第135話 ハイドアンドシーク

 それから数時間ほど歩いた頃だろうか?

 洞穴を進むと、今までとは違う、石の壁に突き当たった。


「……もしかして、ここが?」

「そのようですね……。

 地上にある石壁とはまた違う成分で出来た壁のようです」


 どうやら目的の遺跡にたどり着いたようだ。

 僕達はその石壁を辿り、壁が壊れて中に入れそうな場所に行きついた。

 そこは少し広い空間になっており、

 天井が崩れたのか穴が開いている箇所もあった。


「ここが遺跡の中なんですね」


 全員が中に入ると、僕達は周囲を見渡した。

 朽ち果てた建物があり、崩れ落ちた屋根から僅かに空が見えていた。


 ……地上から見た時には気付かなかったが、

 どうやらこの遺跡は外に繋がっていたようだ。

 さっきよりは呼吸が出来る。多少動き回っても何とかなりそうだ。


「この奥に進みましょう。何か手掛かりがあるかもしれません」


 僕達は慎重に瓦礫の山を掻き分けながら進んでいった。

 すると、目の前には巨大な石像が鎮座していた。

 高さは五メートルほどあり、長い年月で風化したのか所々砕けている。


「この石造……女神ミリク様かと思ったのですが、違うようですね……」

 その石像は女神というよりは、どちらかというと悪魔のような姿をしていた。

 悪魔崇拝でもしていたのだろうか。


「……それにしても、これは一体何でしょう」

 よく見ると、石像の周りには無数の石碑が地面に刺さっていた。

 文字は読めないが、恐らく古代言語で書かれた物だろう。

 僕はしゃがみ込んでそれを眺める。


「うーん……分からないなぁ」

「……この辺りはわたくし達では解読できそうにありませんね」

 自分達にはどうしようもないので、

 ノートにそのまま写して記録を取ることにした。


 ◆


 数十分後――

 ノートの写しが終わった僕達は、

 そこを動き、更に奥へ進もうとするのだが……。


 ゴゴ……


「……今、何か音が」

 背後から重いものが動くような音がした。

 ここには盗掘者用の罠が複数設置されているという情報も聞いている。

 罠が発動したのだろうか。


「……気を付けて下さい!

 この音は……もしかして、後ろから――」

 エミリアが言い終わる前に、

 後方からすごい勢いで何かが向かってきた。


 それは――

「――さ、さっきの石像!?」

「うわっ!!」

「きゃあっ!」

 僕達はその場で身を伏せて躱し、上を見上げると、

 石碑の近くに鎮座していた石像が空を飛んでいた。


 いや、それだけじゃない。

 他にも三体飛んでおり、それぞれ別の方向に向かっている。


「もしかして、あの石像達が動いてるの!?」

 ……もしかして、石像の姿をした魔物か?


「エミリア、あれって魔物なんじゃ……!?」

「た、確かに、

 何かに擬態する魔物というのは今まで数回見たことありますが……」


 ファンタジー世界でこういう魔物は定番かもしれない。

 名前は『ガーゴイル』だったか。

 石像に命が宿ったとか悪魔が乗り移ったとかそんな存在だ。


 空を飛んでいる<ガーゴイル>は三体だが、

 起動したばかりでこちらに気付いた様子はないようだ。

 外敵が侵入した時に、どこかの床を踏んだ際の罠だったか。


 その証拠に、足元を見ると床の色が一部違っている。

 ここを踏んだのが理由と考えて良さそうだ。


「……姉さん、一旦<光弾>ライトボールを消してくれるかな」

 敵が光に気付いて襲ってくる可能性がある。

 気付かれないように明かりは消した方が良いだろう。


「分かったわ」

 魔法を解除して、姉さんの明かりを一時的に消した。

 僕達は近くの石板の後ろに隠れるように移動して、

 そこから様子を見る事にした。

 

 しかし、うち一体のガーゴイルがこちらに接近している。


 このままでは見つかってしまう可能性が高い。


「皆、絶対に動かずにいてね」

 僕は念を押して、剣を抜く。


「どうするの、レイくん?」

「急襲してこちらに向かってくるあの魔物だけ倒してくるよ」

「そんな事出来るんですか?」

「以前、ティアさんに教わった技能があってね」


 こんなにすぐに使う機会があると思わなかったが、

 教えてもらっておいて良かった。


「――よし……」

 僕は姿勢を低くしたまま、石板の影から足音を消して出て行く。

 <シーフ>の技能である<忍び足>と<潜伏>という技能だ。

 忍び足は単純に足音を消すものだが、

 <潜伏>は自分の存在感を薄くさせて気配を消す技能だ。

 

 かなりの集中力が要求されるため、効果時間は短い。

 この薄暗い遺跡の中で、足音を消して近づけば、

 視覚を頼りにする魔物なら気付かれずに近づくことが出来る。


 その状態でガーゴイルの背後に近付き、

 <龍殺しの剣>ドラゴンスレイヤーに魔力を込めた。


 そして、僕は首筋を狙って斬りかかった。

 僕の攻撃は命中し、ガーゴイルの首を強引に斬り落とすことに成功した。

 僕はすぐに周囲を見渡して<心眼>で周りの気配を探る。


「……ふぅ」

 周囲から気配も殺気も感じない。

 どうやら他のガーゴイルは遠ざかっていったようだ。


「……みんな、もう出てきて大丈夫だよ」

 僕は後ろを振り向いて三人を呼ぶ。すると、三人とも姿を現した。


「凄いですね、レイ」

「お見事でございます、レイ様。

 いつの間にかティア様の技能を習得してなさっていたのですね」


「レイくん、それで犯罪とかしちゃだめよ」

 褒められているのかよく分からないけど、

 とりあえず無事でよかった。


「もう明かりを付けて良いと思うけど、

 姉さんの魔法だと目立つから、<点火>ライトで進もう」

 <点火>の魔法で指から火を灯し、近くの木に火を移した。


「他にもトラップがあるかもしれませんね、慎重に進んでいきましょう」

「それに、足元にも気を付けよう」

 エミリアの意見に同意しつつ、僕達は奥へと進むことにした。

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