第161話 邂逅

「はぁ、疲れたー」

「強かったですねー」


 どちらかというと、ここまで潜ってきたのが疲れた。

 とはいえ、今の魔獣も強敵ではあったと思う。


 ……はて?僕達は何でここまで来たんだっけ?


「あ、思い出した!!ルミナリアさんが何処にもいない!」


「あ、そうだ!!先輩探しに来たのにー」


「……とりあえず上に戻ろうか?」


「そうしましょっか……」


 はぁ、と二人でため息をつく。


 そこに、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「―――本当にここに来てるんですかね?」

「多分ね、私の勘がそう言ってるわ」


 ……ん?人の声?


「勘って……」

「大丈夫よ、私の勘は当たるのよ」

「そう言いながら、ここまで虱潰しに探してるわけですが……」


 この声、片方は分からないけど、エミリアの声だ。


 どんどん声が近くなってきて、いよいよその声の主が姿を現した。


「あ!!いた!!先輩!!」

「あー、良かった。やっぱりサ……こほん、リゼットもここに来てたのね」


 声の主の片方はエミリアだったけど、

 もう片方はリゼットちゃんの知り合いのようだった。

 話で聞いてた、青髪ロングの綺麗な人だ。


 エミリアもこちらに気付いて駆け寄ってきた。


「ようやく見つけましたよレイ」


「エミリア、一応書置き残してたつもりだったんだけど」


「それは見ましたけど、帰ってくるの遅すぎです。何やってるんですか」


 どうやら既に3時間以上経過していたらしい。

 ダンジョンに潜り始めると時間の感覚が分からなくなるんだよね。


「ごめん、それで迎えに来てくれたんだね」

「えぇ、そうですよ。それより……」

 そう言って、エミリアはリゼットの方を見ながら言った。


「あの子がリゼットで間違いないですか?」


「うん、そうだよ。……そっちの人がルミナリアさん?」


「はい、見かけによらずとんでもなく強いですよ」


 見た目からして強そうな人だった。

 青い髪を長く伸ばし、凛とした顔立ちをしている。姫騎士のような外見だ。


 僕達が二人の様子を見てると、

 リゼッタちゃんとルミナリアさんは視線に気づいたのが振り向いた。


「二人には世話になったわね。それで、貴方がレイで間違いないかしら?」


「あ、はい。初めまして……」


 ルミナリアさんはとても綺麗な人だけど、少し近寄り難い雰囲気がある。

 気難しそうというか、ちょっと睨まれてるような……。


「…………」

「あ、あの……」

 じーっと、僕の顔を眺めてくる。なんだか気まずい。


「……素直そうな良い子ね」

「へ?あ、ありがとうございます」

 突然褒められたので、僕は驚いて変な声でお礼を言ってしまった。


「だから言ったじゃないですか。

 レイは女の子が近くに居ても手を出したりしませんって。

 ……ヘタレですから」

 今、最後に余計な言葉が聞こえたよ。


「だって男の子よ?

 リゼットみたいな可愛い子がいたら何かしそうじゃない?」

 何か知らないけど、滅茶苦茶疑われてたっぽい!!

「ちょ!?僕はそんなことしないです!!」

 

「あら、じゃあリゼットはレイ君に何もされてないの?」

 質問されたリゼットちゃんは、悩んだ素振りをしてから、

 こちらをチラッと上を見てから先輩に視線を戻して言った。


「えーと、特には。というか先輩、何かって何ですか?」

「そうね、例えば……キスとか?」


 …………。


「……先輩、発想が子供っぽくてかわいいです」

「な、なによ!?想像力が貧困だとでも言いたいの!?」

「いえ別に?そういう訳では……」


 ……なんか、この二人は仲が良いようだ。

 幼馴染とは訊いてたけど、確かにお互い遠慮がない感じがする。

 幼馴染ってこんな感じなのだろうか。


「……で、先輩はこのダンジョンに何の用があったんですか?」


「私は単にダンジョンの場所を確認してただけよ。だけど、その後あなた達が入っていったと聞いて慌ててエミリアさんと一緒に追いかけたのよ」


「やっぱりか……」

 僕達が早とちりしてしまったようだ。


「レイくんにも迷惑掛けたわね、さっきは疑って悪かったわ」

 ルミナリアさんはこちらに向かって頭を下げる。


「い、いえ、大丈夫です!」

 ルミナリアさん、リゼットちゃんと話してる時は柔らかい表情するけど、

 僕と話すときは若干畏まった感じになるからこっちも緊張してしまう。


「ところで、話に訊いてた魔獣は居たのかしら?

 私達は出会わなかったのだけど……」


「あ、それならさっき私達が倒しましたよ。

 どうも盗んだ薬草を食べてパワーアップしてたみたい」


「へぇー、二人ともやるわねー」

「えへへ」

「どうも」


 褒められて嬉しかったようでリゼットちゃんはニコニコしている。

 そこに傍観してたエミリアが言った。


「ところで、その食べてた薬草って残ってます?」

「うん、魔獣が食い残してたのなら、多分そこにあるよ?」

 そう言ってリゼットちゃんは地面に落ちていた薬草を手に取る。


「ふむ、失礼しますね、リゼットさん」

 エミリアはリゼットから薬草を受け取り、魔法を唱える。


「ほうほう……なるほど」

「エミリア、何か分かったの?」

「えぇ、まあ大体分かりました。

 どうやらこの薬草、"強化薬"の材料のようですね」


「"強化薬"?」

 初めて聞く単語だ。


「簡単に言うと、身体能力を上げるポーションですよ。これを食事に混ぜることで、体が強くなって健康にも良いんです。ただ、依存性が強くて過剰に摂ると心を壊してしまうんですよね」


「そうなの?エミリアさん?」

 リゼットちゃんが首を傾げている。


「えぇ、リゼットさん達が倒した魔獣も多分そうだったのかと」

 怖いなぁ、麻薬みたいなものなのかな。


「エミリア、依存してしまうとどうなるの?」


「分かりやすく言うと中毒症状になります。摂り過ぎて正気を保てなくなったせいで危険を冒してでも村から薬草を奪いに来るようになったんでしょうね」


「そっか、それで……」


「この薬草は病気の改善の為に栽培されてたもののようです。

 正しく使えば、病気を和らげて体を強くする良いものなのですよ」


「でも、使い過ぎると危ないのね?」


「はい。少量だけ薬や食事に混ぜるのが本来ベストです」

 用法と容量を守るのが正しい使い方のようだ。


「ちなみに、過剰に摂ると魔力量も増えるらしいです。

 人間がそれをすると危険なのですが、魔獣だと純粋に強くなっちゃいますね」

 だから、珍しい魔法を使ってたのか。


「まぁ、折角なので残った分は私が貰っていきますね」

 そう言いながら、エミリアは服の裏ポケットに残ってた薬草を詰め込んだ。

 何か変なことに使うんじゃなかろうか。


「さて、じゃあ帰りましょうか」

 ルミナリアさんがそう言って、魔法陣を出現させる。


「これって<迷宮脱出魔法>ですか、ルミナリアさん?」


「あら、良く知ってるわね」


「僕達も以前に大きなダンジョンを攻略した時に習得したんです」


「えっ?レイさんもそういう経験あるんだ?」

 リゼットちゃんが意外だという顔で訊ねてくる。


「うん、エニーサイドって村があってね、そこでちょっと」


「へぇー……あれ?何処かで訊いたような名前……」

 リゼットちゃんは頭を悩ませているが、思い出せないようだ。

 その間にルミナリアさんの魔法の準備が終わり声を掛けられる。


「三人とも準備出来たわよ」


 僕達は魔法陣に乗り、ダンジョンの外へと出た。


 ◆


 外に出た途端、強い日差しに照りつけられて思わず目が眩んだ。


「うぅ~ん、ダンジョンの中は涼しかったので外の空気は気持ちいいですね!」

 リゼットちゃんは大きく伸びをする。


「はい、これでクエストは完了ね。お疲れ様、三人共」


「ルミナリアさんもありがとうございました」

 僕達が頭を下げると彼女は笑顔で言う。


「いえいえ、こちらこそ助かったわ。

 リゼットを守ってくれてありがとね、レイくん」


「いえ、そんな……」

 僕は彼女の言葉に少し恥ずかしくなってしまう。


「私からもありがと、レイさん!!」

「あはは、どういたしまして」

 リゼットちゃんからも感謝されてしまい、ますます気恥しくなってしまった。


「ところで、ルミナリアさん達はこれからどうするんですか?」


「少し休憩してから街に戻る予定よ」


「そうなんですね」


「レイさん、もし機会があったらまた一緒にクエストしようね!!」


「うん、そうだね」


 リゼットちゃんとは仲良くなれたので、いつかまた一緒に冒険したいと思う。

 その後、ルミナリアさんと別れて僕達は村に戻ることにした。

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