第163話 予想大当たり
――それから一時間後、
一度潜ったダンジョンの攻略は思いの外楽だった。
というのも、魔物が出現した位置が前回とほぼ変わっていなかったためだ。途中でそれに気付いたので、記憶の範囲で出現位置と敵を予測できたので先手を取りながら進めることが出来た。
そして前回と比べて数倍早いペースで最奥まで進むことが出来た。最奥は前回と変わらず、特に変わり映えのしない空洞の空間が広がっていた。違う点があるとすれば、前回戦った魔獣の存在が確認出来なかったことくらい。
「さて、ここまで来たのは良いけど……」
僕は背後のレベッカに振り向く。
「どう、レベッカ?精霊の気配を感じる?」
「いえ、残念ながら……ですが」
レベッカは少し申し訳なさそうな顔をして、
「此処はもう機能していない場所なのではないかと思います」
と、言った。
「どういうことですか、レベッカ」
「この場所は、女神<イリスティリア>が管理していた神殿だと推測できます。
しかし、風の精霊の力は殆ど残っていないようです。闇の精霊様のお力を借りれば多少は感じられるかもしれませんが、今の段階で精霊の居場所を特定するのは難しいでしょう」
レベッカは淡々と語った。
「神殿という事は、元々ここにも人が住んでいたのでしょうか」
「おそらくですが」
エミリアの問いにレベッカは肯定した。
「それにしても……誰もいないわね」
姉さんが周囲を見渡して呟いた。確かに人の気配が全く無い。
ダンジョンと考えるなら居なくて当然ではあるのだけど、もし女神関係ならば関係者の一人くらいはいてもおかしくない。
「外の村の方々と、この神殿に住んでいた人々はおそらく無関係だと思われます。わたくしの故郷と違い、ここの地に住んでいた村の人は何処か別の地へ向かったのでしょう。あるいは、何らかの理由で廃れたのか……分かりませんが」
「んー、だとしたら益々謎が残るわねぇ。
何故こんな場所に宝箱が置いてあるんだろうって」
「そうですね……あっ」
レベッカが何かを思い出したかのように声を上げた。
「どうしました?レベッカ」
「そういえば……<試練の洞窟>の話なのですが、
何処かに隠し通路があったように思われます、あるいはここにも……」
隠し通路か……。
こんな洞窟でわざわざ隠してある理由って……。
「思い出さない方が良かったかも……」
僕は嫌な予感がしてきた。試練の洞窟の話は聞いている。かなり壮絶な戦いだったそうだ。そんなところにある隠し通路だなんて、下手すると隠しボス的な魔物が居てもおかしくない。
「そこまで身構えることないような……」
エミリアが呆れたような顔をした。
「でもさぁ、隠し通路の先に魔物がいたらどうする?
例えば、物凄く強いドラゴンとか……」
「いやいや、ドラゴンなんてそんなに沢山いるわけじゃないですし……」
ゲーム的な話になるけど、クリアした後のダンジョンに隠された通路があると大体宝箱かEXボスが居たりするのだ。前者だと強力なアイテム、後者は所謂裏ボスだ。もしかしたら魔王より強いかもしれない。
「あぁ……確かに、そういう展開もあり得ますね。
ゲームとかEXボスとかよく分かりませんが、無い話でも無さそう」
「でしょ?」
「大丈夫ですよ、レイ様。
お気づきでしょうが、別段この先に殺気や敵意などは感じません。
レイ様が不安になるような何もないかと」
……確かに、そんな気配は感じない。
「分かったよ、じゃあちょっとこの部屋調べてみようか」
そう言って僕は壁を調べ始めた。
しばらく調査していると、案外あっさりと見つかった。
「ここの壁、よく見ると扉みたいになってるね」
偽装されて岩肌のように見えるが、よく見ると観音開きのように開けるようになっている。そこを開けて先に進むと、下に進む階段があった。自然に出来たとは思えない人工的な階段だ。
「これ、降りてみるしかないよね……」
「そうね、せっかく見つけたんだもの」
姉さんが乗り気になったようだ。
「……見つけたものは仕方ないか」
こうして僕達は、謎の地下施設へと足を運んだ。そして……。
「………」
「………」
「………」
「………」
先へ進むと、大きな広間があり、不思議と明るい。
正確に言えば壁が光を放っており、明らかに今までと構造が違う。
だが、僕達が呆然としてるのはそれが理由では無い。
僕達の目の前に、居るのだ。
黄緑の美しい翼を持ち、女性的な柔らかい顔立ちの印象を持つ。
……龍の姿の魔物が。
「い………」
僕は一瞬言葉に詰まってから、
「いたぁあああああああああ!!!」
と、思わず叫んでしまった。
「れ、レイくん、落ち着いて!?」
「で、でも本当に裏ボスが出たんだよ!?
開幕タイダルウェイブで全滅とかさせられるかもしれないし!!」
「落ち着いてくださいまし、何を言ってるのかわたくしには理解できません」
多分、言ってる僕も分かってない。
「それにしても龍がこんな場所に住んでいるとは……」
エミリアは目をキラキラさせながら龍に杖を向けるが………。
『
龍はこちらを振り向いたと同時に、風の魔法を飛ばしてきた。
その風の魔法は幸い、僕達の誰にも当たりはしなかったが、近くの石柱を真空破だけで両断した。
「は?」「え?」
いきなり物凄い威力の魔法使ってきたんですけど?
しかも今の初級攻撃魔法だったよ?
「……えっと、もしかして戦う流れ?」
僕の問いかけに、レベッカは静かに首を縦に振った。
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