第131話 激おこレベッカたん

 十五日目――

 僕達は谷を抜け、更に街道に沿って馬車を進め、

 ようやく次の目的の街が見えてきた。


 しかし――

「あれって……」

 少し先に行ったところで、

 ガラの悪そうな一団が街道をとおせんぼしていた。


「話に訊いていた山賊の連中ですね」


 少し前に同行していた旅人二人は、

 途中で山賊に荷物やお金を取られてしまったらしい。

 山賊が道を塞いで検問紛いのことをやっていたとか。


 目の前の山賊たちも道行く旅人に絡んで荷物を奪い取ろうとしている。山賊団の数は凡そ十人程度といったところか、剣や斧などを持って周りを威嚇しているようだ。後ろの方には杖を持った奴もいる。おそらく山賊の一団の魔法使いだろう。


 厄介なことに、丁度街道の分かれ道に陣取っている。

 これだと迂回しようにも避けて通れなさそうだ。


「……どうしたものかな」

 僕は御者台の上で考えていた。このままだと山賊に絡まれてしまう。

 すると、エミリアが手綱を引いて馬を止めた。


「エミリア?」

「私が行きましょう」

 そう言ってエミリアは馬車から降りた。


「エミリア、危ないよ?」

「大丈夫です。こういうのは慣れていますので」

「ちょ!?」

 止める間もなく、スタタタッと小走りで山賊の方へ走っていった。


「あ、エミリア!?」

 慌てて僕達も後を追った。


「なんだテメェ!」

「おい、ガキが来たぞ!」

「女一人でこんなところに何しに来たんだ?」

「ここを通りたければ通行料だ。それとも体で払うか?」

 山賊たちはエミリアを見て下卑た笑みを浮かべている。


「貴方達こそ、何をしてるのですか?」


「あん?俺らは見ての通りだよ」


「……はぁ、そうですか。

 それは邪魔してすいませんね。ですが……」

 そう言いつつ、エミリアは腰に差していた杖を抜き放った。


「……別に警告する必要なんてありませんが言いますよ。

 今すぐどいてください。そうすればお互い幸せになれますから」


 突然杖を構えて脅すのは、

 やってることが変わらない気もするけど、

 それでもエミリアは平和的に解決しようとしている。


 しかし、山賊はその姿に腹を立てたのか言った。


「……ああ?ガキが舐めてんのか?おい」

 山賊達はエミリアを威圧するように武器を構えて言った。


「な、舐めやがって!!」

「おい!相手は一人だぜ!!囲んでぶっ殺してやる!!」


 ……駄目だ。かえって怒らせてしまったようだ。

 エミリアも結果は分かっていたのだろう。


「やれ、この女を痛い目に遭わせてやれ」

 そう言ったのは山賊の親玉らしき、魔法使いの男だった。


 その指示を聞いた山賊達は一斉にエミリアに襲い掛かってきた。

 しかし、エミリアは不敵に笑って魔法を発動した。


「――<上級獄炎魔法>インフェルノ


 ◆


「ちょっ――!?」

「え、エミリア様、やり過ぎです……!」

「あー、大丈夫かしら、あの人達……」


 思わず僕達は出てしまう。

 エミリアは山賊相手に容赦なく上級魔法をぶっ放してしまった。

 地獄の炎がエミリアの杖から解き放たれ、山賊全員を巻き込んだ。


「ぎゃああぁぁ!!」

「熱いぃいいい!!」

「助けてくれぇえええ!!」

 瞬く間に山賊が燃え上がり、

 悲鳴を上げながら地面に転がりまわっている。

 本当に、容赦ないな……。


「大丈夫です、手加減しました。致命傷で済むでしょう」

「いや、致命傷じゃダメでしょ!!」

 追いついた僕は思わず突っ込んでしまった。


 それでも手加減というのは本当のようで、

 山賊はボロボロになりながらも生きている。

 エミリアが本気で上級魔法使ったら、

 あのレベルの装備だと体ごと灰になっていただろう。


「………仕方ないか」

 レベッカと姉さんに手伝ってもらって山賊達を一旦縛り上げた。

 その後に、山賊達に回復魔法を使って傷を癒した。


<中級回復>キュア………。

 ふぅ、これで死にはしないよ。もう懲りたらこんなことしないでね」

「……こ、今回は見逃してくれてありがとうございます」


 山賊のリーダー格と思われる男が頭を下げてきた。

 他の山賊たちも皆一様に頭を下げる。


「二度とこんな人に迷惑を掛けるのは止めてください。

 こんなこと止めて旅人さんから奪った荷物も返してあげてください」


「わ、分かりました……」

 リーダー格の男はまだ少し怯えた様子だが、素直に返事をした。


「それでは私たちは行きますので」

 そう言って、僕達はその場を後にしようとしたのだが――


「ま、待ってくれ!」

 先ほどまで山賊団の一番後ろに居た杖を持った、

 魔法使い風の男に呼び止められた。


「お、俺はこの山賊団の幹部の一人、『イフリート』というものだ。

 よければ俺たちのボスに会っていかないか?」


「え、いや結構です」


 そして別のサブリーダーっぽい山賊が名乗ろうとする。


「そういえばまだ名乗っていなかったな。俺は――」

「いえ、聞いてません」


「そ、そうか。俺の名前は『ノーム』、

 同じくこの山賊団の幹部だ。是非とも君たちに頼みたいことがある」

 いや、だから聞いてないって。てかアンタも幹部なのか。


「さっき『イフリート』って名乗った人もですけど……。

 こんなことの為に、この場に幹部が複数居るんですか?」


「「「………」」」


 幹部とかどうとか言ってるけど、要するにこの人達犯罪集団だよね?

 普通に関わりたくないんだけど……。


 ていうかイフリートとかノームとかこの人達どこの召喚獣だよ。

 カッコつけてコードネームで呼び合ってたりするの?


 ……別にカッコいいとは思ってないよ?


「実は俺達の仲間が攫われちまってな。そいつを助けて欲しいんだ!」

 その言葉を聞いてエミリアは再び杖を山賊団に向けた。


「人を襲って金品巻き上げておいて何言ってるんですか。

 もう一回インフェルノ食らってみます?」

「うぐっ!?」


「おいおい嬢ちゃん、その辺にしときなって」

 と、他に山賊団に妨害されていた旅人の人に声を掛けられた。

 僕達はそちらを見ると、そこには旅姿の商人さんが居た。

 どうやらこの先の街から行商に行くところだったらしい。


「山賊団の娘が何処かの盗賊団に浚われたって話は本当らしいぞ」


「そうなのでございますか……?」

 レベッカが山賊団のリーダーに問いかける。


「あ、ああ。そうだ……」

 この商人さんは盗賊団と山賊団が争いになって、

 娘さんが浚われているところを見たらしい。

 そんな犯罪集団の間に入って協力とか絶対したくない。


「でも協力する気は――」

 と僕はそこまで言い掛けたのだが、レベッカに遮られた。

 そして僕の代わりに言った。


「わたくし達に何をしろと言うのですか?」

 まさか、レベッカは協力する気だろうか?


「いや、助けてくれるのか!?」

「ええ、でも条件があります」

「なんだ!なんでも言ってくれ!!」


 ……条件。レベッカは何を要求するつもりなんだろうか。

 僕としてはどんな条件でも協力なんてしたくないんだけどな。


 しかし、その心配は杞憂に終わった。


「その囚われた女性はわたくし達が助けましょう。

 ただし、貴方がたは罪を償ってもらいます。

 つまり、この後、貴方たち冒険者ギルドに引き渡すこととします」


「ええええええ!!!!」


「な、なんでだ!そんな事する必要ないだろう!!」


 山賊や盗賊はギルドに報告して捕縛してもらう必要がある。

 それを僕達は見逃してあげたのに、

 余計な面倒ごとまで押し付けようとしたのだ。

 あまりにも自分勝手すぎる言葉にレベッカも怒ったのだろう。


「女神様は仰いました。罪を憎んで人を憎まずと――

 わたくしはそうは思いません。貴方がたはあまりにも勝手すぎる」


 レベッカは普段の優しいのに今回は中々厳しい。

 隣にいる僕でも今レベッカが激怒してるのがよく分かる。


「さて、選んでくださいまし。

 罪を受け入れてわたくし達に仲間を救ってくれと頼むか。

 それとも自らで助けに向かうか」

 レベッカはそう言って、イフリートを睨みつけた。


「ひ、ひぃ……!?」

 ……十三歳の幼女の威圧に怯える山賊団って…………。


「レベッカ、ちょっとやりすぎじゃないかな?」

「いいえ、自らは真面目に働きもせず、他人の金品を奪い取り、少し施しを受けたら調子に乗って、問題ごとをわたくし達のような子供たちに押し付け、あまつさえ自分達の罪に向き合おうともせず、そんな方々にわたくしは情けを掛けるつもりはありません」


 正論だけど、容赦ないねレベッカ……。


「それに、わたくしは見ておりましたよ。

 エミリア様を酷い目に遭わせようとしていました。

 仲間を傷付けられそうになっていて、わたくしが許すとでも?」


「……そうね、確かにレベッカちゃんの言う通り」

 姉さんが僕の肩に手を当てていった。


「貴方たちは素直に罪を受け入れるべきだと思うわ。

 もしその浚われた娘さんを助けたいなら、

 貴方たちが命がけで助けに行くべきよ」

 姉さんは山賊のリーダーの目を見ながら言った。


「うぐぅ……」

 リーダーは何も言い返せない様子で、

 悔しそうな表情を浮かべている。

 そして、他の山賊たちも項垂れていたり、

 泣き出してしまったりと様々な反応をしている。


「……行こうか、みんな」

「そうですね」

「はい」

「いきましょう」


 僕達は茫然としてる山賊団を馬車で通り過ぎて街道を進んだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る