者と勘違いされて通報されてしまい、そのあと補導されてしまった時の噴水ですね」

 エミリアが淡々と説明を始めた。


「やめてぇえええええ!!

 そんな冷静に言わないでよおおおおぉぉぉぉ!!!」


 ここにいる全員、

 その時の事を知っているとはいえ僕の黒歴史が暴露されていく……。


「落ち込むことはありませんよ、レイ様。

 あの時のレイ様はとても男らしくて素敵でした。

 わたくしにも同じ事をして頂きたいくらいでございます」


 レベッカはそう言って微笑んだ。

 多分告白の方の事を言ってるんだろうけど、

 この子、ぶっ飛んでるよね。


「あの時、レイは噴水の水飲んだりしませんでした?

 お腹壊したりしてません?」


「勘弁してよ……別に何もなかったけど」

 あの時は、ただ恥ずかしさのあまりに逃げてしまっただけなので、本当に何事もなかったのだけれど、思い出すとやっぱり少し恥ずかしかった。


「あの水はただの水じゃなくて、マナを水に変換してるので人によっては体調崩す可能性があるのです。だけど、問題なかったという事はレイの体に馴染んだという事ですね」


「そういう意味があったのか……。

 まぁ、特に害があるわけじゃないからいいんだけどね」


「ところで話を戻しますが、

 ベルフラウの言うような装置が作れたとしても、

 魔物が消滅した後の世界をどうするかという話ですよね」


「どうするかって、どういうこと?」

「私達の職業って<冒険者>ですよね」

「そうだね」

「何をする仕事ですか?」

「魔物と戦うこと?」

「はい、正解です。ということは?」


 あ、そういうことか。

「魔物がいなくなったら、戦う必要が無くなる?」


「そうです。魔物が消滅すれば、

 魔物を倒すために使っていた時間が全て自由に使えるようになります。

 つまり、冒険者としての仕事も無くなるということです」


「あっ……」

「つまり私達は揃って無職になりますね」

 言い方。


「その時は私はこう名乗ることにします。

『む・しょ・く?私を呼ぶならトレジャーハンターと言ってください!』……と」


「いや、言わないよ!?」


「エミリアちゃん、それ面白い!」

「でしょ?実は考えてたんですよ」

 どっかで聞いたことのあるセリフだけど、口を挟まないでおこう。


「まぁエミリアの言いたいことは分かったよ。要するに冒険者の仕事が無くなるから、それをどうにかしないといけないってことだよね」


「はい、そうなります」


「でも、そんな簡単に解決するようなことでもない気がするけどね」

 その時はその時で別の問題が発生するだろう。


「魔物の存在を懸念してる人は大勢いますから、もしかしたら実現するかもしれません。その壮大な計画の第一歩となるのが、勇者というわけです」


「つまり?」


「①勇者が魔王を倒す。

 ②勇者が褒美として『魔物を消滅させて欲しい』と願う。

 ③一時的に魔物を消滅させた世界に、魔道具を設置しマナを吸収させる。

 ④マナを吸収することで、魔物が生まれない世界を実現させる。

 ⑤吸収したマナを生活の中で消費させ溜めこませないようにする。

 ⑥冒険者が廃業して、トレジャーハンターになる……ということです」


「なんか最後だけ違うような気がする……」


「最後のは冗談です。

 でもこのやり方ならベルフラウの提案の

『マナを消す』よりも被害が少ないのではないでしょうか」


「確かに……」


「この方法は王宮の方でも議論されてると思うんですよ。

 <勇者>が生まれたことが本当であるなら、その準備に取り掛かる前段階に入ってるはず」


「エミリア様、慧眼でございます……」


「あれ、もしかして私なにかやっちゃいましたか?」

 レベッカの賛美にエミリアがとぼけた事を言い出した。

 絶対わざとだと思う。

 そもそもそういう発言はむしろ僕が言わなきゃいけないのでは?


 まぁ、これで少しは希望が見えたかもしれない。

 実現可能かどうかは置いとくとしても、プランが見えてきた。

 少なくとも、誕生した勇者は重要な存在だ。


 そして僕達だ。

 勇者では無いけど、冒険者として魔王討伐に協力することを約束してる。

 なら、やることが一つ増えた。


「つまり、これから僕達は――」

「そうね、レイくんは勇者ではないけど、世界の平和の為に動くなら勇者を見つけて、一緒に魔王を倒しに行けばいいという事になるわ」

 姉さんが僕の言葉を遮って、結論を出した。


「うん、そうだね」


「えっ、いいんですか?

 というかレイはもう勇者にならないんですか?」


「レイくん自身が拒否してるし、そこは仕方ないわ」


「そうですか、残念ですね……。

 多分ですが、レイは勇者に向いていると思いますよ?」

 エミリアは少し残念がっているようだった。


「でも、僕にはやっぱり向かないかな。世界平和どうこうより、のんびり平和に暮らしたいし、勿論それが無理なら戦うしかないんだろうけど」


 だから僕は勇者になるより、

 勇者に協力する立場の方が性に合ってると思う。


「ちなみに、仮にレイも勇者になって、もう一人の勇者と二人で魔王を倒した場合、願い事はどうなるんです?」


「それでも、叶えられる願いは一つじゃないかしら?

 それか結果的に魔王を倒した方の願いが優先されるとは思うわ」

 勇者になるつもりはないけど、そうらしい。


「神様って意外とケチですね」


「そういうものよ。

 というか、私も元女神なんだけど……」


「あー、すいません」

 なんだろ、今のやり取りを見て少しだけホッとした自分がいた。

 真面目な話をし過ぎたせいでちょっと疲れていたのかもしれない。


「まぁとにかく、そういう事よ。

 私達は、レイくんのサポートをしつつ、 レイくんのやりたいことを全力で応援するわ。だって、レイくんは私の弟だもんね」


「ありがとう、姉さん」



 しかし、この時僕達は全く気付きもしなかった。断ったと思っていたのは僕達側の話で、の方からすると、そんなの無関係な話で<勇者>として扱われていたことに。


 そもそも、異世界転生の時点で、僕は女神だった姉さんからミリク様が渡そうとしていたペンダントを貰っている。つまり、転生時点で強さや周りの認識は別として、女神の祝福を得た勇者と大差ない存在だったことを知るのは、もう少し後の話である。

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