第132話 その後、彼らの行方を知るものは誰も居なかった

 しばらく街道を進むと、ようやく目的の街『イース』に着くことが出来た。

 街の規模は小さいが、魔物の数が増え始めてから鍛冶職人を募り、

 武具を発展させたことで名が広まった街だそうだ。


 『魔石』なども取り扱っており、

 この街で様々な名剣や魔道具が生まれたとか。

 街並みは煉瓦造りの建物が多く、街の中央には巨大な噴水があった。

 ……噴水はトレンドなのだろうか。

 

 やはり武具の街ということで冒険者や旅人が多く、

 ここにも支部の冒険者ギルドもあるようだ。


 僕達は宿を探しながら街を歩く。

 すると少し前に見た剣や斧を他の冒険者が持ち歩いてることに気付いた。


「……さっきの山賊の人達、この街で武器を揃えてたんだね」

「そうみたいですね」

 僕が呟くと、隣にいたエミリアが答えてくれた。


「……山賊が堂々と街を闊歩して、

 危険な武器を購入して旅人を脅していたわけか……」


「全く許せませんね」


「そうよね、本当に嫌になるわ」

 ……見逃したのは失敗だったかもしれない。


 気を取り直して、僕達は宿に向かいまず部屋を確保した。

 この街では、冒険者ギルドの依頼ボードに山賊退治依頼が張られていた。

 報酬額は金貨十枚。結構高いけど、

 山賊団のアジトの場所が分かった場合の追加料金も含まれているらしい。


 僕達はギルドを出て酒場に入ると、

 山賊討伐依頼を受けたであろう冒険者たちが酒を飲んでいた。

 僕達は四人でテーブルに座って、料理を注文する。


「さて、やっと街に着いたね」

「ええ、この街でひとまず魔石を売り払いましょうか」


 この街は武具以外にも『魔石』を高く買い取る店があると聞いている。

 まだ旅の途中なので、この辺りでまとまったお金を作っておきたい。


「その前にまずは食事にしましょう。私もうお腹ペコペコです」

「うん、賛成だよ」

 それからしばらくして、頼んでいた料理が運ばれてきた。

 僕達は食事をしながら今後の予定を話し合う。


「レイ様、この街には何日ほど滞在する予定ですか?」


「予定って程の事は決めてないけど、

 まず今日はもう遅いから一泊するとして――」


 この街でやることは実は多くは無い。

 ①以前に得た魔石を売り払って旅の資金を稼ぐこと。

 ②例の怪しい商人がこの街に来てないかの情報収集をすること。

 ③旅の準備を整え、時間があれば武具を見て回る。


 一応冒険者ギルドがあるため、

 依頼を受けることが出来るが長く滞在するつもりは無い。


「――今日を含めて三日くらいかな。それからはまた旅を続けるよ」


「噂になってる山賊達はどうします?

 見逃しましたけど、その気になれば壊滅させに行きますよ?」


 ……あの調子ならエミリアがいれば簡単に終わりそうだけど。


「少し様子を見てから考えようと思う」


 山賊達がこのまま大人しくしていてくれるなら……。

 でも、もし改心しないなら、その時は―――。


「そういえば、この街に有名な武具職人がいるらしいですね。

 この街が栄えたのは元々その方の元に、

 腕に覚えのある鍛冶職人たちが集まったからだとか」


「へぇ、それは凄い人なんだね」


「はい、その方が造ったという魔道具はとても人気だそうですよ」

 エミリアは少しはしゃいでいた。

 どうやらすぐにでも見に行くつもりのようだ。


「レイも一緒に来ますか!?」

「うん、いいよ。二人はどうする?」

 僕は姉さんとレベッカに視線を合わせて聞いた。


「私は旅で疲れちゃったから、先に宿で休ませてもらうね」

「わたくしも宿で休ませて頂きますね」

「そっか」

 二人とも街を散策するのは明日からにするようだ。


「それじゃあ夕食が終わったら宿に集合しましょう!」

「分かった」

 僕達は食事を済ませると、それぞれの部屋に別れた。


 ◆


 夜になり、僕とエミリアは宿を出ると街で一番大きな建物に向かう。

 そこはこの街一番の武具店らしく、

 魔石も買い取ってもらえるという話だ。


「おじゃましまーす」「まーす」

 中に入ると、そこには多くの武器が置かれていた。

 剣や槍はもちろんのこと、弓や斧など多種多様である。


「うわぁー、すごい武器の数だね」

 僕が感心していると、店の奥から店主らしき男性が現れた。

 歳は五十代後半といったところだろうか。


「ほう、若い冒険者か珍しいな」


「こんばんわ、魔石を買い取りしてると聞いてきたんですが」


「ん、そうか。

 質の悪いのは論外だがそれなりの魔石なら買い取ろう」


 そう言われ、僕達は持ってきた魔石を取り出した。

 以前の『魔石の鉱脈』で入手したものだ。

 ただし、一番のお宝だけはまだ売るつもりは無い。


「ふむ、これだけあれば十分だろう。全部で金貨四十枚ってところだ」


「そんなにですか!?」


「ああ、質のいい魔石ばかりだからな。

 魔物から入手したものじゃないな、自然に出来たものだろう」

 そこまで判るのか。

 確かに、今回の魔石は『魔石鉱脈』から得たものだ。


「ところでお前たちは冒険者なのか?」


「はい、この街では先日登録したばかりですけど」


「その歳でか。大したものじゃないか」


「いえ、それほどでもありません」

 それから僕達は魔石を全て売り払うと、代わりに金貨を受け取った。


「ありがとうございました」

 僕達はお礼を言うと、

 次はエミリアの要望で武具を見て回ることにした。


「……確かに、良いものばかりだね」


 自分が扱うのは剣だけだけど、どれも切れ味が良さそうだ。

 それに魔石が付いているものも多く、魔法効果も付与されているのだろう。

 ゼロタウンの武具店と比べるとレベルが違う。


 とはいえ、

 自分が持ってる<魔法の剣>と<龍殺しの剣>と比べると……。

 実際に使ってみないと分からないけど、これと思うものは見当たらない。


「ねぇエミリア、この中でどれが一番強いと思う?」

「そうですね…………これはどうでしょうか」

 エミリアが手に取ったのは、柄の部分に大きな宝石が付いた短剣だった。

 刃渡り三十センチほどの両刃で、その大きさの割には軽そうである。


「これって……」

「はい、ミスリルで出来ていますね」

「えっ、これが?」


 僕は驚きながら鞘から抜いてみた。

 月明かりに照らすと、その刀身が淡く光っているように見える。


「綺麗でしょう?」

「うん、まるで夜空を切り抜いたみたいだ」

「キャラ忘れてキザったらしいこと言いますね」

「うるさいよ」


 しかし、本当に綺麗だ。

 創作だと銀のような輝きと鋼より固いと言われる金属だ。

 それなのに軽く金属そのものに魔法が掛かっているらしい。


「これなら軽いですし、レイも購入してみては?」

「そうだね、ちょっと見てみようかな」

 僕は値段を確認すると、その金額に驚いた。


「金貨五十枚!?………うん、止めとこう」

「諦めはやっ……」

 大体、剣二本持ってるんだ。短剣があっても仕方ない。

 自由に使えるお金は以前のプレゼントで使い切ってしまってる。

 

「エミリアも気に入ったものは無いの?

 杖とか他の魔道具とか」

「今使ってる杖も強力なんですよね。

 詠唱時間を1/2に短縮する効果とかありますし」


 僕の剣もどちらも良いものだ。

 ここの武器と比較しても遜色はないだろう。


「私としては、もっと色々な武器を見て回りたいのですが」

「そっか。じゃあもう少し色々見て回る?」

「賛成です!」


 それから僕達は店内にある武器を一通り見回った。

 そして一時間ほどかけて満足すると、店を後にした。

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