第150話 匂い
女の子が行方不明になり、廃屋に閉じ込められた僕達。
脱出の手段を探すため、まずは1階を探索する。
しかし、勝手口と思われる場所は入り口と同じように潰れていた。
「ここもダメか……」
「この建物がいつ崩れるかも分からないわね」
仕方なく僕達は他の場所を探すが、出口は見当たらない。
次に奥にある階段を上り、二階へ向かって行く。
しかし、二階に行くと、
1階で襲い掛かってきた元盗賊の死体たちが襲い掛かってきた。
「みんな下がって」
手でみんなを制してから僕は、死体たちに剣で攻撃する。
しかし、さっきと同じだ。
切断したと同時に体の内部の植物が飛び出して断面を繋ぎ合わせる。
物理攻撃は効かないか……だけど、足止めなら十分だ。
「
僕は<魔法の剣>を取り出して、魔法を発動する。
<詠唱>の技能を僕は持たないけど、剣を持っているなら話は別だ。
剣を使用する魔法に慣れたせいか、中級魔法なら即座に放てる。
炎の風に巻き込まれた死体たちは、
熱さや痛みは感じていないようだが、植物が焼かれると動きを止める。
物理攻撃は効きにくいが魔法攻撃は有効のようだ。
他の魔法は試してないが、おそらく炎属性に弱い。
「――ふぅ、ここもか……」
「気が抜けませんね、それに気味が悪いです」
確かに、魔物なら慣れたものだけど、
植物に取り込まれた人の死体というのは、
対峙するだけで精神的に疲弊する。
二階は客間のようで似た構造の部屋が沢山あった。
しかし部屋の面影は殆ど無く、
化け物のような植物のツルで覆われている。
窓も太い植物で覆われており、ここから脱出は難しそうだ。
「エミリア、これ燃やせないかな?」
「やってみましょうか、
エミリアの杖の先から火球が出現する。
そして、窓の植物に直撃するが、効果は薄い。
僕とレベッカが剣と槍で攻撃を加えてみるが、
多少傷が付く程度で、完全に切断とまでは至らない。
もっと強力な攻撃ならいけるかもしれないが、
下手すると建物が崩落しかねないため、これ以上は危険だろう。
「武器もダメそうだ」
「そうですね……。
上級魔法なら分かりませんが、建物が保ちそうにありません」
長く太陽の光を吸収したせいだろうか、想像よりも遥かに固い。
となると、いよいよピンチなわけだけど……。
「エミリア、ここって<迷宮脱出魔法>の効果はあるかな?」
「どうでしょうね?
ダンジョンというわけでは無いですし……」
<迷宮脱出魔法>は地下深くからでも地上に戻れる魔法だが、
制約があり、この魔法は町などで使ったとしても効果が発揮されない。
もしここがただの民家だと判定されたら効力が無いだろう。
「レイ様、おそらく無理だと思われます」
レベッカの言葉に僕は同意する。
多分、<迷宮脱出魔法>では効果が無いだろう。
「なら、お姉ちゃんの<空間転移>で戻る?」
姉さんの<権能>の転移を使えば戻ることが可能だろう。
下手すると壁に埋まりかねないからちょっと怖いけど……。
「そうだね……」
ただ、まだ女の子の姿を見付けていない。
ちゃんと村に帰ってくれたなら問題ないけど、
もし取り残されていたなら、女の子はこの廃屋から二度と出れない。
「――いや、女の子の姿をまだ確認できてない。
隅々まで調べて、それでいないと分かったら姉さん、お願い」
「了解よ!任せて!!」
姉さんは自信満々に胸を叩いた。
それから僕達は女の子の姿が無いか隅々まで確認していく。
しかし、その姿は何処にもない。
仕方なく1階に戻ろうとするのだが、その途中で……。
「レイ様」
「どうしたの、レベッカ?」
レベッカが途中で何かに気付いたのか、袖を引っ張られる。
「いえ、気のせいかもしれないのですが……」
「気のせいでもいいよ、言ってみて」
レベッカが言うには、
二階では一階で感じた甘い匂いが薄くなったらしい。
周囲の匂いを嗅いでみるが、二階は特に植物の侵食が酷い。
植物から感じる独特の匂いのせいであまり分からない。
「うーん、私には分からないかも……」
「僕もそこらじゅうにある植物のせいで鼻が狂わされていて……」
レベッカの言葉を疑うわけでは無いけど、僕達では嗅ぎ分けられない。
でも、確かに甘い匂いはあまり感じない。
となると、レベッカが言うことなら間違いはないだろう。
「レベッカ、どこが一番匂いが強かった?」
僕はレベッカに質問する。
もしかしたら匂いの強かった部屋に何かあるかもしれない。
そう思って聞いたのだ。
レベッカは少しだけ考え込んだ後、
「――一階の、盗賊たちの死体が動き出した場所、食堂でございます」
と、答えた。
◆
一階に戻り、食堂に近付くほど匂いが強くなっていく。
レベッカは特に匂いに敏感のようで、かなり気分が悪そうだ。
「……レベッカ、大丈夫ですか?」
エミリアは心配して、レベッカに声を掛ける。
「――大丈夫、です。
少し人より匂いに敏感なだけなもので」
「それでも、無理はしないでくださいね」
そういって、エミリアはハンカチを取り出して、レベッカに差し出す。
「ありがとう、ございます……」
レベッカはそのハンカチを受け取り、口元に当てる。
以前に聞いた話だけど、
レベッカは十日間、洞窟に閉じ込められ戦い続けたことがある。
その時は、五感を研ぎ澄ませ警戒しなければいけなかったため、全ての感覚が鋭敏に働くようになったそうだ。
今回はその感覚の鋭敏さが裏目に出てしまった形となる。
いざという時は、レベッカだけでも……。
そう思って、僕達は離れないように廃屋を進む。
しばらく歩いていると、再び食堂の入り口に辿り着く。
「さっきの盗賊たちはもう居ないだろうけど、一応構えておこう」
僕達は武器を構えて開きっぱ放しの食堂に入る。
しかし、盗賊たちの死体は全て倒したため食堂には何もない。
だけど僕達でも感じ取れるくらい強い匂いがする。
「これは、ちょっときついね」
香水というものがあるけど、そんなレベルではない。
密封されて強い匂いがする花畑に迷い込んでしまったような感覚だ。
ここまで匂いがきついと甘いを通り越して不快に感じる。
「レイ様……」
レベッカが僕の服を掴む。
顔色が悪い、そろそろ限界が近いのだろう。
さっきは盗賊の死体に気を取られて意識して無かったがかなり酷い。
「姉さん、レベッカだけでも外に出してあげて……
これ以上酷くなると、多分耐えられなくなるから」
辛そうなレベッカに無理はさせられない。
「――分かった。後で迎えに行くわ。
レベッカちゃん、一緒に帰りましょ?」
レベッカに手を差し出し、レベッカは辛そうだが頷く。
「も、申し訳ございません…ベルフラウ様。
レイ様、エミリア様……あとはお任せします」
レベッカはそのまま姉さんの手に掴まって、
<空間転移>で二人はその場から消失した。
僕とエミリアはそれを見送ってから、
「とりあえず、女の子を助けるのが先決だよ。
もし見つからないなら、この匂いの元凶を探そう。
二手に分かれて探すんだ!」
僕とエミリアは食堂の中を隅々まで探し回る。
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