第153話 魔物とじゃれ合う
僕達は更に奥へと進んでいく。
森の中は暗いが、姉さんの魔法で周囲を照らしてるため支障は無い。
ただ、それもあってから魔物の出現率はかなり高い。
時間的に二十分に一回くらいは魔物が襲ってくる。
「エミリア、どう?」
「敵の数、正面二、右一、後方一です」
エミリアの役割は敵を警戒しながらの索敵役だ。
視界の悪い森の中では敵の位置が把握できないとすぐ追い込まれてしまう。
「了解です、エミリア様」
レベッカは馬車の上からエミリアの情報を元に、弓矢でけん制することだ。
接近される前にこちらから仕掛けることで、魔物を逃走させる狙いもある。
「シロウサギ、クロキツネ、大丈夫だから……ね?」
姉さんは馬車を動かしつつ、僕らを魔法で支援している。
そして僕の役割は―――
「―――レイ、おそらく正面の魔物が最も強敵です」
「了解!!」
僕の役割は、レベッカの弓矢でも逃走しない敵を撃破すること。
各種強化魔法を受けてる僕は、レベッカ並の速度で敵に接近していく。
「――正面の魔物は……」
見た目、悪魔のような魔物だ。
その風貌はレッサーデーモンに近いが……。
「
敵の雷魔法が僕目掛けて迫ってくる。しかし、この森で雷魔法は悪手だ。
これだけ深い森だと雷を落とすサンダーボルトは簡単には直撃しない。
急接近されて判断を間違えたのだろう。
「魔法の使い方が下手だねっ―――!!」
僕はそのまま魔物正面に飛び込み、剣を振るう!!
僕の剣を受けた魔物は大きく怯み血を流す。
「
そこへすかさず炎魔法を発動し、魔物に追撃を加える。
僕の魔法を受けた魔物はそのまま火だるまになって倒れた。
「ふぅ、これで終わりかな」
「お疲れ様……と言いたいですが、
まだそこから左の方に魔物が接近してますよ」
後ろからエミリアの指示が飛ぶ。
「……本当、大変だな」
これだけ戦闘が続くと流石に疲労が溜まってくる。
ミリクさんの作った迷宮でもここまで連戦じゃなかったのに……。
そして、その後数分戦ってようやく一難去った。
◆
「――正面0、左0、右0、後方0
<索敵範囲・拡張>―――周囲300m以内に生物反応無し」
エミリアの言葉を聞いて、全員その場に座り込んだ。
「―――ふぅ、ようやく休めるね」
「矢の数も半数近く消耗しました。中々に手強い森でございますね」
「みんなお疲れさまー、怪我はない?」
僕達は各々話しながら馬車の中で休憩をする。
しかし、一番消耗しているのはエミリアだろう。
最初の戦闘以降、ずっと
こうして、休憩している間にもエミリアは魔法を使用し続けているのだ。
「エミリア様、大丈夫ですか?」
「今の所、魔物の姿はありませんよ、レベッカ。
馬車の中でゆっくり休んでいてください」
「いえ、そうではなく……。
常時<索敵>を使用しているエミリア様が一番辛いのではないかと……」
「私は平気ですよ?慣れてますから」
この中で索敵の魔法を高レベルで使用できるのはエミリアだけだ。
普段、どれだけエミリアに頼りきりなのかよく分かる。
「せめて<心眼>でどうにか出来ればなぁ」
僕やレベッカが使用する<心眼>とエミリアの<索敵>は、
似通って見えるが、実際は全く違う性能だ。
<心眼>は戦士職の技能で、敵の殺気や気配、適性がある場合は魔力なども感知して大体の位置を把握するものだ。しかし、正確な距離や数は分からない。
経験則から予想出来る場合もあるが、本人の能力に依存してしまう。僕もレベッカも森の中では正確に位置を把握できるほど<心眼>を使いこなせない。それに魔物の種類によって、気配の質が違うため上手く察知出来ないこともある。
一方、エミリアの<索敵>の場合は敵の種類に関わらず、常に一定の精度で敵の存在を察知し続けることができる。
技量に依る部分もあるが、<心眼>より<索敵>の方が高性能だ。代わりに魔法力を消費し続けるが、この状況では<索敵>に軍配が上がる。
「お姉ちゃんも
姉さんは、元女神なだけあって魔力はエミリアを越えている。
ただし、魔法の使い方が下手なので、得意系統以外は基本ボロボロだ。
「レベッカは
「わたくしは<心眼>の方が性に合っておりまして」
普段の戦いぶりを見ると、レベッカの言うことは分からなくもない。
「どうです?レイも覚えてみますか?」
馬車の中で目を瞑りながらも、僕に話し掛けてくるエミリア。
エミリアは魔法を使用しながらも普通に会話が出来る。
「どういう風に使えばいいの?」
「まず<魔力発動>を自身の周囲に拡散してから―――」
「うんうん」
「魔力の反射で周囲の地形を把握して―――」
「……うん」
「自身の魔力と周囲の魔力が共鳴する場所が―――」
「……」
あ、これ無理だ。
その後、レベッカにも再度説明を受けたが全く理解できなかった。
◆
――それから二時間後
魔物との戦いを数度繰り広げながら先に進んでいく。
順調に進んではいるものの、それでも森の半分を踏破出来たといったところか。
常時<索敵>を行うエミリアは戦闘で魔力を割く余裕は無く、
また、姉さんも基本的に馬車を動かしているため積極的に参加はしない。
それでも僕達を支援してくれるため、立ち回りとして重要な立ち位置だ。
そのため、魔物と戦うのは僕とレベッカが中心となる。
「――前方、左前方に敵影有り、数は三」
エミリアの言葉を聞き、僕とレベッカは武器を構える。
「――レイ様、わたくし達の出番です!!」
「うん!!」
僕とレベッカは走り出す!! 木々を抜け、一気に敵へと迫る!!
「居た!!敵は<オークキング>!!」
オークキングはオークの最上位種のモンスターだ。通常のオークと比べて体が大きくて頭が良く、他の魔物と連携を取りながら襲ってくる。
「丁度良いですね。
オーク肉は食べごたえがあるので解体しましょう」
えっ、食べるの!?
……いや、今は戦闘中だ。
今は猟奇的な仲間の発言を気にしてる場合じゃない。
「レイ様、他の二体の魔物は<ゴブリンウィザード>のようですね」
こちらは言うまでもなくゴブリンの上位種だ。
亜種<ゴブリンメイジ>の上位種でもあり、厄介な魔法を使用する。
オークとゴブリンは仲が良いのか、
同時に襲ってくることが多いが、上位種でも変わらないらしい。
魔物はこちらの接近に気付き、オークキングは槍を構え、
後方のゴブリンは詠唱を開始する。おそらく中級魔法だろう。
「
こちらが接近する前に、ウィザードの詠唱が完了する。
予想通り中級魔法!
しかし、この魔法の対処は難しくない!
「<火炎斬>!!」
僕は剣に強力な炎を纏わせ、自身の周囲に振りかぶる。
「姉さん、後方のゴブリンの妨害お願い!!」
僕は少し後方にいる姉さんに指示を出しつつ、オークキングに向かう。
ゴブリンウィザードはレベッカに任せれば大丈夫だろう。
「任せてレイくん。
――魔力よ、拡散せよ
後方から姉さんの妨害魔法がゴブリンウィザードの片方に命中する。
この魔法が掛かると詠唱がリセットされ、しばらくの間魔法が使えなくなる。
その隙に僕は剣を振るうが、オークキングはちょっと手強い。
通常のオークと比べて体格もあり、リーチの差もあって先手を取られる。
「―――ふっ!!」
オークキングの槍を剣で弾いて、懐に潜り込もうとする。
しかし、上位種なだけあって簡単には距離を詰めさせてくれない。
接近される前に一歩下がって距離を維持しようとしてくる。
戦いの技量も槍の腕前も、その辺のオークとは別格だ。
その戦い方は受け流すような形で、あまり積極的に攻めてこない。
あくまで攻撃ではなく防御に回って、ウィザードに攻撃を任せるつもりだ。
そこに、まだ妨害を受けていない、
ゴブリンウィザードの魔法が飛んでくる。
「
火球の魔法だが、それが同時に三つこちらに飛んでくる。
一撃一撃は大したことないが、三発食らうとダメージが大きくなる。
「――盾よ」
しかし、僕と火球の間に、レベッカが<空間転移>で呼び出した盾を割り込ませて強引に魔法を防ぎきる。そして、そのままレベッカは<初速>で一気に加速し、ゴブリンウィザードに槍で飛びかかる。
「レベッカ、ナイス!!
こっちも負けてられないね!!」
冷静に距離を取ろうとするオークキングに対し、
僕は狙いをオークキングではなく、槍に狙いを定める。
槍の軌道を予想し、槍の先端に対して剣を叩きつけるように振り下ろす。
「<雷光斬>!!」
同時に、魔法を発動させ剣に雷撃を落とし威力を底上げさせる。
僕の剣とキングの槍にスパークが起こり、防御性能が低い槍の方は電撃の高熱で劣化してしまう。
槍を折られたキングは、それでも諦めずに棒のように振り回してくる。
「くっ!!」
だけど、その程度なら問題ない。
多少のダメージ覚悟で突っ切り、そのまま懐に飛び込み剣で薙ぐ。
オークキングのお腹が横に大きく切り裂かれ、更に風魔法を発動する。
キングは大きく吹き飛んで木に激突し、動かなくなった。
その間、レベッカは既にウィザードを1体倒し、
残った魔物は僕とレベッカの総攻撃を受け、あっという間に倒せた。
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