第155話 精霊様の手助け


「―――えっ!?ドラゴン!?」

「うそ……こんな森の中で、ですか?」

 そこには以前に遭遇した、

 炎龍と同等くらいの大きさと形の黒い龍が立ち塞がっていた。


「くっ!」

 僕はすぐさま剣を取り、その黒い龍に斬りかかる。

 すると、その龍は無抵抗に斬られ、そのまま消滅していった。

 そして何かの黒く輝く何かがスゥーっと離れていった。


「―――はい?」


「何がどうなってるのかしら……これ」


 いくら何でも弱過ぎる。

 斬った手応えも殆ど無く、雲を斬ったような感覚だ。


「さっきの魔物、炎龍そっくりだったよね……?」


「左様でございますね……」


「姿だけそっくりで中身がスカスカって感じがします」


「うん、私も同じ印象を受けたわ」

 苦労せずに倒せるのは良いんだけど、疑問が沸くばかりだ。


「……ところでエミリア様、

  先ほど、何か考えが浮かんだのではございませんか?」


 うん、あの黒い影の龍が出現する前に何か言おうとしてた気がする。


「いえ、ほぼ当てずっぽうなのですが……」

 と前置きして、彼女は自分の考えた事を話し始めた。


「あの魔物は、もしかしたら精霊の力ではないかなと思います」


「精霊?」


「はい、精霊ってマナに心が宿ったとか言われる存在ですが、

 それを感知できる人間って殆ど居ないですし、力が消えかけると感知できる人間でも気付かなくなります。現に、レベッカも感知できてないですよね」


「はい、今のわたくしにも精霊様の存在を見ることが出来ません」


「なので、消えかけてる力を費やして、

 私たちに何かを伝えようとしてるんじゃないかなと思います。

 といっても、これは私の勘なので、信憑性は全く無いです」


 うーん、確かにありそうな気もするけど……。


「ただ、あの影の魔物を倒した時に見えた黒い光、

 あれは精霊の残滓じゃないかと……」


「なるほど……」


「精霊様がわたくし達に何かを伝えようと……?」

 レベッカは半信半疑といった様子だけど……。


 しかし、レベッカは槍を消して、目を瞑り、何かを呟き始めた。


『―――精霊様、精霊様、

 わたくし達の傍におられるのであればお答えください……

 精霊様……この森で何が起きているのでしょうか?』


 レベッカの声は僕達には少し反響する様に聞こえる。

 言葉、というよりはまるで心に直接語り掛けてくるような不思議な感覚だ。


「……精霊魔法ですね、初めて見ました」

 エミリアがちょっと羨ましそうにレベッカを見つめながら言った。


「何それ?」


「本来、自身に内包するマナ……魔力を操作し、

 それを形にすることで、魔法という形で具現化させるのですが……」


「うん、それなら僕でも分かる」


「ですが、精霊魔法は周囲のマナや精霊の力を借りることで、

 自身の魔力消費を抑えながら魔法を使用できるようになる技術とのことです。

 魔導書に載ってました」


「エミリアは出来るの?」


「レイ、私に喧嘩売ってます?」

 いきなりキレられた。


「い、いえ滅相もない……」

 目が怖いよ……。


「話を戻しますが、

 レベッカはその精霊魔法で精霊と対話しようとしているのです。

 これでもし、レベッカと精霊がコンタクトを取れれば……」


「そうすれば、影の正体が判明するかもしれないってことか」


「レベッカ、行けそうですか?」


 レベッカは目を瞑りながら頷いて、言葉を続けた。


『…………精霊様、精霊様、

 地の女神、ミリクの巫女として、あなた様の力になりたいです。

 もし、わたくしの声が聞こえるならお返事くださいませ……』


 すると、レベッカの足元から光の玉がフワリと浮かんできた。


「これは……」

「どうやら、会話が出来ているみたいですね」


『精霊様…………なるほど、そのようなことが……!!』


 どうやら、レベッカは何かを理解したようだ。


「レベッカ、何か分かったの?」


「はい、この森に新たな精霊様が生まれたそうです」


「新しい……精霊?」


「この森に精霊の姿が無かったのは、

 新たに誕生した精霊の力が強すぎて、

 他の精霊が森から去ったからのようです」


 なるほど、自分達で姿を消したという事か。

 となるとエミリアの予想も間違ってたのか、ちょっと珍しい。


「残念だったね、エミリア」


「だから勘だって言ったじゃないですか。

 ……何ですか、レイ、その目は?」


「いや、別に?」


「私がミスったからって、ここぞと仕返し企んだりしてません?」


「そ、そんなことは無いよ?」

 

 そんな僕らをスルーして、レベッカはまた精霊に話し掛ける。

『精霊様、丁寧に教えていただきありがとうございます……

 え?わたくしと一緒に?……分かりました、ではご一緒に行きましょう』


「どうしたの?」


「この、森から離れようとしていた精霊様が……

『あの子が可哀想だから見つけてあげて、僕も一緒に行くから……』

 と仰りました」


「あの子って誰?姉さん」

「新しく生まれた精霊のことじゃないかな?」


 姉さんが僕の疑問に答えてくれた。

 つまり僕達がその子を見つけてあげればいいのかな?


「はい、ベルフラウ様。

 先ほどの影は、その新たに生まれた精霊様……

 『闇の精霊』が力を暴走させた結果のようです。

 今はまだ無害ですが、放っておくと今後危険があるかもしれません」


 ふむ、精霊のことは良く分からないけど、

 あの黒い影を倒すのとはまた違う方法で解決しないといけないのかな。


「具体的にどうすればいいのかしら?」


「まずは『闇の精霊』を探しましょう。

 わたくしが対話をしてみます。申し訳ありませんが協力お願いします」


「うん、分かった」


「了解しました!」


「精霊さんってどんな姿してるのかしら……」


 とはいえ、闇雲に探し回っても見つからないと思う。

 手分けするとしても、魔物が跋扈する森で孤立するのは危なすぎる。

 ここはエミリアの<索敵>で範囲を広げてもらうことにしよう。


「じゃあエミリア、よろしく頼むよ」


「仕方ないですね、魔力も結構消耗してますが……」

 やれやれ、と言いつつ杖を地面に立てて<索敵>の魔法の準備を行う。


「エミリア様、精霊様にも協力して頂けるようです」


「えっ?」

 エミリアが一瞬困惑するが、

 レベッカの周囲に浮かんでいた光がレベッカの杖の上に飛んできた。


「エミリア様、そのまま魔法を使用してみて下さい」


「わ、分かりました……<索敵・起動>

 索敵範囲設定、半径距離は―――え!?二キロ!?」


 さすがにエミリアが驚いた声を上げた。

 精霊に力を貸してもらったせいか、索敵範囲が増大しているようだ。

 二キロ四方を探索するとなると、かなりの魔法力を消費しそう。


「い、いえ、どうやら精霊がサポートしてくれるみたいです。

 通常500メートル程度が限度なのですが、魔力の負担も補ってくれるようです」


「すごい!エミリアちゃん!!」


「おお……精霊様はエミリア様と相性が良いみたいですね」


「そうなの?」


「はい、精霊魔法は精霊様と相性が良いほど効力が強くなります。

 今回協力してくださったのは『旅の精霊』、気ままに旅をしている方です」


 精霊にも色々あるんだなぁ……。


「他にも、炎、氷、雷、風、水、地、光、そして闇の精霊。

 それ以外にも、廃墟の精霊、本の精霊、草原の精霊などもおられますよ」


 ……何それ、面白そう。


「レベッカ、精霊が影の発生源を見つけました」


「本当ですか?それは良かった……」

 レベッカはほっとした表情を見せた。


「それで、影の魔物はどこにいるのでしょうか?」

「それが……」


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る