第167話 謎の二人組
――二十七日目
お昼頃、僕達は宿を出てようやく村を出立した、
馬車で街道を進む最中にて、僕達は村の感想を言いながら旅をしていた。
「良い村でしたねー」
「はい、温泉もとても気持ち良かったです」
「お姉ちゃん、前より肌がきれいになったかも……」
女性陣は温泉の感想を中心として中々好評のようだった。
僕は予定外の冒険のおかげで温泉も長く入れずに、二日目に至っては心臓に悪いハプニングのせいでそれどころじゃなかった。
「まぁ、レイは出会った可愛い女の子と、
デートに夢中だったみたいですが……実際どうでした?」
エミリアがニヤリと笑いながら言った。
確かに可愛い女の子だったし、悪い気はしなかったけどさぁ……。
個人的に、その後の出来事の方が色々と衝撃だったよ。
「リゼットちゃんも印象的だったけど、
それ以降の話の方が僕としては色々印象に残ったかな……」
冗談抜きで強すぎるドラゴンと、
温泉で全裸を三人に見られたことが衝撃的すぎた。
そして、三人の湯浴み姿を思い返すと色々ドギマギする。
「リゼットちゃん……?」
レベッカがやや怪訝な表情をした。
そういえば、話をするとだけ言ってあんまり口にしてなかったかも。
「それって、あのお土産くれた子の話?
お姉ちゃんは会ってないから分からないけど、どんな子だったの?」
ベルフラウ姉さんが話に喰い付いた。
「そのお話はわたくしも興味があります。
エミリア様のお話ではお連れの女性もお美しい方だったとか」
レベッカも話に乗っかってきてしまった。
そして三者は手綱を持って馬車を動かしてる僕の方を向いた。
うっ……。
見えてなくても、僕の背中に視線が集まってるのが分かるのが怖い。
「えっと……」
僕は観念して、一度街道の休憩所で馬車を降りてから三人と話をした。
◆
といっても話の内容はあまり色気のない物だ。
青髪の女性を探してどういうわけか洞窟の最深部まで入っていったこと。その青髪の女性、ルミナリアさんは洞窟などに入っておらず、後からエミリアと一緒に僕達を追っ掛けて来たこと。
それと、彼女たち二人は物凄く強かったという事だ。
ルミナリアさんの方はエミリアの話では規格外の強さだったらしい。
―――という話をしたのだが、三人の反応は芳しくなかった。
「お姉ちゃんが訊きたかったのは可愛いかどうかなんだけど」
「あ……すいません」
思わず敬語になってしまった。
姉さんにとって可愛いかどうかは最重要なのだろうか。
いや、僕もそこは重要だと思うよ。
「しかし、レイ様が強いというのであれば相当なものなのでしょうね」
「うん、ルミナリアさんの方は戦ってる所を見てないけど、
リゼットちゃんは魔法も強力だったし、動きも機敏で物凄かったよ」
強力な範囲魔法による雑魚討伐の速度と、二刀の短剣で瞬時に距離を詰めて戦う接近戦の技量はかなりのものだ。それだけじゃなく、戦闘時の動きの迷いの無さ、相手の急所に正確に当てる技量と、戦い慣れている印象を受けた。
「レイくんとどっちが強そう?」
また回答に困る質問を………。
「背後を取られたらそのまま負けてしまいそうな気がする」
攻撃魔法に関してはこちらも何とか対応出来そうだけど、あの速度で姿を見失うと、そのまま背後に回られて短剣で喉をグサリとされそう。可愛らしい笑顔のリゼットちゃんがそんな暗殺者みたいなことをしたら僕がショック受けるけど。
逆に、姿を見失わなければ対処不可能というわけでもない。
『心眼』の技能で常に相手の気配を察知し続け、長期戦に持ち込むことが出来れば彼女のマナが尽きるだろう。そうなれば相手は必ず接近戦を仕掛けてくる。
マナが尽きれば動きは大きく鈍るし、そうなれば機敏な動きも出来なくなる。彼女は軽鎧だから力もそこまであるわけじゃない、長期戦に持ち込めばこちらが有利になるはずだ。
「ルミナリアさんの方は……化け物ですね」
エミリアの感想は短かった。
「え?そんなに強いんだ……」
「はい、あの人が本気で戦ったところを見たことはありませんが、多分私達4人掛かりで挑んでも勝てるか怪しいです。勝てたとしても被害は甚大でしょうね」
「なんでそれが分かるの?」
全力を見てもいないのに、
ルミナリアさんの強さがわかるエミリアの言葉に疑問を感じた。
「何というか、彼女が纏うマナ量がちょっと異常なんですよね……。
戦闘外の時でも強いマナを感じるのに、戦闘時となればマナ量が数倍以上に跳ね上がってました。彼女なら極大魔法数発撃っても問題なく戦闘続行可能でしょう」
<極大魔法>はエミリアが放てる最強の攻撃魔法の事だ。
範囲が非常に広く威力も<上級魔法>の比では無いが、エミリアは1発撃てばMPが枯渇してしまう。当然僕は使うことすら出来ないし、姉さんが仮に使えたとしても2発は難しいだろう。
それを複数連発出来るというのは、正直信じられない話だ。
「ルミナリアさんってそんなに強かったのか……」
「まぁあの人は例外ですよ。
こっちの大陸ではちょっとした有名人みたいですし……」
「えっ、そうなの?」
エミリアとルミナリアさんは初対面だったと思うんだけど……。
「本人に確認取ったわけでは無いから確証はないんですけど、
『ルミナリア』というファミリーネームで有名な冒険者がいるんですよね」
「へぇ、どんな名前なの?」
「えっと、確か……」
エミリアが言うには、その冒険者はこの辺り一帯の魔獣を狩り尽くし、近隣の村や町に多大な貢献をしているらしい。戦いにおいて先陣を切り1年半近く前にはこの大陸に出現した魔物の群れを最前線で殲滅したという話もあるそうな。
「カレン・ルミナリア……だったかな。
<蒼の剣姫>という二つ名持ちの、大陸最強の冒険者という噂です」
「へ、へぇ……」
最強って……。
「その強さに加えて容姿端麗で性格は明るく社交的、
更には気さくな性格で男女問わず人気があり、 ファンクラブまで存在するとかしないとか」
……それもうアイドルじゃん。
「風の噂では意中の女性がいるらしく、そちら方面にも大人気だそうです」
「えっ」
あの人、女性だよね?
いや、疑うまでもなく若くて綺麗な女性だけど。
つまり、それってレ……。
「ちなみに、私はファンクラブに入ってます!」
エミリアがドヤ顔で言った。
さっき、存在するとかしないとかとか言ってたのに。
「あー、うん、良かったね……。
……何でファンクラブに入っててすぐに気付かなかったの?」
「だって、名前しか知りませんし、ファンクラブに入ると特典としてレアな魔道具プレゼントという企画に乗っかっただけなので」
なるほど。
別にエミリアがアイドルオタクだったわけじゃないようだ。
「お姉ちゃんも一度会ってみたかったわね」
「わたくしも、それほどの強者なら一度肩を並べて戦ってみたかったです」
一緒に戦いたいとまでは思わないけど、確かにもう少しゆっくり話はしてみたかったかも。サクラタウンの話ももう少し聞きたかったし、それだけ強い人なら魔王が近々誕生するという話も多分知ってるはず。
それに、例の怪しい商人の正体にも辿り着けたかもしれない。
「行動を共にしておられたというリゼット様はどうなのでしょうか?」
「リゼットちゃんか……うーん」
彼女の実力についての感想は先に述べたとおりだ。
実力的には申し分なくて、多分僕やレベッカと同格くらいの強さだとは思う。
もし旅先で仲間になってくれたらこの上もなく頼りになるだろう。
「レベッカちゃんは実力じゃなくて、
そんな有名な人と共にしてるリゼットちゃんが何者なのか?
って言いたいんじゃない?」
「はい、その通りです」
エミリアの話では、カレン・ルミナリアさんは自分と並ぶ冒険者が居ないせいで基本ソロ活動をしていたとか。また、時折王宮から高難易度任務を直々に依頼されていて、この世界にもし冒険者のランク制度などがあったなら間違いなく最上級だっただろう。
そんな凄い人と行動を共に出来るなんて、理由があるに違いない。
「実は恋人同士だったとか?」
「ははは、まさかそんな」
……違うよね?
いや、本当にそっち系の二人なんてことは……。
「流石にそれは無いと思うな。
あの二人が一緒に居る所を見ると、姉妹みたいに見えたよ」
「まぁ、私も同意見ですね。
リゼットさん探してる時のルミナリアさん大慌てでしたし、
よほど仲が良いんでしょう」
本人もルミナリアさんとは幼馴染と言ってた。
昔なじみの仲だから一緒にパーティを組んでるってことだったのかな。
「噂と言えばもう一つありました」
「えっ、何?」
「こっちの大陸で女神に選ばれた<勇者>が現れたそうです」
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