第128話 戦力的に厳しかった

 しばらく森林を進むと、

 またも先程のような大きな気配を感じ取った。


「今度は近い……」

 僕達は警戒しながら更に森林の奥へと進んでいく。

 するとそこには―――


「………っ!!」

「こ、これは……!」

「な、なんとおぞましい……!!」


 そこには、食い荒らされた<奇跡の果実>と、

 大量の魔物の死骸が転がっていた。


 そして、それを行ったであろう巨大な存在が、

 僕達を見下ろしていた。


『ギシャァアアアッ!!』


「こ、こいつは……!」

「巨大なゴリラの魔物ですね……!!」

 体長は優に四メートルを超える巨躯。

 全身が灰色の体毛で覆われており、鋭い牙と爪を持っている。


<能力透視Lv12>アナライズ


 Lv40 <森の主>

 HP1200 MP50 攻撃力400 物理防御150 魔法防御150

 所持技能:猛獣のオーラLv10 剛力Lv15 野生の本能Lv0 狂化Lv30  

 所持魔法:封印魔法Lv1 弱化魔法Lv1 闇属性魔法Lv1

 耐性:狂化状態により、全ての精神異常を無効化する。

 弱点:炎属性


 補足:森の主、<奇跡の実>で強化されている。

 魔法を使えるようになったが、中毒状態で狂っており、

 本来備わってる野生の本能が機能しなくなっている。

 知能が低下している為、あらゆる生物と会話や意思疎通は出来ない。


「――ヤバいですね!こいつかなりの強敵ですよ!!」


「レイ様、ここは一旦撤退すべきでは!?」

 二人が僕の後ろに下がりながら言う。


「うん、そうしよう」

 レベッカが弱体化したままで、

 更に姉さんが居ない今の状況での勝ち目は薄い。

 僕達は一斉に後ろを振り向いて、即座に走って逃げる。


 ――しかし……


「――っ!め、目が……」

 走っていたエミリアの足が急に止まり、

 体がフラフラし始めた。


「え、エミリア大丈夫!?」

 「エミリア様!」

 僕は咄嗟にエミリアを抱き止めて、体を支える。


「だ、大丈夫です……しかし、これは……」

 エミリアの瞼が少し閉じかかっている。


「レイ様、危ない!!!」

 レベッカは僕の背中に背負った<魔力の剣>を引き抜いて、

 僕の後ろに迫っていた<森の主>に向かって剣を振った。

 だが、その攻撃は全く効かずに、逆に弾き飛ばされてしまう。


「うぐっ……!」

「レベッカ!!」

 今のレベッカは<空間転移>で槍と弓を出すことが出来ない。

 その為不慣れな剣で向かったのだろうが、相手が悪かった。


「だ、大丈夫です……それより早く逃げて下さい」

「―――っ!」

 レベッカを放っておいて逃げるなんてことは出来ない。

 僕はエミリアを近くの木に寄り掛からせて、

 もう一本の<龍殺しの剣>を抜いて駆け出す。


「うおおおおっ!」

 僕は気合いを入れて斬りかかると同時に<中級火炎魔法>を発動。

 剣に付与して<森の主>に上段斬りを浴びせる。


『グガァッ!』

 僕の一撃を受けてよろめく<森の主>。


「よし、効いてるぞ!」

 森に住む魔物の性か、やはり炎の攻撃には弱いようだ。

 しかし、ダメージは負っても他の魔物のように炎を怖がったりはしない。

 狂化状態のせいか、こうなると厄介だ。


<炎の息>ヒートブレス!!」

 後ろでエミリアの炎魔法が発動する。

 僕の横を通り抜けた炎のブレスは<森の主>に炎を浴びせ続ける。


 僕は一旦下がり、エミリアに声を掛ける。

「エミリア!大丈夫!?」

「私は大丈夫です!今はレベッカを!!」


 僕は頷いて、吹き飛ばされたレベッカの元へ行って回復魔法を唱える。

<中級回復>キュア!!」

 これで少しすれば回復するだろう。

 魔法で癒しつつレベッカを支えながら、立たせる。


「申し訳ありません……わたくし、あまり役に立てずに……」

「そんなことない!!」

 さっきはレベッカが守ってくれないと僕達が襲われていた。

 今度は僕がレベッカを守らないと……!


『グルルルル……』

 炎を浴び続けていた<森の主>は怒り心頭の様子で僕達を睨み付ける。


「……来るぞ!!」

 僕は声を上げて構える。


『<猛獣のオーラ>』

 <森の主>は突然凄まじい咆哮を上げ、炎を振り払う。

 その巨躯からは想像もつかない速さでこちらに迫ってきた。


「くっ、速い!」

 僕とレベッカは左右に別れて避ける。

 そのまま<森の主>は、近くにあった木を次々と薙ぎ倒していく。


「なんて力だ!!」

 さっきまでよりもパワーが格段に上がっている。

 おそらく奴の発動したのは、能力強化系の技能だろう。

 先ほどよりも威圧感が凄まじくなっている。


<炎の槍>フレイムランス!」

 背後にいたエミリアが魔法を唱えて、<森の主>に向けて炎の槍を放つ。

 しかし、<森の主>は振り向きもせずに腕を振るって炎を打ち消した。


 しかしその手は火傷を負ってしまう。

 だというのに、まるで痛がっている様子が無い。


「レイ様……もう一度撤退を」

「そ、そうだね……それじゃあ」

 と、僕達はエミリアにも声を掛けようとするのだが、

 当のエミリアにそれを止められる。


「待ってください!おそらく撤退は難しいです!!」

 何故と、僕は言おうとしたのだが、

 不意に僕の足に鎖が巻き付かれてしまう。


「こ……これは!?」

 <森の主>から魔力が放たれる。

 魔法を詠唱しているようには見えなかった。

 という事は無詠唱で無意識に発動している。


「くっ!!!はぁああ!!!」

 僕は足に魔力を込めて強引に魔法の鎖を引き千切る。

「さっき、私が最初に食らったのは<眠りの魔法>スリープマジック

 そしてレイが今受けたのは<束縛>バインドです。

 狂化しているようですが、厄介な魔法を使用してきますね……」


 ……そうか、エミリアが逃げるのを止めたのは、

 逃げようとしても魔法で妨害して襲ってくるからか……!!


『グオオォオ!!』

 僕達の会話の間に、<森の主>はもう目の前に立っていた。


<守護石柱>ストーンバレット!」

 咄嵯に魔法を唱えたのはレベッカだ。

 レベッカの足元から一本の石柱が飛び出し、

 直撃した<森の主>は数メートル後ろに吹き飛ばされる。


「ありがとうレベッカ!!」

「いえ、それよりも一旦距離を取りましょう!」


 僕が返事をしようとした瞬間だった。

 突如として、周囲に黒い霧が渦巻いたのだ。


 これは……<暗闇>ブラックアウトの魔法だ。

 闇属性魔法の最も初歩の魔法。効果は周囲を暗く染めて視界を妨害する。


 本来なら光属性の<フラッシュ>が有効な魔法だ。

 しかし、今はこの魔法を使える姉さんが居ない。


「レイ、風魔法で闇を吹き飛ばすんです!」

「分かった!!」


 僕とエミリアは同時に魔法を発動する。

<初級風魔法>エアレイド!!」

<中級爆風魔法>ブラスト!!」


 僕とエミリアの風魔法により、

 敵の放った<暗闇>の魔法は振り払われた。


 しかし次の瞬間に、

 <森の主>が僕達に向かって突っ込んでくる姿が見えた。


「な!?速い!!」

「はああああああ!!」


 レベッカが即座に<魔法の剣>を前に突き立て迎え撃つ。

 僕も少し遅れて<龍殺しの剣>を突き立てて敵に突っ込んだ。


『ガアァッ!』

 だが、魔物はいとも簡単に振り払う。


「ぐぅう!!」「くうっ!」

 レベッカと僕は弾き返されてしまい、尻餅をつく。


「くっそぉおお!!」

 僕は立ち上がると同時に<森の主>に斬りかかる。


「レイ様!<全強化>貴方に全てを

 レベッカの強化魔法が僕に発動し、僕に銀のオーラが付与される。


「うおおおおおおお!!!」

 僕は剣に魔力を込めて、全力で<森の主>に斬りかかった。


『ギャアッ!!』

 僕の渾身の一撃を受けた<森の主>は大きく怯み、後ろに下がった。


「逃しません!!<四属性重複魔法>ミックスブラスト!!!」

 距離を取った<森の主>にレベッカは構えていた魔法を発動する。

 中級魔法四つを魔力弾に込めて敵にぶつける魔法だ。

 魔力弾は<森の主>に直撃し、

 爆発と同時に電撃が走りそのまま遠くに吹き飛ばされた。


「よし!レベッカ、動きを止めて!!」

「はい!!」

「エミリア、雷魔法お願い!」

「了解です――今度はしっかり合わせますよ」


 僕は<龍殺しの剣>ドラゴンスレイヤーに魔力を込めながら走り出す。

 吹き飛ばされた<森の主>は体の痛みを無視して動こうとするが……。


<地割れ>クラック

 レベッカの土属性魔法により、

 地面がひび割れて<森の主>の足元が地割れに挟まれ態勢を崩した。


「今だ!!!」

 僕は跳躍し、全力で<森の主>の身体に剣を突き立てる。

 そして、すぐさま離れて避難する。

<上級電撃魔法>ギガスパーク


 エミリアの魔法が発動し、僕の剣に雷魔法がヒットする。

 剣に流れた電撃魔法はそのまま<森の主>の体内に流れる。 


 <森の主>は断末魔のような叫び声を上げて、

 その場に倒れ込みやがて完全に灰となって消滅した……。


「やったのか?」

「レイ、大丈夫ですか!?」

「やりましたね、レイ様……」

 姉さんが居なかったけど何とか勝てた……。

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