第146話 いつの間にか巻き込まれてた
――二十四日目
港町という事で僕達は街の見学をすることにした。
「海……久々だなぁ……」
この街に来るまでに何度か見たけど、やはり大きい。
元の世界でも近場に海は無かったので、見る機会は少なかった。
「わー、見てみてレイくん!魚が泳いでるよ!!」
「姉さん、あまり大きな声出さない方が良いと思う」
声で魚が逃げちゃうかもしれない。
「でもほら、アンコウが海から顔を出してるよ?」
「いや、アンコウは深海魚だから……って、本当に顔出してる!?」
ちなみに本当は深海魚では無いらしい。
それでも深い海にいるのでこんな顔を出すわけないんだけど。
「うふっ、可愛いねぇ」
「……」
アンコウの種類は写真で見ると結構怖い。
女神様の美的センスを疑った瞬間だった。
「レイさまー!!」
レベッカの愛らしい声が聞こえてきた。
振り向くとレベッカが、屋台の近くで何かを食べていた。
「レイ様、こちらのお店美味しいですよ」
「レベッカ、食べ歩きしながら観光するのは行儀悪いよ」
「ですが、レイ様、こちら中々美味でございますよ。
レイ様も一口食べてみては如何ですか?
ほら、口を開けてくださいまし、あーん……?」
「……」
確かにちょっと興味はあるけど、恥ずかしい。
しかもこんな年下の子に、あーんってされるなんて……。
「あーん?あ~ん?」
しかし、レベッカはそんな僕の気持ちなんてお構いなしだ。
「……あ、あーん」
恥ずかしいけど、一口食べてみた。
差し出されたものはアイスクリームとかではなく、
魚肉ソーセージを油で揚げたものだった。
「はい、あーん……
ふふ、レイ様。美味しいですか?」
「う、うん……」
シチュエーションは甘々なのに食べたものは脂っこかった。
なんだろうこの複雑な気持ちは……。
「おや、ソースが口元に付いてますね。
ふふふ、レイ様ったら幼い子供のよう……。
しゃがんでくださいまし、わたくしの舌でペロッと」
「い、いや、ハンカチがあるから大丈夫!」
レベッカにペロッとされる前に自分のハンカチで口元を拭いた。
「レイー!!
あっちの方で何かイベントやってますよ」
少し遠くからエミリアに呼ばれた。
「イベント?」
「はい、『海の似合うイケメンは誰だ!?』ってやつです。
まだ応募してるみたいので、レイも参加してみたらどうですか?」
「え……いや、遠慮しておくよ」
イベント名を聞いただけで嫌な予感しか感じなかった。
「えー、レイくんもかっこかわいいから参加しなよー」
「レイ様なら優勝できるのでは?」
「大丈夫です。優勝できなくても思い出になりますよ」
三人ともノリ気で、僕一人だけが乗り気になれなかった。
そして渋る僕を引っ張る形で、僕は会場まで連れていかれた。
「さぁさぁ、皆さん!!お待たせしました!
ついに始まりました『海の男コンテスト』!!!
司会のジョセフと申します!!
今大会は今年で百四十六回目となりました!!!」
無駄に歴史が長い。
司会者の紹介に観客からは歓声が上がる。
「それでは早速エントリーナンバー1番!!
選手に登場してもらおうか!! どうぞぉ!!」
「おおお!!」
ステージの上に現れたのは上半身裸の屈強な男性だった。
「彼は今年で六十歳だというのに、
その鍛え上げられた筋肉でそれを感じさせない!!
その名も、海の男、ガンドルフだぁーー!!!」
「うおぉおぉ!!!!」
……なんかすごい熱量、それにしても凄い筋肉。
あれで六十歳だというのか、世界を背負えそうな背中だ。
「エントリーナンバー2番!!!
元海賊で未開の地を荒らし回った……!
という設定の、キザ男!マーフィだぁ―――!!」
「うぅおぉおぉ!!」
こちらは筋骨隆々とした細マッチョの男性だった。
今設定とか聞こえたし、キザ男でもないような。
「続いては―――
これまた未開の地で女性と恋に落ちた青年!!
独身のラモーンの登場だぁ!!」
「きゃああ!!」
「いいぞーもっとやれー」
今度はワイルドな顔立ちをした若い男性がやってきた。
この人も見た目は悪くないけど、
なんでこんなキャラにしたんだろう……。
あと、地味に失恋をバラすな。
「エントリーナンバー4番!!
海を愛する漁師の少年、トビー君だぁー!!」
「「「わあぁーー!!!」」」
おお、今までで一番声援が大きい。
十三~十四くらいの歳の素朴な男の子なんだけど、
家族らしき人達が応援してる。
「あの子がレイのライバルですね」
「ええ、間違いありませんね、エミリア様」
「あの子は強敵ね、レイくん」
何でそうなった。
「そしてぇ!!最後のエントリーナンバー!!」
いや、もう最後なの!?
参加者5人しかいないじゃん!!
「謎の飛び入り冒険者!!!
銀髪女顔の少年、レイだーーーーーー!!!」
「―――えっ??」
今僕の名前呼ばなかった?
「「「きゃあああああああああああ!!!」」」
後ろにいた姉さんとレベッカとエミリアが黄色い声を上げ出した。
「わああああ!!」
「かわいいいーー!!」
後ろで見学していたお姉さん達まで……。
「レイくーん、がんばってー!」
「レイ様ー、頑張ってくださいー!」
「レイ、負けちゃダメですよー!」
「……」
僕はいつの間にエントリーされてたんだ……。
「ボーイ!!こっちどうぞー!!」
司会者に促されて、
僕は複雑な気持ちで他の参加者と並んだ。
「では、これより投票を開始します!!
皆さん、この箱に紙を入れてください」
「「「おぉーー」」」
皆一斉に箱に群がり、どんどん入れていく。
そして30分後に集計が取られ、結果発表の時間となった。
「さて、今回の優勝者が決まったようだ!!
皆さんお待ちかね、優勝の発表だぁ!!」
「うおおぉ!!」
司会者の声と共に会場にいる全員が期待の眼差しを向けている。
そして、ついにその瞬間が訪れた。
「第三位、海の男、ガンドルフ!!
第二位は……エントリーナンバー4番、トビーくんだー!!」
「「「やったあぁあ!!よくやったぞトビー!!」」」
「ありがとう、ママー!!パパー!!ママー!!」
おお、なんか感動的なシーンが繰り広げられてる。
良かったな、トビーくん。
………今、ママって二回言った?
「では第1位はぁ……」
司会の人が勿体ぶるかのように間を開け、
観客も固唾を飲んで見守っていた。
すると司会者がゆっくりと口を開いた。
「飛び入りの――」「―――待ちなさい!」
突然の待ったコールで周囲がどよめく。
待ったを掛けたのは姉さんだった。
「あ、あの、ミス……一体何を?」
姉さんは前に出て、司会者のマイクを奪い取る。
「うちのレイくんが1位に相応しい子だってここで証明するわ!!」
「ちょ!?」
急に何言い出すんだ、この姉は!?
「「ええーーー!!」」
姉さんの宣言で会場は騒然となる。
「いや、姉さん!!
別にそんなことしなくてもいいから!!」
「何言ってるのレイくん!!
レイくんは確かにこんなに可愛いけど、
見た目だけで評価されたら不公平じゃない!」
「いやいやいや!!」
「大丈夫よ、私に任せて!!」
「いや、そういう問題じゃ――!」
僕の話を聞かずに、
姉さんはステージの上に上がっていく。
「というわけで!!
―――これからレイくんの生い立ちを説明します!!!」
「 や め て ぇ ーーーーーー! ! ! 」
僕の渾身の静止でも姉さんは止まらなかった。
◆
――30分後
「――と、ここまでがレイくんの歩んだ道でした。
ご清聴ありがとうございました」
満足げな表情で司会者にマイクを返す姉さん。
「うぅ、ぐすっ……ひっく」
「れ、レイくん可哀想………!!」
「な、なんて壮絶な……女神様と姉弟だなんて……」
「まさか転生して異世界に来るなんて……」
言っちゃいけない秘密が暴露されてる……。
あと地味に自分が元女神だとかバラしてたけど、大丈夫?
「うう、何と感動的な……
まさか異世界で真の姉と真の妹に出会うなんて、何というデスティニー!!!」
真の姉と妹って何だよ。
「レイくん、これからは真お姉さまって呼んでいいよ」
「誰が呼ぶか」
むしろ偽姉だよ。
「あ、じゃあ私はお姉ちゃんで」
「エミリア年下じゃん」
いつも僕を年下扱いしてくるよね、エミリア。
「そ、それではわたくしの事はママと……」
「どうしてそうなった」
そこは妹でしょ!?
「ふむ、ならば俺はパパで頼むぞレイ」
「ガンドルフさん、突然絡んでこないで!!!」
はぁ、もう疲れた……。
ちなみに、1位は僕だった。
……不正は無かったと信じたい。
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