第130話 やっぱり幼い方が好き
十四日目――
「……それで?どうして二人は同じテントで眠ってたのかしら?」
翌朝、テントの外に正座させられた僕達は、
ベルフラウ姉さんに尋問されていた。
僕とレベッカはあの後、何とか<束縛>を解いて、
レベッカも姉さんの魔法で何とか正気を取り戻したように見えた。
「いや、ベルフラウ……
あれはレベッカの食べた<奇跡の実>が原因では?」
横で見ていたエミリアがあきれ顔で言った。
「で、でもでも!レイくんが私以外の人を襲うなんて……!」
おい、何を言ってる義理の姉よ。
僕の横に居るレベッカは正座をさせられて大混乱中だ。
正気に戻った時もまだ混乱していた。
「今言ってはいけないことを言った気が……レイ?」
「いやいやいや!!
姉さんを襲ったことなんて一度もないからね!!」
僕は必死で弁解する。
というより何故僕が襲う側なんだよ!?今回逆だよね!?
「とりあえずレイ、あなたは一度実家に戻って反省なさい」
いや、僕今異世界転生中で実家に帰れないんですが……。
「まぁ冗談はこれくらいにしてですね」
「エミリア」
割とマジトーンで怒る僕だった。
「それで、実際はどういうことだったんです?」
エミリアはどうやら確信があったようで、初めから僕を疑っていないようだ。
「それは……」
チラッと隣にいるレベッカを横目で見る。
「――目が醒めたら、目の前にレベッカがいて正気を失ってた」
「―――っ!!」
僕の言葉にレベッカは酷く反応して俯いていた。
……この話、
レベッカに聴かせるのは可哀想じゃないだろうか。
そのため、多少内容を伏せてレベッカに話す。
「わたくしがそのようなことを……」
「ご、ごめんね、レベッカ……」
何だか罪悪感を感じてしまい、つい謝ってしまう。
「……わたくしの方こそ、申し訳ありません。
こんな事になってしまうとは……」
レベッカは泣きそうな表情を浮かべながら僕に謝罪してきた。
「それで、エミリア。
レベッカは一体どういう状態だったの?」
僕は気を取り直してエミリアに尋ねた。
「推測ですが、<奇跡の実>は魔力が跳ね上がるのと、
身体を急成長させて精神に異常を起こす副作用があるみたいです。
それが理由であのような状況を引き起こしたのだと思います」
昨日は普通に見えたけど、
レベッカまで異常な状態になっていたのか。
「私も、気付きませんでした。
<能力透視>でも使えば一発で分かったと思うんですけどね」
「……それで、その状態はもう治ったんだよね?」
「今は、ですよ。また再発する可能性があります。
それにレベッカの体も元に戻ってませんし……」
「わ、わたくしはどうなってしまうのでしょう……」
……冷静に考えよう。
レベッカは魔物の木である<奇跡の実>によって体が変化し、
昨夜のような異常行動を起こしてしまった。
今は正常だが、昨夜の状態に戻ってしまう可能性がある。
……もし<奇跡の実>が木と同じく魔物と同じような存在だったら?
それだとするなら、
今のレベッカは魔物に取り付かれたような状態といっても良い。
この状況で元に戻す方法は……何か……!!
「――そうだ、浄化だ」「浄化?」
「うん!もし<奇跡の実>が母体の木と同じ、
魔物と似たような存在なら元に戻せるかもしれない!!」
「……なるほど、少し考えられますね」
一か八かだ。これに失敗したら正直手が思い付かない。
「姉さん、出来る?」
「やってみるわ!」
そう言って姉さんは<浄化>の詠唱を開始する。
普段より詠唱が長い、姉さんも全力を注いでいるのだろう。
「――天より降り注ぐ光の雫、
其は清浄なり、光よ集いて闇を祓わん、
我が願いを聞き届け、彼の者を清め給え」
姉さんの魔法が発動すると、レベッカの周りに光が漂い始める。
「これは……!」
エミリアが驚いたように声を上げる。
そして、レベッカに変化が現れた。
「体が……」
レベッカの体が徐々に小さくなっていく。
同時にレベッカから黒い霧のようなものが抜け出て天へ還っていく。
やがて完全にレベッカの姿に戻ると、その場に倒れ込んだ。
「レベッカ!」
僕は倒れたレベッカを抱き上げた。
「……すぅ…すぅ…」
レベッカは寝息を立てて眠っていた。
「……良かった、眠ってるだけだ」
「……レベッカは大丈夫なんですか?」
エミリアが心配そうな表情で尋ねてきた。
「……多分ね。状態異常の方はまだ何とも言えないけど、
街に着いたら一応専門のお医者さんに診てもらった方がいいかも」
「わかりました」
ひとまずこれで一件落着かな……。
◆
それから数時間後――
「おはようございます、皆さま」
テントで寝かしていたレベッカは自分で目覚めて戻ってきた。
「レベッカ!」
「レベッカちゃん!」
「レベッカ、体は大丈夫ですか!?」
レベッカは突然心配されたため少し困惑しているようだ。
「ど、どうしたのですか、皆さま?
それにもう日も高いようですし、出発なさらないのですか?」
「「「え?」」」
……何か様子が変だ。どうしたんだろう?
「レベッカ、体調は大丈夫なの?」
「??? いえ、わたくし、これでも健康体でして
……病気などあまりしたことありませんし」
………???
あれ?なんかおかしくない?
「レベッカちゃん?もしかして何も覚えてないの?」
「???……えぇと、そういえばわたくし体が元に戻っております」
「昨日の夜の事覚えていますか?」
「夜……でございますか?
……いえ、特に何も?普通にぐっすり眠っていたような……」
僕達はそこまで聞いて三人でコソコソ相談し始めた。
「(……どういう事かしら?)」
「(さぁ……)」
「(おそらく、昨夜の事は記憶に残ってないようですね……)」
<奇跡の実>による体の変異、状態異常が回復した結果か。
しかし、何故記憶まで消えているのだろうか。
「(夜の時点から今までの記憶が全部消えたということ?)」
「(そっか、夜からさっきまで、
実はずっと正気を失った状態が続いてて……)」
「(それで、
正気を失ってる間の記憶がすっぽり抜けてるわけね……)」
「(成程……確かにそれなら辻妻が合いますね)」
とりあえず昨日の夜の事はレベッカに黙っておこう。
「あの、皆さまどうされたのですか?」
「え!?いや、何でもないよ!」
「うんうん、何でもない!」
「気にしなくていいですよ!」
僕達のその反応に、
レベッカはちょっと「ムッ」と来たのか、頬を膨らませて言った。
「皆様、何か隠してていらっしゃいますね!教えてください!!」
「「「なんでもないから!!」」」
「ぷくー!!」
中には知らない方が良いという事もある。
この事は一生僕の心の内に留めておこうと誓った一日だった。
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