第134話 お金稼ぎでダンジョンに行く勇気

「ちょっと武器にお金を使い過ぎましたね……」


 売ったお金は金貨四十枚、新しく買った武具は金貨五十枚だ。

 要するに赤字になってしまっている。

 魔石を売ることで旅の資金を得るつもりだったが、

 これでは何も変わらない。


「わたくしが高い槍を買ってしまったが為に……」

「いや、僕も止めなかったからね……」


 ノリで武器を買いに行ったのがいけなかった。

 これはリーダーの僕の責任だ。


「それで、どうする?例の魔石を売却する?」

 姉さんにそう言われて、

 僕は鞄の中にしまってある魔石を取り出す。

 今回お店で売った魔石とは大きさも純度も桁外れの特別な魔石だ。

 確かに、これを売れば旅の資金は一気に潤うだろうけど……。


「これは最後の手段にしたいかな……」


 エミリアが言うには金貨百枚の価値があるらしいが、

 それだけの価値のあるものだ。

 下手に安く買いたたかれたりしたら、目も当てられない。


「それなら、やっぱりアレですよね」

「うん、アレだよね」


 ◆


 僕達は冒険者ギルドに来ていた。

「お金が無いなら、難易度の高い依頼を受けて稼ぐしかありません」

「そうだね、幸いにも僕達はもう新人ではないから」


 ベテランというにはまだ期間は足りてないが、実績なら十分にある。

 よってどの依頼を受けたとしても周りに止められることも無いだろう。


「何かいい依頼があればいいのですが……」

 エミリアが掲示板を見に行く。僕達も後に続いて見ることにした。

「えっと……討伐系の依頼は……」

 僕達は手分けして、報酬の高い依頼を探した。


 基本的に依頼は魔物討伐が一番報酬が多く、

 次点で調査任務、一番少ないのが採取任務である。

 調査任務はどうしても専門的な技能や職業が要求されることが多く、

 戦闘職が多めな僕達にはあまり適していない。

 採取任務に関しては経験が多いため比較的早く達成できるが、

 そもそも報酬が少ない。となると、一番割のいい魔物討伐が狙い目だ。


「ゴブリン討伐依頼、金貨二枚……うーん、並の相場だ」


「こっちはコボルトですか、報酬は同じく金貨二枚ですね……」

 この辺りは新人の育成を兼ねた依頼だ。

 慣れてくると報酬の少なさがどうしても目に付くようになる。


「山賊の討伐依頼は、何故か剥されていましたね。

 割と報酬も良かったのですが、もう討伐されたとか?」


「あ、これなんてどうかな?」

 そう言ってベルフラウ姉さんが一枚の張り紙を手に取った。

 そこにはこう書いてあった。


 ------

【緊急募集】

 ・ランク不問

 ・内容:未踏破ダンジョンの調査

 ・報酬:未知数

 ※ただし最低保証あり(詳細後述)

 ※危険手当別途支給 ----


「ふむ、面白そうな依頼ですね」

 エミリアもその張り紙の中身を見てそう言った。


「未踏破のダンジョンの調査か、報酬が未知数だけど、

 ダンジョン内で得たものは自分達のものにしてもいいのかな?」


「いいんじゃ無いでしょうか?

 ただ、もし危険な場所だったらすぐ逃げる必要がありますね」


「よし、じゃあこれにしよう!」

 こうして僕達はその依頼を受けることになった。


 ◆


 十七日目――


 次の日。僕達は目的のダンジョンの前に来ていた。

 およそ『イース』の街から東に四十キロほど離れた場所だ。

 ダンジョンは元々コボルトが住処の為に掘っていたものらしいが、

 それが古代の遺跡に偶然繋がったらしい。


 罠などもあって、どの冒険者もかなり苦労したとか。

 故に今回のダンジョン攻略の難易度は高い。


「それじゃあ入るけど、みんな準備は良いかな?」


 今回は難易度の高い任務という事で、

 十分にアイテムの補充は済ませてきている。

 後は油断せずに慎重に進む。

 皆も準備万端といった様子だ。


「それじゃ、行こうか」

 僕は先頭に立って、ダンジョンの入り口に向かって歩き出した。

 入り口は荒野の岩の下の洞穴だ。

 ここにコボルトが掘ったダンジョンが出来ており、

 更に先に古い遺跡と繋がっているらしい。


 ◆


 僕達は洞穴に入り周囲の様子を伺う。

 コボルトの巣ではあるが、入り口は暗く明かりが無いと進めそうにない。


<光球>ライトボール

 姉さんの光の魔法で僕達の周囲が照らされ、辺りの様子が分かった。

 道は狭く壁は土で埋まっている。

 強力な魔法を使用すると崩れ生き埋めになってしまうかもしれない。

 僕達は警戒しながら先へと進んだ。

 しばらくすると、少し広い場所に出て、そこにコボルトが二匹居た。


「ここはわたくしにお任せを」

 レベッカは新しく購入した槍を携え、

 通路から飛び出してコボルトに駆け寄った。


『―――!』

 コボルト達は反応して武器を構えようとするが既に遅かった。


「はぁっ!!」

 コボルトが反応した瞬間には、

 レベッカの槍が喉元まで接近しており、次の瞬間、

 喉を貫かれ噴水のように血を流しながら片方は倒れた。

 

 もう片方のコボルトは驚きながらも、

 手に持った獲物でレベッカに殴りかかろうとするのだが――。


<闇の集束>ダークフォトン

 レベッカの槍から黒い大きな球体が出現し、

 コボルトは飲み込まれ、闇に体を呑まれてコボルトは消滅した。


「――ふぅ、終わりました」

 レベッカが駆け出して僅か十秒にも満たない時間で戦闘は終わった。

「凄いね……それに、もう使いこなしてるんだ」


 闇の魔法は新しい槍の魔石によるものだ。

 だが、レベッカは自身の使用する得意系統の魔法と、

 遜色ない威力で使用している。


「はい、この槍のおかげですよ」

 そう言ってレベッカは新調したばかりの槍を見せた。

 その穂先はさきほどの銀の色と違い紫色に染まっており、

 同時に魔石も紫色に輝いていた。


 闇の魔法を使用する時だけ色が変化するようだ。

 数秒後、元の色に戻った。


「お疲れ様、レベッカ。それじゃあ先に進もう」

 そして僕達は更に先に進む。コボルトの巣はかなり広く、

 長時間歩いているが今だに遺跡に繋がる場所が見つからない。


 おまけにここは空気が薄い。

 地上に比べると息切れしやすく、体力切れも起こしやすい。

 数度コボルト達と遭遇し即座に倒してはいるものの、

 あまり長期戦も出来ないだろう。


 そして、少しだけ休憩することにした。

「………ふぅ、このダンジョン思った以上に辛いね」

 敵自体は今の所そこまでだが、やはり空気が薄いのがネックだ。

 僕達は全員で輪になり座って休むことにした。


「確かに少し辛くなってきました……」

 エミリアも肩で息をしている。他の皆もかなり疲労しているようだ。


「他の冒険者の方々が攻略を断念するのも分かりますね。

 敵の強さだけではなく、環境でも苦戦するとは……」

「うん……。もう少ししたら一旦戻ろうか?」

 まだ入口付近のはずなので、引き返せば何とかなるはずだ。


「……いえ、行きましょう。

 いざとなれば脱出魔法が使用できますし」

「……無理はしないようにね」


 ここで意地を張っても仕方ない。

 危険だと思ったらすぐに撤退する事にしよう。

 僕は皆に声をかけて立ち上がり、再び進み始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る