第145話 依頼待ち
「――癒しの光よ、
彼のものを癒したまえ……
商人さんと僕達が外に出ると、
鎧を着た男性を姉さんが回復魔法で癒してもらっていた。
「悪い……助かったぜ」
男性は傷口がすっかり消えたことに気をよくして、
姉さんにお礼を言うと、商人二人に声を掛けられた。
「おい、ハン、怪我はもう良いのか?」
「何があったんだ?」
どうやら、知り合いで間違いないようだ。
「この姉ちゃんに回復魔法を使ってもらったから大丈夫だ。
しかし厄介なことになった。この先の街道の<退魔石>が壊されてる」
「なんだって!?」
<退魔石>は街道に埋め込まれてる魔物避けの石の事だ。
これがあるおかげで弱い魔物は街道に近寄らなくなるのだが、
先の街道でその石が壊されてしまい魔物で溢れているらしい。
「それで何とか逃げてきたが、このままじゃ先に進めねぇ!」
「それは困るぞ!!!
ここまで長旅だったのに今更引き返すわけにも……」
「数はどれくらいだ!もし大勢ならどうしようもないぞ!!」
男性三人はちょっと揉めているようだ。
護衛が居たとしても、集団に襲われたらどうしようもないだろう。
……それにしても、
何故こんな大きな声で話すのだろう?
少し離れて様子を見ているのに、ここまで大声で聴こえてくる。
「……」
彼らも大陸を越えてきた人たちだ。
僕らと同じくファストゲートの港町を目指しているのは間違いない。
それなら、僕達が手を貸して――
「商人さ――」「ストップ」
――何故かエミリアに遮られた。
「え、何で止めるの?」
「まぁまぁ、こっちにどうぞ」
エミリアは僕の手を引っ張って少し離れた場所に行く。
「あの人達を助ける為に戦うんですね」
「うん、そういう事だけど……」
「止めはしませんけど、
私達が冒険者だってこと忘れてません?」
「どういうこと?」
「彼らは商人、私達は冒険者です。
本来なら依頼する側とされる側の関係と言えますね。
――私が何が言いたいか、分かりますか?」
「……」
僕はさっきの商人さんの方を向いた。
「じー……」
何かすっごいこっち伺ってるんだけど。
「えっと……もしかして」
「ご名答です。
彼らは私達が『無償でやります!』って言うのを待っているのです。
自分達から冒険者に依頼するとお金が掛かりますからね」
「そ、そうだったの……?」
「レイがお人よしに見えたのでしょう。
ですが、気付いてしまった以上こちらから言い出す必要はない。
彼らが『依頼』という形で話を振ってくるまで待つのが良いかと」
「なるほど……」
まぁ、どのみち頼まれるなら依頼として受ければいいかな。
―――そして20分後
「「「……」」」
「あの、エミリア?」
「ダメですよ、向こうが何も言いませんから」
僕達はさっきの3人組に背を向け、
後ろではずっと無言の時間が流れていた。
……いや、耳を澄ますとなんか言ってる。
「……おい、何も言ってこねえぞ」
「しっ……聞こえるだろ」
「まだ待つんだ……。こっちから言い出すと依頼料が掛かっちまう」
「「「はあ~……」」」
3人は同時にため息をつく。
どうしよう……。
何時になったら頼みに来るのか分かんないぞ。
――更に10分後
「……もう我慢の限界だ!」
「ああそうだ!こうなったら俺達の方から言ってやる!!」
「待て!早まるな!もう少しだけ待とうぜ」
いや、丸聞えなんだけど!!
「これなんの我慢勝負だよ……」
後ろを振り返りながら呟く。
「これは多分あれですね……『商談』という奴でしょうか」
「商談?これが?」
僕の知ってる商談と違うんだけど。
――更に10分後
「あ、あの冒険者さん?お話が……」
ようやく商人さんが折れてくれた。
「やっとですか。ほら、行きましょうレイ」
「分かったよ」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!
まだ何も言ってないのに依頼を受けてくれるのか!?」
「はい、というか依頼されるの待ってましたから」
「しまった!こっちの考え読まれてたのか!!くそっ」
本当に悔しそうだな。
特に商人さん。
「で、依頼はどんな内容です?」
僕が尋ねると、ハンと呼ばれた男性の方が答えた。
「俺達の護衛をして欲しい。
あんたらもこの先のファストゲートに行きたいんだろ?
俺たちも行きたいところだが、魔物のせいで先に進めそうにない」
「魔物退治を依頼されるかなって思ったんですけど」
「いや、あの数相手じゃ流石に厳しい。
俺たちの馬車が通り抜ける間魔物から守ってくれるだけで良い」
「護衛ですか。うーん……」
数はどれくらかは分からないけど、
二つの馬車を守りながら魔物の横をすり抜けるのは至難だ。
下手すれば魔物を全滅させた方が難易度が低いかもしれない。
「レイくん、レイくん」
姉さんに肩を軽く叩かれる。
振り向くと、姉さんがニコニコ笑っていた。
◆
「じゃあ行きますよ」
「よろしく頼むよ」
僕達と商人さんは馬車で併走させながら街道を進んでいく。
すると、話の通り多数の魔物達が街道の中に入り込んでいた。
「ハンさんの言う通り、確かに数が多いですね」
「だろう?」
魔物数は十五体ほどだ。
ブラックゴブリンというゴブリンの上位種が五体。
その上位種のホブゴブリンが三体。
他にもオークが五体、それにグリフォンが二体。
こちらに気付かれるとおそらく一斉に襲い掛かってくる。
「あの、レイ様。
この程度の相手なら一掃した方が早いのでは?」
「レベッカの言葉には同意だけど、護衛という事だから
それに、僕らが戦ってる間に馬車を傷付けられたら困るよ」
僕達が話していると、
準備の終えたエミリアが戻ってきた。
「レイ、準備出来ましたよ。
こちらとあちらの馬車をロープで繋ぎました」
これで準備万端。
後は全員場所に乗り込めばいい。
「ありがとう、エミリア。じゃあ姉さん、お願いしていい?」
「分かった、それじゃあ後でねー」
姉さんはそう言って、商人さんの馬車に乗り込んでいく。
「ん?回復魔法使ってくれた姉ちゃん、なんでこっちに?」
「大丈夫大丈夫、任せてー、それじゃあ行きますねー」
商人さんが混乱している中、
姉さんは呑気に返事をして行動を始める。
「それじゃあ行きまーす<空間転移>」
その瞬間、両方馬車はその場から消え去り、
魔物が入り込んでいる街道の更に二百メートル先にワープした。
「……あれ?ここは一体……」
商人さんたちは何が起きたのか理解できていない様子、
外に出て辺りを見渡していた。
「到着しましたよ」
「えっと……どういうことだ?」
まぁ説明無いと分からないよね。
僕に代わってエミリアが商人さんに解説してくれる。
「馬車ごと先の街道までワープさせました。
これで危険を冒す必要もなく素通りできましたよ」
距離にして大体二百五十メートルくらいか。
姉さんの<空間転移>で移動させることが出来た。
この方法なら魔物の群れに気付かれずに進むことが出来る。
ロープで馬車と馬車を繋いだのは、
姉さんの<空間転移>の範囲を拡張させるのが目的だ。
「おぉ……ありがとうございます!」
「いえいえ、これも仕事なので」
良かった。この手の魔法にはあまり詳しくないようだ。
もしエミリアのように魔法に精通していたら驚かれただろう。
「姉さんお疲れ」
「え、私のアイデア凄いでしょ?」
「うん、すごいすごい」
今回のアイデアは姉さんが考えたものだ。
僕達もどう進むか困ってたので、姉さんの今回の提案は助かった。
「それじゃあ先に進みましょう。
出来れば今日の夜には着きたいところですし」
「おお、そうだね。先へ進もう」
こうして僕達は魔物に襲われることなく、
比較的安全な道を進みながら港町へと向かって行った。
◆
港町に着いたのは深夜手前頃だった。
「今日は済まなかったね。これはお礼だ、受け取ってほしい」
街に着くなり、商人さんは、
僕達にお礼を言って貨幣の入った小袋を渡してきた。
「良いんですか?結局魔物と戦いませんでしたけど」
「いやいや、無事にここまで着けたわけだからね。
それに報酬を払うと約束したんだ。受け取ってくれないと困るよ」
「……分かりました。有難く頂きます」
「うむ、それで構わない。それでは私達は行くことにするよ」
商人さん達はそのまま夜の街へ消えていった。
「レイ、私達も早く宿を取らないと。
このままだとせっかく街に着いたのに野宿する羽目に……」
「そ、そうだね、急ごう!!」
僕達は急いで馬車を預けて宿を取りに行った。
◆
結果、一部屋だけ空いており、
そこに四人泊まらせてもらえるように交渉した。
「何とか宿は取れたけど、
ごめん、全員相部屋しかなかったよ」
「いいわよ、お姉ちゃんは気にしないし」
「わたくしも構いません。
レイ様、今日も
「されませんから」
即座にレベッカの言葉を否定する。
いい加減レベッカは正しい言葉を学んでほしい。
「おやおや、今日もレベッカと一緒に寝るんですか?」
「寝ないから!!」
エミリアに茶化されて笑われるが――
「――?」
少しだけ、エミリアの雰囲気が違った気がする。
表情がちょっと暗かったような……。
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