第158話 迷走中の二人

 その後、僕はリゼットさんと村中を駆け回りながら、ルミナリアさんの捜索を手伝う事になった。しかし村の中を探したのだが、どこを探してもおらず、僕達は途方に暮れることになった。


「うぅ、先輩見つからないよー」

「大丈夫かな、村に居ないとなると外に出たんじゃ……」

 この近辺の魔物はゼロタウンと比べ物にならないくらい強力だ。彼女の装備を見るかぎり、おそらく冒険者なのだろうがそれでも単独で外に出るのはかなり危険だと思う。


「むむ、それはまずいですね……。

 私はあまり街から出たことが無いからこの辺には疎いんです。

 先輩がいないと迷子になっちゃう……」


「いや、そっちじゃなくて」

 青髪の女性が魔物に襲われてる可能性を心配してるんだけど。

 どうやらこのリゼットって女の子はかなり天然なようだ。


「えへへ、確かにその可能性もありましたねー」


 彼女は舌をペロッと出して屈託なく笑う。

 うちのメンバーには居ないタイプの女の子で癒される、可愛い。

 いや、三人も全然負けないくらいかわいいけど。


「ところで、その先輩はどういう関係なんですか?」


「えっと、幼馴染です。

 でも冒険者になったのは先輩が先なので、今は先輩って呼んでます」


「そうなんだ」


「はい!昔はよく一緒に遊んだんですよ。

 私が危なっかしいからって、いつも守ってくれて!」


 そう語るリゼットさんの顔はとても嬉しそうだ。

 きっと本当に仲が良いのだろう。


「それにしても、本当にどこに行っちゃったんだろ……」

「そうだね……」

 まだ会ったことない人だけど心配だ。


「あ、村の人に訊いてみましょう!!そこのおじさーん!!!」


 そう言うなり、リゼットさんは村のおじさんに声を掛けた。


「ん?なんだ嬢ちゃん?

 随分とエロい格好だが、俺はお嬢ちゃんは守備範囲外だぜ」


「ち、違います!!客引きじゃないですから!!」

 リゼットさんは男性の冗談に顔を赤らめて、

 胸元を抑えながら大声で言い返した。一応、気にしてはいるらしい。


「はは、悪い冗談だ。それより何か用か?」


「はい、ちょっと聞きたいことがあるんですけど、こーんな長い青髪で、それでながーい剣を持ってる綺麗な人見掛けませんでしたか?」


 リゼットはジェスチャーで髪の長さや特徴を伝えてみる。


「ん?そんな奴見たこと……ああ、居たな。

 青髪なんて珍しいから分かるぜ。確か村の外れに歩いていったと思う」


「本当ですか!?ありがとうございます!!」

「おう、気をつけて行けよ」


「はーい!!」

 ルミナリアさんの行った方向が判明した僕達は外に出ることにした。


「でも、先輩ってば、こんな時に何しに行ったんだろ?」

 確かに、危険な村の外に後輩を残して行ったのは何なんだろう。

 何か用事があったのは考えられるけど……。


 おじさんに言われた村の外れに向かうが、

 それらしい女性は見当たらない。あるのは古びた小屋くらいのものだ。


「居ないねぇ……」

「うん……」


 これほど探してもいないという事は、村の外に出たという事だろうか。


 待った、さっき話したお姉さんの話だけど……。


『そうね……。

 他にも、この村の近くに洞窟があってね。

 そこで変な噂も聞いたのよね』


 ……そうだ、村の外の洞窟ってのがあった。

 もしかしたら、そこに住み着いた魔獣を退治しに行った?


「リゼットさん、もしかしたらだけど……」

「?」


 ――そして村の外れの洞窟の前


「旅館に泊まってる女の人に訊いたんだけど、

 ここに薬草を食い荒らす魔獣が住み着いたって話だよ」


「ふむふむ、つまり、

 先輩はその話を聞いてここに来たって事かな?」


「んっと、多分……」


 正直、確証は全く無い。

 そもそもこんな洞窟を一人で進むのはいくら冒険者でも自殺行為だ。

 だけど、他に思い当たる場所も無い。

 

「リゼットさん、やっぱり行くの止めよう」

 案内しておいてなんだけど、流石にここには居ないだろう。


「えっ?何でですか?」

 僕の言葉にリゼットはキョトンと首を傾げた。


「ルミナリアさんが向かった確証が無い。

 もうちょっと村を探してみようよ、それに……」

 話に聞くところによると、傷だらけの魔獣らしい。手負いの獣は凶暴だと聞いたこともあるし、曖昧な情報で向かうのは危険かもしれない。僕はそう伝えたのだが……。


「大丈夫ですよー、私もこう見えても結構強いんですよ」

「でも……」

 凄く可愛い子ではあるけど、強そうには見えない。


「あっ?レイさん、疑ってますねー」

「えっと、そういう訳じゃ」

 しまった、いつもみたいに心を読まれてしまったのだろうか。


「いいですか?私は先輩よりは弱いですけど、

 これでもそこそこ有名な冒険者なんです。

 実力だけならベテラン冒険者さんにも引けを取りませんよ」


「そうなの?」

「はい♪」


 彼女は自信満々にそう言った。

 まぁ、そこまで言うのであれば、任せてみようか。


「うぅ、暗いですね……」

「あ、足元に気を付けてね」


 僕はランタンで照らされた道をリゼットと共に進んでいく。

 見た目よりかなり深い洞窟だ、どこまで続いてるんだろう……。


「リゼットさんはこういうダンジョンの経験ある?」


「『リゼット』で良いよ。

 これでもダンジョン攻略は自信がありますよー」


「そっか、それじゃあ頼もしいね」

「えへへ」

 リゼットちゃんは嬉しそうに笑った。


「それで、どういう感じに戦えば良いですか?

  一応、護身用の短剣は持ってきましたけど」


「あ、そっか」

 そういえばお互いどういう戦い方をするか知らないんだった。

「えっと、僕はコレかな」


 僕は腰に差してある<魔法の剣>を指差す。

 <龍殺しの剣>は宿に置いてきてあるのでこれ一本だ。


「剣以外にも、一応攻撃魔法も使えるけど接近戦が得意だよ」

「あ、私に似てますね。

 私も接近戦も魔法も出来ますよー」



「そ、それは心強いや」

「ふふん、頼りにしてくださいよー!!」


 リゼットちゃんは得意げに胸を張る。

 すると、その歳の割には大きな胸がぷるんっと揺れた。


「(うわっ、すごい)」

 と、そんな事を思ってしまった。


「あれれ~?レイさんのエッチ」

 リゼットちゃんは胸を隠す動作をしながら悪戯っぽい表情をした。

 え、顔に出てた!? 


「ご、ごめんなさい」


「ふふふ、大丈夫だよ。

 年下の男の子にそういう視線向けられることが多いんです。

 だから慣れっこなんで、許しますね」


「そうなんだ……ありがとう」

 という事は、僕も年下に思われてるのかな。


 と、そこで気配を感じた。

 僕の所有する<心眼>が魔物の存在を感知したようだ。


「さて、それじゃあそろそろ戦闘準備しましょうか」

「うん、そうだね」


 リゼットちゃんの言葉に従って、

 いつでも剣構えられるよう戦闘態勢に入る。

 ここからは僕が先頭で進む。


 そして、しばらく歩くと魔物らしき影が見えた。


「……人、ではないね」


「うーん、多分ゴブリンかな?」


 リゼットちゃんのいう通り、おそらくゴブリン種だ。

 体格はやや大きく、一般的に『ホブゴブリン』と呼ばれる上位種だろう。


「こんな村の近くにホブが出るなんて……」

 魔物が洞窟から出てきて、魔物に襲われでもしたら大パニックだろう。

 これは、魔獣以外も退治した方がいいかもしれない。


「村のガードさんがきっと優秀なんでしょうねー」


 リゼットちゃんはマイペースだ。

 それに魔物が近いというのに緊張した様子もない。

 どうやら、僕が思っている以上に彼女は優秀なのかもしれない。


「……うん、まずは僕が戦う。

 危なくなったら助けて貰えるかな?」


「はい、了解です!」

 僕は剣を構えながら、ゆっくりと歩を進める。

 そしてある程度近づいた所で、一気に駆け出した。


 ――キィッ!!


 こちらに気付いたのか、二体のホブゴブリンがこちらの方を向いた。

 手に持つ棍棒を振り上げて威嚇してくる。

 単純なパワーは強いけど、棍棒の振りはさほど早くはない。


「――ふっ!!」


 魔法の剣は優秀な武器だけど、打ち合うことには向いてない。

 棍棒くらいなら受け止められるだろうけど、相手は複数だ。

 受けに回ったら不利になる。なので、ここは一旦は回避だ。


 僕は横に飛んで攻撃をかわすと、そのまま体勢を整えて突っ込む。ホブが振り下ろした棍棒を片足で踏んづけて、動きを制限させ、そのまま右手の剣を振りかぶる。


「これで終わりだ!」

 すれ違いざまに一閃。

 ホブの胴体を大きく抉り、そのままホブの一体は倒れた。


 つぎにもう一体のホブゴブリンだが……。


『――力を貸してね。

 目の前に悪しき存在を、炎の風で焼き払え<中級火炎魔法>ファイアストーム


 詠唱と共に放たれたのは、巨大な火の渦だ。

 まるで竜のブレスのように、燃え盛る火炎がホブを飲み込んでいく。

 数秒の後、そこには灰しか残っていなかった。


「お疲れ様、リゼットちゃん」

「はい、ありがとうございます」


 今の魔法は当然、リゼットの放ったものだ。

 遠距離戦も出来ると本人が語った通り、かなりの高威力だった。

 むしろこれで本職の魔法使いじゃないのが驚きだった。


「レイさんこそ、凄いですね!」

「そんなことないよ。けっこう強敵だった」

 実際はそんなでもないけど、こんな純粋に称賛されると照れる。


「そうなんですね、でも頼りになります」

 リゼットちゃんは素直な感想を言いながらニッコリと笑った。


「う、うん、ありがとう……」

「さ、早く行きましょう!!」

 元気よくリゼットちゃんは先に進んでいく。

 僕はその勢いに押されながら後ろを付いて行くのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る