第162話 再突入

 リゼットちゃんと別れてから一人で温泉に入った。

 ちなみに温泉は時間交代制だ。当たり前だけど男女は別だった。


 ……残念だなんて思ってないよ?

 そして、今日泊まる宿に戻ると既に三人は寝静まっていた。

 起きていても仕方ないので、僕もさっさと寝ることにした。


 ――二十六日目

 翌朝、朝食を食べ終えてチェックアウトすると、宿の人に話しかけられた。


「おお、レイさん。

 今朝、リゼット様から手紙を預かっていますよ」


「そうなんですか?どうも」

 渡された封筒には確かにリゼットちゃんの名前が書かれている。


「何だろう……?」

 封を切り中の手紙を読むと、そこにはこう書かれていた。


『昨日はありがとうございました(*´▽`*)』

 かわいい。


『本当はもう少しお礼を言いたかったのですが、

 急な依頼が入っちゃって先に行かないといけなくなりました』


『それで代わりと言っては何ですが、この村の名物のお菓子を贈ります!!

 良かったら食べてください!』


『それでは、また会いましょう!

 今度はもっとゆっくり話せたらいいなと思います!!』


 手紙には可愛らしい顔文字と一緒に丸みを帯びた字で書かれていた。


「一緒に、この紙包みを預かっております」


 そう言われて手渡されたのは、

 綺麗な焼き色の付いたクッキーのようなお菓子だった。


「これは……」


「村の名産品である"薬膳と蜂蜜入りのバターケーキ"です。

 健康食品としても評判が良くて、高級なお菓子として売られています」


「へぇ、そうなんですね」


「はい。この旅館で最も人気のある土産物です。

 リゼット様は是非皆さんで食べてくださいと仰っていましたよ」


「ありがとうございます!」

 リゼットちゃん、本当に良い子だなぁ……。


 その後、僕はチェックアウトを済ませた後に、

 三人と合流して、昨日の二人にお菓子を貰ったことを話した。


「先に旅立ったんですか、もう少し話をしてみたかったですね」


「うん、残念だけどね」

 姉さんとレベッカは早いうちに休んでいたせいで、実は昨日の事は殆ど話をしていない。そのため、僕達の会話は全然付いて行けてなかったようだった。


「何の話?」

「旅立つ前に話すよ。何処かで貰ったお菓子を食べながら話そう」


 それから僕達はリゼットちゃんのお菓子を食べてから準備を整えた。


 温泉はあまり長く入れなかったけど、

 この村には足湯専用の誰でも無料で入れる温泉もある。

 旅立つ前に、最後にそこでくつろぐことにした。


「わぁ、気持ちいいですね、レイ様」

「うん、そうだねー」

 公共的に使える施設のようで、

 他にも何人かお客さんは居たが僕達はゆっくり癒されることが出来た。


 ◆


「それで、レイくん、ここが昨日行った洞窟なの?」

「ふむ、ここに魔獣が隠れ住んでいたのですね……」

 僕は事情の説明をした後、ついでに昨日行った洞窟を訪れていた。


「思ったより深い場所だったよ。魔物も結構住み着いてたし」

「私はルミナリアさんの後を付いて行ったので楽出来ましたけどね」

 洞窟の中ではルミナリアさんが無双していたらしい。


「それにしても、こんな村の近くの洞窟でよく襲われなかったよね」

「レイ達が倒した魔獣は時々村に出てきていたらしいですが、それ以外の魔物はさして被害が無かったようですね」


 魔獣は村で栽培している薬草を求めて夜に村を彷徨っていたようだが、だからといって村人に襲い掛かることはあまり無かったようだ。代わりに止めに入った冒険者は被害に遭ったという話である。


「この洞窟……何かしら、何か変な感じがするわね」

「変な感じとはどういうことでしょうか?ベルフラウ様」

 姉さんの不思議そうな顔にレベッカが問いかける。


「自然に出来たように見えるけど、妙に人工的に思えるのよね。魔物も住み着いているようだけど、何故か入り口付近には気配が一切しないし……」


「ルミナリアさんも似たようなこと言ってましたね。

 自然に出来た洞窟にしては魔物に生活感が無いとかどうとか」


 魔物の生活ってよく分からないけど、確かに考えてみるとあつらえたように宝箱が置いてあったり、人が歩けるだけのスぺ―スがきちんと確保されていたように思えた。

 ここはもしかして自然に出来た洞窟では無いのだろうか。


「……ふむ」


 レベッカが意味深に呟いて、何かを詠唱し始めた。


『闇の精霊様、力をお貸しください』

 レベッカが言葉を紡ぐと、何処からともなく光の玉が飛んできた。

 どうやら、レベッカの槍に収まってた闇の精霊のようだ。


『ふむふむ、やはりそういう事なのですね』

 レベッカは闇の精霊と話している。

 僕には声が聞こえないのでよく分からない。


「エミリア、何言ってるか分かる?」

「細部まではちょっと……ですが、内容はある程度聞き取れますね。

 どうやら、この洞窟はレベッカが以前に入ったことのある<試練の洞窟>に似た雰囲気の場所なのだとか、レベッカはそれを確認しているようです」


 試練の洞窟……

 神剣と巫女服を纏ったレベッカが十日間魔物と戦い続けた場所だったか。

 ということは、この洞窟も神様絡みの場所ってことなんだろうか。


「闇の精霊が言うには、風の力が宿ってるそうです。

 女神の一人の<イリスティリア>が風の神だと言われていますね」


「えっ、じゃあもしかして……」

 <イリスティリア>という名前に反応して、思わず口に出してしまった。


「えぇ、恐らくその通りかと思われます。

 ここは多分、女神の管轄下の神殿か、あるいは似た類の施設だったのではないかと」


「へー、それは面白いわね、行ってみましょうか」

 姉さんが急に乗り気になった。


「えぇ……また奥まで潜るの?」

 昨日、結構苦労して奥まで行ったんだけど……。


「レイ様、闇の精霊様が風の精霊がいるかもしれないと。

『僕も同行したい』と言っています」

 闇の精霊と会話を終えたレベッカが戻ってきた。


「それってつまり、奥まで進みたいって事?」

「はい、そういう話になります」


 はぁ、二回も入って苦労も二倍だよ……。


「まぁ、仕方ないか……」

 僕達は再びダンジョン攻略に乗り出した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る