第143話 いよいよ次の地へ
――二十二日目
村で怪しい商人の足取りを掴んだレイ達。
今日も馬車でサクラタウンという街を目指して走っていた。
村を出てから今の所は旅は順調。
魔物との遭遇も殆ど無く道のりも緩やかでペースも早く進めている。
街道を進んでいくと次第に海が見えてきた。
この先を進むと大陸と大陸を繋ぐ大きな橋がありそこを渡って、
いくつかの街と村を経由し『サクラタウン』という町に到着するらしい。
「――そろそろ休憩にしましょうか」
レベッカがそう言って馬車を止めると、
僕とエミリアは馬車から出て身体を伸ばしたり深呼吸をする。
僕達は橋を進む前に、
一旦休憩を取って近くのベンチで休むことにした。
「この橋の最中にも休憩所はあるんですが、少し長いんですよね」
エミリアがそう言いながら地図を取り出して場所を確認する。
「橋を渡り切るのはどれくらいかかるの?」
「そうですねぇ、馬車だと大体1日近くってことですか」
うわ、想像より全然長い距離だ……。
「ベルフラウ姉さん、食料は大丈夫?」
「今のところまだ大丈夫。村長さんからかなりの量貰ったし……」
「シロウサギとクロキツネのニンジンと干し草の量もストックがあります。
少なくとも食料に関しては問題ないかと」
「なら先に進んでもしばらくは持つかなぁ。
でも、姉さんは平気?力使ったし疲れてない?」
「私は元気……というか今日ずっと馬車で休んでたし、
どうせなら私が御者をして一気に快速で進むってのはどうかな?」
姉さんが前に出て御者をすると二頭の馬のスピードが跳ね上がる。
その分疲労も早いけど、確かに姉さんに任せれば速く進めるだろう。
「レベッカどうする?」
今の御者はレベッカだ。
「……そうですね、分かりました。
では、ベルフラウ様にお願いします」
「分かったわ!任せて!」
僕達は休憩を済ませて馬車に戻る。
姉さんは嬉々として馬車に乗り込み、 手綱を握って馬に声を掛ける。
「いくよー!!」
姉さんの掛け声で、まだ手綱を引っ張ってすらいないのに駆け出した。
本当にどうなってるんだ……。
◆
橋を進んでいくと、潮の香りが辺りに広がっていき、
僕達は今の大陸を離れて、これから別の大陸へと向かっていく。
「……ところで、
今から行く大陸ってなんて名前なの?」
何なら今までの大陸の名前すら知らない。
「『ファストゲート』という名前だった思います。
ちなみに今までの大陸は『ゼロエンド』という名前でしたが、
レイに説明しましたっけ?」
「いや、聞いてないけど……」
でもよく見ると地図にちゃんと名前が書かれていた。
「気候が安定してて、作物や花が良く育つらしいですよ。
目的地の『サクラタウン』は、
ピンクの花が年中満開な美しい街だと聞いたことがあります」
「へぇ~そうなんだ」
ピンクの花って、それもう『桜』のことじゃないだろうか。
前から感じてたけど、この世界は僕が元居た世界に似てるものが多い。
エミリアの説明を聞きながら、馬車の窓から景色を眺める。
もうすぐ大陸を離れるのか……。
今回の旅は念入りな準備をしてないから心配だ。
ゼロタウンの拠点の家は大丈夫だろうか。
何かあれば、ギルドの方で管理されるから問題は無いはず。
あとは、村での一件が他の人にバレなければいいんだけど。
魔石鉱脈を崩落されたのがバレて、帰ったら犯罪者扱いはシャレにならない。
廃坑だったし、大丈夫だとは思うんだけどね。
「レイ、聞いてます?」
「あ、うん、何?」
すこし、要らない心配をし過ぎたか。
「次の街に着くまでどの位かかるか、という話です」
「ああ、まだ2日以上は掛かるんだったっけ」
「はい、そうですね。
橋を抜けるのにも1日くらい時間が掛かりますし、
それから街道を走ったとして明日中に間に合うかどうか……。
遅くても3日後には着くと思いますが、まだ長いです」
「そっか……」
何だかゼロタウンが懐かしくなってきた。
元々インドア派の僕は長期間家から離れると不安になってくる。
「レイ様、またホームシックでございますか?」
何ですぐ分かるんだろう。顔に出てたかな?
「わたくしも時折故郷を思い出すことがございます。
そう言った時は、今のレイ様のような表情を浮かべておりますから」
……レベッカの故郷か。
「今まで聞かなかったけど、レベッカの故郷って……」
「はい……以前お話したかもしれませんが、
わたくしの故郷の村はゼロタウンよりも北西にあります。
険しい場所ではありますが、山の中腹にある村でございます」
「うん」
「『ヒストリア』と呼称されている村で、
ミリクテリア様……正しくは女神ミリク様が大地を創造したとされる場所です」
「えっと、そこでレベッカは巫女として生活してたんだっけ?」
「はい。五の時に神託が下りまして、
神の御声を聞いた者として神殿に仕えることになったのです」
「……えっ?五歳の時から?」
「はい、神託が受けてから巫女になるための儀式を受けました。
儀式とは言っても、実際はただ神官達の前で舞をするだけですが……。
以降は神の声を聞く役目を務め、 村の人々の生活を支えていました」
「大変じゃなかった?」
「いえ、そのようなことはありません。
わたくしの家は代々神職の家系でしたので、
幼い頃から神事については学んでおりました」
それでも五歳はいくら何でも幼すぎないだろうか……。
エミリアがレベッカに言った。
「レベッカ、魔法を覚えたのは何時頃なのですか?」
「今のこの装束を身に纏い始めたころでございますね。
八歳くらいでしょうか?幼い頃は体のサイズが合わずに苦労しました」
「成程、大体私が魔法を本格的に学び始めた頃ですね。
<空間転移>とか<時魔法>はその頃から扱えたのですか?」
「いえ、お恥ずかしながら……。
わたくしは魔力の総量はあまり高くなかったもので、
村で行われている<精霊の儀>を受けて、
日々の鍛錬の<瞑想>を繰り返すことでようやく習得できました」
<精霊の儀>に<瞑想>?
後者は何となくわかるけど、前者は何なのだろう。
「精霊の儀というのは、どういうものなのですか?」
「はい<精霊の儀>とは、
その名の通り精霊の力を借りる術を学ぶための儀式です。
本来は成人を迎えた時に受ける決まりなのですが、必要な魔力に満たない身で巫女になってしまったため、許可を得て<精霊の儀>を受けさせて頂きました」
精霊か……。
この世界にもそういうのがあるんだね。
でも、僕には全然見えないけどなぁ。
「ちなみに、どんなことをするんですか?」
「はい、まず村から離れた<精霊の湖>にてその身を清めます。
その後、百日ほど<瞑想>と鍛錬繰り返したのち、
<誕生の祠>に祀られた神剣を携え、<試練の洞窟>で魔物と戦い続け、
そして十日間生き延びた後、<誕生の祠>で<精霊の儀>を行うことで、
精霊をその身に宿すことが出来るようになります」
いや、なんか凄いことやってる。
しかも十日間魔物と戦い続けるって……。
「十日間戦い続ける?
それって、飲まず食わずで、ってこと!?」
「はい、大変でございました」
レベッカは表情すら変えずに言った。
「……よく死なずに済みましたね」
エミリアも流石に過酷過ぎて引いてしまっている。
「幼き頃から神事以外にも武術も習っておりましたので……。
それでようやく巫女としての能力を身に付け、今に至ります」
レベッカが色々規格外なのは昔からだったんだね……。
「私も精霊の儀を受けたら<空間転移>とか使えたりしませんかね?」
「さ、さぁ……わたくしには何とも……」
レベッカはエミリアの質問に困ったような笑顔で答えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます