第133話 百合の間には入れない
十六日目――
僕達は街を巡り旅の準備を整える。
同時に聞き込みだ。
この街にも例の怪しい商人が来ている可能性も無くはない。
この街の商人に訊いたところ……
「剣身の黒い剣を見たことありますか?」
「いやないねぇ、少なくともこの街でそんな武器は見たことは無い」
また、冒険者に訊いたら……
「仮面を被った商人?
そんなの怪しすぎだろ、居たら忘れるわけねぇって!」
「ですよねぇ……」
また、とある酒場では……
「あら、キミ可愛いわねぇ……お姉さんと遊ばない?」
「えっ、えーと…それじゃあお願いし――」
「帰りますよ、レイ」
「痛い!引っ張んないで!?」
結局、それらしい情報は得られなかった。
「レイくん、収穫は無さそう?」
「うん、多分この街に例の怪しい商人は来てないんだと思う」
「残念ですね、せっかくここまで来たというのに」
「まぁ仕方ないよ、元々この街は魔石の売却に来ただけで、
怪しい商人の話はあまり期待して無かったから」
……とはいえ、足取りが分からないというのは困る。
これからは色々な場所で聞き込みをした方がいいかもしれない。
「そういえばレベッカちゃん、体調は大丈夫?」
「いえ、特に問題は……急にどうされたのですか、ベルフラウ様?」
「レベッカは少し前まで大人の姿になってたから、
体調の変化が無いか心配してるんだよ」
「ああそういう事でしたか。
特に問題ありません。むしろ調子が良いぐらいです」
「そっか、それならいいけど。無理しちゃダメだよ」
「分かりました。皆様お優しいですね……あ、でも」
レベッカは一旦言葉を止めて、
胸を押さえながら顔を赤らめて言った。
「その、一度大人になってから胸が大きくなったような……」
「えっ」「あら……」
「!?」
僕は思わず声を上げて驚いてしまう。
「では、レベッカ、少し触らせてください」
エミリアがレベッカの背後に回った。
「え、エミリア様!?」
「大丈夫です、私達は女性同士、何も問題ありませんから」
「いえ、確かにそうかもしれませんが……」
「いいから早く」
「え、ちょっ……。
あ、変なところ触らないでくださいまし……エミリア様……」
僕は目の前で繰り広げられている光景を呆然と眺めていた。
女の子同士の絡みってこんな感じなんだ……。
はぁ羨ましい。
いや、羨ましいって……。
そんなこと全然ないから勘違いしないでほしい。
「レイくんも興味ある?」
「……」
男だもん、そりゃあ興味あるよ。
「なるほど。
レイはロリっ子のレベッカの胸を揉みたいというのですね」
「言い方!?いや言ってないし!!」
妹として扱ってる子にその感情を持つのは背徳的だ。
まぁ、どれくらい変わったのかは気になるけど。
「あ、もしかして私の方を触りたいとか?
無許可でやったらレイでも上級魔法ですよ」
「言ってないし、怖いよ……」
気を付けよう……。
ん?許可があればいいの?
「レイには少々刺激が強いようですね。
仕方ないので今回は許します」
僕は一体何を許されたのか。
それからしばらく経って、ようやく二人は離れた。
「ふぃー、堪能しました」
「ひ、酷い目に遭いました……うぅ」
ここが道端じゃなくて本当に良かった……。
「で、レイは私たちが百合百合してる間どういう気分でした?」
「いや、その、なんていうか、目のやり場に困ったというか……」
「あ、もしかして興奮しました?」
「してない!!」
本音は凄く興奮しました。
「ふふっ、冗談ですよ。レイもまだまだ子供ですね」
くそぉ、完全に遊ばれてる。
「で、胸を揉みながらレベッカに、
「エミリアちゃん、いつの間に……」
「少なくともまた大人になるようなことは無さそうです。
胸が大きくなったのは純粋に成長期だからですね」
お、大きくなってるんだ。
そうなんだ……ふーん。
「そっか……それは良かったね」
「おや、レイ。嬉しそうですね」
「違うから!!」
「ただレベッカの魔力は底上げされたままのようです。
そこの部分で言えば戦力アップといって差し支えないでしょう」
「それなら良かった」
「ところでレベッカちゃんってどれくらい強いの?」
「魔力なら僅差で私の方が上じゃないですか?
運動能力を含めたら、レイと同じくらいですかね?」
……そもそも、僕はレベッカに勝てるのだろうか?
レベッカの戦い方を見た時、勝てる気がしなかったんだけど……。
「私は魔法無しの純粋な殴り合いだと、レベッカに瞬殺されますね」
「いや、当たり前のような……」
エミリア純粋な魔法使いだもん。
槍も弓も魔法も使える万能戦士のレベッカと、
縛りありで戦って勝てるわけがない。
「私は……?」
「ベルフラウの場合サポート特化なので、
そもそも戦闘職の私達と比較するのが間違いなのでは……」
「でも私
ベルフラウ姉さんの
小型のドラゴンでも倒せる威力はあるけど、攻撃手段がそれしかない。
<浄化>に関してはそもそも人間に対して使える魔法では無い。
「試しに想定してみますが……
仮に私VSベルフラウなら、私の方が有利ですね。
警戒する魔法が殆どありませんし、
やろうと思えば魔法攻撃を相殺しながら、別魔法で反撃できます」
「うっ……」
一応、束縛の魔法で抑えながら、
防御魔法と回復魔法で粘る戦い方もあるけど、姉さんは体力が無い。
それに1行動における魔法の回数に差がある。
姉さんも<魔法の矢>連射は出来るけど、
エミリアなら魔力相殺しながら別魔法で反撃は余裕だ。
「ベルフラウは近接は不得意ですし、
遠距離からの攻撃もあまり有効ではありません。
この辺りで少し鍛えてみては如何でしょうか?
丁度この街には武具屋がありますし……」
ね、姉さんが前衛してる姿が想像できない……。
「一応聞くけど、姉さん使ってみたい武器とかある?」
「んー、特に無いけど……剣とか斧とか重いから苦手かも」
「ふむ、そういえば昨日の武具屋に面白い武器が売ってましたよ?」
エミリアが昨日の事を思い出しながら言った。
「面白い武器?」
「はい、確か魔法力を物理攻撃力に転化する武器でした」
「え、なにそれすごい」
「あれは魔法力の高い人間が使う前提で作られた物です。
ベルフラウの魔法力で使えば相当面白いことになりそうです」
「強いとは言わないんだ……」
でもその武器なら姉さんも十分な戦力になるかもしれない。
「わたくしも、新しい槍が欲しいと思っていたので、
今からその武具屋に行きませんか?」
「良いですね、行きましょうか」
僕達はレベッカの案で昨日の武具屋に四人で行くことになった。
◆
「おう、また来たのか」
「どうも」
僕達が昨日の武具屋に行くと、
魔石の換金をしてくれた男の人が居た。
「今日はどうしたんだ?」
「えっと、仲間の新しい武器が欲しくて……」
僕がそう伝えると、男の人が興味深そうに言った。
「どんな武器が欲しいんだ?
ここの武器は半数は俺が作ったものだ、言えば選んでやるが」
おぉ、凄い。この人が半分もここの武器を作ってるのか。
その言葉でレベッカが手を挙げた。
「ではお願いします。わたくしの希望としては槍なのですが……」
見た目幼いレベッカだが、これでもかなりの槍の使い手だ。
ただ力はやはりそこまででは無いため、軽めの槍を好んで選んでいる。
「ほぅ、その体躯で槍を扱うのか……少し待っていろ」
男の人は店の奥に行って、少ししてから戻ってきた。
「これとかどうだ?
魔力と適正さえあれば<闇属性>の魔法が使えるぞ。
ミスリルで出来てるから腕力が低くても扱えるはずだ」
闇属性の魔法?何それカッコいい……。
レベッカはその槍を受け取り、軽く自身の魔力を魔石に込めた。
すると魔石が紫色に輝いた。
レベッカも嬉しそうにしている。気に入ったのだろうか。
「ありがとうございます。それで値段の方は?」
「金貨四十枚だ」
「わかりました、払います」
そう言ってレベッカはお金を出した。
迷いなく払えるんだ……。
「毎度あり、上手く使いこなせよ」
「はい、ありがとうございます」
そうしてレベッカの新しい武器を入手した。
「よし、これで後はベルフラウの武器だけですね」
「ベルフラウ様はどんな武器が良いですか?」
「私?さっきエミリアちゃんが言ってた武器かなあ……」
例の魔法力を攻撃力に転化する武器の事か。
「ベルフラウは力が弱いので、
あの武器は良いかもしれませんね」
「あれか、あの武器はまだ試作品なんだが……」
そう言って男の人は店頭の武器を選んで持ってきた。
「この杖だ。魔力を込めて直接殴るか、
魔法を使う感覚で振りかぶれば光弾で敵を遠距離攻撃できるぞ」
「おお、なんか強そう!」
ベルフラウ姉さんは喜んでるけど、僕は少し疑問があった。
「これは試作品なんですか?」
「ああ、試作段階だから、
威力の調整や消費魔力の計算が甘かったりしてる。
だから、もし買うならお前さんらが上手く調整して使ってくれ」
「じゃあ貰いますね!
ねぇレイくん、私これにするよ!」
「わかったよ、はい」
「それじゃあ、それは試作品という事で金貨十枚でいい。
最初は扱いにくいと思うが」
「はい、大丈夫です」
「まいどあり!」
こうしてベルフラウ姉さんの新しい武器を手に入れた。
しかし……。
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