第152話 はしゃぐエミリア
――二十六日目
――起きなさい、私の可愛いレイ……。
……微睡の中、誰がが僕の名前を呼ぶ声が聞こえる。
……誰だろう?聞いたことがあるような気がするけど……。
――うぅん、まだ眠たいよぉ……もう少し寝かせてよぉ。
僕はそう思いながら布団の中に潜り込む。
「起きないとお姉ちゃんが襲っちゃうぞ!!……なんて」
バサッ!!
突如として布団が剥ぎ取られ、
一気に部屋の中へと風が舞い込んでくる。
「寒いなぁもう!!あと五分だけ……ってあれ?」
目を覚ますと、目の前には女神様な姉さんの顔があった。
「やっと起きたねレイくん!!おはよう!!!」
「お、おはよう……え、どうしたの?
姉さんがこういう起こし方するの珍しいね」
「だって、何か最近お姉ちゃんの扱いが悪い気がして……」
姉さんは頬を膨らませる。
扱いが悪いって言われてもなぁ……。
「そ、そんなこと無いと思うよ」
「む~、じゃあ今度から私が布団に潜り込むからね」
「それはやめて」「ちぇー」
姉さんは不満げな表情を浮かべる。
時々姉さんは変な行動するから読めないな……。
◆
昨日は村に宿泊できたが、
今日はこの先にある深い森を越えなければならない。
村で集めた情報によると、森を抜けるには馬車で半日ほど掛かるという。
また、最近では魔王復活前の影響か、
魔物が凶暴化しており、よく被害に遭うらしい。
「例の商人はこんな場所を通り抜けていったのかな……」
とても一介の商人が無事でやり過ごせる場所とは思えない。
「意外とその商人、魔物とかの可能性ありそうですけどね」
む……エミリアの言う線は確かにありそうだ。
「実は魔王の部下という可能性も……」
レベッカの予想も否定しきれない。
「心配になってきた……」
よく考えたら、僕らは勇者でもベテラン冒険者でも無い。
実績こそあるけど組んで1年弱の中堅冒険者だ。
果たしてこの先の森を越えて行けるのだろうか。
「大丈夫だよ!きっと上手くいく!!」
「そうですね、ベルフラウの言うとおりですよ」
姉さんのポジティブシンキングは見習いたいところだ。
今は仲間達と自分を信じよう。
◆
出発してから数時間後、
ようやく森の入り口に着いた。
森の入り口にはこのような看板が掛かっていた。
『――深淵の森――
これより先は危険地帯につき立ち入るなら覚悟せよ』
「うわ、やっぱりここから魔物がいるんだね……」
僕は看板を見て呟く。
しかし、ここまで来た以上引き返すことは出来ない。
「レイ様、覚悟を決めましょう」
「そ、そうだね」
一番年下のレベッカに言われたら覚悟を決めるしかない。
そう思い、僕達はその森に足を踏み入れた。
――深淵の森――
そこは鬱蒼とした木々が生い茂り、
薄暗く不気味な雰囲気を醸し出していた。
深淵というだけあり昼にもなっていないのに、
夜のような暗さで、足元すらおぼつかない状態だ。
「馬車は大丈夫かな?」
「木の根っこがある部分は注意して進んだ方が良さそうですね」
街道ならともかく足場が悪い。
車輪は取り換えたけど、また壊れても困るしゆっくり進んでいこう。
僕達はそのように相談し、森を進み始めた。
「……っ!?」
その時、突然僕の体に悪寒が走った。
この感覚は……!
「――皆、戦闘準備!!!」
僕は咄嵯に指示を出す。
そして、僕が剣を構えると同時に、
前方の草むらから複数の影が飛び出してきた。
「ガァアアッ!!!!」
現れたのは、熊の上半身と虎の下半身を持つ魔物だった。
「キマイラ……その亜種ですかね」
以前に似たような合成魔獣を見たことあるが、少し違う。
新種か、あるいは上位種かもしれない。
「気をつけて……こいつは強いよ!!」
僕はそう言いながら、近寄れないよう剣を振りけん制する。
キマイラは飛び退き、距離を取る。
虎の下半身を持っているだけあって動きは機敏だ。
キマイラはこちらを見定め、勢いを付けて襲い掛かってくる。
「みんな、下がって!!」
僕の言葉で三人は一歩後ろに下がる。
剣を持ってるからといって攻撃だけするわけじゃない。
僕は攻撃を受け止めるタンクという役割も担う。
キマイラは素早い動きで鋭い爪を振り上げて襲い掛かってくるが、
動きに惑わされないように、冷静に剣で攻撃を受けとめる。
「――っ!!」
一撃を受け止めるたびに、自身の腕が軋む感覚がある。
「――内なる精霊よ。
彼の勇者に、何者にも打ち勝つ強さを――
レベッカの強化魔法が僕に付与される。
<筋力強化>により大きく力が底上げされた僕は、
徐々にキマイラを押し返していく。
「グルルルルッ……」
キマイラは一旦間合いを取って下がり、
今度は口を大きく開けて唸り声を上げ始める。
「なんだ……!?」
「魔物の、咆哮、でございますね!!」
耳を
魔物は更に口から冷気を吐き始めた。
「ブレス攻撃か!?」
以前に戦ったキマイラは炎のブレスだったが、
今回は凍てつくような氷のブレスだ。
エミリアはそれに対応するような魔法を詠唱する。
「任せてください!
エミリアの杖から炎の魔法が射線上に発射される。
氷と炎がぶつかり合い初めは拮抗していたが、
エミリアの炎の魔法はキマイラの氷もろとも侵食する。
威力に関してはエミリアの方が確実に上だ。
キマイラは完全に押し切られる前に逃げて回避するが、
エミリアは容赦なく追撃を行う。
しかし、魔獣の数は二体。
一方はけん制できても、もう一体は手空きになってしまう。
エミリアは片方の魔獣に意識を奪われてるため、
それを僕達がフォローする必要がある。
エミリアの隙を付いて、
真横から突進してきたキマイラを僕が再び剣で受け止め反撃する。
「――はぁっ!」
軽く掠る程度だが、それでも十分に魔物を怯ませることが出来た。
レベッカは弓矢で射撃をしながら、僕とエミリアを援護する。
そして、魔獣の動きが止まった時は姉さんの仕事だ。
「レイくんの方、隙ありよ!!」
足の止まったキマイラは周囲の植物によって一気に捕縛される。
姉さんの<植物操作>だ。最近あまり出番は無かったけど、
こういう鬱蒼とした森なら最大限に力を発揮できる。
姉さんの<植物操作>により、
キマイラは更に縛り上げ身動きが取れなくなり、
そこを僕とレベッカが武器で仕留める。
「はぁああ!!」
「やああああ!!」
剣と槍で串刺しにされた一体のキマイラはこれで倒した。
そしてあと一体だが―――
「はははは!!私に勝てるわけないでしょう!!
喰らえ、キマイラ!!!
エミリアが楽しそうに炎魔法を連発してる。
こうなると時間の問題だ。
レベッカはキマイラが逃げそうな場所を予測して弓矢を放つ。
僕はエミリアと同じように、炎魔法でキマイラの逃げ道を塞いでいく。
そして、足が止まったところで<植物操作>でキマイラは束縛され、
最後はエミリアの
「いやぁ、楽しい戦闘でしたねー」
多分楽しかったのはエミリアだけだと思う。
「いきなり入り口で魔物に襲われるとは」
あんな警告を入り口に出すだけある。
もし今のが僕一人だったらかなり苦戦したかもしれない。
「バカスカ魔法撃ってたけど、魔法力は大丈夫なの?」
ゲームならこんな序盤でMP使いすぎたら宿に泊まり直すところだ。
「所詮中級魔法ですから、
今の私なら自然回復込みで百発くらいなら行けます」
それは頼もしい。
「エミリアちゃんに言われて、
回復アイテムも沢山準備してるから大丈夫よ」
姉さんは鞄を指差して言った。
数にしてポーションが二十個、霊薬が十五個くらいだ。
普通に考えたらかなり邪魔になりそうだが、
何故かこの鞄に入ってると重さを感じないし中身も膨らんだりしない。
「前から思ってたけど、その鞄どうなってるの?」
「空間を歪めて中身を圧縮してるの。
この鞄の中は異空間に繋がってるから便利よ」
そんな便利なものがあるのか……。
結構長く使ってるのに全然破けないし、流石女神様お手製。
「でも結構強かったですね。気合い入れて行きましょう」
「うん、でもエミリアは魔法力節約してね」
魔力切れを起こすと動けなくなる。
エミリアは魔法をメインで戦うため、長期戦だと最も辛い。
「分かってますよぉ」
エミリアは拗ねたような口調で答える。
ここからは長期戦だ。
少しずつ時間を掛けて通り抜けよう。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます