第148話 寄り道

 ――二十五日目


 次の日の朝、僕達は朝食を食べた後、

 装備に身を包み、街を出立する準備をしていた。


「ところでレイ様、

 昨日のコンテストの優勝賞品は何だったのでしょうか?」

 レベッカがそんな事を聞いてきた。


「えっとね、宿泊券だよ」

 貰った商品は金貨十枚と、

 森を越えた先にある村の温泉旅館の無料宿泊券だった。

 ちなみにその村では温泉街として有名な場所で、

 そこで取れる薬草を使った薬湯は美容にも効果があるらしい。


「へぇ、美容!?お姉ちゃんも入ってみたいわ」


「そうですね、私も興味あります。

 特にその薬草というのが、

 もしかしたら良い薬が作れるかも……」


「旅館というからにはきっと食事も豪華なのでしょうね。

 わたくしとしてはそちらが楽しみでございます」

 女性陣はそんな感じだ。


「僕としても温泉は入りたいかも……」

 温泉じゃなくても大きなお風呂は好きだ。

 何というか、気持ちが安らぐし、心の底から癒される。


「それで混浴だったら最高ですよね」

「うんうん、混浴で女の子達と一緒に……。

 って、そんなこと言ってないよエミリア!!」


「本当ですかぁ?

 前に私と入りたがってたじゃないですか?」


「そんなこと――

 ……あれ、もしかして言ったっけ?」

「いえ、言ってませんけど」


「……」「……」 


「でも一緒に入りたいんですよね?」

「うん、って流されないよ!?」


 エミリアと口論すると、

 一方的に揶揄われるのは何でなんだろう……。


「はいはい、その辺にしましょーね。

 これから街を出て次の村に夜までには着かないとね」

 そう言って姉さんは僕達の会話に割り込む。


「あっごめん、姉さん」

「申し訳ないです、つい」


「うふふ、大丈夫よ。

 二人が仲良しなのは知ってるから」


 姉さんの反応はいつも通りだ。良かった。

 昨日エミリアと色々あったことには気付かれていない。


 ただ……。


「じーっ……」

 レベッカは特に何を言うまでもなくジッとこっちを見ている。


「……」「……」

 やっぱりレベッカには気付かれてる?

 レベッカは嬉しそうにしてる時以外は割と無表情が多い。


「そ、それじゃあそろそろ出発しましょうか」

「そう、だね。行こう」

 追及されると困るので僕達はさっさと街を出て出発した。


 ◆


 それから数時間、特に問題も無く街道を進んでいく。

 今日はしばらく街道を進み、森の手前の村で一泊する予定でいる。

 森は抜けるのに半日程度時間が掛かるし、魔物も多く出現するという。


「エミリア様」

「な、な、なんですか?レベッカ?」

 エミリア、動揺し過ぎ。


「この先の森について教えていただきたいと……。

 あの、どうかされたのですか?」


「あ、森の話ですか……。

 えっと、危険というのは聞いていますが詳しいことは……」


「そう、なのですか」

 レベッカは残念そうな顔をする。


「詳しい話は近くにある村で情報を得た方がいいと思います。

 どうせ今日はそこに泊まる予定ですし」


「分かりました。ところで、レイ様」

「ん?何?」


「先程からずっと黙っているようですが、

 何か気になることでもあるのでしょうか?」

 ……うぅ、相変わらず鋭い。


「いえ別にそういうわけじゃ無いんだけど……」

「そうでございますか」

 レベッカはそう言うと前を向く。


「ほっ……」

 エミリアはホッとしたような表情をする。

 

「……」

 仮に、レベッカや姉さんに気付かれたとして、

 僕はどうすればいいんだろうか……。


「(エミリアと付き合ってるって言う?)」

 少なくともエミリアはまだそういう関係を望んでいない。


 なら僕は?

 分からない……。

 エミリアの事は大好きだけど……。


 だからって、

 ベルフラウ姉さんやレベッカの事が嫌いになったわけじゃない。

 姉さんの事は大好きだし、レベッカの事だって……。


「……」

 ダメだ、考えが纏まらない。


「―――レイ?」

 後ろから声を掛けられる。エミリアだ。


「……ん」

「何か、悩んでいたようですが」

 ……それを本人に言えるわけがない。


「――大丈夫、何でもない」

「……そうですか」


 ――僕は、どうしたいのだろうか。

 

 ◆


 それからしばらく街道を進むと、

 村人と思わしき女の子がこちらを見てソワソワしていた。

 御者を務めていた姉さんは、

 馬車で通りかかったところを女の子に声を掛ける。


「どうしたのー?何か困りごと?」

「あ、お姉ちゃん。実はね……」

 話を聞くと、最近この辺りの廃屋を根城にしている盗賊団がいて、

 畑や家畜を狙って村を襲い、作物が荒らされて被害が出ているそうだ。


「それで、旅人さんが通りかからないか探してたの。

 その、依頼?って形で退治を引き受けてくれる人を探せば、

 協力してくれる人がいるかもしれないってお爺ちゃん言ってた」


「あら、それは大変。

 でもなんでお爺ちゃんじゃなくてアナタが探してたの?」


「腰を痛めちゃったから代わりに私が探してるの。

 お姉ちゃん達は旅人さんでしょ?お願い!」


 女の子は顔辺りでちっちゃな手を合わせて姉さんにお願いする。

 姉さんはその様子を見て、少し困った笑みを浮かべている。


「そうねぇ……?

 どうする?レイくん?」

 姉さんはこちらを伺いながら言った。


「良いんじゃない?

 村にもう近づけさせないようにすれば良いんだよね」

 暴力沙汰は避けたいけど、迷惑を掛ける人は許せない。

 

「その通りでございます」

 レベッカは僕の言葉に同意してくれた。


「決まりね!じゃあ早速行きましょうか」

 こうして僕達は盗賊団の討伐を引き受けることにした。

 寄り道になるけど、人助けの為だ。


 ――途中、何処からか甘い匂いがした。

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