第166話 普通逆
想定外の出来事が起きて満身創痍となった僕達。
このまま旅を続行、とはいかなかったのでもう一日旅館に泊まることにした。
折角なので昨日ゆっくり堪能できなかった温泉に浸かろう。
滅多にない機会だ。僕は温泉へと向かった。
◆
「ふぅ……気持ちいいなぁ」
温泉にゆっくりと浸かり、体の芯まで温まる。
やっぱり温泉はいい。日本に住んでた時は縁が無かったけど、まさか異世界で温泉に浸かれる日が来るとはね。
「はぁ……幸せ……」
この世界に召喚されてからというもの、
楽しいことも多いけど、やっぱり魔物との戦闘は辛い。
そんなこともあってか、僕は温泉の中で眠りこけてしまったようだ。
◆
「おーい、聞こえてますかー」
「レイ様ー、ご無事ですかー」
「レイくん、温泉の中で寝ちゃ危ないわよ」
誰かの声が聞こえる。
なんだっけ……確か僕、今温泉に入っていて……
「う、ん……」
目を覚まして目を開けると、
そこには見慣れた顔が三人並んでいた。
「姉さん……、エミリア……、レベッカ!?」
最初は意識があやふやだったけど、
レベッカの名前を呼ぶ辺りで急速に意識が覚醒した。
理由は、三人ともバスタオル姿だったからだ。
胸元を手で押さえて、眩しい太ももが見えている煽情的な光景だった。
「お目覚めですか、レイ様」
「ど、どうしてみんなここに居るの!?」
今は男性の時間の筈だ。女性の時間帯はもっと後だったはず。
「なんでって、男性の時間はとっくに過ぎて今は女性の時間帯ですよ」
エミリアが呆れた声で言う。しかし、温泉の熱気のせいか体が火照っているせいか、何を言っても色気を感じる。
「そ、そうなんだ……」
「レイ様が戻ってこないので少し心配しておりましたが、まさかずっと温泉の中とは……。お身体は平気でしょうか?長く湯に浸かり過ぎると、汗を掻きすぎて脱水症状を起こすと聞いております」
「大丈夫だよ、ちょっと眠くなってただけだから」
「まあ!それはいけません。すぐに上がれますか?」
「うん、すぐ上がるから」
僕は慌てて立ち上がる。そして激しく後悔した。
何故かって?そりゃあ、ねえ。
お風呂の中だもん、僕も全裸って事が頭の中から抜けてたよ。
「きゃああ!!」
「わぁ……!」
「あら……うふふ」
三人の悲鳴が響き渡る。
いや、悲鳴言ってるのはエミリアだけなんだけど。
そこで、僕はようやく気付いた。
バスタオルは頭に乗せてて、下は完全な全裸だったことを。
温泉の湯は白くて全然見えてなかったけど、要は完全な御開帳だ。
「きゃああああああああああ!!!」
僕は慌てて下を隠しながらしゃがんでお湯の中に入り直した。
「……って、何で女の私よりレイの悲鳴の方が大きいんですか!!?」
「し、仕方ないよ、恥ずかしかったんだから」
ちなみに、さっきの悲鳴は僕のものだ。
何故か女の子みたいな悲鳴をあげてしまった。
「レイくん、身長は伸びたのに、下の身長はレイくんのままだね」
「姉さん!!?」
なんて事を言うのだこの人は!!
姉さんの唐突な下ネタで僕は完全に引いてしまった。
「へぇー、レイって小さいんですね」
グサッ―――
エミリアの何気無い一言で僕の心が瀕死になった。
「大丈夫です、レイ様。
大きすぎると子を成す時に苦労すると聞いておりますから」
「レベッカまで!?」
レベッカはフォローしているつもりかもしれないけど、
その言葉はむしろ追い討ちになってるんだよ!?
「というか、男性は興奮すると大きくなるとか聞いてます。
でも、今のレイは全然そうじゃなさそうですね」
今は興奮よりも羞恥と驚きの方が強かったんだよ。
「レイくん、私の裸を見た時もあんまり変化無かったよね」
「えぇ!?」
以前姉さんと大浴場に使った時の話だろうか。
いや、あの時は隠してたけどしっかり……これ以上は止そう。
「えっ、レイのアレってもしかして<無効化>されてるんですか?」
「<有効化>されてるよ!!」
エミリアの言葉に思わず反応してしまった。
「じゃあ、なんで大きくならないんですか?」
「知らないよそんなの!!」
僕は半ばヤケクソ気味になっていた。
「まぁまぁ、エミリア様。
レイ様も男性ですし、いざとなれば猛り狂う野獣のごとく強靭になるでしょう」
レベッカのフォローは何なの?
いや、もはや僕をフォローしたいのかもよく分からない。
「そうだね。これから成長するはずだよ」
「姉さんまで!?」
僕、泣いてもいいかな……?
◆
その後、僕達は温泉から出て服を着替えて、休憩所でぐったりしていた。
そして、その後、女の子三人が入ってきた。
(もちろんエミリア、姉さん、レベッカの三人の事だ)
「いやぁ、気持ち良かったねー」
「ええ、良いものも見させてもらいましたし」
「うふふ、エミリア様ったら……」
……と、三者三様の感想を述べていた。
僕の精神はもう疲れ果てていたので何も言わないことにした。
でも、今思えばかなり勿体ないことしたかもしれない。
三人とも、とっても綺麗だったなぁ。
もう少し心に余裕があれば三人のバスタオル姿を見れたのに……。
あ、だから大きくならなかったのか……深く考えるのをやめよう。
「レイくん、ここに居たんだね。部屋に戻らないの?」
「もう少し、ちょっと湯に浸かり過ぎて水分取ろうかなってさ」
僕のいるテーブルには三杯ほどのコップが置いてある。
「まぁ、それは大変です。
コップの中は空のようでございますし、わたくしが何杯か汲んできますね」
レベッカは僕の周りのコップを回収し、水を汲みに行ってくれた。
「ありがとう、レベッカ」
気配りが上手いなぁ、レベッカは。
なら、さっきのズレまくったフォローは本当になんだったのか。
「レイ、もう大丈夫ですか?」
エミリアが心配そうにこちらを見ている。
「うん、少し落ち着いたよ」
「それは良かったです。
さっきはからかってすみませんでした。面白かったのでつい」
「いや、大丈夫」
かなり精神ダメージ受けたけど、まぁ。
悪意が無いのなら許すよ、エミリアだし。
「それにしても、あんな風に慌てるとは思いませんでした。
お風呂でのぼせたせいでしょうか」
「まあ、そうかも」
気付いたら裸(バスタオル)の女の子三人に囲まれてたからね。
普通なら絶対動揺すると思うよ。役得といえば否定は出来ないけど。
「それにしても良かったですね。
時間になって真っ先に入っていったのが私達だけで」
「そうね、他の人が入っていったら、
レイくん、また逮捕されちゃったかも」
またって何だよ、逮捕されたことないよ。
補導経験は何回かあるけど。
「というか、三人は僕に見られてどうして落ち着いていられるの?
僕なんて、男なのに女の子みたいな悲鳴あげて恥ずかしかったんだよ?」
「え?まぁ、そうですね。
下半身を見なければレイって女の子と大差ない顔立ちしてますし」
「うふふ、私はそもそもレイくんの体何回か見た覚えあるもの」
この二人は謝る振りをして、
僕に追い打ちを掛けに来たわけじゃないんだよね?
というか、姉さんに体を何回も見せた覚えなんて無いんだけど……。
「あの、姉さん?僕の体をいつ見たの?
大浴場の一回きりだったと思うんだけど……?」
「えー?結構前にレイくんが大怪我して意識失ってる時、
色々着替えさせたりしたの私だよ?」
「え!?」
確かに、何度か覚えはある。
姉さんはあの時、僕を看病してくれてたのか。
「何回かそういう時ありましたよね。
あの状況の時はベルフラウが断固として世話をするって言ってましたし」
「だって、お姉ちゃんだし」
と、そんな話をしてると水を汲んできてくれたレベッカが戻ってきた。
「戻りました。お話の途中でしたか?」
「うん、レイくんの上も下もお世話した時の話だよ」
「姉さん、言い方言い方」
その言い方は激しく誤解されてしまう。
いや待て、レベッカはまだ十三歳だ。
そんな知識は多分無いから大丈夫だろうか。
「し、下も、上も……!?」
ダメだ、そんな知識がしっかりあるっぽい。
レベッカの顔が真っ赤になっている。
「違う!違うからねレベッカ!!
僕が倒れてた時に看病してくれたって話だから!!」
「そ、そうなのですね。
……てっきり、義理の姉弟で禁断の関係になったのかと」
レベッカがまた本の影響で変な思考していらっしゃる。
恋愛小説の本を貸したことがきっかけで、レベッカは読書が趣味になった。
それは良いんだけど、好みのジャンルがかなり恋愛に偏ってしまってるのが心配だ。しかも大体は正当派ではなく、若干近親よりのものが多い気がする。
何だったら、妹と兄の○○みたいな表紙をレベッカの部屋で見た覚えもある。
あれ、ちょっとエッチな内容じゃなかったっけ……。
「そういえばレイ様、感想を聞きたかったのですが」
「感想?」
なんだろう、妙に落ち着いたレベッカの態度に困惑する。
「はい、感想です」
「えっと、何の感想?」
「わたくしたちの湯浴み姿の恰好の話ですが」
…………。
その時の事を想像する。
「えっと、あの……三人共、すごく綺麗でした……」
今の浴衣姿も綺麗だけど、さっきの薄いバスタオル姿も、その……。
姉さんは豊満な体とそれをあまり意識しない無防備な態度がとっても目に毒で、エミリアは同年代ながらスタイルが良くて、それでいてどこか恥ずかしがっている態度が色々宜しく無くて、レベッカは歳相応のスタイルで胸もお尻も小さいのに、何故か妙に蠱惑的で煽情的で……。
あ、ダメだ。
さっき<無効化>されてたのに、完全に<有効化>されちゃってる。
「ふふ、良かったです。
レイ様にちゃんと魅力を感じていただけで嬉しく思います。
……<有効化>されているようですし」
レベッカは、僕の少し下をチラ見しながら小声で言った。
「ごめん、本当に勘弁して」
ちくしょう、遅れて反応する僕の下半身にも怒りが出てきた。
「大丈夫ですよ。
わたくしも先程まで気持ちが高揚していましたから」
「……」
レベッカが耳元で囁くように言ってきた。
何も言えない……。というか色々ズルいよ、レベッカ。
その日は、体が火照ってしまって中々寝付けなかった。
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