第157話 赤髪の少女
――二十七日目――
森を抜けた先には目的とする村がある。
本来ならここで物資の調達だけする予定だけだったのだが、
以前に立ち寄った街でここの温泉宿の宿泊券を入手できたため一泊する予定だ。
「(温泉かぁ……)」
温泉宿というのは行ったことがない。
以前に滞在した街には大浴場付きの宿はあったけど、
温泉となればまた格別だろう。
「みんなー、村が見えてきたわよー」
馬車を動かしている姉さんの声で僕を含めた三人が窓の外を見る。
そこには綺麗な村の風景が広がっていた。
温泉があるというだけあって、近くには湖もあるようだ。
村の入り口には門番さんが二人立っている。
僕達は馬を止めて、馬車の中から降りる。レベッカとエミリアも降りて来た。
「おや、旅人かい?」
「深淵の森を抜けてきたのか、大変だっただろう」
門番さん二人に呼び止められて、話し掛けられた。
二人ともがっちりとした体格で立派な剣を携えてる。
ただの村の人には見えない。元冒険者のガードだろうか。
「はい、四人で何とかたどり着きました」
僕達が隣の大陸からここまで来たことを告げると、
二人の門番さんは驚いた顔をした。
「そりゃあ凄いね、ここまでの道のりはかなり長かっただろう」
「それによくこの時期に来れたね。
魔獣とかドラゴンが暴れ回って森までの街道がボロボロだったろうに」
やっぱり、かなり距離があったんだな……。
僕達は自身の身なりを説明して、村に入れてもらえることになった。
「ふむ、四人とも冒険者かい。
ようこそ、ここは温泉と湯治の村、その名も――」
――【ラガナ村】
門番さんの説明によると、この村は"湯治場"として有名な場所らしい。
湯治とは病気の治療の為に長期間滞在すること。
そのため、村は今までの村と比較してもやや人口密度が高かった。
「ほうほう、ここが温泉の村ですね」
まぁ、僕たちは湯治じゃなくて温泉の為に来たんだけどね。
温泉があるのは山の麓に近い大きな建物の旅館らしい。
僕たちは村について馬車を預けてから、その旅館に向かうことにした。
――旅館にて
「いらっしゃい、冒険者さまかい?」
中に入ると受付の人らしき人が出迎えてくれた。
「はい、今日は泊まりでお願いします」
そう答えると、すぐに部屋の鍵を渡された。
「夕食の時間になったら部屋に案内するからね」
「分かりました」
旅館という事で今回はあえて個室ではなく、四人部屋だ。
折角なのでみんなで一緒に楽しく過ごそうという姉さんの計らいだった。
………。
旅を始めて個室だったことの方が少ないのは内緒だ。
温泉は男女別に別れていて、時間制になっているらしい。
「それではまた後で」
「またあとでね、レイくん」
「レイ様、お先に失礼します」
「うん、後でねー」
僕は女の子三人を見送って、
しばらく旅館でゆっくり過ごすことにしよう。
「どうしようかな」
この宿は僕ら旅人さんや湯治に訪れて長期滞在してる人も多い。
折角なので、他のお客さんと話をするのも悪くないかも。
それに、例の商人の情報も集めないとね。
僕は早速ロビーに行ってみる事にした。
◆
「こんにちは、今いいですか?」
「あら?見ない顔ね。いいわよ」
僕が話しかけたのは二十代後半ぐらいの女性だ。
茶髪のスレンダーな体型だった。
この人は、ここに湯治に来ているらしい。
「ここの湯は肌が凄く若返るのよねぇ。
元々は湯治の為だったけど、良い収穫だったわ」
「へぇー」
女性は温泉の効能を語り始めた。
「特に女性には人気でね。
ここ最近は若い子もよく来るようになったの。
年頃の子も多いし、娘も連れてくれば良かったわ」
「えっ?娘さん?」
子供がいる割には随分若く見えるけど……。
「あの失礼ですが、おいくつなんですか?」
僕がそう訊くと女性はニンマリ笑っていった。
「私は三十八歳よ!驚いた?」
「えっ!?」
予想より全然年上だった。
下手すると一世代くらい離れてる。
「あら、そんなに驚いてくれるのは嬉しいわねぇ。
綺麗なお姉さんだなーって思ってくれてたかしら?」
「え、えぇ……」
見た目からして二十後半ぐらいだと思ってました。
それにしても顔に出ちゃったかな。失礼だったかもしれない。
「あなたは? 見た感じだと十四かそこらの男の子に見えるけど?」
「えっと、もうすぐ十六になります」
「あら、年齢より幼く見えるのね」
僕が答えると、彼女は少し笑った。
「魔物も多いし、旅人さんかしら?
流石に一人旅ってわけじゃないんでしょ?」
「はい、仲間と四人で旅をしてます」
「良いわねぇ、他の仲間の事も教えてくれる?」
「分かりました」
そうして二人で盛り上がった。
◆
「うーん、そんな如何にも怪しい人は見てないわね」
「そうですか……」
折角なので例の商人の話も聞いてみたのだが、空振りのようだ。
「魔物が化けた剣ってのがちょっと気味悪いわね。
それに怪しい黒い魔石ってのも……最近物騒だから怖いわ」
「そうですね……。
話によると、街道に大型の魔物が出現して暴れたって話ですし」
以前商人さんが言ってた話だ。
その魔物はこちらの冒険者が追い返したという話だ。
ドラゴン系の魔物らしいけど、かなり苦労したんだろうな。
「そうね……。
他にも、この村の近くに洞窟があってね。
そこで変な噂も聞いたのよね」
「どんな話ですか?」
「なんでも、そこに住み着いた魔獣が、
時々村に現れては薬草を食い荒らすんですって!
怖いわよねぇ」
「薬草を?それは変な話ですね」
「でしょ?
キミももし魔獣に出会ったならすぐに逃げた方がいいわよ。
傷だらけで貫禄がある魔獣らしいわ」
…………。
しばらくしてその女性と別れ、僕は他の人にも話し掛けてみた。
「あぁ、その商人の事なら知ってるぜ。
ただ、この村には来てないと思う」
今度はサクラタウン出身の男性冒険者だ。
この人はどうやら例の商人と出会ったことがあるらしい。
「そうですか……」
「あいつは大きな荷物を背負って歩いていてな。
武器商人っぽかったら、良い武器は無いかと尋ねてみたんだが……」
と、そこで男性の冒険者は顔をしかめた。
「あの野郎、『満ち足りた者に売る武器などない』
とか意味の分からねぇこと言いやがった」
「ははは……」
本当に意味が分からない。
「まぁ、結局買わずに別れたけどな。
だが、胡散臭さは抜群だった」
「なるほど……」
「ちなみにそいつの顔は分からん。口元が尖った異様な仮面を付けてた。ただ、多分老人だぜ。手が枯れ木みたいにガリガリでしわしわだったからな」
「分かりました、ありがとうございます」
「おう」
……。
◆
そろそろ時間かな、と思い僕は部屋に戻ろうとする。
その時、やたら元気な大きい女の子の声に呼び止められた。
「すいませーん、そこの男の人ー!!」
「えっ!?僕ですか?」
振り返ると、そこには赤髪セミロングの美少女がいた。
年齢は十五歳前後だろうか。身長は百五十センチほどで小柄だ。
恰好は、軽戦士といったところか。
肩が露出してて胸元が強調されてて防御部位の少なめの白い鎧を身に着けている。もっと分かりやすく言えば、谷間が見えるし、下半身はミニスカートのような感じだ。
ビキニアーマーよりはマシだと思うけど、かなりえっちい。
「あの、呼び止めちゃってごめんなさい!!
この辺で髪が長くて青髪の女の人を見掛けませんでしたか?」
「えっ、いえ、見てませんけど」
「そうですか……。先輩何処行っちゃったんだろ……。いやー、実は私、その人とこの村に来たんですけど、何時の間にかいなくなっちゃって……」
少女は頭を掻いている。
どうやら困っているようだ。これは、助けるべきかな?
「僕で良ければ探すの手伝いますけど」
「えっ?良いの?助かります!!」
そう言って、その女性に手を握られた。
柔らかい感触が伝わってくる。
「ちょっ!?」
「一人で不安だったんですよー!!
一緒に探してくれるならとっても心強いです!!」
「わ、分かったから手を離して!!」
流石に恥ずかしくて、僕は手を振り払う。
しかし、目の前の女の子はそんな僕を不思議そうに見ていた。
「えっと、私の名前は、…………リゼットって言います」
今、妙に間があったな。
「僕はレイです。こちらこそ」
「えへへ、優しい人で良かった。
じゃあ早速だけど、一緒に探しましょう」
「うん、それでその人の名は?」
「先輩は、……ええと……
ルミナリアって名だよ、青髪の超綺麗な人」
僕は一旦部屋に戻って、
三人がまだ戻ってないことを確認し、書置きだけ残すことにした。
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