第156話 意訳です
闇の精霊の居場所が判明し、僕達はそこに向かう。
しかし、そこに向かうまでがかなり大変だった。
「ちょっと魔物の数多すぎない!?」
僕達が闇の精霊に近付くほど、影の魔物の遭遇率が跳ね上がる。
おまけに近付くほど、影の魔物の強さが上がっている。
具体的には、ちゃんと質量を感じるようになった。
「今はまだ問題なく勝ててるけど、大丈夫かな」
「旅の精霊様の話によると、徐々に力を使いこなせるようになっていると、
『子供のような精霊だけど、成長を見届けられて嬉しい』と言っております」
レベッカは嬉しそうに語る。
その成長のせいで苦労してるんだからそんなに嬉しそうにされても困る。
「あ、皆さん、闇の精霊が見えてきました」
「え、どこ?」
僕達はレベッカの指さす方向を見るが……そこには何もない。
「ふむ、姿が見えないのは少し不便ですね……」
『では、わたくしが語り掛けてみます。
闇の精霊様、わたくし以外にもその姿を見せてもらえないでしょうか』
『………』
レベッカの言葉に返事をするかのように、僕達の目の前には光の玉が現れた。
その大きさは、手の平に乗るくらいの大きさだ。
内面は黒く怪しく光るそれは、まるで闇を固めたような印象を受ける。
『……』
『ありがとうございます。
闇の精霊様、どうか力をおしずめくださいませ。
そして、もし宜しければわたくし共と一緒に来られませんか?』
『……』
闇の精霊は沈黙を続けている。
というより、レベッカ以外に声が聞こえてない。
『……ふむ、ここを離れたくない……と。
自分を見捨てた他の精霊が謝りに来るまで続ける……と』
『………』
中々わがままな精霊のようだ。
『ですが闇の精霊様、元はといえば、
力を制御できなかったのは精霊様自身の問題ではないでしょうか。
おそらく他の精霊様も戻っては来ないでしょうし、
むしろ外に出て精霊様自身が他の精霊様に謝るべきでは?』
『……』
レベッカが説得を試みるが、闇の精霊は黙ったままだ。
すると、エミリアの近くに漂っていた
『旅の精霊』が闇の精霊の近くに飛んでいった。
『……』
『……』
白い光と黒い光が隣り合ってるだけに見える。
これは、一応話し合ってるのだろうか?
「えっと、エミリア?レベッカ?
何言ってるか分かる?」
「はい、分かります」
「あ、私も、ちょっと分かってきました」
お、それなら二人に通訳してもらおう。
「じゃあ、何言ってるか聞かせてもらえる?」
二人は了承し、聞かせてもらえることになった。
ここからの文章は、エミリアが旅の精霊役、レベッカが闇の精霊役だ。
『おい、コラァ!君のせいでみんな何処か行っちゃっただろ!!』
『は?みんなが悪いんでしょ!?
ちょっと力を試してくなっただけ!可愛い悪戯じゃん』
『力が使えるようになったからって調子に乗り過ぎだよ!!
キミが気になっていた恋の精霊ちゃんも嫌がってたでしょ!!』
『ウソでしょ!?
だって、あの子普通に笑って許してくれてたし!!』
『だからって毎日やったら嫌われて当然だよ!
みんなが出て行く前には、恋の精霊にあの子怖いって相談されてたよ』
『そ、そんなわけない……!
あれはコミュニケーションが苦手な僕のアピールであって、
嫌がらせとかじゃなくて……
大体、何でオマエに相談するんだよ!!』
※なお、この会話は意訳である。
……なんだこれ。
「あの、エミリア、旅の精霊さんはなんて?」
「『力を使いこなせなかったのは自己責任。
他の精霊に文句言う前にまず自分で何とかしなよ。
大体、自分から好きな子を公言するとか馬鹿じゃねーの?』
と言っています」
「辛辣!!」
「ちなみに闇の精霊様は
『オマエみたいな空気読めない精霊に言われたくない!!
大体、何でオマエだけこの森に残ってんだよ!!嫌なら帰れよ!』
……と言っております」
※意訳です。
「精霊って結構俗っぽいな……」
というか、旅の精霊、さっきは成長見れて嬉しいとか言ってたけど、
本人の前に来るとやたら辛辣で厳しいな、ツンデレって奴かな?
そして、旅の精霊がレベッカの元に戻ってきた。
「旅の精霊様、如何でしたか?」
『……』
「ふむふむ……」
どうやら話し合いは終わったようだ。
「レベッカ、何て言ってる?」
「はい、『ごめん、説得に失敗した。あとはよろしく』だそうです」
「だろうね!!」
あれだけ口論になったらそりゃあもう失敗でしょうよ。
「『あの子馬鹿だけど力だけは強いから、全力で叩きのめしていいよ』
と、旅の精霊様は仰っております」
「だからさっきからキツイことばっかり言うの!?
もっとこう、平和的にいこうよ……!」
「まあ、この子達はそういう精霊ですから……」
全部の精霊がこうじゃないと信じたい……。
「あの、みんな?闇の精霊さんやる気満々みたいよ?」
姉さんの言葉にギクリとして、闇の精霊を見ると、
怪しい光をギンギン輝かせて頭上高くに浮かび上がり、
沢山の魔物の姿をした影を作り出した。
「『もう許さない!
旅の精霊なんかと一緒にいるオマエたちも敵だ!!』と言っています」
レベッカが通訳してくれた。
さて、どうやって止めようか……と考えていると、
レベッカ……もとい、風の精霊さんの有り難い言葉が飛んできた。
「『エミリアちゃんの魔法で影をデストロイしちゃえばいいよ。
トドメにその剣でぶった切っちゃえば大人しくなるから』と仰ってます」
旅の精霊、もう黙っててくれないかな。
僕はエミリアを見る。
彼女は少し考えてから答えてくれた。
「そうですね……。
正直私も面倒くさいので、さっさと倒しましょう」
「考えてその結論なの!?」
「大丈夫です、どうせすぐ終わるので―――
―――地獄の業火よ、我が呼びかけに応え、現世へと来たれ、
目の前の愚かなる闇の精霊を、終焉の贄と捧げよ――!!」
エミリアの詠唱文が物騒すぎる。
「
彼女の杖の先端から、真っ赤な炎が一気に燃え広がり、
周囲を取り囲んでいた黒い影は炎に巻き込まれ全て消失した。
闇の精霊は、動揺したのかそのまま逃げようとしている。
「レイ、とりあえずあの闇の精霊斬ってください」
「レイ様、仕方ないので斬ってください」
「レイくん、斬るのが嫌なら突いてもいいよ」
「……はい」
僕に拒否権はなかった。
逃げる闇の精霊を追いかけ、その光の球に剣を突き刺す。
突き刺すといっても感覚的に手応えは全く無い。
『……』
闇の精霊は、ちゃんとダメージを受けたのか、
僕の足元にポトリと落ちた。
「……」
これで倒せたのだろうか。
僕は、ちょっと不安になって後ろを振り向くと、
エミリア達が僕の側に寄ってきてくれた。
「お疲れ様です、レイ。
あ、心配しなくてもちゃんと生きてますから安心してください」
「え?……ああ、うん」
エミリアは、闇の精霊を物理的に手で拾い上げた。
「ほら、見ての通り死んでませんし、気絶しているだけでしょう」
いや、分かんないけど。
「闇の精霊様、今後は周りに迷惑を掛けてはいけませんよ?」
レベッカは闇の精霊に「めっ!」という感じの顔をした。
闇の精霊はビクッとした。
「……ふふっ、分かればよろしいです」
どうやら反省したらしい。僕はため息をついた。
こうして、森の魔物の影騒ぎは解決した。
――それから数時間後
「はぁ……やっと森から出られたね」
「思ったより時間掛かっちゃったねぇ」
僕達はようやく深い森を通り抜けることが出来た。
闇の精霊を物理的に反省させてからも、
通常の魔物と連戦になったので大変だった。
まあ、無事抜け出せたので良しとしよう。
「皆さん、今日はここで野宿にしましょうか」
レベッカの提案に全員が同意する。
もう既に日も暗くなっている。次の村もまだ遠い。
すると、僕達に付いて来ていた光の玉が遠ざかっていった。
「『楽しかったよ。それじゃあ僕はもう行くね』と仰っています」
とレベッカが通訳してくれた。どうやら旅の精霊との旅はここまでらしい。
「ありがとうございました」
僕は礼を言うと、光る玉は森の中へと消えて行った。
……さっきまで一緒にいたせいか、ちょっと寂しく感じる。
というか、まだもう一つの精霊が残ったままなんだけど……。
「レベッカ、闇の精霊の方は?」
「『ボクはレベッカちゃんが気に入ったから付いて行く』と仰ってます」
「レベッカがいいのなら、私は構いませんよ」
レベッカと闇の精霊の会話を聞いていたエミリアが言った。
「まあ、レベッカが連れて来た精霊だし、レベッカに任せるよ」
「分かりました。では闇の精霊様、これから宜しくお願いします」
レベッカがそう答えると、闇の精霊は空にユラユラ浮かんでから、
レベッカの槍の宝石の中に入っていった。
「『よろしく~』と言っています」
レベッカの言葉を聞いて、僕は改めて実感した。
「なんか、色々ありすぎて忘れてたけど、
本当に精霊と一緒なんだな……」
「私も今日で精霊のこと色々知れて良かったです」
「そういえば、エミリアも途中で普通に精霊の言葉通訳できていたね」
「私には適正ないと思ってたんですが、意外でした。
他の精霊に力を借りることが出来れば、今より強くなれるかも……」
確かに、それはあるかもしれない。
でも、精霊に好かれる人間じゃないと駄目とかいう条件がありそう……。
「エミリアは精霊に気に入られそうなタイプだよね」
「もし、そうならとっくに<精霊魔法>習得出来てますよ……」
色々複雑らしい。
そんな話をしていると、
闇の精霊がレベッカの槍から飛び出してきた。
「うわっ!?びっくりした」
「どうされたのですか?闇の精霊様?……ふむふむ」
闇の精霊と何かを話すと、レベッカは空に向かって槍を掲げる。
『では、精霊様の言うように……
―――全てを吸い込む闇を、ここに顕現せよ
その言葉と同時に、槍の先から黒い渦が発生した。
そして、その渦の中心には大きな球体が出現する。
「おお……」
僕は思わず声を上げた。
「<闇属性>の上位魔法……。
レベッカ、そんな適性もあったんですね」
「闇の精霊様が力を貸してくださいました。
<闇属性>の魔法なら今までより強力な魔法が使用できると思います」
精霊って便利だなぁ……。
僕も精霊がいればもっと強力な魔法が使えるんだろうか。
「精霊って便利ですね。
私も精霊がいればもっと強力な魔法使えるんでしょうか?」
僕の心の中と全く同じ言葉をエミリアは発した。
「……」
心読まれたわけじゃないよね?
「何か言いたい事でも?」
「何でもないよ」
その日は、夜も遅いという事でキャンプという事になった。
森を抜けたので、明日は近隣の村まで行く予定だ。
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