第154話 ゴブリンより弱い魔物
「―――ふぅ、終わった」
僕達は馬車まで戻り、一旦状況を確認する。
「エミリア様、他に反応は?」
「大丈夫です、周囲を索敵してますが反応はありません」
エミリアの言葉を聞き、僕とレベッカは安堵する。
森に入って時間が経つが、先に進むほど魔物が強力になってる気がする。
このレベルの魔物と連戦するとなると並の冒険者では厳しいだろう。
「地元の人はよくここを抜けられるよね」
港町と都市の境にある森だ。
地元の人はどうしてもここを通り抜ける必要がある。
いくら護衛を付かせたとしても命がけだろう。
「こっちの大陸の冒険者は優秀でして、
サクラタウンの近くのダンジョンで見習いの頃から経験を積んでいるようです。
そんな冒険者たちがガードをしているおかげでしょうね」
「ダンジョンかぁ……」
「何でも、他の迷宮と違って特殊なルールがあるらしいですよ」
少し前に、似たようなダンジョンを潜ったことあるけどそんな感じかな?
「エミリアちゃん、周囲の警戒をお願いしてもいい」
「はい、分かりました」
エミリアが周囲に<索敵>を行い、僕達は再び進み始めた。
◆
それから一時間程進んだところで、レベッカは異変に気付いた。
「……妙ですね」
「どうかしたのレベッカちゃん?」
「いえ、本来このような森には精霊様が沢山いるはずなのですが……」
レベッカはそう言いながら、周囲を見渡す。
僕もそれに釣られて辺りを見るが、そもそも僕は精霊が見えない。
「エミリアは分かる?」
「そもそも、私も精霊に詳しくないので……」
「えっ?エミリアも?」
てっきりこの世界では常識的なものだと……。
「精霊はマナ……魔力の事ですが、
それが心を持ったもの……らしいです」
「らしいって……」
「仕方ないじゃないですか!
私も魔導書で学んだ内容で、実際に目撃出来るのは稀なんですよ!」
「あー、ごめん」
どうやらエミリアの触れてはいけない部分に触れてしまったようだ。
「でも、レベッカは見えるんだよね」
「はい、以前お話した<精霊の儀>を受けて……」
「ああ、あの時言ってた儀式のことか」
確か、魔力を扱えるようになるための儀式だったはずだ。
「ですが、この森には何故か精霊が見当たりません。
他の場所に移ったのか、あるいは魔物に吸収されてしまったのか」
「とりあえず、先に進もう。
もしかしたらこの先で精霊がいるかもしれないし」
僕は気を取り直して進む事を提案する。
「そうね、どのみち子の森を通り抜ける必要があるし」
姉さんも同意してくれた。
「――!? 前方に複数の気配があります!」
エミリアが前方を指さす。
僕達が急いで前に進むと、そこには3体のゴブリンらしき存在がいた。
3体とも弓を持っており、その目は赤く光っている。
「ゴブリンアーチャー??」
ゴブリンの亜種の魔物だが、ちょっと様子がおかしい。
具体的には、目は赤く光ってるが体は黒く、まるで影のようだ。
「ゴブリンに、あんな種類居ましたっけ?」
エミリアの言葉だが、少なくとも僕達は誰も見たことが無い。
影のゴブリン達は弓を引き絞り、こちらに矢を放ってきた。
「くっ!!」
即座に腰の剣を抜き放ち、皆の先頭に出て矢を剣で振り払う。
………ん?
咄嗟に振り払ったけど、全然威力が無かったような……。
「――炎の風よ、焼き払え
エミリアは魔法を発動させ、炎の竜巻を発生させる。
その勢いに飲み込まれた影のゴブリン達は燃え上がり、
あっという間に灰になり消えていった。
「凄いわねエミリアちゃん」
「ありがとうございます」
魔物を簡単に倒せたのは良い。
ただ、いくらなんでも弱過ぎないだろうか。
ここの魔物はどいつも手ごわいのに、何だこの違和感は……?
「この辺りにいる魔物じゃなさそうですね」
「うん、そうだね……」
「少し進んでみましょう。
もしかしたら、何か見つかるかもしれません」
「分かった」
僕達は再び馬車に乗り込み、先を急ぐのだが……。
それから、何度も黒い影のような魔物と出くわすようになった。
ゴブリンだけじゃなく、
最初に見たキマイラ、それに木の魔物、クマの魔獣……。
どれも姿形こそ同じなのだが黒い影で、
攻撃を加えればあっさり倒せてしまう。
そして数度戦って気付いたが、
斬っても血が出ず苦しむ様子もなく煙のように消えてしまう。
「どうなってるんだろこれ……」
「お姉ちゃんにもまだ何とも……。
こんな魔物なんて今まで聞いたことも無いし……」
僕達も既に何度目になるか分からない戦闘を終え、
少し休憩を取っていた。
「前半は手強かったのに、後半は随分と弱々しいですね……」
どうにも手応えが無い。
まるで幻覚と戦ってるような気分だが、
以前似たシチュを経験してるので冗談で済ませられない。
「まさか、また幻覚に囚われてるとか?」
「止めてくださいよ。
あの時の事は思い出したくないんですから……」
「それは僕も同じだよ。
だけど、状況的にちょっと似てるし……」
なんとも言えない状況に悩むが……
「うーん、幻覚とかじゃないと思うわ」
と、姉さんは言った。
「姉さん、何で分かるの?」
「あの時からみんなに幻覚とか、
精神系魔法に対策出来る魔法を掛けるようにしてるから」
いつの間にそんなことを……。
「とすると、あの魔物は実在する?」
「魔物が存在してるかは別として、
何かが襲い掛かってるのは本当だと思うわ」
うん?姉さんは変な言い回しをする。
魔物が存在するかは怪しいが、襲い掛かってくるのは本当?
つまり、それって……?
「あの影みたいな魔物が、
実体を持ってない可能性はあるかも……」
「どういう意味ですか?」
レベッカが尋ねると、姉さんは自分の考えを話し始めた。
「例えば、魔力を吸い上げて魔物が出現した場所があったでしょ」
<魔石鉱脈>のことだろうか。
確かに、最後に出現した<魔王の影>はそうだった。
「あれと同じ事が森でも起こっていて、
それが魔物を生み出しているとしたら?」
「……!」
「じゃあ、あの影の魔物を倒しても、すぐに復活するんじゃ!?」
「ですがこの森はそこまで魔力が充満していないような……。
精霊が少ないことも踏まえると魔力で魔物を生み出すのは無理でしょう」
レベッカがエミリアの言葉に頷いた。
「それにあの時の鉱脈と違って魔石もありません。
ベルフラウ様の予想はおそらく違うと思われます」
「そ、そうかしら……?
うう、せっかく考えたのに……!!」
「姉さん、ドンマイ」
「ですが、ベルフラウ様の言うように、
影だけで実体のない存在というのはおそらく正解ではないかと」
「そうですね、もしかしたら――」
エミリアが何かに気付いたのか思案してると、
突然、僕達の正面が暗い影に包まれた。
「えっ!?」
「これは、一体……!?」
目の前にはまるで壁のように暗い影が形成されていた。
「ち、違うわ!上を見て!!」
姉さんの言葉に、僕達はハッとして上を見上げる。
そこには……!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます