第125話 固定装備が増えました

 十二日目――


 一日休息を取ってからもう一つ依頼を受けることにした。

 ちなみに今回はゴードンさんは来ずにティアさんだけが付いて来ている。


『調査依頼。

 近くに見つかった古代の遺跡を調査してほしい。

 報酬は結果次第で金貨八枚まで』


 昨日やり残した依頼だ。


『いやぁ、俺はそういう繊細な仕事は苦手だからよぉ。

 ティアなら役に立つはずだから連れてってやってくれ』

 と、ゴードンさんは言っていた。

 なのでこの場には僕達4人とティアさんだけだ。


「今日もお願いします、ティアさん」

「こっちこそ、報酬全部貰っちゃってごめんなさいね」


 ギルドの仕事を受けるには登録が必要なため、

 大きな街に着くまでいくらかの蓄えが必要だという。

 というわけで今日もティアさんと協力して依頼を受ける。


 ◆


 村を出て二時間ほど、

 進んだところに小さな遺跡があった。


「それじゃあ、行きますね」

 遺跡の中は暗く、明かりが無いと進めそうになかった。

 僕が<点火>で火を出す。そこに姉さんに声を掛けられた。


「私が新しい魔法を覚えたからそっち使おう」

「新しい魔法?」


「見ててね……<光球>ライトボール!」


 姉さんの手のひらに光り輝く球体が現れる。

 それはまるで太陽のように明るく周囲を照らした。


「うわぁ、眩しい!!」 

「これをこうして……っと」

 姉さんが作った魔法を上に軽く放り投げると、

 中に浮いて僕らの周囲を照らし続けた。

 僕らが移動すると一緒に<光の弾>も動いて僕らを追跡するようだ。


「こうすれば<点火>ライトより明るいし、

 手も空くから便利でしょ?」

「姉さん、すごいー」


 <光球>の明るさはかなり強く、<点灯>の十倍はあるだろう。

 これで暗闇の中でも迷わず進むことが出来るはずだ。


「じゃあ、今回は私が斥候せっこうを担当するわ」

「お願いしたします。ティア様」


 斥候せっこうという言葉はあまり訊かないけど、

 敵陣に向かう時、先に敵の数や地形の把握などを担当する人だ。 


 ティアさんは<シーフ>の経験があるため、

 このような役割が適任だと言ってくれ引き受けてくれた。


 ティアさんが少し前へ進み、

 罠の有無の確認や地形の破損具合を把握しつつ、

 安全なら僕達に指示を出してくれる。


 そうして、少しずつ進んでいくと、

 そこには巨大な柱や石像のようなものが置かれていた。

 しかし、どれも風化してボロボロになっている。


「石像……?何かしら、原型を留めてないけど」

「ここまで古いと分かんないね……」

 その時、後ろにいたティアさんが声を上げた。


「かなりの時間が経っているようですね。神殿かしら」


「ティアさん、分かるんですか?」

 僕がちょっと喰い気味に聞くと、ティアさんは苦笑いした。


「ごめんなさい、ただの予想よ。

 ただ、罠とか仕掛けられてないところを考えると、

 昔は大勢の人が毎日ここで何かをしてたんじゃないかしら」


 内部を見ると広い空洞になっている。

 ここで人が沢山集まって、毎日何かをやっていたのだろう。


「なるほど……故郷にあるような建物でしょうか?」

 レベッカは興味深そうに、

 ティアさんの隣にちょこんとしゃがんでいる。


「レベッカ、何か分かりそう?」


「いえ、専門外なので何とも……。

 ですが、わたくしの村でも似たようなものを見たことありますね。

 ………ただ、ミリク様の神殿では無さそうです」


 この世界だと、他に祭っている神様とかもいるのだろうか。


「レベッカは心当たりはないの?」


「申し訳ありません……。

 そもそもわたくしの村でも『ミリク』の名前が、

 間違って伝わっていたくらいなので……」


 言われてみれば、最初は違う呼び方してたっけ……。


「何で間違って伝わってたんだろう?」

「それなんですが、ちょっと私に心当たりがあるんですよね」

 と、さっきまで黙ってたエミリアが会話に加わった。


「エミリア、心当たりって?」


「最初にレベッカに確認したいのですが、

 確か『ミリクテリア』と最初は呼んでましたよね?」


「はい、エミリア様。その通りでございます」


「少し前から疑問に思ってたんですよ。

 何で崇め奉っていた神の名前が間違えられていたのか。

 もしかしたら、別の神と間違えられていたのか、

 実は複数居た神を一つの神だと勘違いされてたんじゃないかって」


 別の神、やっぱりそうなのかな。


「魔導書に時折出てくる名前に、

 似た名前に関わりのある人物がいるんですよ。

 確か、その名前は『ウィンドウ』だったか。

 そんな感じの名前ですけど……」


「ウィンドウ?」

 窓さん?あるいは窓際さん?


「いや、正確には違った気がするんですけどね。

 その人は結構有名で、とある神の力を行使出来るとか……

 でも『ミリク』では無くて『イリスティリア』だったはず」


「イリスティリア?……あっ」

 ミリクテリアとちょっと名前が似てるかも。


「つまり、わたくしの故郷では、

『ミリク』と『イリスティリア』の名前が混同されたと?」


「多分そうじゃないかな、と」

 なるほど、ちょっとした疑問が解決しそうだ。


 その後、僕達は会話を一旦中断した。

 遺跡の中を探索すると、いくつかの書物を発見した。

 どれも古く読み解けないが、

 中には不思議な模様が描かれたものまである。


「これだけ書物があればいいんじゃないかな?」

 僕達は古代語を読むことは出来ないから出来ることは少ない。

 それでも読める人がいれば貴重な資料になるかもしれない。


「そうね、これ以上調査をしても意味が無さそう」

 罠も魔物も無いし、それが分かっただけでも収穫だろう。


 その途中――


「ん?」

 僕は足元に何かが落ちてることに気付いた。

 それを拾い上げると古びた指輪だった。


「レイ、置いてきますよー」「あ、待って!」

 僕はその指輪を鞄に入れるとエミリア達を追って外に出た。


 ◆


 村に帰って僕達は依頼の報告を終えた。

 持ち帰った古文書と、それに伴う今回得た情報を報告し、

 数枚の金貨を報酬として得た。


 そして――


「おう、世話になったな」

「ありがとうございます、助かりました」

 僕達は十分な旅の資金を稼いだゴードンさんと、

 ティアさんと別れることになった。


 二人はこれから北の街に向かうらしい。


「こちらこそ色々勉強になりました。

 また機会がありましたらよろしくお願いします」


「ああ、俺の方からも頼むぜ」

「ティアさんも色々教えてくれてありがとうございます」


 昨日の夜、

 お礼ということでゴードンさんには僕の剣を修復してもらい、

 ティアさんにはシーフのスキルをいくつか教えてもらった。


「気にすんなって、俺も楽しかったし。それじゃあな!」

「私も、また会いましょう」

「楽しみにしています」

 こうしてゴードンさん達と別れた僕達は次の街へと向かうことにした。


 ◆


「あ、そういえば……」

 僕は鞄から遺跡内で拾った指輪を出した。

「何、レイくん?」

「これ、遺跡内で拾ったんだけど渡すの忘れてた……」


「ふむ……どうやら魔法具のようですね」

 レベッカはまじまじとその指輪を見つめる。

 しかし古びた指輪なので詳細がよく分からない。


「そうなの?

 でも、どうしてこんなものが遺跡にあったんだろう……」

「まぁ、高値で売れるかもしれませんし、貰っておきましょう」

「分かった」


 折角なので自分の左手の指に嵌めてみた。

 すると指輪が僅かに光り輝き、すぐに収まった。


「あの、レイもしかして今嵌めました?」

「え、うん」

 あれ、もしかして何かやらかした?


「……もし呪われてたらどうするんですか」

「えっ!?」

 僕はギョッとしてその指輪を抜こうとしたが……。


「え、エミリア?なんか抜けないんだけど……?」


「はぁ……。ベルフラウ、お願いします」

 エミリアは呆れて、姉さんにバトンタッチした。


「お姉ちゃんに任せてー!!

 ……うーん、別に呪いでは無いみたいだけど」


「呪いじゃない?」


「うん、特に何か異常が無いなら大丈夫じゃない?」

 一瞬だったけど、指輪が淡く輝いたように見えたけど……。


「エミリア、これ鑑定してみてくれない?」

「はい、任せてください」


 エミリアは僕の指に嵌めた指輪を触りながら魔法を使用した。

 どうでもいいけど距離が近い。


「えっと……これは……駄目ですね。

<存在秘匿>が付いてて鑑定では看破できません」


「そっか……」

<存在秘匿>は特定の魔道具や一部の上級の存在が所持するスキルだ。

 これがあると<鑑定>や<能力透視>が正常に機能しなくなる。


「この指輪、なんだろう?」

「さぁ……まぁ、もし何かあったら指を斬り落として回復魔法で」

「絶対嫌だ!!!」

 僕は全力で拒否した。


 ◆


 そして以前通れなかった谷を通過した。

 この辺りの魔物は以前の騒ぎで一掃されたのか、

 何事もなく通り過ぎることが出来た。

 そしてしばらく馬車で進むと……。


「また影が……」

 上空を見ると再びドラゴンが空を飛んでいた。

 ドラゴンは谷を越えた僕達が行く進路と同じ方向に飛んでいった。



「………?」

 気のせいかもしれないけど、あのドラゴン……。

 前に見た時より大きくなってるような……?


「レイくん、どうかした?」

「……いや、何でもないよ」


 多分気のせいだろう。僕はそう思うことにした。

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