第139話 街道の魔物
十八日目――
僕達は依頼を達成したということで、報酬を貰うことが出来た。
「貴方がたのお陰で、最深部の貴重な情報を得ることが出来ました。
報酬として用意された最高額の金貨六十枚です」
受付嬢から渡された袋の中には大量の金貨が入っていた。
「えっ、こんなに良いんですか?」
「はい、今回は本当にありがとうございました。
では、また機会があればよろしくお願いします」
こうして、僕達の遺跡探索は終了した。
「さて、これからどうしようか?」
この街でのお金稼ぎも聞き込みも終わった。
武器も新しいものを新調できたし、
用事も大体終わったためあとは旅を続けるだけだ。
「そうでございますね。
明日には宿を出て旅を続けるのが良いと思われます」
今回のダンジョン攻略は難易度は髙かったけど相応の成果があった。
依頼報酬は想像以上に多く、ダンジョンから入手した金は何処かで売ればそれなりの値段になるだろう。あるいは装備にコーティング出来れば今までよりも強力な装備になるかもしれない。
どうせなので武具屋に行って訊いてきた。
「ダンジョンでゴーレムに使われていた金の素材を採取したのですが、
これを武器や防具に使えたりしませんか?」
しかし武具店の男の人は渋い顔をして言った。
「金は加工が難しい。
装飾用の武具などでは使われるが実戦の武器としては扱いにくいだろうな」
「そうですか」
まあ予想はしていたけど、仕方ないね。
「俺は専門じゃないが、もし純金を加工して使うなら魔力を込めた装飾品や杖の素材にするといいだろう。もし売却を考えてるなら専門の店に持っていけばそれなりに高値で買い取ってもらえるはずだ」
「分かりました。参考になりました、ありがとうございました」
僕達は武具店を後にした。
その日の夜――
「というわけで明日は街を出ようと思う」
「異論はございません」
「金がここで売却出来なかったのは残念ですが、
まぁ何処かで買い取ってもらえるでしょう」
「それじゃあ、明日には街を出ましょうか」
◆
十九日目――
翌日、僕達は馬車に乗って旅を再開する。
「ここから先の陸路は魔物の強さが一段上がるので注意が必要です」
エミリアが注意を促す。
「エミリア、行ったことあるの?」
「はい、といっても見習いの頃でして……
実際に戦闘したわけではありませんから、
魔物の詳しいこととかは聞かないでくださいね」
「大丈夫だよ」
その後、数時間南に進んだ頃、街道に異変があった。
「何かしら?あれ……」
姉さんが指差す方向には巨大な鳥のような生物がいた。
「あれは魔物かな」
「所謂魔獣の類ですね。<グリフォン>でしょう」
「魔獣でございますか。
……ふむ、確かに野生の生き物にしては異様に大きいですね」
「……しかし、この辺りの街道は魔除けをしてあるはずなのですが、
平然と街道の近くを飛んでいますね」
魔除け?初めて聞いた。
「街には<退魔石>が置かれているんです。こういう街道も同様ですね」
「退魔石?」
僕の疑問にはレベッカが答えてくれた。
「<退魔>と呼ばれる特殊な魔法を石に付与したものでございます。
この石が組み込まれた街道には魔物が避けて通るようになります。
もっとも、それを無視する魔物も居るので過信は出来ませんが……」
言われてみるとあまり街道で魔物に出会ったことがない。
たまにゴブリンと出くわすくらいだ。
「さっきからこっちを睨んでるけど、襲われないかしら……?」
「今すぐ襲ってくるというわけでもないみたいだし、
さっさと通り抜けてしまおうよ」
「そうですね……」
しかし、その後、何体も街道沿いに魔物が現れていた。
「これは……<退魔石>が多分破壊されてしまっていますね」
「そんなことあるの?」
「高位の魔物は退魔石の効果が薄かったりします。
そういう魔物が街道を荒らした時に偶然とかありそうですね」
エミリアは手綱を離して馬車を降りた。
「退魔石が転がってる可能性があります。少し調べてきます」
と言いながらエミリアは街道から遠ざかっていく。
僕も馬車を降りてエミリアを追いながら言った。
「一人じゃ危ないから僕も行くよ。
姉さんとレベッカは馬車を停めて待ってて」
「わかりました」
「気を付けてね」
そうして僕達は街道の近辺を探索する。
「エミリア、本当に退魔石が近くにあるのか分かるの?」
「退魔石は見た目は普通の石ですが、
魔力を込めることで光を放ちます。少し試してみましょう」
エミリアはマントを翻して、杖を構えて詠唱を始めた。
「
エミリアの足元に魔法陣が展開される。
同時に、エミリアの半径二十メートルに魔力が拡散した。
「……と、こうやって、
魔力を拡散して飛ばすことで<退魔石>の居場所を探し出すんです」
「凄いなぁ。僕にも出来るようになるかな?」
<魔力発動>は魔法の基礎なので誰でも出来るが、
僕はエミリアのように視覚化して周囲に飛ばすことは出来ない。
「魔力量や素質次第ですけど、練習すれば出来ますよ」
それからしばらく周辺を探すと、エミリアは一つの石を拾い上げた。
「これで間違いないと思います。
壊れやすいですが、砕いて防御結界と併用して使うことで、
より強力な結界を作ったりもできますよ」
「へぇ」
「というわけでこれは貰っておきましょう」
エミリアは懐に入れる。
「えっ?貰ってもいいの?」
「馬車に置いておけば弱い魔物から馬車や馬を守れます。
それに誰も見てませんから、大丈夫ですよ」
「でも、勝手に持っていくのはまずいんじゃないの?」
「レイは真面目ですねぇ……」
何故か呆れたような顔をされた。
「これは欠片ですから、
仮に街道に設置したとしても殆ど効果はありませんよ」
「そうなの?でもなぁ……」
「仕方ないですね。
レイの為にどれだけ役に立つのか実戦してあげましょう」
そう言ってエミリアは石を持ったまま森に歩いていく。
一緒に付いて行くと、ゴブリンが一匹歩いていた。
「ちょっと行ってきます」「えっ?」
そう言いながらエミリアはゴブリンに向かって駆けて行った。
エミリアならゴブリンくらい秒殺だろうけど、危険だ。
「ま、待ってよ!」
そう言いながらエミリアを追っかけるのだが、
襲われるどころかゴブリンはエミリアから必死に逃げていった。
「あれ、どういうこと?」
「私が<退魔石>を持っているので嫌がって近づいてこないんです」
置いとくだけでなく持っているだけでも効果があると。
「このままゴブリン追いかけてゴブリンの巣ごと殲滅しましょうか」
「いや、それはやりすぎ」
「冗談ですよ。帰りましょうか」
そうして僕達は馬車に戻っていった。
◆
「お二人ともお帰りなさいませ」
「どうだった?見つかった?」
僕達は姉さんとレベッカに出迎えられた。
「うん、これだよ」
僕は先程見つけた退魔石を見せた。
「綺麗な石ですね」
「触っても大丈夫かしら?」
「平気じゃないかな?」
三人で手に取って眺めてみる。すると……
「あら、何か光ったわね」
姉さんが触った時だけ退魔石は何故かぼんやりと光っている。
「一応元々聖なる存在だから共鳴とかしてるんじゃない?」
「あー、そういう感じなのかな?……って、一応じゃないから!」
そういいながら姉さんは退魔石を再び覗き込む。
「……これを馬車に乗せておけば少しはお馬さん達も安全かもね。
布にでも包んで荷台に保管しておきましょうか」
そうして僕達は再び馬車に乗り込んで、次の村を目指した。
どうでもいいけど、誰も<退魔石>持ち逃げの事に触れてない件。
これは良いのだろうか……。
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