第164話 EXボス戦

 クリア済みのダンジョンを再探索したら裏ボスが出てきました。

 しかも開幕の攻撃魔法は下級魔法だったのに、威力が異次元級でした。


「……えっと、もしかして戦う流れ?」

 僕の問いかけに、レベッカは静かに首を縦に振った。


 ◆


 それから戦闘が始まった。

 まず最初に動いたのはレベッカ。

 彼女は、一気に加速して龍の元へ駆け寄り槍を振るう。しかし龍は大きな尻尾で軽く槍を跳ね除け、翼の羽ばたきだけでレベッカを吹き飛ばした。


「れ、レベッカ!大丈夫!?」

「し、心配はありませんが……色々想定外かもしれません」


 想定外?


「ならこっちはどうでしょうか!

 ―――地獄の業火よ、我が呼びかけに応え、現世へと来たれ、

 目の前の龍を生贄に捧ぐ、終焉の贄と捧げよ――!!」

 エミリアの得意な炎魔法だ。


<上級獄炎魔法>インフェルノ!!!」

 エミリアの放った地獄の炎が龍の周囲を紅の霧で覆っていく、

 そして―― 


「エミリア様!!離れて下さいませ!!」

 レベッカが叫んだ瞬間、エミリアは慌てて飛び退いた。

 その直後、霧の中から凄まじい爆発音と共に、熱風が吹き荒れた。

 エミリアは爆風で後方に飛ばされたが、なんとか着地に成功した。


「エミリア!」

「いたた、ちょっと距離が近すぎましたね。

 もう少し離れて魔法を撃つべきでした」


 エミリアは多少は煤で汚れているようだが、無事のようだ。


「ですが、これなら……」

 エミリアは自信満々で魔法を放った。


 確かに、今の威力なら申し分ない。

 並の魔物なら瞬殺、上位の魔物でもかくやという感じだろう。

 しかし、それはあくまで相手が普通の魔物の場合だ。


「嘘でしょ……」

「無傷……ですか」

 そう、あの炎の中、煙が晴れるとそこには傷一つ無い龍が悠然と立っていたのだ。


「……これは少し、厳しい戦いになりそうですね」

「いや、厳しいというかこれは……」

 全く勝ち目が無いのでは……?


「レイくん達どいて!!行くわよ!!<極大大砲>ハイキャノン!!!」


 姉さんが両手で杖を構えて、全力で大砲の魔法を発動する。

 <魔法の大砲>マジックキャノンより数倍大きな魔法弾だ。

 凄まじい大きさと威力故に轟音を立てながら龍に向かって行く。


「どう!?この魔法は私の魔法力の1/5は消費する大魔法だよ!!」

 初めて見る魔法だ、どうやら姉さんのオリジナル魔法らしい。

 エミリアと同じく、相当自信があったのだろう。


 ……この流れ、さっきと同じでは?


「ダメ……やっぱり効かないみたい」


 そう、姉さんの魔法も先程と同じようにダメージを受けた様子が無い。

 よく見ると、龍の周囲に透明なバリアのような膜が見える。

 あのバリアで全て防ぎきっていたのだろう。


「やっぱり駄目か……」

 ……結果が見えてるけど、

 女の子三人が戦って僕が何もせずに逃げ帰るわけにもいかないと思う。


「レベッカ、あの魔法お願いしていいかな?」

「はい、<全強化>貴方に全てを

 

 レベッカの魔法で僕は銀のオーラに包まれる。

 強化魔法の全ての効果を一度に掛けるというとんでもない魔法だ。


「全力で戦ってみるけど、もし無理なら即座に撤退という事で……」

 僕は内心冷や汗を掻きながら、<龍殺しの剣>を抜いて、後ろの三人に振り向かずに語り掛ける。


「……」

 返事がない。

 恐る恐る振り返ると、三人ともポカーンとした顔で僕を見ていた。


「えっと、何?」

「い、いえ、レイ様も戦うのかと思いまして……」

「まあ、そりゃあ……」

「意外ですね。即時撤退するのかと思いました」


 そうしたいけど、男一人何もしないのは恰好が付かないんだよ。

 それに、勝てないまでも一矢報いる事くらいはできるかもしれないし……。


「でも、本当に危なくなったら逃げるからね?」

 僕の言葉を聞いて、レベッカは小さく笑みを浮かべた。


「よし、それじゃあ行くね……雷鳴よ、剣に集え」


 僕は剣に雷魔法を集束させて、剣に魔法効果を付与させる。

 普段使用する<魔法剣>を更にブーストして強化させたものだ。

 今まで付与していた<中級雷撃魔法>サンダーボルトよりも単純な強化量は更に上がっている。

 でも<上級雷撃魔法>ギガスパークに少し届かないのが悲しいところ。


「<疾風迅雷斬撃>」

 <速度強化>と自前の<風魔法>を纏った高速移動で一気に龍に接近し、すれ違いざまに剣を振るう。しかしやはり、バリアで弾かれてしまった。


「くっ、硬いなぁ……!!」

 威力も<筋力強化>と<魔法剣>で大幅に上がっているというのに、装甲を貫けない。更に、この龍の様子も異質だ。理性的で、こちらの動きをじっくりと観察しながら的確に反撃してくる。


 こちらの攻撃に合わせて、尻尾と爪で反撃して来て、少しでも隙を見せると風魔法を連発して放ってくる。魔物や魔獣と違い、まるで人間相手に戦っているような気分だ。


「……これ、絶対ただの魔物じゃないですね」

「はい、わたくしもそう思います」

「そうねぇ……」


 エミリアの呟きに対して、僕を含めた三人が同意する。

 魔物にしては知性がありすぎる。というより人語を理解しているようだ。


「でも、積極的には襲ってこないし、話し掛けてもこないし……」

 こういう魔物とは戦ったことがある。

 以前、数ヶ月前に大規模ダンジョン攻略中に、似たような人語を理解した魔物が居たのだ。


 その時の魔物の正体は、女神ミリク様が操るアバターだった。

 だけど、その魔物の強さとはまるで比較にならない。

 女神様本体と戦っているような強さを感じてしまう。


「とりあえず、魔法が効かない以上接近戦で倒すしかない」

「そうですね……」

 エミリアは納得していない様子だが、レベッカは素直に僕の提案を受け入れてくれた。

 そして、僕達は再び龍に向かって行った。

「はああ!!」

 気合いと共に駆け出し、僕に続いて三人が魔法を発動させる。


「いきますよ!!<炎の魔弾>ブレイズキャノン!!」

<闇の炎>ダークファイア!!」

<極大大砲>ハイキャノン!!」

 今のところ効かないが、隙を見せるのを期待したけん制だ。

 攻撃を連発すればバリアを貫通できるのではという期待もある。

 

 僕以外にも後ろ三人が隙を見て魔法を放って僕を援護してくる。僕達は十分に強くなっていると思う。以前戦った<火龍>ならばとうに決着が付いていただろう。あの時より僕達は数段強くなっており、同じ<火龍>相手だったなら圧勝していた可能性もある。


 しかし、目の前の黄緑の龍はちょっと異常だ。魔法攻撃は全て鱗にかすり傷すら付かず、物理攻撃はバリアで完全に防がれ、近接戦闘ではこちらの攻撃を完璧に見切って反撃してくる。


 正直言って、どうすればいいのか全く分からない。


「<無限真空斬>!!!」

 僕にとって奥の手の技だ。風の力を付与して、

 魔力を総動員しながら敵を遠距離から飛ぶ斬撃で攻撃し続ける技。

 これを破られるといよいよ手が無くなってくる。


 この技を破ったのは、今のところ女神ミリク様本体のみ。

 もし、この技すら相手に通用しないなら、

 目の前のドラゴンは女神と同格かそれ以上という事になる。


 つまり、僕達には全く勝ち目が無いという事になってしまう。

 とはいえ、ダメ元で限界まで挑戦してみる。


 しかし、何故だろう。

 目の前のドラゴンは何というか……。

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