第160話 未完成の二人組

 その頃、レイ達は―――


「魔獣さんは何体か倒しましたけど、

 例の村の外で荒らしてた個体は倒せたんでしょうか?」

「さぁ……」


 探しているルミナリアさんは全然見つからないけど、

 僕達は出会った魔物を全て倒しながら先に進んでいる。

 中には魔獣と思われる生物も混じっていたのだが、確認する術がない。


「冒険者と何度も抗戦して生き残った強い魔物らしいんだけど」

「そんな強そうな相手もいませんでしたよねぇ」


 僕達が単に魔物退治に慣れ過ぎてるって可能性も無くはない。

 でもこっち出身の冒険者は強いってエミリアも言ってたんだよね……。


 ふと、そこで気付いた。

 このリゼットちゃんもサクラタウン出身なのだろうか。


「ところでさ、リゼットちゃんもサクラタウンの出身なの?」

「はい、そうですよ」


 やっぱりそうなのか。

 彼女がその中でどれくらいの位置にいるかは分からないけど、

 もし平均くらいならかなりとんでもないことになる。


「そうなんだ、どんな街なの?」

「綺麗なピンクの花が沢山咲いてる所ですよ!

 他にも、『霧の塔』っていう変わった建物があったりします」


「へぇー、それは見てみたいなぁ」

 僕達の目的地はそこだけど、この際だから色々質問してみようかな。


「リゼットちゃんはここまでどうやって来たの?」

「飛行魔法でスイーッと」

 え、エミリアでも出来ない飛行魔法!?

「……は、冗談ですけど」

 リゼットちゃんがクスっと笑う。


「もう、びっくりさせないでよ……」

 僕は苦笑しながら言う。


「飛行魔法なんか使うと、色々見えちゃうみたいなので使わないようにしてるんです。ここまでは先輩と定期馬車で来たんですよ」


 つまり、飛行魔法が使えるのは本当だと。

 エミリアが言うには飛行魔法は技量が高くないと難しいらしい。

 この子、本当にかなりの実力者のようだ。


 探してるルミナリアさんはもっと強いらしいけど、どんな人なんだろう。

 というか、色々見えちゃうって何だろ?


 ……想像して気付いた。

 そっか、そら飛んでると下から見上げると色々見えちゃうよね。

 姉さんも一度そういうことあったし。


 想像したらちょっと顔が赤くなってしまった。


「レイさん?」

「ううん、なんでもない。この村に来た理由は?」


「ちょっと騒ぎがありまして、

 ほら、大型のモンスターが街道で暴れたって話を知りませんか?」


「うん、ドラゴンがどうとかって話だよね」


「そのドラゴンさんをどうにかした後の帰りなんですよ」


「えっ?」

 確かに、冒険者が追い返したって話は聞いている。

 だけどまさかこの子が?


「それ、本当?」


「あー、信じてませんね?

 まぁ逃がしちゃったので偉そうなことは言えないんですけど……

 じゃあ、レイさんは何しにこの村に来てたの?」


「ん、僕達はまぁ温泉目当てかな……」

 物資の調達とか旅の疲れを取るためとかの理由もあるけど。


 色々話をしてると、ついに洞窟のかなり深部に辿り着いてしまった。

 そこには話で聞いた通り、強そうな魔獣が口いっぱいに薬草らしき草をもしゃもしゃ食べていた。見た目、イノシシのような魔獣だが、至る所に傷痕がある。どうやら何度も冒険者と戦ったせいで傷だらけのようだ。

 薬草を食べているのは、自分の傷を癒すためなのだろうか。


 そしてその周囲には――


「……んん?誰も居ませんね?

 せんぱーい?せんぱーい?……あっれぇ?」


 ルミナリアさんの姿が無い。

 もしかして、目の前の魔物に苦戦して逃げたのか、倒されてしまったのか、

 そんな嫌な想像をしてしまうのだが、そもそも戦ってた様子も無い。


「あの、リゼットちゃん?」


「せんぱーーーい!!!

 ……ううん、居ませんね……レイさん、何か言いました?」


 どうも探すのに忙しくて声があんまり聞こえてなかったみたい。

 僕は魔獣に気付かれないように、声を抑えて言った。


「ルミナリアさんはここに来てないんじゃない?」


「……あ、も、もしかして勘違い……?」

「た、多分……」


 その瞬間、後ろから唸り声が聞こえてきた。


「やばっ、魔獣に気付かれた!?」

 僕は慌てて剣を抜くと、魔獣に向けて構える。


 すると――


 ガァアアッ!!!

 突然、大きな雄叫びを上げて突進してきた。


「くっ!!うるさいなぁ!!」

 目の前の魔獣の<咆哮>に耐えながら、

 僕は突進してきた魔獣を剣で受け止める。


 ギャウッ!?

 

 魔獣は僕の剣によって弾き飛ばされ、地面へと転がった。

 思ったより強くはないけど、油断はできない相手だ。

 僕はすぐさま魔獣に向かって駆け出し、起き上がろうとする魔獣に対して斬りつける。

 しかし、剣が魔獣の顔面に当たる寸前に何かに弾かれた感じがした。


「――っと!今の衝撃は?」

 まるで鉄に剣をぶつけたような衝撃を受けた。

 よく見ると、魔獣の体が僅かに光り輝いてる。おそらく防御魔法だろう。


「レイさん、大丈夫ですか!?」

「大丈夫、でも魔法を使うみたいだよ」


 魔獣が使ったのは<物理抵抗>バリアという魔法だと思う。

 物理に対する耐性を得る効果の魔法だ。


「それにしても防御魔法ってのは珍しい」

 普通こういう魔獣は大体攻撃魔法とか妨害系の魔法が主なんだけど……。

 と、そこで僕は魔獣がもぐもぐしてた薬草が目に入る。


「もしかして、この薬草が理由?」


「薬草食べて強くなったって事ですか?」


「分かんないけど、ありそうだよね」

 ここ最近、魔力が上がる実とか体が大きくなる果物とか変なのを色々見掛けてる。

 もしかしたらこれが理由で強くなったのかも……。


 そう考えると納得出来る部分もあるし、逆にこれ以外考えられない気がするけど……。

 その時、魔獣がまた吠えた。

 僕は耳を押さえつつ、再び突進してくる魔獣を迎え撃つ。

 今度は受け流しつつ、すれ違い様に一閃してみる。更に、後方からリゼットちゃんが追撃する。


「はぁっ!」

 リゼットちゃんは目にも止まらぬスピードで駆け出し、両手の短剣で魔獣に斬りかかる。

 しかし、どちらの攻撃もまるで鉄に斬りかかったかのように弾かれてしまう。

 全くダメージが無いわけでは無いが、長期戦になりそうだ。


「っ!!いったあぁい……!!」

 リゼットちゃんは魔獣と距離を取ってから手をプラプラさせる。

 どうやら今ので軽く痺れてしまったようだ。


 魔獣がこちらに向き直り、突進してくる。僕とリゼットちゃんはそれぞれ左右に避ける。

 僕は魔獣の突進を避けながら、背中に回り込む。そして、そのまま剣で強く斬りつけた。

 ザシュッ!!

 ……と、僕の攻撃はクリーンヒットして魔獣の体を大きく抉った。


「おおー!レイさんすごーい!!」

 リゼットちゃんが嬉しそうな声を上げる。


「よーし、じゃあ私も……」

 そう言って、リゼットちゃんは短剣を仕舞って腕を突き出して詠唱を始める。


『―――精霊よ、か弱き私に力を与えよ―――<筋力強化>』

 <筋力強化>は、その名の通り対象の筋力を強化する魔法だ。

 よくレベッカに掛けて貰ってるけど、レベッカの強化だと体感的に力が倍くらい上がる。


『もういっこ!! 

 ―――誰よりも早く疾風のように、韋駄天の力を<速度強化>』

 今度は速度をあげる強化魔法だ。


「よーしっ!それじゃあ……」

 と、リゼットちゃんは一瞬、体を引いて短剣を構えて、次の瞬間その場から掻き消えた。


「―――っ!はやい!!」

 僕は驚いて目を凝らすが、速すぎて残像しか見えない。

 やがて魔獣の真後ろに姿を現した。そして、彼女は跳躍すると魔獣の首元目掛けて飛びかかる。

 そして――


「バックスタッブ!!」

 リゼットちゃんは掛け声とともに魔獣の首元を両手の短剣で斬りかかる。

 完全な不意打ちの短剣の急所狙い二段攻撃だ。


 ――バキッ!!!

 という音と共に、大量の血が噴き出して魔獣の頭が落ちそうになる。


 しかし、その瞬間に魔獣は体を捻ると、

 後ろ足だけで立ち上がってリゼットちゃんを踏み潰そうとする。

 しかし、察知していたように、リゼットちゃんは地面を滑り転がるように動いて回避する。


「レイさん、今です!!」

「うん!!」


 僕は魔獣目掛けて走り剣に炎を纏わせる。今度は全力の攻撃だ。


 魔獣はやはりダメージが大きいのか、

 こちらを睨みつけながら下がろうとするが動きが遅い。

 そして僕の剣が直撃、そのまま魔物は崩れ落ちる。


 僕達は魔獣が完全に動かなくなったのを確認してから、武器を仕舞った。

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